盧生は死ぬのだと思った。目の前が暗くなって、子や孫のすすり泣く声が、だんだん遠い所へ消えてしまう。
そうして、眼に見えない分銅が足の先へついてでもいるように、体が下へ下へと沈んで行く
――と思うと、急にはっと何かに驚かされて、思わず眼を大きく開いた。
 すると枕もとには依然として、道士の呂翁が坐っている。主人の炊かしいでいた黍きびも、未いまだに熟さないらしい。
盧生は青磁の枕から頭をあげると、眼をこすりながら大きな欠伸あくびをした。
邯鄲の秋の午後は、落葉した木々の梢こずえを照らす日の光があってもうすら寒い。
呂翁は、髭ひげを噛みながら、笑えみを噛み殺すような顔をして云った。
「どんな夢を見ました。」
「何でも大へん長い夢です。始めは清河の崔氏の女と一しょになりました。
うつくしいつつましやかな女だったような気がします。
そうして明あくる年、進士の試験に及第して、渭南の尉になりました。
それから、監察御史や起居舎人知制誥を経て、とんとん拍子に中書門下平章事になりましたが、讒を受けてあぶなく殺される所をやっと助かって、驩州へ流される事になりました。
そこにかれこれ五六年もいましたろう。
やがて、冤を雪すすぐ事が出来たおかげでまた召還され、中書令になり、燕国公に封ぜられましたが、その時はもういい年だったかと思います。
子が五人に、孫が何十人とありましたから。」