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舞衣ちゃんの涙でシャツの胸元が濡れた。
舞衣ちゃんの涙はとても熱かった。

『身代わりでもいい』と、一度こちらを向いた舞衣ちゃんの言葉が胸に突き刺さる。
来る日も昨日の事のように思っていたが、結子と別居をしてからもう一年以上が経過していた。

嫁に逃げられた惨めな男に涙を流す舞衣ちゃんにほだされたのか、あるいは舞衣ちゃんに女を見てしまったのか、ただの気の迷いなのか、答えは出てこない。だが、一つ分かる事は、結子を待つ事に疲弊していた。

そして意識的なのか、無意識の中なのか、それすらもはっきりとしないが、僕は今間違いなく、舞衣ちゃんとキスをしたいと思っている。

舞衣ちゃんの背中に回していた手をうなじまで這わせ、腕の中でうずくまる舞衣ちゃんの小さな頭を支え起こすとゆっくりと視線をあてる。
そしてまだ幼さの残る唇に口を寄せていく。

この時スマホの着信音さえ鳴らなければ、僕は舞衣ちゃんにキスをしていただろう。着信の相手は会社の同僚だったが、張り詰めた空気に響いた着信音にはっと我に変えり、そして次の瞬間には、舞衣ちゃんを突き飛ばしていた。

…何て事をしてしまったんだろう。それこそ我に変えり、倒れ込んでしまった舞衣ちゃんに駆け寄ろうとするが、膝を床に付けようとしたところで所で足を止め、立ち竦んだ。

舞衣ちゃんが18歳だとして、僕は舞衣ちゃんに恋愛感情を抱くのだろうか。いや、舞衣ちゃんは親友の可愛いらしい子供でしかない。
ずっとそうだったはずだ。
なのにも関わらず何故こんなにも胸が騒ぐんだ?

どうにもならない、どうしようも出来ない顔を舞衣ちゃんに向け
『…舞衣ちゃん…ごめん。…もう帰って。』