>>37
後部座席に座っていたはずの舞衣ちゃんはシートにくったりと身体を横たえていた。

舞衣ちゃんは何事も無かったかのように振る舞ってくれてはいるが、どのような形であれ、心身にショックを与えてしまった事は事実だ。
泣いているような、笑っているような舞衣ちゃんの寝顔を見る僕の視線の先が時々身体を見つめてしまう。
一時の衝動だったとは言えど、あの時(で)舞衣ちゃんの身体を奪っていたかと思うと、子供扱いだけもしていられない。

不謹慎ながらも、無意識な中で舞衣ちゃんに女をフロントミラー越しに見やりながらショッピングモールまで車を走らせた。
時刻は昼下り。ショッピングモールの駐車場には西からの日が強く差し込んでいる。
木の木陰になっている場所に車を停車させ舞衣ちゃんに声を掛けた。
『舞衣ちゃん。着いたよ。』
舞衣ちゃんの眠りは深いようで目を覚まさない。
一度、二度と続けて声を掛けようかと思ったが、自分も酷く疲れていたようで、無理に舞衣ちゃんを起こす気にはなれなかった。

ダッシュボードから煙草を取り出すと、エンジンを掛けたままシートに深く座り直す。
結子が嫌いで辞めていた煙草。結子が家を出た寂しさに耐えきれず一時の気休めにと購入したが、吸わずにダッシュボードの中に閉まっていた。

封を開け、茶色いフィルターの紙タバコを口に咥え、火を付けようとした所でライターが無い事に気付く。
ダッシュボードやあたりを見回してみるが、どうにも見当たらない。
全身でニコチンを欲した身体は酷く落胆し、情けなさに涙まで出そうになる。
『…何をやってるんだろうな…』

火の付いていない煙草を口に咥えたまま、フロントミラーに手を伸ばし、角度を変えながらシートで眠る舞衣ちゃんの
身体の隅々にまで目をやる。
嫁に捨てられ、親友の子供を犯しかけ、すっかり理性の歪みきった僕は、舞衣ちゃんに抱きしめて貰いたいと欲していた。
『まったく…こんな時まで僕は何を…』

ジャケ買いしたアルバムの中のビルウェザーズの洒落たコード進行がぼんやりと鼓膜を掠る。
わずかな心地良さと居心地の悪さに、フロントミラー越しの少女を見つめながら、曲が終わるのを待つ事にした。