トップページ801
474コメント731KB
モララーのビデオ棚in801板70 [転載禁止]©bbspink.com
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001風と木の名無しさん2015/03/21(土) 00:47:57.89ID:XIDHVl0F0
   ___ ___  ___
  (_  _)(___)(___)      / ̄ ̄ヽ
  (_  _)(__  l (__  | ( ̄ ̄ ̄) | lフ ハ  }
     |__)    ノ_,ノ__ ノ_,ノ  ̄ ̄ ̄ ヽ_ノ,⊥∠、_
         l⌒LOO (  ★★) _l⌒L ┌'^┐l ロ | ロ |
   ∧_∧| __)( ̄ ̄ ̄ )(_,   _)フ 「 | ロ | ロ |
  ( ・∀・)、__)  ̄フ 厂  (_,ィ |  </LトJ_几l_几! in 801板
                  ̄       ̄
        ◎ Morara's Movie Shelf. ◎

モララーの秘蔵している映像を鑑賞する場です。
なにしろモララーのコレクションなので何でもありに決まっています。

   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_||  |      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ]_||
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   すごいのが入ったんだけど‥‥みる?
   |[][][]._\______   ____________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  |[]_|| / |/    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |[]_||
    |[][][][][][][]//||  | ̄∧_∧     |[][][][][][][][].||  |  ̄
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ||  | ( ・∀・ ) _ | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.||  |
   |[][][][][][][][]_|| / (    つ|8l|.|[][][][]_[][][]_.|| /
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    | | |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    (__)_)
前スレ
モララーのビデオ棚in801板69
http://nasu.bbspink.com/test/read.cgi/801/1356178299/

ローカルルールの説明、およびテンプレは>>2-9のあたり

保管サイト(携帯可/お絵描き掲示板・うpろだ有)
http://morara.kazeki.net/
0343一瞬だけど永遠2/32017/05/11(木) 14:10:20.07ID:ZLACMQOv0
家族と主治医はうなづくと、ぞろぞろと退出していく。
そうして部屋には彼と男だけが残った。
「旦那様……」
彼はそっとベッドに近づき、力なく投げ出された手を握る。
握られた男の手も、握る男の手もしわだらけの老人の手だ。
だが、彼らは違った頃の手をを知っている。
子供の頃、遊びに行こうと彼の手を引っ張って飛び出したのは男の手だった。
中学で部活に打ち込み豆だらけになった手に包帯を巻いてくれたのは彼の手だった。
大学の時、将来について悩み荒れた時殴り合った手だった。
0344一瞬だけど永遠3/32017/05/11(木) 14:10:39.24ID:ZLACMQOv0
男は就職し、彼は親の跡を継いで男の家の家令となった。
疲れ果てて帰ってきた男を出迎え、荷物を受け取るときにそっと触れる手だった。
物心つくころからずっと共にいた。
彼は男の人生を一番近くで見つめていた。
男が結婚する時、彼は何より喜んだ。
彼が結婚する時、男は誰よりも祝いの言葉を贈った。
お互いがお互いの無二の存在だった。
共にあるのが当たり前だった。
二人は見つめあい、男はこれまでの人生で言わなかった胸の内を吐き出す。
「……愛しているよ」
「存じ上げております。もちろん私も」
少しずつ二人の影が近づき、重なる。
男は満足げに瞼を下した。
最初で最後の愛の告白。
最初で最後の口づけ。
「お休みなさい、すぐに追いつきますので」
一礼し、彼は静かに部屋を後にした。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
0345風と木の名無しさん2017/05/12(金) 20:02:16.31ID:hQDmXEJz0
>>344
ちょっぴり切ないけどほっこりできた
素敵なお話をありがとう
0346風と木の名無しさん2017/05/12(金) 20:13:30.87ID:QbhnrRCY0
>>333
なんか始まる予定はあるん?

つかこのスレずっと死んでたのに最近賑やかで嬉しい
0347風と木の名無しさん2017/05/15(月) 20:38:53.93ID:qE75jtaP0
すみません、魔王様と勇者の続きは・・・首を長くして待っております
0348風と木の名無しさん2017/05/17(水) 18:37:03.83ID:kb0rdjDn0
自己満受け攻め論コネタ
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


「攻めや、攻め受けとはなんぞや」
「なんだ受け、唐突に」
「われは受けとして、攻めに抱かれておる」
「そうだな」
「しかしわれから攻めを押し倒したとしても、われは受けである」
「ふむ」
「攻めがわれを好きだと告白して、われらは受けと攻めとなった。しかし最近はわれがより攻めを好きである」
「どちらがより好きかについては異論を挟みたいが、受けは矢印について言いたいのだな?」
「しかり。積極的な方が攻めであるという向きもある」
「それは攻めと受けの定義ではなく、好みではないか。矢印を向ける攻めが好きである、逆が好きであるといったものだ」
「では、体格はどうだ。われは攻めよりも大きく、たくましい」
「それもまた、好みだ。攻めたる者こそ大きくたくましくあらねばと信じる者たちもいるが、そうでないものもある。定義ではない」
「性格は。細やかな気配りで涙もろく、料理や家事が得意とするおなごのようなものが受けの役割を負うと思うものもいる」
「やはり好みだ。女性、男性の別がある限り女性的な人物がやはり女性同様受け入れる側と想像しやすいため数は多くなるが、それこそが攻め受けを決定づけるものではない」
「では何が攻めであり、何が受けなのだ」
「もう最初に答えを言っているじゃないか。受けは私に抱かれている。挿入される方が受けであり、する方が攻めである」
「では攻めよ、われがぬしに挿入したらどうか」
「ん?」
「われの一物をぬしに入れたら、ぬしは攻めではなく受けとなり、われは攻めとなるのか」
「ちょっと待て受け、お前攻めになりたいのか」
「われとて男の証を持っておる。使ったとて問題はあるまい」
「しかし私は攻めだ」
「なに、やり方はぬしからとく学んでおる。身を任せい」
「私は攻めだ、受けに変わる気はない!」
「何、途中で交代すればよい。そうすれば攻めとしての役割も果たせよう」
「一度でも挿入されたものは受けであり攻めとなるのだ!純度100%の攻めではない」
「純度なぞ気にするでない。われは『半ば攻め』でもぬしを好いておるぞ?」
「すでに50%攻め確定にするな!私は濃縮還元100%攻めでいたいんだ!」
「うるさいのう」
「あっー!!」

攻め純度45%END

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
0351パートナー1/42017/06/23(金) 18:13:42.13ID:XInMmOsL0
アプリゲー「跳ねろ!鯉王」マスター×鯉王
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


僕がまだ小さい頃、僕は両親や兄弟たちと大きないけすで暮らしていた。
ある日、モンスターボールが水面にぷかぷか浮いているのを見つけた。
僕はモンスターボールなんて見たことなかったからなんだろうと思って近づいた。
その途端、ボールについた紐にぐいぐい引っ張られて僕は水の外に引きづり出された。
「やったあ!錦鯉だ!」
キラキラした笑顔の男の子、とっても嬉しそうに僕を見ている。
その子が僕のたった一人のマスターになった。

僕の名前はニッキ。マスターが付けてくれた名前だ。
マスターに釣られた日からもう5年もマスターのいけすで暮らしている。
毎日マスターに美味しい木の実をもらい、特訓をして、リーグで勝つために頑張っている。
マスターは僕のことを「大切なニッキ」と呼ぶ。僕のいけすに来ては一緒に遊んでくれる。
時々、意地悪をして僕をいっぱい突っつくのは嫌だけど……
でも僕はマスターが大好きだ。だからマスターの為に高く高く跳ねるよう、特訓を頑張っている。
今日の特訓もいっぱいがんばったら大成功だった。マスターはとてもほめてくれた。
マスターに褒められるのが一番うれしい。
特訓から帰る途中、町長さんに会った。
町長さんは町で一番偉い人で、マスターに僕たち鯉王のトレーナーになるように勧めた人なんだって。
そのおかげでマスターと僕は出会えたから僕は町長さんのことが好きだ。お話が長いのがまいっちゃうけど。
「なんじゃ随分疲れておるようじゃな」
町長さんは僕を一目見てそういった。
今日の訓練ははーどだったから、とても疲れていたのは本当なので、僕はびっくりした。
そういうのわかっちゃうんだ。
「どれわしがマッサージしてやろう」
そういうと町長さんは僕の体中の触ってモミモミと揉んだ
(あっ……気持ちいい……)
疲れていたからだがぽかぽかして、ちょっとだけむずむずして、元気いっぱいになった。
もう一回特訓してもいいくらいに。
「ありがとうございます」
マスターが町長さんにお礼を言って、そこでお別れした。
でもどうしてだろう、マスターがなんだか怖い顔しているみたいだ。
0352パートナー2/42017/06/23(金) 18:14:29.66ID:XInMmOsL0
「ニッキ、こっちへおいで」
いけすに帰るとマスターが僕を呼んだ。
(はいマスター!)
すいすいとマスターに近づいて、桟にぴょんと飛び乗る。
陸は水の中よりは動きにくいけど、マスターに近づけるならそんなこと気にならない。
マスターは僕を見る時はいつもニコニコしているのにさっきと同じ怖い顔している。
(マスター、僕なにかした?特訓駄目だった?)
「ああ、ニッキ。君は何も悪くないよ」
マスターは僕の言葉がわかるから、いつもいっぱいお話してくれるのに今日はそれきり黙ってしまった。
マスターはなんだか苦しそう。
僕はマスターがお腹痛いのかなと思って、少しでも元気になってくれればいいなとマスターの指を咥えた。
マスターがまだ子供で僕も子供だった頃から、そうするとマスターはよろこんでくれたから。
パクパクとマスターの指を食むと、マスターは増々苦しそうな顔をした。
「お前はどうして……」
(マスター、指はむはむ駄目だった?前は喜んでくれたのに)
「どうして僕はお前にこんなことを思っちゃうんだろう。ニッキは大切なパートナーなのに」
(マスター僕のこと嫌いになったの。もう僕のこといらない?)
「そんなわけない!僕はニッキとずっと一緒にいたいよ。ニッキは僕だけのものだ」
(わーい!僕もマスターとずっと一緒がいい!マスター大好き!)
「ニッキ……」
ギュッとマスターが僕を抱きしめてくれた。
マスターの体はとても熱くて火傷しちゃいそうだ。
(マスター苦しいよ)
「ニッキ、ごめん」
(えっ?)
マスターは僕に謝ると、熱い手で僕の全身をマッサージし始めた。
でも町長さんみたいに揉み解すんじゃなくて、表面をさわさわ撫でるだけ。
なんだかくすぐったくて僕は身をよじった。
(マスター、さわさわやだ。くすぐったいよ)
「くすぐったいだけか?ほらここを擦るとニッキの体はよく跳ねるね」
その言葉でわかった。マスターのこれは特訓の一部なんだ。
マスターの言葉通り、僕の体はくすぐったいの体はだんだんくすぐったいのからぴくぴくする感じになってきた。
きっとこのぴくぴくがもっと強くなって、そうすれば僕はもっと高く飛べるようになるんだ。
(マスターもっとして。僕マスターにいっぱいされたい)
「ニッキ!嬉しい。お前も僕と同じ気持ちだったんだな」
変なマスター。リーグで優勝しようってずっと同じ気持ちで特訓してきたのに今更そんなことをいうなんて。
マスターは喜んでもっといっぱい体を触ってきた。
0353パートナー3/32017/06/23(金) 18:15:11.74ID:XInMmOsL0
「ニッキ、これパクパクして?」
そういうとマスターは僕のお口に指を入れた。
さっきは変な顔したのにやっぱりマスターはこれだ好きなんだ。
僕は一生懸命マスターの指をパクパクする。
その間もずっとマスターのもう一本の手は僕の体を這いまわる。
むずむずぴくぴくがどんどん強くなった。
「ニッキ、もういいよ」
そういって僕の口から指を抜いたマスターはそのままその指を僕の排泄口にぐっと押し当てた。
(ま、マスター!?そこは出すところだよ!指を入れるところじゃないよ!)
「ニッキ大丈夫、怖くないから」
(やあ!マスター、駄目だよ!)
「入れるよ……ニッキ」
(あああああああ!)
ぷつっとマスターの指が僕の排泄口に差し入れられる。
今まで味わったことのない感覚に僕はパニックになり目の前のマスターの体に縋り付いた。
するとマスターはマスターの足の間にある三本目の足を取り出して僕の口に入れた。
(んんっ……!)
「ニッキ、これもはむはむして。一緒に気持ちよくなろう」
指よりもずっと太いその棒をお口に入れるのは苦しくて、排泄口の指はへんな感じで、
とてもとても苦しかった。
でもマスターは気持ちいいって言った。
マスターが気持ちいいなら、僕がマスターを気持ちよくさせてあげられるなら、僕は頑張れる。
(んん……でもマスターのこの棒だんだん大きくなる。苦しいよぉ)
「ごめんニッキ、でも気持ちいい、気持ちいいよ。ニッキはお尻の穴気持ちよくない?」
(わかんない……排泄する時と似た感じがする……)
「ニッキ、もうイきそう……!」
(マスターどこに行っちゃうの?僕も一緒に行く!)
「ああニッキ一緒にイこう!強く咥えて!」
(うん!)
マスターの棒をぎゅううと強く咥えた。
そのままマスターは腰を動かして僕のお口に棒を出し入れする。
そうしてマスターの棒がぐぐっと震えたと思うと僕のお口の中に水鉄砲を噴射した。
(うわあ!マスター苦い水がお口に入ってきたよ!)
「ニッキ、それは飲んでいいんだよ。お願い飲んで」
マスターがハァハァ息を吐きながらお願いしてきた。
マスターのお願いならかなえてあげたい。
僕はねばねばで苦い水を頑張ってごっくんした。
「偉いねニッキ」
マスターは僕の排泄口から指を抜いて、体中をいい子いい子してくれた。
さっきまでマスターの指が入っていた排泄口がぽっかり穴が開いたみたいだ。
(マスター、排泄口に指入ってるときは変だったのに、今はなんだかさみしい)
「そうか、じゃあ明日もしてあげるからね)
(わーい、ありがとうマスター!)
「その代り明日も僕のこれハムハムしてね」
(うんわかったよマスター)
マスターが服の中に棒をしまって、バイバイして帰って行った。
僕も水の中に戻ってゆったり泳ぎだした。
マスターにいっぱい触られて熱くなった体が少しづつ冷やされていくのがなんだか切ない。
でもマスターは明日も触ってくれるって言ったから。
僕は明日が早く来るといいなと思いながら目を閉じる。
マスター、大好きだよ。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
3つで収まりました
0354お付き合い1/22017/08/17(木) 22:07:43.63ID:A6Dw4gt20
生 将棋 青いの×軍曹
ふんわりした感じで読んでいただければ……

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


「長瀬のことが好き。将棋だけじゃなくて全部好き。だから付き合ってほしい」
香車みたいだ。一直線にビュンッって飛んでくる感じ。勇樹らしい。
「うん」
うん。逃げる気はなかった。でもとりあえず合駒をした。玉の頭に、歩。
「付き合ったら何か変わる?」
「……将棋のことなら変わらないよ。今まで通り。VSとかもするし」
少し攻めをゆるめて合わせの歩を打って来たと思った。が、
「……でも、キスとか、したい」
ちがった。香車の重ね打ちだ。ロケットだ。
端から逃げる気はなかったので投了した。逃げる気がなかったというのは、俺も勇樹のことが好きだったから。


最初の言葉通り、将棋は何も変わらなかった。VSもごく普通に行う。悪手を厳しく咎める(盤上でも口頭でも)のも、意見が折り合わずちょっとした喧嘩のようになるのも、感想戦が脱線に脱線して長引くのもいつものことだ。
ただ一つ。VS終わりにキスするようになった。

勇樹は最初のうちは毎回「キスしていい?」と聞いて、俺が「うん」と頷いたら唇を触れ合わせた。しかし何度かするうちに言葉はなくなって、ただ、目が合って、「あ、キスだ」と分かるようになった。
そういう空気を感じたら目を閉じた。すると勇樹の唇が一瞬自分の唇に触れる。
ただそれだけ。
0355お付き合い2/22017/08/17(木) 22:08:07.12ID:A6Dw4gt20
それが今日はちがった。
いつもと同じそういう空気。目を閉じて、唇が触れる。そこまでは同じ。でもそれで終わらなかった。
後頭部に手をあてて頭を引き寄せられる。舌が口内に入ってくる。油断して簡単に侵入を許してしまった。
「ん、ぅ」
舌を絡められると甘い快楽が広がった。無意識に声が鼻から抜ける。
逃げられない。

「な、に……」
散々口内を荒らされた後、呼吸が乱れたまま声を出した。
「……ごめん。我慢できなかった」
勇樹はばつが悪そうに目線を落とす。伏せたまつ毛が長いなとぼんやり思った。
「俺、長瀬のこと好きだし、もっといろんなことしたい。……今日はホントごめん。これからは少しずつで……でももっと長瀬と進みたい」
いろんなことってなんだろう。進むってどこまでだろう。先のビジョンを少しも思い描いていなかった。今のままで充分だった。
「いろんなことして、進んで、それで、俺たちは変わるの」
男同士だとか別に気にしてなかった。道徳も世間体も考えなかった。ただ、自分にとって、勇樹にとって、良くない方に行ってしまうのではないかと、それは、こわかった。
勇樹は静かに一度だけ首を振った。
「変わらない。一番大事な将棋は何も変わらないよ」
不安を取り払うように勇樹は力強く言葉を紡ぐ。
「長瀬の将棋の時間を奪うつもりはないから。……奪おうと思ったって奪えないと思うし」
長瀬ほど将棋が好きな人いないから。そう言って勇樹は少し笑った。
「でも長瀬がいつも通り棋譜ならべたり詰将棋解いたりネット対局したり……いろいろ将棋の研究して、疲れて、ちょっと休憩するときに、俺の顔が浮かぶようになるかもしれない。俺は、それくらいがいいな」
ああ、そうだな。それはいいかもしれない。少しはにかんだ勇樹の表情を見て、今までで一番、一人の人として、勇樹のことが好きだと思った。

別れるときに、初めて自分からキスをした。勇樹は目を丸くした後、「今日はすっげーいい夢見れそう」なんて言って笑うから、つられて笑ってしまった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
0357風と木の名無しさん2017/08/19(土) 18:11:50.55ID:MwFMlZ5l0
>>356
このコンビのお話が…!
とても萌えましたありがとうございます
0359風と木の名無しさん2017/08/21(月) 18:45:46.25ID:9FtH9j/R0
今更なんですけど、昇天の紫緑いっぱい書き残してくださった方、本当にありがとうございました
できることならもっと早く会いたかった……
0361きらいなはずだった冬に。1/42018/01/03(水) 01:15:07.63ID:rL2fZb100
ショウギ 生ものです。クンショウ授与記念。エロなし。ふいんきのみ
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

ここ数日は寒い日が続いていたが、今日は久し振りに雲間から太陽が覗いていたため
か、空気も心なしか暖かく感じた。寒がりの休光としては何とも有難い限りだった。
足取りも軽やかにショウギ会館の玄関から出ていこうとするのを、後ろから呼び止めた声
があった。

「あの、ちょっと……会長?」
「え?……あ、ああ、盛内さん?」

大きな背を少しくかがめ、盛内がはにかみ笑いを浮かべているのを、休光は怪訝な顔
をして振り返った。たった今まで連盟の事務室で、二人して顔を突き合わせて仕事を
こなしていたのだ。なにか連絡漏れでもあったのだろうか。
微笑みながらも言いにくそうに口籠っていた盛内から、意外な言葉がこぼれた。

「いや、あの、砂糖さん……例の、クンショウの…祝賀会の件なんですけど」
「な、なんですか盛内さん?何か手違いでも?」

慌ててつい早口になってしまった休光を、ひらひらと手を振って盛内が制する。

「いやいや、そうじゃないんですよ……ただちょっと気になったので」
「…なんですか盛内さん。勿体ぶらないではっきり言ってくださいよ」

会長職に就いてからは、より一層丁寧に応対することを心掛けているはずの休光の口ぶ
りに珍しく刺が含まれていた。盛内は穏やかな笑みを浮かべながらも、話の核心に中々
触れようとしない。はぐらかされていることで、普段押し隠していた休光の一途な性格
が露わに出てしまった。
0362きらいなはずだった冬に。2/42018/01/03(水) 01:17:47.08ID:rL2fZb100
「いえ、あの……クンショウを頂く時って、確かモーニングか紋付を着ていかなきゃいけない
んでしょう?」
「あ、はい、そのような書状が届いていましたね」
「あの、でも、その、授章の祝賀会には……和服で行かれますか?」
「え?ええ、まあ、そのつもりではいますけど、それが……?」
「何色系ですか?」
「…………はぁ?!」

休光は思わず大声で叫んでしまった。この男は一体何を言い出すのだ。

「…いやぁ、何と言っても桧舞台じゃないですか。いつもはそんなこと気にしませんけど
この間子供に言われましてね、『お父さん、折角なんだからインスタ映えするようにきち
んとしていってね』なんて…その時に、来て下さる皆さんに写真撮られるのに、二人で着
物の色がかぶっちゃったら申し訳ないな、と思いまして…その前に伺っておこうかと」

最早デレデレとした笑みにしか見えない表情で盛内は長広舌を振るった。

なんだ。俺相手に惚気か。惚気なのか。
唖然としてその顔を見詰めていた休光は、やがて自分の身の内にふつふつと暗い感情が湧
き上がってくるのを覚えていた。

「………教えません」
「…え?」
「ぜっっっっっ対に教えません!」

普段の低い声音が金切り声のように裏返る。そのままくるりと踵を返すと、休光は呆気に
とられた顔をしている盛内を残して自分の車へ乗り込んでいた。

(…何やってんですか、一体……いい大人が、恥ずかしい……)
0363きらいなはずだった冬に。3/42018/01/03(水) 01:20:36.38ID:rL2fZb100
自分をこのような理不尽な行動に駆り立てた感情が自分自身で理解できない。どさっとシ
ートに身を埋め、休光はハンドルに顔を伏せた。
馬鹿だ、馬鹿だ、馬鹿だ。心の中で何度も繰り返す。自分の間抜けさに、余りにも無礼な
振る舞いに、我が事ながら腹が立ち怒りで目尻が熱く滲んだ。
…このまま別れてもいいのか。こんな想いのままでこの地を後にしてもいいのか。
傍目に分からないようにそっと拳で目を拭って顔を上げると、困った顔で頭を掻きながら
盛内が窓を覗き込んでいるのが見えた。

「あ……あの、砂糖さん、すみませんでした、僕何か気に障ること言ったみたいで」
「…………」
「申し訳ないです、本当にすみませんでした」

勝負の時ならいざ知らず、盛内は嘘のつけない男だ。こんな風に大きな身を縮めて腰を屈
めているのは、心から済まないと思っている時だった。自分がそれ以上に嘘のつけない男
であることを脇に置いて、休光は気まずそうに頷いた。

「…いえ、何でもないんです。僕の方こそ失礼しました…変な勘違いをしたんです、多分」
「……」

その時休光の目に、夕闇に沈みかけた空の色が映り込んだ。自分に向いていた視線が背後
に移ったことに気づき、盛内は不思議そうに目を瞬いた。

「……暗い色です」
「…え?」
「暗い色の着物を着ます。だから、君は明るい色で」
「………はい」
「すみませんでした、本当に。盛内さん、じゃぁ、これで」
「はい、では……お疲れ様でした」
0364きらいなはずだった冬に。4/42018/01/03(水) 01:23:40.63ID:rL2fZb100
互いに深々と頭を下げ合い、休光は車を前へ進め、盛内は再び会館の方へと向かった。もう
仕事は済ませたはずだが…そうか、カバンでも取りに戻ったのか、ぼんやりと休光は思って
いた。
…何が自分の心をあのように掻き乱したのか。分からない、分からないが……ぶんぶん、と
勢いよく頭を左右に振る。もう考えるな、運転に集中しろ、休光はそう自分に言い聞かせな
がらハンドルを左に切った。それを柱の陰で手に汗握りながら見送っている数人の騎士や職
員がいることを、二人共気づいていなかった。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
03651/32018/01/08(月) 03:33:04.53ID:rDeqUwuf0
オリジナル 死にネタ 一人称
ノマあり 子供あり

>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!



目の前で元恋人が救命処置を施されているのを、俺はただ見ているしかなかった。
右手には怯えたようにすがりつく娘。
慌ただしく行き交う看護士たち、何度も薄い彼の胸に電気ショックの器具を押し当てる医師。
ピーーーーーーー。
長い電子音が彼の命の終わりを告げる。

「2018年1月8日午前2時23分、ご臨終です」


衣服を整えられベッドに静かに横たえられた彼の脇で泣きつかれて眠ってしまった娘を抱き抱えながら考える。
なぜこんなことになってしまったのだろうと。
なぜ彼は死んでいるのだろうと。
今日彼に会いに来たのは結婚の報告の為だった。
彼が背中を押してくれたから、自分は子持ちで彼女と結婚する気になったのだ。
だから報告するべきだろうと。
彼になついていた娘も3か月ぶりに彼に会えることを楽しみにしていた。
4ヵ月前に突然俺と娘の暮らす田舎にやって来た元恋人。
たった1ヶ月ですっかり娘を手懐け、彼を忘れられず今の恋人との結婚に踏み切れずにいた俺の未練を断ち切り去っていった。

『あなたが生きる未来が明るいものであるように』

去り際の彼の声が木霊する。
ふ、と目をあげるとサイドボードにハードカバーの冊子が置いてあった。
表紙の文字にはdiaryとある。
娘をそっと壁際のソファーへ横たえるとふらふらとその冊子を手に取りページを捲った。
03662/32018/01/08(月) 03:35:14.75ID:rDeqUwuf0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

2017年9月1日
医者から余命宣告。ドラマみたいでなんか笑える。体の痛みはフィクションじゃないし笑えないくらい痛いけど。
死ぬ、と言われて真っ先に浮かぶのがあの人の顔ってつくづく俺も未練がましいな。
もう2年も経ってしまった。
「昔の女との間に子供が出来ていたらしい、女が男と逃げて子供が育児放棄されていて見過ごせない。
引き取るつもりだが、君が受け入れられないなら別れてもいい。だが出来れば別れたくない。君を愛している」
これ突然言われて黙っちゃった俺の反応正常だよな?
別れたくないでも気持ちの整理がつかない、自分が納得できたら会いに行くって言ってそのまま2年。
本当は1週間で腹くくってあいつの子供一緒に育ててやる!って決心した。
けど突然の海外赴任の辞令で音信不通になっちゃってどこかホッとしたのは事実だった。
これって別れたことになるのかな?
なるよな。2年経ってるし。
でも逆に良かったかも。死ぬ人間が子育てとかしてたら残される子供が可哀想。
ああでも、どうせ死ぬなら、ちょっとだけでもあったかもしれない家族の形ってやつ体験しても許されるよね。

2017年9月2日
あの人の現住所はすぐわかった。
持つべきものは共通の友達。
医者に痛み止めいっぱい貰ったから上手く誤魔化せるだろ。
多少強引にでも押し掛け女房する。絶対。死ぬんだしいいだろ。
しかし住んでるとこ田舎過ぎてヤバイ。


2017年9月8日
なんで
(以下何か書いてあったようだがペンで塗り潰されて読めない)


2017年9月9日
仕切り直し。昨日日記は恥ずかしいから消しとく。消えるインクで書けば良かった。
当初の予定通り押し掛ける。ただし路線変更。
押し掛け友人だ。


2017年9月10日
潜入成功。久しぶりだったけど相変わらずお人好しというか優しいというか。
だから俺みたいなのに躓くんだよ。
あの人の娘はいい子だった。いい子過ぎて痛々しいくらいに。
まだ5つだもんな。早く彼女をお母さんにしてあげれば良いのに。


2018年1月1日
意外と生きられるものだ。年を越せると思わなかった。
あの人も娘と彼女と一緒に年越し蕎麦食べたかな?
娘ちゃんは蕎麦をふーふーしてやらないとだめな猫舌だけど、あの人や彼女は気づいてるかな?
娘ちゃんあの人に似ていい格好しいだから誤魔化そうとしてるんだよね。
でも一番のいい格好しいは俺か。
昨日も後輩に嘘をついてしまった。あの人とよりを戻して介護お見舞いを付きっきりでやってもらってる、なんて。
忙しい癖にこっちの心配ばっかしてる後輩を気遣って、なんていうのはただの言い訳だ。
俺の見舞いなんて、誰も来ない。
でも別にいい。来て欲しいのはあの人だけだから。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
03673/32018/01/08(月) 03:35:52.19ID:rDeqUwuf0
そこで日記は止まっている。
間の記述は田舎暮らしの取り止めない日常と日々の献立が書かれていた。
どれも知っている。
4ヶ月前からの1ヶ月間、彼と俺と娘とで過ごした日々だからだ。
彼と暮らす中で俺は今の恋人と付き合いながらも感じていた違和感が彼への未練だとハッキリと自覚した。
そしてこのまま彼とまた恋人になり娘と彼の3人でずっと暮らしたいと思ったんだ。
それは彼にもそう言った。
だが彼は笑って言ったんだ。もうそんな気はないと。
俺の娘は可愛いが、今後ずっと育てるとなると話は別だと。
笑って、いい友達になろうと言ったんだ、彼が。

『あなた今の恋人、とてもいい人ですよ。彼女となら、あなたは未来を生きられる』


年越しもそうさ君の推察通り三人で過ごしたよ。
娘は熱々の蕎麦をちびちびと食べていたさ。
熱いって言えなかったんだな。冷めてから食べようとしたのかずいぶん残した蕎麦は伸びきってしまっていた。
蕎麦が嫌いなんだと思ってた。

なあ君の後輩に、なんで会社に来たんだと言われた俺の気持ちがわかるか?
君は入院している、それは知っているだろう、毎日お見舞いに行ってるんだろうなんで会社に来たんだと言われたんだ。
君はあの1ヶ月はただの休暇だと言っていたじゃないか。
休暇が終わればまた社畜生活に戻るんだと。
君の今の連絡先を知らない俺は会社に行くしかなかったんだぞ。

君に結婚報告をしようと会いに来なかったら、俺は、君が一人静かにこの病室で息を引き取ったことを知らず仕舞いだったのか。
どこかで君が元気にしていると妄想したまま家庭を持ったのか。
知らなければ良かったのか。
君の痛みも悲しみも知らず笑っていれば良かったのか。
あの1ヶ月が夢のように幸せだったと爺さんになっても思い出して。
君は酷い男だ。だが俺がそうさせた。

「たとえ死に別れるとわかっていても最後まで愛し合ってそばに居させて欲しかった……っ!」

もう返事は返らない。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
0371ろくでもない夜 1/22018/01/31(水) 09:11:20.06ID:Biv9BT9j0
オリジナル。死期が近い殺し屋と不死身の食人鬼が喋ってるだけの話。
※グロやカニバ表現がありますので苦手な方はスルーお願いします。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「はいコレ。持って帰ってきたけど食べる?」
「ありがとうございます。後でいただきます」
「じゃ冷蔵庫入れとくねー」
「シャワー浴びますか?傷開いてるみたいだから終わったら処置しましょう」
「あれ?これ俺の血だったんだ。あーあ、このシャツ気に入ってたのに」
「今度新しいの買いに行きましょうか。報酬出ましたし」
「本当?やったー」
「それ片付けときますから、シャワーどうぞ」
「はーい」

「ねーねーねー」
「どうしました?」
「胸んとこの傷がさー体洗ったら余計開いちゃった」
「力入れて擦ったらダメだって言ったでしょう」
「だって左手だけじゃ上手く加減できないんだもん」
「貴方両利きじゃないですか」
「えへへ」
「座ってください。縫いますから」
「適当でいいよーどうせ痛いのわかんないし」
「またお気に入りのシャツが汚れますよ」
「あそっか。ごめーん」
「もう…昔は貴方が僕の面倒を見てくれてたのに」
「色々教えてあげたねー」
「そのお陰でこうしてお世話できてるので助かってますよ」
「そーだねー。俺の右目が潰れちゃった時もキレイにしてくれたし、右手ダメになった時もちゃんと食べてくれたもんねー」
0372ろくでもない夜 2/22018/01/31(水) 09:12:25.45ID:Biv9BT9j0
「捨てるわけにもいきませんし」
「本当助かったよー。ありがとね」
「いえいえ。僕も自分の体を修復するのに補給しなきゃいけなかったので、こちらこそですよ」
「そっかー。えへへ」
「ふふ」
「ねーねー」
「はい?」
「俺がいよいよダメになる前にさー、もう食べちゃってもいいよ?」
「嫌です」
「えー?何で?俺おいしくない?」
「独りぼっちになりたくないので」
「あー。ずーっと死ねないんだもんねぇ。寂しいかー」
「僕には貴方しかいませんから、最期まで付き添います」
「ごめんねー俺『そっち側』じゃなくて」
「その気持ちだけで十分です。はい、できました」
「わーありがとー」
「それと」
「ん?」
「貴方はおいしいですよ」
「よかった。じゃあエッチする?」
「今巻いた包帯がめちゃくちゃになるからしません」
「えー」
「大体、セックスなんかしたら次の日使い物にならなくなるでしょう?明日も仕事入ってるんですから、早いとこ寝てください」
「ちぇ。じゃあ添い寝してよ」
「いいですよ」
「腕枕もー」
「はいはい。電気消しますよ」
「うん。明日も目が覚めるといいな」
「ちゃんと起こしますから」
「よろしくね。おやすみー」
「はい。おやすみなさい」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
0373ある日の朝1/22018/02/23(金) 16:23:04.97ID:/FVd1V6p0
少年探偵漫画、某傀儡師×主人公です。文章中に固有名詞は出してません、エロなし
口調とか時期とか設定めちゃくちゃです
最近読み返して再燃したので勢いで書いた。後悔はしてないが申し訳ないと思っている。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

俺は勿論、彼のこれまでの所業を許したわけではない。
どんな過去があろうと、どんな事情があろうと許されるものでは到底ないだろう。
そう声に出さず自分に言い聞かせるのは毎回で、本当はもっとやるべきことがあるのに、遂に今日までやらないできたのである。
彼が度々休む住所や宿泊先を知っている。また彼がこのごろ頻繁に誰かから電話を受けていたのも知っている。
俺は寝たふりをして彼の流暢な外国語を聞き、そりゃあ聞いても意味なんて分からないが、良い内容ではないことには気づいていた。
彼がそれをどちらでもよいと考えていることも。
今朝早く、朝焼けのころに彼は俺を揺り起した。
俺はずっと起ていたけどもわざわざ二度三度と瞼を開き、いかにも眠いような、寝起の素振りをしたのである。
「もし。朝早くにすみませんが。」
彼はベッドに腰掛け、眩しそうに目を細めて俺を起した。
男のくせに白い手を、俺の肩に乗せている。
目を合わせると、彼は珍しく自分から視線を外して、ふと窓の方に顔を向ける。
遠くで日が昇って、建物の窓硝子は寒さに凍えながら透き通って見える。
「急用で暫く、出張がありますから。」
俺は黙っていた。彼の瞳は日に透けると金色に映る。
俺は何も言いたくなかった。やっとの思いで頷くと、彼はそれを視界の端で認めたようだった。
0374ある日の朝2/22018/02/23(金) 16:24:39.41ID:/FVd1V6p0
「私はもうこの部屋は、」言いかけて彼は黙った。
光線の中に、ごく細かい綿埃が柔らかく舞っている。
この部屋に誰も居なくなれば、床に落ちてもう二度と舞い上がらないだろう。
今日よりあとは、この部屋には誰も入らないだろう。肩に置かれた手は微動だにしない。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか?
俺はそんな無駄なことばかり考えて、呼吸を乱さないように苦労して、そうしたら早く行ってくれないかと、懇願に近い思いを抱いた。
彼がおわりまで続けられなかったのは、彼が朝を待って、せめて今まで用事に向かわなかったのはと、そのようなことを考えると、俺の無感情の顔は崩れるに違いなかった。
彼は少しの間なにも言わず、じっと外を見ると、俺から手を離した。
「急用なんじゃないの。」
俺はつい口走ったことを即座に後悔した。
彼がどう言うにせよ、なにも言わなくても、聞くべきではないことだった。
俺は彼の用事を見逃すという弱気を生じ、彼に寄り縋っているのである。
後悔しながらも、彼の反応を伺った。しかし彼は黙って立ち上がった。
反射的に身を起し彼の名を呼んだ。もはや表面的にも、俺の邪心は明らかだった。
「誰かに頼めないの。今度は。」
彼は振り返った。意外そうに俺の目を見た。
自分の口走った台詞を信じられないと、一番強く感じるのは自分である。
「まさか。君がそんなことを仰るとは。」
本音だろうと感じた。それから彼は小さな声で、ぽつりと謝ると、上着を羽織って部屋を出た。
彼のよく座っていた椅子には見慣れた携帯が置いてあり、起動するとあたりまえのように初期化されていた。
少し知ったつもりでいて、実はお互いになにも、知らせないようにしてきたのだと漸く気がついた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
0375風と木の名無しさん2018/03/28(水) 02:13:46.43ID:tZwGrcQ30
>>373
遅レスですが、懐かしい!
傀儡子登場の度に主人公がぞくぞくしてるように見えたのを思い出した。
0376左押してスタート 1/22018/04/30(月) 22:06:46.84ID:hxq653TJ0
GCCX再放送の239話を見て滾ってしまった音声と16代目
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「お疲れ様です」
「どうも」
ぺこりと頭を下げる姿は、年齢以上に若く見える。それでもインスタントコーヒーを濃いめに作る癖は、やっぱり普通の大人の男なんだよなと思わされた。
「カガ! そこ大道具通るから、ちょっと外出てくれ!」
内線がビーと鳴り、壁のスピーカーから声がした。俺とカガくんは顔を見合わせる。長い大道具を持ち込むときは、どうしてもこの給湯室まで入り込んでしまうから、非常階段に出るのがお約束だ。
「了解でーす」と声をかけ、カップ片手にカガくんは部屋を出る。俺も差し入れの菓子をテキトーに一掴みして後ろに続いた。
「終電、大丈夫ですか」
「あ、え、俺? 平気だよ。今日は飲みだろうし」
「フカワさん、大活躍でしたもんね」
朝ドラのように屈託のない笑顔を向けられて、俺は少し面食らった。本当に、カガくんは、少年のようだ。
「この企画だけはミスれなかったからなー。ロケハンとか初めてやったよ」
あ、本来の意味でのロケハンはあるけどね。そう付け足すとカガくんはくぐもった笑い声を上げた。彼の癖だ。だから音が、少し拾いにくい。
「……カガくんも、けっこう頑張ったでしょ」
「そうですね」
こともなげに肯定する。細い目の下には隈も見えるし、白い肌は荒れている。一応はテレビに映るということでドーランをしてはいるが、そういうのが苦手なのだろう、カガは収録が終わるとすぐに顔を洗ってしまう。
俺が出るときはほとんどが偶然で、少し前のクイズのときもほとんど予期しないタイミングだった。同じスタッフだけど、でも、少し違う。
手すりにカップを置いて、握っていた菓子を一つ差し出した。軽く会釈をして、ありがとうございます、と受け取る。仙台銘菓を見て、そういえば今度はフェリーでやるのかと思い出した。
「フェリーでのソフトってなに?」
「リュウケンデン3です」
「うっわ〜! うわぁ……それは……」
「延長しそうですよね」
その笑いはもはや諦めたようでもあった。
「でも、いいです。それはそれで。視聴者の皆さんは、あの人の諦めないところが、好きなわけですから」
0377左押してスタート 2/22018/04/30(月) 22:07:42.55ID:hxq653TJ0
夜の東京の、制作会社の非常階段は、不意に何かを話したくなるんだろう。突風が吹いて不安定なカップを二つ押さえた。いつの間にかカガくんは飲み干していたので、俺もカラにして、足元に置いた。
「続けられそう?」
そのまま、視線を床に、地上を走る車のライトに向けたまま言う。
「それは、……えっと、助っ人を、ですか?」
「会社をさ」
少しだけ目線を向けてみれば、おたおたと不安そうな顔をしていた。
「いま歴代の助っ人さんを呼んでの企画やってるけど、結構やめちゃった人多いんだよね。こういう仕事だから、まぁ、無理になっちゃうのも分かるんだけど……」
俺もあの頃とは違う。腹も出たし、生活も変わった。夢を与える仕事だというのは分かる。分かるが、俺たちはどうしようもなく、大人にならないといけない。
この人はどうだろうか。カガくんはしばらく目を泳がせていたが、やがてキッとした顔を向けた。
「やるだけ、やってみます」
「……うん。あははは、それがいい。それぐらいがいいよ」
嫌になったらやめてもいい。人生はいくらでも、好きなところでやり直せばいい。
「ごめんね、なんか詰めるようなこと言っちゃって」
「いえ」
「連絡先教えてよ。俺も番組長いから、少しぐらいは話聞けるし」
「あ、はい」
交換してからなんてことない話をして、そろそろいいだろうとドアを開けた。あ、と振り返ると、カガくんはしっかり俺のぶんのマグカップも持っていた。口に思いっきりお菓子を咥えて。
「甘いの好きじゃなかった?」
ぶんぶんと首を横に振られる。もらうだけもらって忘れてたというところか。
「半分もらおうか」
今度はこくりと縦に頷かれた。顔を近づけて、カガくんの口からはみ出ている部分をがぶりといただく。ついでに俺のカップもと手に触れると、信じられないぐらい熱くなっていた。
「おわ、カガくん、大丈夫?」
「ふぁい、ひょうぶ、です」
「そう? 俺、トイレ行きたいから先戻るね」
「はい……」
ちらっと見ると、カガくんは口を押さえて赤くなっていた。それはやはりまだ初々しい、中学生かそこらに見えた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
16代目が可愛すぎて禿げる
0379風と木の名無しさん2018/05/11(金) 06:49:20.17ID:r1iPQoQz0
ちょっと思いついたので書いてみました。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
0380高貴なる狼〜Ich liege falsch Aber die Welt ist mehr faisch(1)2018/05/11(金) 06:54:21.70ID:r1iPQoQz0
 無慈悲で禍々しい巨大な天使が、遠からぬ将来、人類に必ず訪れる災いを告げ知らせてい
る。
 ふと、そんな風に思った。
 何のことはない、それはいつも通り、重々しくもの憂げに響き渡る古都ウィーンの鐘の音
だったのだが。
 早く、恋人の待つアパートの部屋に帰りたくて、石畳を歩く足を速めた。ぼくは音大、彼
は美大の入試を目指して励んでいたけれど、彼の方は勉強が捗っていなくて、最近また憂鬱
を深めているようだったから。
 早く帰って話を聞いてやり、ベッドで抱いて慰めてやりたかった。

 刺すようなブルーの瞳は、陰鬱で、しかし、時に異様な熱気を帯びて明々と燃え上がり、
彼の言葉に耳を傾ける人間を底なしの小暗い沼へと引きずりこむようだった。
 だが、多くの場合、彼は細くてちょっと神経質な、どこにでもいる十代後半の少年に過ぎ
なかった。同輩に自己紹介する時には、やや自虐的に、大人びて、こんな風に言っていた。
 「生まれはブラウナウ・アム・イン、税関吏の小倅さ」
0381高貴なる狼〜Ich liege falsch Aber die Welt ist mehr faisch(2)2018/05/11(金) 06:58:12.97ID:r1iPQoQz0
 今となっては、彼のそれほど人類の歴史に対して大きな、そして多くの意味を持つ名前も
なかなかあるまい。恐らく、ナザレのイエスに比肩し得るだろうが、違っているのは、その
全てがこの上もなく不吉で、一点の栄光も救済もない、汚辱に満ちたものばかりだという点
だ。
 数々の不名誉の中の一つに、おぞましい近親姦の為し手というものがある。そのことも他
の全てと同じく、ぼくと彼との関係が終わってずっと後に起こったことだけれど。
 彼自身の両親も、ごく近い血の持ち主どうしだったようだ。十九世紀のオーストリアの片
田舎にはしばしばあったことなのか、ぼくは知らないが。
 逆子で、母親は大変な難産を経験したという。貶めて、後世の歴史家たちは言う、悪魔の
申し子に相応しい誕生の逸話だと。
 またこうも言う、生まれてこない方が本人の為にも、全人類の為にもよかったに違いない
と。
 でも、ぼく自身は、彼のことをそんな風に思ったことはない。
 ぼくにとっての彼は、いつまでも、飢えた絵描きで、自分の物語にのめりこみすぎては
時々別の世界に飛んで行ってしまう危うげな夢追い人。
 二十世紀の黎明期、十代の日々の情熱と驕慢と、芸術への純粋な愛好を分かちあった友人。
 並外れた洞察力を以て、ぼくの音楽家としての素質を見出し、高く評価し、並外れた雄弁
を以て、父をはじめとした周りの人たちを説得してくれた恩人。
 そして、ただの愛しい男の子だった。

 彼との交わりは、大抵の場合、彼の描く風景画の空の塗り方のように、のっぺりとした
平々凡々たるものだった。ただ不器用に口づけを交わし、裸になって体を重ねるだけで、失
神するようなエクスタシーとも、ロマンティックな囁きとも無縁だった。
 でもぼくは、彼が普通の人ではないことはわかっていた。彼が他の人と違っていることは
よく知っていた。ぼくが十六、彼が十五の秋、リンツのオペラ劇場で初めて出会ったあの時
から。
0382高貴なる狼〜Ich liege falsch Aber die Welt ist mehr faisch(3)2018/05/11(金) 07:02:13.90ID:r1iPQoQz0
 知っての通り、彼は、後年、その神秘的な美しさにあれほど熱中し、選りすぐりの軍隊ま
で作ったゲルマン的な容姿からは程遠い。どちらかといえば色素が濃い方で、金髪でもなけ
れば、百八十センチを超す長身でもない。
 そして、そのことが内心では生涯不服であったかのように推測されることもある。彼だけ
でなく、彼の側近たちまで含めて、外見やら経歴の劣等感がその怪物じみた悪意、攻撃性、
残虐性の遠因ともなり得たと主張する者すらある。
 それはわからないし、ぼくにとってはそんなありふれた分析などどうでもよい。人の人生、
国家の存亡がたった二行や三行の文章で結論付けられるわけがない。
 ぼくにとって大事なことは、ぼくは彼の陰府(よみ)の闇のような黒髪が好きで、よく指を
絡ませて愛でたということだ。
 ウィーンで二人のささやかな生活を送ったあのアパートの、あのベッド、ぼくが彼の体の
上で汗だくになって息を弾ませている間、彼はよく、あのドナウのように碧い目をゆっくり
開いたり閉じたりしながら、じっとぼくを観察していたものだ。元々下から顔を見られるの
は何となく気恥ずかしかったし、彼の視線がこんな場合に相応しくなく、何とも冷静に見え
て、そういう時は本当にきまりが悪かった。
 「アーディ・・・・!出すよ」
 ぼくは専ら、女性を相手にする時と同じように、彼の中に差し入れて機械的に体を上下さ
せるだけで、若かったせいもあって大抵あまり時間をかけずに果てたが、彼はしばしば、女
性のように、必ずしも射精を伴わない、長い、複数回に亘る絶頂感を得た。
0383高貴なる狼〜Ich liege falsch Aber die Welt ist mehr faisch(4)2018/05/11(金) 07:08:27.03ID:r1iPQoQz0
 行為の後は一つのシーツにくるまり、肩を寄せあって、よく話したものだった。
 「詩人はなんで、『青春』なんて呼んで称えるんだろう。若さが素晴らしいなんてちっと
も思えない。思うようにならないことばかりで、愚かさや醜さや悔しさや憤激の塊じゃない
か」
 何の話のついでだったか、ぼくが予てから不満に思っていたことをふと洩らすと、彼はご
く短い間考え、絵描きとして至極当然な見解を述べた。
 「若い肉体は美しい。美しいものに憧れたり、描写したがったりするのは人間の自然な心
の働きだと思うけど。花や子犬やギリシア彫刻を醜いと忌み嫌う人はないだろう?」
 「ああ、そうかな。でも、この世界はこんなに美しいもので溢れているのに、どうして人
間はめちゃくちゃにしようとするんだろう?」
 「めちゃくちゃって?」
 「戦争とかさ」
 後から考えると少し意外なことだが、この時、「戦争」という単語は彼の心をするすると
滑り落ちて行ったようだった。それには全く反応せず、彼はこう尋ね返した。
 「グスタフ、美しさって何だろうね?」
 ぼくが答えられないでいると、
 「悪の華とか、滅びの美とか、そういう感性もある」
 そう淡々と語った。例の神懸かり的な興奮は見せず、声は上擦らなかった。
0384高貴なる狼〜Ich liege falsch Aber die Welt ist mehr faisch(5)2018/05/11(金) 07:11:19.55ID:r1iPQoQz0
 「君は美しいよ、アーディ。君も、君の絵も、本当に美しいとぼくは思う」
 彼は横顔のままで、聞き取れないくらい微かに、Dankeと呟いた。ぼくの渾身の愛の吐
露だったが、今にして思えば、あんまり気がなかったのかも知れないし、例によって、ぼく
と肌を合わせていながら、何か全然別の、誰も考えつかないような壮大なプランに思いを巡
らせていたのかも知れない。古びて染みの浮いた安アパートの壁の向こうに、途方もない光
景を見据えていたのか。やがて、十字架を捻じ曲げるという何とも冒涜的な得体の知れない
奇怪なマークと、右手を高々と掲げて彼個人を称える前代未聞の奇妙な敬礼と共に、後の世
の人々にとっては戦災と圧制のシンボルとなったあの恐ろしげな軍帽の鍔の下から、全世
界を睥睨したように。
 「私は間違っている。しかし、世界はもっと間違っている」
 後年、すっかり逞しくなり、男らしく成熟した彼が政治演説でそんな風に嘯いていたのを
ぼくはラジオや映画で見聞きした。世界で最も冷静沈着な民族を恍惚とさせ、熱狂の渦に巻
きこみ、血と爆風の破滅へと誘ったあの魔性のスピーチ。
 彼の言というだけで、今となっては誰も称賛する人はいないし、実際全く道徳的ではなく、
深い思索に裏打ちされてもいない勢いだけの台詞だけれども、何かを変えたいと思ってい
る人間には多かれ少なかれ共有できる感覚ではないかとも思う。
0385高貴なる狼〜Ich liege falsch Aber die Welt ist mehr faisch(6)2018/05/11(金) 07:15:07.11ID:r1iPQoQz0
 「アーディ、もう一度しよう」
 ぼくにしては珍しく、矢庭に、凶暴なまでの情欲が全身を駆り立てた。やや乱暴に彼の肩
を掴んで引き寄せた。
 その舌は人類の大いなる災厄そのもの、唇は戦火。御民イスラエルに、ヤーヴェの神すら
耳を覆うような凄まじい悪罵を投げつけ、残酷な命令を下して彼らを死の獄へ追いやる。
 でもその時のぼくは、そして恐らくは彼自身も、そんなことは露知らなかった。十九のぼ
くはただ、それを欲しいままに貪った。
 彼は大人しく、されるままになっていた。ぼくは無抵抗の彼を仰向けに押し倒し、両腕を
広げさせて、掌にぼく自身の両手を重ね、組み敷くようにした。
 もしもその時、彼が暗黒のキリスト・イエスだと知ることができたら、ぼくは地の果てま
でも彼について行って、暗黒の伝道師パウロになりたいと思っただろう。
 その役柄はどうやら、あの小児麻痺を患った背の低い文士崩れに奪われてしまったよう
だけれど。もしかすると、タルソスのパウロがそうであったように、本当に人類にとって手
強く、厄介だったのはあの男の方だったかも知れない。後に指揮者としてはそこそこ成功し
たぼくだが、幸か不幸か、とてもそこまでの非凡な才覚は持ち合わせなかった。
 あばら骨の浮いた胸に顔を寄せ、乳首を代わる代わる吸った。舌先で転がすと、頭の上で
彼の小さな溜め息が聞こえた。
 腹から腰へと唇を這わせてゆき、透明な雫を滴らせながら戦く亀頭を口に含んだ。その下
にある温かな膨らみをそっと掌に包みこんだ。ぼくにとってとても愛しかったそれだけれ
ど、彼はこの六年後に勃発した第一次世界大戦に従軍し、負傷して片方の精巣を失ったとも
伝えられている。それが本当なら、子宝に恵まれなかったのはその為かも知れない。
 ぼくが彼の中に押し入り、充分に満足する深さまで埋没すると、彼はぼくの両足に自分自
身のそれをきつく絡みつけ、あの忌まわしい十字の紋章のようにがっちりと交差させた。そ
れだけで射精してしまいそうになったが、辛うじて堪えた。動くことも忘れて、彼の頭を掻
き抱き、熱情の迸るままにその名を叫んだ。
0386高貴なる狼〜Ich liege falsch Aber die Welt ist mehr faisch(終)2018/05/11(金) 07:21:56.60ID:r1iPQoQz0
 「ああ、アーディ・・・・アドルフ・・・・!!」
 それは、古ドイツ語で「Adel(高貴な)」「Wolf(狼)」という意味で、古くから好まれる素晴
らしい名前だったが、二十世紀後半以降は、ドイツ語を話す人々の間で、その名前を息子に
付ける親は滅多にいなくなってしまった。
 ひとえに、ぼくの若き日の恋人、その人の故に。

 ウィーン西駅での突然の別れから三十年後、1938年のリンツで再会を果たした時、彼に
十代の頃の面影は殆ど残っていなかった。その印象的な瞳の輝きを除いては。
 予めメディアで見知ってはいた––––最初は同姓同名の別人だと思った––––が、ぼくの前
に現れたのは、役者みたいなちょび髭を生やし、七三の髪を撫でつけ、ちょっとずんぐりし
た体格のふてぶてしい中年男性、きらめくような権力の絶頂に上りつめ、いかめしい軍服に
身を包んだ強面の最高司令官だった。
 それにも関わらず、リラックスした雰囲気で迎えてくれて、親しく話しかけ、丁寧にもて
なしてくれたことをぼくはずっと忘れない。

 我が青春の友アドルフ、人は君の墓に、偉大な画家になる夢に頓挫した負け犬だと唾する
けれど、それは違う。
 君は確かに、ドイツ最大、二十世紀最大、いや人類史上最大の画家になったんだ。
 世界という巨大なキャンバスに、誰もが永遠に忘れられない血染めの絵を描いたのだか
ら。

Fin.
0387風と木の名無しさん2018/05/11(金) 07:23:27.76ID:r1iPQoQz0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

アウグスト・クビツェクの著作より。
「我が妄想」でした。

ageてしまってすみませんでした。
0389風と木の名無しさん2018/05/12(土) 08:20:29.68ID:Z3dIwplN0
>>380

良かったです ありがとうございます
我が妄想は笑いました
0390風と木の名無しさん2018/06/04(月) 00:06:35.98ID:ozgtu/7D0
某オサーンドラマを見て気持ちが抑えられず。
半生、しかもT→Y(H→K)?です。ごめんなさい。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
0391無題 1/22018/06/04(月) 00:09:08.56ID:ozgtu/7D0
他の人のクランクアップで泣くのは、本当に久しぶりだった。

ベテランの役者であるその人は、優しく笑って抱き寄せてくれた。
子どもみたいに泣きじゃくる俺のことを、いったんは優しく離して。
嗚咽が止まらないのを見かねて、また俺の肩を引き寄せた。

どうしてこの人を選べなかったのだろう。

もちろん、役の話だ。ストーリーとしては、最初から誰と結ばれるかは
決まっていた。それはとても自然な流れだったと思うし、集中して気持ちを
高めていくことができていた。
だけど。あの教会でのシーンで、彼にとってのライバルのもとへ
送り出してもらったとき。
俺は号泣した。役なのか、自分自身なのかわからないくらいに。
誓いのキスを、と牧師に言われたときに、すでに予感はあった。
本当なら、思い出すのは今までのキスのこと、だったはずなのに。
なぜか、彼とのあれこれが、次々と思い出された。
「好きでぇーす!!!」の大絶叫から、ひざに縋り付かれて思わず
頭をなでてしまったこと。「2番目の男でもいい」と言って、いつの間にか
1年間、俺と一緒に暮らしてくれたこと。知らぬ間に、俺を独り立ちできるように
育ててくれて。それも、嫌な顔一つせず、楽しそうな笑顔で。
そして今、俺の幸せを思って、早く行けと促してくれている。

ここで、強引にあなたにキスをして、抱きしめたとしたら、すべてが変わるよね。

役と俺自身、どちらの気持ちだったのだろう。自分の衝動に驚いて、動き出すのが
遅れた俺に、彼は表情を変えて、俺を叱咤した。
いつも聡いあの人だけれど、今回ばかりは俺の気持ちに気付かなかったのだと
信じたい。全力で教会の外へと走り出した。
0392無題2/22018/06/04(月) 00:11:20.41ID:ozgtu/7D0
彼はいつも冷静だった。雑誌の取材でもそう。
「いい意味で台本は無視してほしい」と言っていた俺に、さりげなく
「アドリブは、台本がいいからできること」とフォローを入れてくれたり。
そして最後のあいさつの今。愛情のこもった目で、俺を愛してくれていたこと、
信頼を語ってくれている。
彼の眼はあたたかい。もう、あの恋する瞳じゃない。若手の俳優を見守る、
ずっと前を走ってくれている名優のまなざしだ。
なぜだろう、今になって、彼の優しい抱擁をふりはらって、きつく抱きしめ
なおしたい衝動にかられているのは。
でも、大丈夫。この心地よい距離感から踏み出して、すべてを壊したりはしない。
大事に大事に、彼と、俺と、皆で作り上げた作品が、本当に大切ものになったから。
0393風と木の名無しさん2018/06/04(月) 00:15:39.26ID:ozgtu/7D0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

アゲてしまってすみませんでした。緊張してしまって…
後悔はしている…でも… みんなみんな良い俳優だから、
今後の活躍を期待しているお…
0394風と木の名無しさん2018/06/09(土) 12:59:47.89ID:aBiYmnEK0
>>393
乙!すんごく乙です!中の人と相まって良いお話だったお!

私も部長と結ばれて欲しかったんだよねぇ
0395風と木の名無しさん2018/06/11(月) 06:46:10.08ID:5bsPsQzN0
>>388-389
ありがとうございます。続編です。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
0396男娼アドルフに告ぐ 1/72018/06/11(月) 06:48:09.25ID:5bsPsQzN0
 よく光の入る広いアトリエを借りられたことは幸運だった。
 さすがフランス、陰気で垢抜けしない我が国なんぞとは違うようだ。しかし、私はやは
りベルリンが、鹿爪らしい故国の人々が懐かしかった。
 いずれにせよ、戦時中だというのにいい気なものだと我ながら思う。それも恐らく欧州
史上、いや世界史上最大規模の戦争の只中だというのに。
 尤も、飽くまで「今の所は」という但し書きが付くだろう。考えてみれば何でもそうだ
と、べつに哲学者やペシミストや仏教徒でなくてもわかるが。
 「そもそも、ぼくや君のような絵描きまで兵役に駆り出そうというのが、何とも無粋な
話だよね。たまにはこうして息抜きもしなけりゃ」
 白いキャンバスに絵筆を走らせながら、ヌードモデルの緊張をほぐす為の会話の続きを
促す。こういう時、口を利くのを極度に嫌い、ひたすら黙りこくったまま作画を進める絵
描きも多いが、私はそうではない。
 「ええ。戦争は政治の最悪のフェーズですから。政治家は戦争をする為になるものでは
ないし、にも関わらず、不幸にして戦争になってしまったのなら、一刻も早く終わらせる
努力をしないといけない。ぼくはこの戦争が終わって、画家か建築家として大成できない
なら政治家に転向しようかと考えています。職業軍人にはそんなになりたくない」
 軽い世間話程度でもいちいち全力で受けとめ、生真面目なコメントを返さずにはいられ
ないこの風変わりな上等兵の特異な性質にはこの頃はもう馴染んでいたが、やはり、素っ
裸で突っ立ったまま、にこりともせずにそんな弁舌を振るわれるとちょっと興醒めしてし
まう。
 参ったな。こんな子初めてだ。彼のチャーミングなオーストリア訛りは好きなのだが。
 「そ、そう?こんな話、あんまりおもしろくないんだけど」
 「そうですか、失礼しました。では何かもっとおもしろいことを考えます」
 「なんも考えなくていいよ。君は多分、あれこれ深く突きつめて考えすぎると周りまで
振り回して、却って何もかも台なしにするタイプだよ。人生大いに楽しむべし。もっとホ
ワッとした表情が欲しいな。目線もうちょい上に。そーそーいい感じ。色っぽいね〜。ア
ドルフ、おまえは雰囲気があるし、スピーチも巧いからきっと政治家になれば人気が出る
よ」
0397男娼アドルフに告ぐ 2/72018/06/11(月) 06:50:24.13ID:5bsPsQzN0
 ドイツとの国境にある山村の生まれだという。その二十七、八の青年の体はたおやか
で、感じやすく、私の視線、私の絵筆に容赦なく犯されることに恥じらいながらも従順
で、歓びを覚え、その後のベッドでの私の行為によく反応した。
 私は従来、若くてきれいな男に目がなく、若い男の裸を描き、対象物をもっとよく知る
為と尤もらしい口実をつけてはその体を貪る為に画家になったようなものだ。アドルフの
場合、醜くはなくても特別に美形でもないのだが、言葉にし難い非凡な存在感を宿す明る
い目に心を捕えられた。自分でも絵を描くという彼を、どうしても脱がせたい、描きた
い、抱きたいと思った。
 脱ぐことには全く躊躇せず、性器まで晒すのも、煽情的なポーズを取るのも平気だっ
た。裸にして描画を開始してみてすぐ堪りかねて、会話も作業も中断して邪欲塗れの手を
伸ばしてしまったのだが、不意の抱擁にも愛撫にも口づけにも驚き戸惑う様子はなく、落
ち着いたもので、男に慣れていると最初から思った。
 寧ろ、積極的に応じる素振りすら見せた。立ったまま、彼より背の高いこちらの頭に両
腕を回し、自分から舌を絡ませてきた。太腿にアドルフのはちきれそうな熱を感じ、細い
指が私のシャツの釦を一つ二つと外しにかかった。年下の上等兵と長い口づけを交わしな
がら、私はもどかしくシャツを脱ぎ、床に放った。そして彼のひょろ長い体を横抱きに抱
えて、ベッドへと連れて行った。
0398男娼アドルフに告ぐ 3/72018/06/11(月) 06:53:02.17ID:5bsPsQzN0
 これまで幾つの眼差しがその透き通るような素肌をなぞったのか。夕暮れ時、アドルフ
は私の差し伸べた腕を枕にしながら、父、母、妹、姉夫婦、教師たち、同級生、ドナウ河
畔の街リンツ、決して子供らしい幸福に光り輝いていたとは言えない少年時代の思い出を
追い追い語った。私は胸を痛めつつそれを聞き、時折、彼の耳を甘噛みしながら囁いて尋
ねた。
 「初めて男に抱かれたのは?幾つの時?」
 「十五の時です」
 と曾てのリンツの少年は頬を薔薇色に染めて告白した。
 「劇場で出会った一つ年上の人が最初の恋人でした。十八の時にぼくがその彼をウィー
ンに連れて出て、暫く一緒に暮らしていました。彼は音大に通って、ぼくは美大を目指し
てたけど、前にも少しお話しした通り、合格しなくて。その内、一緒にいるのが辛くなっ
て、またお互いの為にもならないんじゃないかと思えてきて、彼がリンツに帰省してる間
に、黙って行方をくらましたんです。彼はそんなこと夢にも思っていなくて、新学期もま
た一緒に暮らせるね、ずっと一緒だねって言ってたけれど」
 あまりに切なく痛ましい話だった。今でも見られるアドルフの未熟さ、不器用さとそれ
らに見合わない高すぎるプライド故の極端な行動だったのだろうが、私はその愛情濃やか
で繊細な音大生の心中に思いを馳せずにはいられなかった。どれほどまでに打ちひしが
れ、断腸の思いで捜したことだろうかと内心では思ったが、それは口に出さず、こう言う
に留めた。
 「その人は?」
 「わかりません。音楽家になったんじゃないかと思うけど。恐らく今は彼もオーストリ
アで徴兵されていると思うので、きっとひどい目に遭っています。あんな大人しい、ただ
ピアノやヴィオラを弾いていたいだけの人に戦場は苛酷すぎます。無事だといいけれど。
戦死したり大怪我したりしてないといいけれど」
 アドルフはその独特な光彩を放つ碧い目を瞬かせた。まだ、その男を愛しているのだろ
う。愛していたからこそ、二度と会わない覚悟で自ら彼の前を立ち去ったのだ。
 黒髪をそっと指で梳いてやった。私は恐らくアドルフとは正反対に、生来享楽的で軽快
な性分だ。また、年長でもある。こういう時は一緒になって悲しみに浸り、深刻になるよ
りも、ただ一言、このように言う方がいいと思った。
0399男娼アドルフに告ぐ 4/72018/06/11(月) 06:56:46.58ID:5bsPsQzN0
 「妬けるね」
 実際、本心もあった。
 「そんないいものじゃありませんよ。ぼくなんて、彼と別れた後はウィーンやミュンヘ
ンで男に春をひさいでいましたから。喰いつめていたとはいえあまりに浅ましい」
 下卑た笑いを浮かべ、舌舐めずりする男たちに弄ばれ、嬲りものにされた自分の体を隠
すように、彼はシーツを手繰り寄せた。つい先日も、寝ている間に心ない戦友たちからひ
どい辱めを受けたと、泣きながら言葉少なに打ち明けた。
 私はそんなことは何とも思わなかった。
 「それって芸術家のパトロン作りでしょ?こういう世界は多かれ少なかれそんなものだ
よ。私にだって覚えがあるよ」
 この関係だって似たようなものだろ、おまえ俺の口利きで絵描きのコネやら勲章やら欲
しいんだろ、とも思ったが、それも口に出さなかった。アドルフの傷に塩を擦りこむよう
な真似をしたくなかったからというのが第一だが、私のようなただの好色漢とは違う、か
の天使のような音大生に、ささやかにして絶望的な対抗意識を燃やさずにいられなかった
のだ。
 「その彼が今も無事に生きていたら――そうだといい、きっとそうだ――、きっと『ア
ドルフはどうしているやら、戦争で死んでいないといいけれど』と同じように案じている
と思うし、君がどんな人間であっても、大袈裟な言い方をすれば、たとえ人類史上最も唾
棄すべき人間であったとしても赦してくれると思うよ。なんかぼくはそんな気がするな。
 それと、君がこの間ハンス・メントや取り巻きに悪戯されたことはその彼とも、君自身
の尊厳とも何の関係もないから、自分を責めることはないよ。よく話してくれたね。早く
忘れてしまえるといいね」
 アドルフを抱きしめ、ちゅっと口づけして頬に流れた涙を吸い取ってやった。
0400男娼アドルフに告ぐ 5/72018/06/11(月) 06:58:57.41ID:5bsPsQzN0
 「ありがとうございます。ラマースさんはやさしいんですね」
 彼はやっと笑顔になった。かわいい男の子と見るやアトリエに連れこんで、「きれいに
描いてあげる」などと言葉巧みに言いくるめて裸に剥いては手籠めにしている男のどこが
やさしいのだろうか。そんな風に言われるとバツが悪くなるが、そう親しく呼ぶように命
じたのは私だった。軍隊だからといって階級名でも役職名でも呼ばれたくはなく、かとい
って「画伯」だの「先生」だのと呼ばれるのも御免だった。
 時が移り、いつしかアトリエは青紫の月影の中に沈もうとしていた。私は曾ての哀れな
音大生の恋人を再び抱き寄せ、口づけし、その臍から下へと手を這わせた。
 既に充分血の通った部分をそっと握り、上下に扱くと、半開きの唇が切なそうな喘ぎを
洩らした。その悩ましげな表情を楽しく見比べながら、指先に滴った彼の先走りを愛らし
い双の乳首に塗りつけた。そのついでにちょっとつついたり摘まんだりしてみる。実にい
い色、いい形をしている。濡れてツンと立った乳首を咥え、可憐な春歌の詩句を愛唱する
ように、しゃぶりつき、舐め回した。アドルフは若枝のように体をしならせて悶え、息を
乱して私の頭を引き寄せ、熱に浮かされたように、Mehr(メーア、「もっと」)と甘やかに
啼いた。
 普段、この比類のない若者を殆ど身動きの取れないほど雁字搦めに縛りつけている自制
と道徳の箍が弾け飛んだ。彼は俄に私を仰向けに突き倒すと、自ら私の猛り立った部分を
ぐいと掴み、その上に跨り、大胆に腰を沈めていった。私はもう少し、静止したまま、彼
の温かな肉壁に一物がふんわり包まれている感触をじっくり味わっていたかったのだが、
そうはいかなかった。両手を私の掌に重ね、十の指をしっかりと絡ませて、アドルフは性
急に、狂ったように腰を打ち振った。遥かな天空から降り注ぐ神秘なる月光が、飛び散る
汗を珠のようにきらめかせ、激しく乱れ動く影をアトリエの壁に描き出した。
0401男娼アドルフに告ぐ 6/72018/06/11(月) 07:00:56.16ID:5bsPsQzN0
 「『青い鳥』って知ってる?」
 絶頂の余韻が引き潮のように遠ざかってゆき、火照った体も冷め、上がった息も整い出
した頃、またアドルフに手枕をしてやりながら、ふと思い出して言った。
 「ええ。何年か前にフランスの作家が発表した戯曲ですよね。一応読みましたけど、あ
んまり細かい所まで覚えてないです。それがどうかしたんですか?」
 「その中に『夜の御殿』という場面があってね、『この世が始まってこの方、人間を悩
まし続けてきた秘密という秘密が押しこめられている』扉が沢山あるんだ。人類のありと
あらゆる災厄や不幸がそこに封じられているの」
 私はその啓示的な夢幻童話劇が好きなので、つい瞳が輝き、声が大きくなった。
 「あ〜そういえばそんなのあったような気がします。でも、なんで今そんなの思い出し
たんですか?」
 「いや、さっきから戦争の話してるじゃない?」
 更に熱を込めて続けようとした私の無邪気な言は遮られた。
 彼は不意に、謎めいた、悪魔的な微笑を浮かべた。まるで、その仄白い裸身を取り巻く
闇そのものが嗤ったかのようだった。ただたまたま気に入った相手と、私にとってはごく
日常的な戯れのひと時を、その快楽を分かちあっているに過ぎないのに、どうしたこと
か、未だ人の子が達したことのない、世界のとてつもない禁忌、永遠に紛れもない邪悪の
粋であり続けるものの吐き気を催すようなはらわたにじかに触れた気がした。どんな天分
に恵まれた詩人も筆舌に尽くせぬおぞましきその真の姿を垣間見たように感じて、理由も
なく、また柄にもなく、血の気が引くのを覚えた。
 得体の知れない恐怖に襲われたのは一瞬だった。蛇のような腕が伸びてきて私の首に絡
みつき、毒を含んで妖しく蠢く舌が耳に差し入れられた。再び、ひたひたと高まりゆく官
能の中で、彼はしどけなく、淫らに囁きかけた。
 「もう一発やりたいな。今度は今のよりももっと熱くて激しいのが欲しい・・・・。も
っとたっぷり時間もかけてね。ねえ、もう一回いいでしょう?ぼく、もっともっといけな
いこと、いっぱいしたいの」

Ende
0402男娼アドルフに告ぐ 7/72018/06/11(月) 07:02:16.02ID:5bsPsQzN0
夜:気をお付け。そこには「戦争」が入ってるんだよ。昔から見るとずっと恐ろしく、力
も強くなってるから。その中の一つでも逃げ出したが最後、どんなことになるかわかりゃ
しない。ただありがたいことに、あいつらみんな太っていて、のろまなんだよ。だが、み
んな総がかりで扉を押さえてなくっちゃいけない。その間に洞穴の中を大急ぎでちょっと
だけ覗くんだよ。
【中略】
チルチル:ええ、ええ、とっても大きくて、恐ろしい奴らだった。あんな奴らが青い鳥持
ってる筈ないや。

(モリス・メーテルリンク「青い鳥」1908)
0403風と木の名無しさん2018/06/11(月) 07:03:13.04ID:5bsPsQzN0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ロータル・マハタン「ヒトラーの秘密の生活」より。
ナチの高官ハンス・ハインリヒ・ラマースとは別人ですので悪しからず。
0404風と木の名無しさん2018/06/14(木) 05:55:08.87ID:AlkcCKrv0
おまけの小ネタです。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
0405おっさんずリーベ2018/06/14(木) 05:56:26.85ID:AlkcCKrv0
「グストル、きっかり三十年ぶりだね。また会えて感無量だよ。シュトゥンパー通りの二人の愛の巣で暮らしたあの頃は本当に幸せだった。毎朝、君の心臓の鼓動を聞きながら目覚めたものだな」
「そうだっけ?君はいつも、ぼくが身支度して学校に行く頃にはまだ姫御前のあられもない寝姿で眠りこけていらしたとはっきり覚えているけど。それはそれはかわいい寝顔で、これ幸いと色々イタズラしちゃいましたけど。今初めて知ったでしょ」
「もう!ぼくが起きられなかったのは君が毎晩、あんなにぼくのことをいじめたからじゃないか」
「そうかな?『総統は宵っ張りで、寝起きがメチャクチャ悪いので困っています。昔からそうなのですか?』ってボルマンさんが零してたよ」
「ねえ、グストル・・・・」
「・・・・本気?あのね、ぼくたちはもうあの頃のような紅顔の美少年じゃないんだよ。絵にならないよ」
「だめかな?」
「いや、ほんと言うと嬉しいけど、時間あるの?」
「どうにか一時間だけ確保した。絶対に、ぜっったいに誰も取り次ぐなよ、たとえ第二次世界大戦が勃発してもだぞ、と副官に厳命してある」
「シャレにならないよ」
0406風と木の名無しさん2018/06/14(木) 05:57:46.12ID:AlkcCKrv0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ハイル!二十世紀最大の801カップル!
0407恋人を撃ち落とす日2018/06/19(火) 03:28:44.01ID:Kav3s99l0
タイトルの曲に触発されて書いた目盾の鉄キ前提のキッド独白。
曲知ってたらわかる通りナチュラルに死ネタなので要注意。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
0408恋人を撃ち落とす日 1/22018/06/19(火) 03:29:32.89ID:Kav3s99l0
 乾いた、けれど響く音。
 手元で一瞬弾けた火花は、多分あいつの命。その具現。
 ぱりんと砕けて散ったのは、引き金を引いた俺の、全て。

<恋人を撃ち落とす日>

 指先、掌から腕へ全身へ駆け抜けていく振動は、馴染んだものと同じで、けどやっぱり全然違った。
 目の前の映像はスローモーションに、なんてなりやしなくて、馬鹿みたいにあっけなく、彼、が俺の元まで落ちてくる。
 咄嗟に抱き留めたりなんかしたら、あらら、ひょっとして片腕いっちゃったかも。
 妙に鈍い音を他人事みたく聞いて、でも正直ホント他人事みたいなモンだから放っておくことにする。
(だって、もうどうだっていいし)
 やらなきゃいけないこともその上で望んだことも現実になった。
 まだ二つほど残ってるけど、片腕あれば事足りる。
 それより何より、この腕の中のヤツのことだ。
 重い上にゴツイ体をよっこらせっと上向かせる。身じろき一つしないから大丈夫だとは思うんだけど、コイツの無敵さは折り紙つきだからねぇ。
 いきなりがばっと起き上がって、また暴れださないとも限らないし……なーんて期待でもするみたいに思って、けど頭ン中ではわかってて、まるで筋を知ってる劇でも見てる、みたいな気分。
 顔をこっちに向かせてみる。目は開いてて、だけどどこも見てない感じで、変にギラついてもいない。
 ちょっと前までは、俺だって殺しかねない剣幕だったってのにねぇ。
 くすりと笑いがこぼれちまうのはしょうがない。ホンット凄いカオしてたんだから。
 でも今はいつもの、彼、だ。
「ごめんなァ、鉄馬」
 こんなことしかできなくて。
0409恋人を撃ち落とす日 2/22018/06/19(火) 03:30:19.59ID:Kav3s99l0
 不思議な、もんだね。
 最強をと目指して握った銃は大抵明後日の方へ弾を吐いたってのに、こんな時ばかり調子がいいよ。

 ――あぁ、でも当然、だよねぇ。

 せめて苦しむことのないように、逝かせてやりたいってモンでしょう。
 救ってやれるようなことなんてなぁんにもしてやれない俺の、たった一つしてやれることだったから。

 突如発生した『狂獣化』のウイルス、その元凶たる保菌者が、何の因果か、鉄馬丈その人で。
 いっそ感染しても構わないからとは口にしないまま、俺が仕留めると言ったのは武者小路紫苑だった。
 それだけの、二次元の世界では掃いて捨てるほどあるようなよくあるお話。
「今、行くからさ」
 ラストシーンも、だからそういうモノで構わないだろう、と手にしていた大口径の銃を上げた。

 最後の銃弾は空っぽの頭に。
 今も変わらず愛しているよ、と先立たせてしまった君に伝えに往こう。
0410風と木の名無しさん2018/06/19(火) 03:31:07.46ID:Kav3s99l0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

今さら過ぎても何だろうとこの二人で見たかったんだ……
0411好きだから 1/42018/07/16(月) 19:05:21.72ID:ATxJYbAD0
生 将棋 青いの×軍曹
好きだけど、無理だろうなあと思っている両片想い、のイメージです
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 VSが終わって、その流れでいつものとんかつ屋にむかう。夏の暑さが身にこたえているらしい長瀬はいつにも増して口数が少ない。その様子にどうしたものかなあと街を見回した。少しでも早く涼めたらと、いつもと違う探している店が見つからないのだ。

 都内緑化活動だかなんだかでそこら中に植えられた針葉樹から、蝉の姿はみえずとも絶えず鳴く声が響き渡る。うだるような暑さにアスファルトの照り返しが合わさって、思わず本能的にどうにかなってしまいそうな危うさを覚えた。

『二人は何で仲いいんですか?』

 ぼやけた頭にこの前の解説の仕事で、女.流の人に笑い混じりで聞かれた言葉を思い出す。仲がいい、と言われるたびに首を傾げて仲がいいとは違うと思うんですけどと言いながら適した言葉が見つからず、考え込んでしまう。
 仲がいいというのなら、もっと気軽に遊べる人を連想してしまうし、そもそも長瀬に仲がいい人っているんだろうかとか、自分の知らない付き合いもあるのかもしれないとか色んなところに思考が散る。悪い癖だ。
 長瀬に直接聞いてみたら分かるのかもしれないな、と先程からハンカチで額を拭く彼をチラリと伺う。
0412好きだから 2/42018/07/16(月) 19:06:43.01ID:ATxJYbAD0
「ねえ」
「………。」

 話しかけると視線だけで返事をされた。不機嫌そうだから前振りなしでサッと結論を述べたほうがいいだろう。
『長瀬のこと好きでしょ?』
 口を開くタイミングで、兄弟子の言葉がふと思い浮かんだ。

「長瀬は俺のこと好き?」
「……………は?」
「ん?」

 ポカンと開けた口は、すぐにハンカチで覆われてしまった。
 聞こうと思ったことからは少しズレてしまったかもしれないけれど、まあ本質はついているとも言えるか。長瀬の反応を見るに悪手とも思えなかったのでこのまま進めていこう。

「どう?」
「どうって……それは」
「ああ、ごめん待って。これはどうしたものか……」

 いつもの店に着いてしまった。心なしかホッとしたような長瀬の表情が引っかかったけれど、今はそれどころではない。

「凄い人だかり」

 うんざりしたその声に、同意するように項垂れた。
 よく見るととんかつ屋は期間限定のランチセールをやっているようで、これはちょっと待ったくらいでは入れなそうだ。
 夏にとんかつ、それに昼間。そりゃあ店もセールくらいしないと人は入らないだろう。春夏秋冬とんかつがいける自分には関係ない話だけれど。

「うーん、やっぱりあそこにしようかな」
「思い当たるところがあるならそこにしよう。もう、どこでもいいから」
「もちろん、ずっと探してはいたんだけどね。この近くだって聞いてたんだけどな」

 くるりともう一度見渡してみると、向かいに白いレンガ調の可愛らしい店が見えた。そこの名前が探していたものと一致していて、あそこだ!と指さした時の長瀬は、一瞬にして天国から地獄に落ちた顔をしていた。
0413好きだから 3/42018/07/16(月) 19:07:46.90ID:ATxJYbAD0
 長瀬は、先程まで男二人でカフェはないだの、いやいやいやと手を左右に振って拒否していたとは思えないくらい冷静な顔でメニュー表を広げている。男の意地も暑さには勝てなかったらしい。
 将棋のときもそうだけれど、心の中は面白いくらい冷静じゃなさそうだ。分かりやすいなと笑ってしまう。

「長瀬、長瀬」
「何?」
「ここ、いちごタルト美味しいらしいよ」
「……へえーそうなんだ」
「あれ?喜ばない?」
「別に、女の子なら喜ぶと思うけど」
「いや、だって、苺も甘いものも好きじゃない」 
 
 それはそうだけど、と長瀬は眼鏡の位置を戻す。
 そりゃあ長瀬に対して飛び跳ねて喜んだり、感激!みたいな姿を連想していたわけではないけれど、それなりの成果は正直期待していた。
 読み違えたかと反省しつつ、紅茶も美味しいよと盛り返しを狙ってみる。ふうんとページをめくる様子を見るにいい線いってそうなんだけど。

 すみませんと店員さんを呼んで、いちごタルトのセットとショートケーキのセットを頼む。メニュー表を持つ必要がなくなってしまった長瀬は所在なさげに目線だけがよく動いている。
 まあ周りからの視線が気になるのも無理はない。

「今日の三局目だけどさ」

 そう、いつもとんかつ屋でしているような話を持ちかけてみると少しずつ表情がやわらいでいった。 

「そこは違う」
「うーんでも、こうしたら……」
「でもそう指すなら、こう仕掛けるから」

 いや、やわらぐというよりいつものペースに戻っだけだけど。
0414好きだから 4/42018/07/16(月) 19:10:22.73ID:ATxJYbAD0
 ショートケーキの苺は最後に残す彼だけど、いちごタルトとなると一緒に食べるらしい。パクリパクリと口に運んでいる。

「……うん、美味しい」
「それはよかった。この前期王に教えてもらったから、外れではないと思って」

 せっかくだから苺一つ頂戴とフォークを伸ばすと、叩かれた。ケチ。
 
「彼女とかと来たらいいのに」
「何で?彼女いないし」
「でもこんな店、普通選ばないでしょ。その、友だちというか男同士でさ。下見とか?」
「そんなんじゃないよ」
「じゃあなんでこんな店知ってんの」
「だって俺長瀬のこと、好きだもの」

 え、と動きの止まった長瀬にすきあり、と苺をフォークで取った。

「普通ならこんな店来ないよ。甘いものは好きだけど」

 どうせ本音は一つだって伝わらない。それでも、あまりに脈がなさそうな会話に、つい言ってしまった。じわりと苺の酸味が口の中で広がる。
 ケーキと一緒に運ばれてきた紅茶を口にしていると、ショートケーキの苺にフォークが伸びてきた。
 
「俺だって、こんな暑い日にとんかつ食べに行かない」

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

注意文をよく読んだつもりですが、初投下のため間違い等ありましたら申し訳ありません。
0415作られた世界1/62018/07/19(木) 11:50:21.10ID:9/ofFgZk0
ナマモノ、馬の師匠が司会になって間もない頃の焦点の紫と緑です。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


自分としては、かなり頑張ったつもりだった。会場の客の笑いを取れると思った。
しかし、一瞬の静寂の後にパラパラとしたお情けの拍手が聞こえたとき、愕然とした。
この世の終わりが来た、とはまさにこの瞬間かもしれないと感じた。収録が終わる。
師匠である圓樂も、他のメンバーも楽屋に帰って行く。彼らの背中をぼうっと見つめる。
圓樂は振り返らない。怒っているだろうな、と感じた。実際にそうなのか、考えすぎなのかはわからない。
それほどに頭の中はめちゃくちゃだった。
桃色の背中と、緑色の背中が、ちらりとこちらを見たような気がした。
しかしやがて遠くなり、樂太郎は舞台の袖に一人残された。圓楽の稽古に必死で着いてきた。
噺家として芽が出てきたね、という言葉をたまにもらえるようになった。
小言と小言の合間の、束の間の誉め言葉。
しかし、結局それは寄席に慣れた、というだけのものだったようだ。
寄席とは違う、大喜利という形式。自分の実力という現実に蓋をして見ないようにしてきた。
笑いが取れなかったという現実は、これほどまでに悔しさを覚えるものなのか。
0416作られた世界2/62018/07/19(木) 11:51:08.28ID:9/ofFgZk0
「噺の稽古だけしててもうまくできないのは当たり前さね」
いかにも圓楽が言いそうな言葉ではあったが、声は圓楽のものではない。
声がした方を見ると、緑色の着物から洋服に着替えた唄丸が立っていた。
「噺の稽古だけでは駄目なんですか?」
「なんていうかな、ほら、大学受験だけ頑張ったとしても社会に出たら違う勉強が必要になってくるとかそういう類の奴だよ」
「ああ、憲法についていくら論じても、シュプレヒコールを重ねても、世界に平和は訪れない、という奴ですね」
「はあ?」
「…気にしないでください。学生運動にあけくれた元バカ学生の戯言です」
歌丸は、悔しさを滲ませている表情を見て、思案した。
「これに関しちゃ、あたしが稽古つけたげよう」
そう言って連れ出された先は、後楽園ホールに近い喫茶店であった。
唄丸はコーヒーを2杯注文した。やがてそれは運ばれてきて、互いの前に置かれる。
伝票は唄丸がさっさとジャケットの胸ポケットにしまった。
「まずね、固い」
「固い、ですか?」
「圓楽さんを前にして優等生になろうとしている、とは後楽さんの感想だけどね。あたしも同感だね」
楽太郎は、コーヒーを一口含んだ。
「優等生は、一つの集団に二人もいらない」
「はい」「与太郎、優等生、動物、犯罪者。隙間を歩くのは大変だが、やる価値はあるね」
唄丸は、樂太郎の目をじっと見据えて言った。
「腹黒でいけ」「は、腹黒?」
「まず、あたしの悪口言ってみな」
樂太郎は言葉に詰まる。
0417作られた世界3/62018/07/19(木) 11:51:54.92ID:9/ofFgZk0
「難しいか?じゃ、練習するか」
唄丸自らが、『じじい、うるせえ』と発する。閉じた扇子の先で促されたので、樂太郎は恐る恐る声に出す。
「…じじい、うるせえ」
「いいねぇ」
唄丸が破顔する。樂太郎は思う。この人はなんて柔らかい表情で笑うのだろう、と。
この笑顔をもっと見たいと思った。
「こんなこと言って大丈夫ですか?」
「あたしかい?あたしのことは自由に使いな。あたしは、馬を担当するから」
唄丸はライターを取り出した。
「あんたの師匠はね、後楽さんに、離婚寸前の夫婦のような真似をさせたからね、説教しといた。樂さんのこれからの方向性に口出しはさせない」
離婚寸前の夫婦、とは、唄丸なりの表現だ。

数週間前のことだ。後楽の挨拶が気に入らなかったと圓楽は注意した。
そんなつまらない挨拶しかできないならやめちまえ、破門だ、とも言ったと、樂太郎は小耳に挟んでいる。
後楽は、楽屋の荷物をまとめるとホールを飛び出したという。その後楽を連れ戻したのはスタッフであるが、圓楽にこんこんと説教をし、
仲を取り持った人物こそが樂太郎の目の前にいる男だ。
0418作られた世界4/62018/07/19(木) 11:52:34.74ID:9/ofFgZk0
「かみさんが、荷物をまとめて『わたくし、実家に帰らせて頂きます』なんていう場面、経験あるか?」
「まだ、我が家にはないです。…師匠のところは?」
「わざわざ宣言するような真似はしないな。ふらーっと出掛けてふらーっと帰って来る。それで終いだ」
まさか、長屋の夫婦喧嘩の仲裁役が自分にふりかかってくるとは唄丸自身も思っていなかったのだろう。
「まあ、そんなわけで。樂さんは悪人を演じてみなさい。何が起きてもあたしが守ってやる」

守ってやる。唄丸は、守ってやる、と言った。きっぱりと、その言葉に力を込めて、守ってやる、と言ったのだった。
唄丸の言葉が樂太郎の体の中に染み渡る。
その言葉さえあれば、悪人にだって何だってなれそうな気がした。
0419作られた世界5/62018/07/19(木) 11:53:15.07ID:9/ofFgZk0
次の収録で、唄丸は司会を再び動物に例える。
客は笑いこけ、司会も笑い、他のメンバーも笑ういつものパターンだ。唄丸はふと左側の樂太郎の方に顔を向けた。
目が合う。
「樂さん、握手」
唄丸は握手を求めて来た。樂太郎はその手を握る。温かい手だった。
マイクに入らないように、唄丸は口の形だけで伝えようとしている。
『今度は樂さんの番』樂太郎にはそう聞こえた。促しの言葉だ。

『守ってやる』あのときの言葉が頭の中で繰り返される。体の中に染み渡った言葉に背中を押され、樂太郎は手を挙げた。
師匠である圓楽は樂太郎を指名した。
「はい。唄丸師匠なんですがね」
「なんですか?」「ピカピカ光ってまぶしいなあ、って」

「悪い奴だねぇ〜」
後楽が突っ込む。ホールの客は手を叩き、笑い、隣の人と目を合わせる。
それは初めて体験する、拍手と声による喧騒。

「腹黒い奴だよ、本当に」
圓楽も笑っている。もっともその笑顔は、司会者としての体裁であり、本心は違うのだ。それでも。
渋い表情とも小言の表情とも違う、今までに記憶にない笑顔。
0420作られた世界6/62018/07/19(木) 11:53:57.89ID:9/ofFgZk0
樂太郎は喧騒の中で隣の唄丸を見る。
「悪い奴だね〜」
そう言いながら怒ってなんかいないことはわかる。心底、この喧騒を楽しんでいる、そんな具合だ。
笑いと拍手の喧騒、それは噺家をとりこにさせる。それは夢にも似た世界でもあり天上のようでもある。
樂太郎自らの手でつかんだ技術ではないから、作られた世界。
しかし、唄丸に守られたこの空間の中では束の間ではあるがこの夢を見ていられる。
束の間の天上を見ることができるのだ。

収録が終わり、舞台袖でのことだ。唄丸の細い指が、樂太郎の肩をたたく。
「良いよ。この調子で」
喫茶店で見た笑顔だった。
隣に座っているのに遠く、技術は己より抜きん出ている、古典落語の名人。
例え作られた世界でも、もっとこの笑顔を見たい、引き出してみたい。
樂太郎は唄丸に握手を求めた。固く握り返された手は収録中と同じく温かい。

例え作られた世界でも。体に染み渡る言葉、手の温かみ、笑顔。
その3つだけは真実だ。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
0421風と木の名無しさん2018/07/22(日) 22:20:13.10ID:IeZXdMPr0
ナマモノ。焦点紫緑。
緑追悼で勢いで書きました。
棚投下初、結果的に801要素薄い。無駄に長い。勢いで書いたのでキャラや筋立て多分めちゃくちゃ……と色々ありますが、それでもよければおつきあいください。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


最後の約束


「……さん、樂さん」
 誰かが優しく呼びかける声で、円樂は目を覚ました。
「疲れてるのはわかるけどね、間に合わなくなっちまうよ」
「……ああ、すみません」
 寝ぼけ眼を擦りながら、ゆっくりと起き上がる。
 そうだ、焦点の楽屋に着いてすぐ、最近の疲れが溜まったのか妙に眠くなって、まだ時間もあるし少し横になることにしたのだった。それにしても、あの人が来たことにも気づかないなんて――え!?
「なんだい、まるで化け物がいるみたいな顔して」
 楽屋にいる人物を見て円樂は目を見張った。
 そんなはずがない。この人が、ここにいるわけがない。
「……唄丸師匠!?」
 この間、見送ったはずの大切な人が、そこにいた。
「あんたまだ寝ぼけてんのかい? 早く支度をしなよ」
 そう言って唄丸が立ち上がり、奥にいる付き人に何事かを告げているのを見て、円樂ははっとした。
 よくよく見渡してみると、必ず置いてあるはずの酸素ボンベもない。
 ――そうか、これは夢なのか。
 唄丸が何もつけずにあんな風に元気に動き回れていたのは、もう随分前のことだ。そう思って見ると、楽屋もこれまで訪れた場所がごちゃ混ぜになったような、微妙にまとまりのない部屋だった。
「……案外意地悪ですね」
「何か言ったかい?」
「いいえ、何でもありません」
 まだ悲しみが癒えてないこの時期に、夢に出てこなくたっていいじゃないか。だけど一方で、せっかく会えたのだからこの夢を思う存分楽しもうと思っている自分がいた。
0422最後の約束 2/72018/07/22(日) 22:23:26.24ID:IeZXdMPr0
 それから楽屋で二人、色々話をした。お陰でこの夢の中の世界がどういう状況であるのかもわかってきた。
 ここは地方の小さなホール。時期は四月で、桜が終わる頃。
 演者は自分と唄丸の二人だけの二人会。トリを努めるのは唄丸。
 始まるのは午後六時からで、後もう少しで一番太鼓が鳴る。
 二人会なんてもう何度もやったはずなのに、何故だかいつも以上に緊張している自分に気がついて、円樂は思わず笑った。
「どうかしたのかい? 本当に今日は変だね」
「いえね、すごく幸せだなあって思っただけですよ」
「何がだい」
「あなたと一緒にいられることが」
 なんだいそりゃあ、と唄丸が呆れたように言う。でもこれは本音だ。さっきの恨み言はどこへやら、たとえこれが夢だとわかっていても、誰よりも大好きなこの人といられる事が、また一緒に落語が出来ることが、素直に嬉しい。
 ――出来ればそれが、現実でもっと続いてほしかったのだけれど。
「気味が悪いね。明日雪でも降るんじゃないのかい?」
「まさか。もう四月も終わりですよ」
 と、太鼓の音が聞こえた。円樂は反射的に会場の様子を映しているモニターに視線を移す。
 その様子を見つめる唄丸の表情が、一瞬曇ったことに円樂は気づかなかった。

「お疲れさまです、師匠」
 追い出し太鼓を背に楽屋に戻って来た唄丸を、円樂は笑顔で出迎えた。
「おや樂さん。今日はまだいるのかい」
「珍しく明日は予定が何もないもので。ずっと名人芸を聴かせていただきました」
 いつも時間がある時はそうしていたように、円樂はずっと舞台袖で唄丸の落語を聴いていた。
 あの細い体のどこから力強くも繊細な話芸が生み出されるのかと、いつもながら驚嘆させられる。下手に酒を飲むよりもずっと心地よい気分にさせてくれるそれを、一番近くで聴くことが出来るのが本当に幸せだった。
「そうかい。ならちょっとあたしに付き合ってくれないか。寄りたい所があるんだ」
「へえ珍しい。夜遊びですか」
「何言ってるんだい。見せたいものがあるんだよ」
0423最後の約束 3/72018/07/22(日) 22:26:02.91ID:IeZXdMPr0
「ほら、これだよ」
 唄丸に連れられもうすっかり暗くなった道をしばらく歩いた先にあったのは、一本の大きな桜の木だった。
 周りの木がとうに盛りを過ぎ、ほとんど枝だけになっている中、その木だけが遅れた分を取り戻そうとするかのように目一杯花を咲かせている。特にライトアップがしてあるわけでもないのにぼんやりと輝いてるように見える姿が、先程の舞台の上の唄丸の姿と重なった。
「綺麗だろう? 不思議なモンでね、この桜並木の中でこの木だけがいつも遅れて満開になるのさ」
「……ええ、本当に」
 ――これが夢でなければ、もっと良かったんですけど。
 そう言いそうになり、円樂は慌てて口を塞いだ。いつ終わるかわからないこの時間に、水を指したくなかった。
「なんだい樂さん。言いたいことがあるなら言やあいいじゃないか」
「何でも、ありません」
 いや、そうじゃない。本当は、この時間が終わってほしくないのだ。こんな風に一緒に落語会をやって、時には叱られ、馬鹿なことを言い合って、座布団を引っ剥がされて笑い合って――あの日の悲しい思いも苦しみも、惜別も、そっちが夢だったらどんなによかったか!
「何でもないはないだろ。そんなに泣いて」
 言われてようやく、円樂は自分の目から涙が流れていることに気付いた。泣かないと決めたはずなのに、少しつつかれたらもうこのザマなのか、と思うとなんだか自分が情けなくなってくる。
「本当に何でもありません。ごめんなさい」
 意地で涙を吹きながらそう答えると、唄丸が溜め息をついた。
 呆れられてしまっただろうか。
「やれやれ、やっぱりあんたをここに連れてきてよかったようだね」
「……すみません」
「あんたがそんなんじゃあ、素直にあっちへ行けなくなっちまうよ」
 ……え?
 不意に飛び込んできた言葉に、涙が引っ込む。
 今、この人はなんて言った?
「円樂さん」
 唄丸がこちらに向き直った。普段着姿になっていたはずなのに、いつの間にか高座で着ていたそれと同じ着物を着ている。――自分も。
「あんたひょっとして、まだ夢を見ていると思ってるのかい?」
「……どういう、ことですか?」
「これは現実だよ。そしてあたし達が今いるのは――この世とあの世の境目だ」
0424最後の約束 4/72018/07/22(日) 22:30:50.57ID:IeZXdMPr0
 ――この世とあの世の境目!?
 にわかには信じがたい言葉に、頭がくらくらした。
 一体何故。ただ楽屋で横になっていただけなのに。
「ああ、心配しなくていいよ。あんたはあたしと違う。死んだ訳じゃない」
「じゃあ、どうして」
「あたしが頼んで、呼んでもらったのさ。どうしても伝えたいことがあってね」
 唄丸が、穏やかな眼差しでこちらを見た。
「樂さん覚えてるかい。――先代の、円樂さんが亡くなった時のこと」
 覚えている。そういえば、あの時も知らせを受けたのは旅先だった。
 あまりに突然で、どうしていいかわからなくて。それを引きずったまま夜中にこの人に電話をしてしまった。
 今思えば迷惑な事をしたものだが、それでも唄丸は咎めることなく「しっかりしなよ」と叱咤してくれた。
「あの時のあんたは本当にひどい有様でね、聞いてるこっちが辛かったよ。……だからかねえ、もう駄目かもしれないって時にふと気になったのさ。『あたしが死んだら、樂さんはどうなっちまうんだろう』ってね」
「……!」
「あんたはずっとあたしを頼りにしてくれて、三人目の父親だとまで言ってくれたろう? 嬉しかったけど、少し不安だったよ。もしもあたしに何かがあって、支えが無くなったらあの時以上に駄目になっちまうんじゃないかって」
 でも、と唄丸が微笑んだ。
「杞憂だったみたいだね。ずっと見てたけど、本当によくやってるよ、あんたは」
 出来れば翔太さんには、あそこで座布団を取って欲しかったけどね、と唄丸が楽しそうに言うのを見て、円樂の目にまた涙が滲んだ。
「そんな……そんな事、ないですよ」
「だからね、あたしが伝えたいことってのは、一つだけ」
「師匠」
 やめてくれ。
「樂さんさっき言ってたね。『あなたと一緒にいられることが幸せだ』って」
 きっとそれを聞いたら、この時間が終わってしまう。
「あたしも、あんたに会えて、同じ時間を過ごすことが出来て、幸せでしたよ」
「唄丸師匠!」
「もうさっきみたいに、泣いたりするんじゃないよ。今度はあんたが、皆の支えになる番なんだからね」
0425最後の約束 5/72018/07/22(日) 22:35:11.53ID:IeZXdMPr0
「俺は……俺はまだ」
 あなたが必要なんだ。まだ教えてもらいたいことだってたくさんあるし、受けた恩の一つもまだ返せていない。
 あの最後の見舞いの日、代演に行く自分に「悪いね、借りを作っちまって」と言っていたけど、あんなの借りの内に入るものか。むしろ返せなかったものが多過ぎて、ずっと後悔していたぐらいなのに。
 そう言いたかったのに、再び溢れた涙がそれを許してくれなかった。
「ああもう、泣くんじゃないと言ったばかりだろう?」
 しゃくり上げる円樂に、唄丸がそっと自分の手拭いを差し出した。
「樂さん」
 受け取ったそれで涙を拭っていると、空いている手を唄丸がそっと握った。
「そりゃあね、出来ることなら、あたしだってもっとあんたと一緒にいたかったさ。やりたいことだってまだあったしね。でも、それはもう出来ないんだ、わかるだろう?」
「わかってます。でも、」
「よく考えてごらんよ。本当に樂さんには、あたししか頼りに出来る人がいないのかい? それじゃあ周りにいる仲間が可哀想だよ」
「え」
「あたしがいなくなってから今日まで、どれだけ皆に助けられてきたかようく思い返してみな」
 円樂は改めて、今日までのことを思い出してみた。あの人が亡くなったと聞いて、自分の方が参っているのではないかと心配してくれた友人。
 気落ちして、まともに落語も出来なくなりかけた時に必死に元気付けてくれた後輩。
 茶化しながらも、共に悲しんでくれた同期の仲間……様々な人が、自分も悲しいはずなのに力になってくれた。
 なのに心に空いた穴が大き過ぎて、気づかずにいた。
「その事を、忘れるんじゃないよ」
「はい、唄丸師匠」
 まだひどい顔だったかもしれないが、円樂はなんとかしっかりと唄丸の方を見つめ返した。
 と、強い風がざあっと、桜の花びらを散らしていく。
 それを見てああ、と唄丸が手を離した。
「どうやら本当に時間だね。これ以上一緒にいたら、本当にあんたが死んじまう」
「……もう、行くんですか」
「仕方がないよ。もうあたしは向こう側の人間なんだ」
 その声色に、寂しさが滲んでいたのはきっと気のせいではないだろう。
0426最後の約束 6/72018/07/22(日) 22:39:15.30ID:IeZXdMPr0
「やれやれ、ここから遠いから道案内でもいてくれるとありがたいんだけどねえ」
 唄丸がこちらをちらと見たのを見て、円樂は笑った。
「言ったでしょ? 案内は出来ませんよ。まだあっちでやらなきゃならないことや、返さなきゃいけないものがたくさんありますからね」
「それは残念」
 と言いつつも、唄丸は満足そうだった。
「じゃあね、樂さん。お元気で」
 そして、こちらに背を向け、歩き出す。
「たまに様子を見てますからね。あんまり情けないようなら本当に連れて行くから、そのつもりでいなさいよ」
 ――行ってしまう。今度こそ本当にお別れだ。でも唄丸は、あえてそうしたのだろう。『さよなら』とは最後まで言わなかった。
 それなら、俺もさよならは言わない。
「いってらっしゃい。唄丸師匠も、お元気で」
「……そりゃあ小有座さんのマネかい? あんたもまだまだだね」
「……言ってろ、ジジイ」
 その言葉に、唄丸が振り返って笑った気がした。


エピローグ


「……匠、円樂師匠!」
 今度は必死に呼ぶ声で、円樂は目を覚ました。
 最初に飛び込んできたのは、心配そうに覗き込んでる鯛平の顔。
「……何、どうしたの?」
「ああ〜よかったあ〜!」
 途端にその場にへたり込む。よく見ると、楽屋全体がざわざわしていた。
「何だよ、何かあったわけ?」
「何他人事みたいに言ってるんですか!」
 鯛平が、やや怒ったような口調で言った。
「もう時間だからって、いくら起こしても円樂師匠が起きなかったから、今スタッフさんが待機してる看護士さん呼びに行ったところなんですよ!」
「……そうなの?」
「そうですよ! 全くもう〜」
「ホラホラ耳元で大声出さない。大丈夫かい? 樂ちゃん」
 そういって後ろから顔を見せたのは好樂だ。
「まーさか唄丸師匠を追いかけていこうとしてたんじゃないだろうねえ。まだ早いよ」
 その後ろには小有座もいる。翔太と喜久扇と参平は、スケジュールの関係でまだ来てないのか、姿が見えなかった。
「あー、小有座さん。それ半分当たり」
「へ?」
「夢に唄丸師匠が出てきてさ。道案内に連れてかれそうになったから大急ぎで逃げてきたとこ」
0427最後の約束 7/72018/07/22(日) 22:43:57.78ID:IeZXdMPr0
 何嘘ついてんだよ、と向こうで怒っているであろう唄丸を想像して、円樂は少し笑った。
 すいません、師匠。でも皆をこれだけ心配させるほど長く引き留めたんですから、これぐらい許してくださいな。
「意外だねえ。そういうことがあったらついていくと思ってたけど」
「行かないよ〜! 俺だってまだやりたい事いっぱいあるもん」
 そこへ看護士が駆けつけ、あれこれ調べられたあげく問題なしということになり、ようやく円樂は支度を始めた。
 残る三人も到着し、楽屋にいつもの雰囲気が戻った。やがて収録の時間が近付き、客席での挨拶を撮る翔太が一足先に出て行く。と、
「円樂師匠」
 読んでいた雑誌から顔を上げると、鯛平が神妙な面持ちで立っていた。
「何、どした?」
「さっきの夢の話、本当ですかあれ」
「言ったろ、半分は当たりだって。……どうかしたのか?」
「行かないでくださいよ」
「は?」
「また唄丸師匠が来たとしても、絶対に行かないでくださいよ。僕はもう、あんな思いするの嫌ですからね」
 ふと、ほんの少しだが鯛平の瞼が腫れていることに気がついた。
「……ひょっとして、泣いてた? お前」
「当たり前ですよ!」
 否定するかと思いきや、強く言われて円樂は面食らった。
「大切な人が死ぬかもしれないって思ったら、普通泣くでしょう!」
 鯛平の目に、新たな涙が滲んでいる。やれやれ、と円樂は溜め息をついた。しっかりしてるかと思いきや、意外とこういうところがあるのだ、こいつは。
「あのね、もうじき収録始まるよ。泣いてどうすんの」
「すいません」
 ふと、唄丸の言葉が脳裏をよぎる。
 ――今度はあんたが、皆の支えになる番なんだからね。
 そうですね、唄丸師匠。あなたみたいにはなれないかもしれないけど、頑張ってみますよ。こうやって、私を頼りにしてくれてる奴もいますしね。
「始まるまでに何とかしときなよ。カミさんと喧嘩して泣かされた、って誤解されるからなー」
「ちょっと円樂師匠!」
「何、ついに離婚しそうなの? 鯛ちゃん」
「違いますよ好樂師匠! あ〜もう、心配して損したぁ!」
 頭を抱える鯛平を見て、円樂はいたずら小僧のような笑みを浮かべた。
 これでしばらく、あいつが不安がることはないだろう。

―了―
0428最後の約束 8/72018/07/22(日) 22:47:03.36ID:IeZXdMPr0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

しまった、耶麻田くんを入れてなかったよ。ごめんね……。
長々とおつきあい下さり、本当にありがとうございました。
0429おねがい、かみさま 1/42018/08/15(水) 14:11:12.66ID:9cWlvGhG0
※ナマモノ、死ネタ注意
焦点の紫緑のつもりが紫緑紫っぽくなりました。
紫が先代の鞄持ちだった頃から現代まで、緑夫人がちょっとだけ出てきます。
お盆と追悼の意味を込めて。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「ご苦労さん、今日はもういいよ」
「は……ありがとうございます」

 足代がわりの駄賃とばかりにタバコ代の釣り銭を受け取る。
 かばん持ちのアルバイトを始めて久しいが、給金らしい給金がこの手に舞い降りる気配は露ほどもない。福神漬けをちょいと乗せたどんぶり飯をかっ喰らい、水をがぶ飲みした腹はいともたやすくねじれていく。
 賭け麻雀で稼いだ生活費もそろそろ底をつきそうで、レコードを売るか、古本をまとめるか、年上の女に甘えてみるかと苦肉の策が頭を駆け巡った。

「そうだ、せっかくだから紹介しよう。おおい」

 屈みながら羽織の中の薄っぺらい塊を揺さぶったので、それでようやく誰かが寝ているのだと知った。膝丈ほどの段差の上に並べた座布団に横たわってた体は細く、儚く、明らかに覇気がない。

「……気分悪いって言っただろ?」

 濡れ木で起こす焚き火よりもおぼつかないその声が、噺家のものだとは到底信じられなかった。

「なんだい、またメニエールとかいうやつかい?」
「ああそうだよ、いつも通りほっといておくれ」
「まあ、いいから。ほら、新しいかばん持ちなんだ」

 聞き齧った知識では、めまいや耳鳴りでまともに姿勢を保つこともままならない筈だ。
 いいえ僕今日は急ぎますのでとかなんとか煙に巻いて逃げさればよかったものを、手繰り寄せるかのごとくぐいと手首を掴まれたので、膝をついてその人の横顔を見下ろす格好となった。

「んー?」
「名門私立に通ってる秀才なんだよ、すごいだろう」
「よ、よろしくお願いいたします」
「ああ……よろしく」

 骨ばった肩から背骨にかけて鉄の糸を通して引っ張られたように起き上がる。肌は青白く、瞼を開けるのすら億劫な様子だったが、その顔立ちには見覚えがあった。
0430おねがい、かみさま 2/42018/08/15(水) 14:13:26.22ID:9cWlvGhG0
「あ、師匠」
「ん? 知ってくれてんのかい?」
「知ってるも何も、大スターじゃないですか」
「くすぐったいねえ、お世辞言ったって何にも出ないよ」

 病人に気を遣わせるべきではないと頭では理解していながらも、興奮を抑えきれなかったのもまた事実であった。付け入る隙を与えない丁々発止の罵倒合戦、歳に似合わぬ薄い頭、並みの女より匂い立つ所作。

「先日寄席で拝見しました、化粧の模写がなんとも見事で」

 実は都合が悪くて噺の途中で帰ってしまいました、などとは口が裂けても言えないので、鮮やかに思い出せるマクラの一幕を切り出す。
 あの動作のひとつひとつは昔懐かしい女郎の支度を外連味たっぷりに再現したものだったが、母も交際していた女たちも、果たしてみな似たり寄ったりであった。

「そうかい、嬉しいねえ」

 肩を震わせ、片目を瞑って笑う。あの女性が見せた微笑みとはまるで違う、度量の大きい男のものだった。

「素人がナマ言ってすみません」
「いやいや、お前さんみたいな人が素直に言ってくれるのが一番ありがたいんだ」

……でもね。

「お父さん、来てくれたわよ」

 開け放たれた襖の向こうから、真新しい棺の匂いが鼻腔を刺す。

「業者さんがね、綺麗にしてくれたの」

 やせ細った顔からは皺の影が消え、痛みと苦しみに歪んでいた目と口元は穏やかに閉じられ、乳白色のまつ毛が光る。

「……お師さん、お待たせして申し訳ございません。ご挨拶に伺いましたよ」

 曲がってしまった背骨もすっと伸ばされ、初めて会った時のままの背丈になった。深緑の着物に赤茶色の数珠が鮮やかで、白粉のはたかれた白い肌によく映える。

「ごめんなさいね、色々準備があるから、しばらく二人でお話ししてくれる?」
「よろしいんですか?」
「ずっと会いたがってたから、お父さんも喜ぶわ。帰る時に声かけてね」

 泣き明かしたと見える目元こそ赤く腫れてはいたが、さすがこんな時は年季の入った女の方がよほど強い。しっかりした足取りに頭を下げて、静かに閉められた戸に背を向けた。
0431おねがい、かみさま 3/42018/08/15(水) 14:16:36.32ID:9cWlvGhG0
「……遅くなってすみません」

 眼鏡を外し、レンズを介さない視野の中で輪郭を定めるために鼻先まで近づく。
 知人の勧めで得度したのは、思えばこの日のためだったのかもしれない。皺ひとつない袈裟も法衣も、できることなら真新しいまま箪笥の奥にしまっておきたかった。

「先代に続いてまた間に合わなかったなんて、私は前世でどんな悪行を積んだんでしょうね。知らせを耳にした後の高座なんて、これまでの人生の中で最もみっともなかったですよ」

 声は掠れ、目は潤み、腕の震えを隠すことに懸命だった。あの場にいた客の全てが事情が事情と受け入れたとしても、自分で自分を殴りつけたくなるほどの出来栄えだった。板の上に犬猫でも放った方がずっとマシだっただろう。

「もう酸素も必要ないんですね、よかった、身軽になれて。先代や家元とはお会いになりました?」

 骨に皮が張り付いただけの限界まで痩せ衰えた輪郭の描線は、春の日差しのように柔らかい。

「明後日の追悼番組は生放送なんですが、無いこと無いこと喋っても構いませんよね?」

 いくつもの管に繋がれ、何かを飲み干すことすらままならないほど弱り切っているというのに、冗談を挟まないではいられない矜持の眩さを思い出す。

「……何か言ってくださいよ」

 几帳面に閉じられた襟首に指を添え、目鼻の窪みを涙で汚した。

「……でもね、お前さん」

 血迷ったのだ、と思った。
 夜道に揺れる灯篭のようにふらふらと前のめりになって、あの時分に着倒していた安物の綿のシャツの上から手を添えて胸をなぞる様が、あまりにも艶かしかったので。これが女郎の手練手管でないというなら、男の皮を被った目の前の生き物の正体は一体全体なんだというのか。
 鼻にかかった低くも甘い声が耳をくすぐる。

「あたしに惚れちゃあいけないよ……全部寄席の幻なんだから」

 絹の織物のような手を胸を打つ早鐘で傷つけてはいけないと後ずさろうとしたが、無様に尻餅をついただけだった。

「痛っ!」
「おい、大丈夫か?」
「ダメだよ、あんまりからかっちゃ」
「ごめんごめん、あんまり二枚目だからさ」
0432おねがい、かみさま 4/52018/08/15(水) 14:18:07.93ID:9cWlvGhG0
 自分の醜態が良薬にでもなったのか、幾分か血の気の戻った顔に屈託のない笑みを浮かべながら、丸い缶に収まったタバコを取り出して火を点ける。

「言っとくけどね、こいつはモテるよ。この間もどこぞのタニマチの娘さんが……」
「師匠!」
「おやおや、抜け目ねえな」

 片手をついて横座りになり、白い煙を燻らせる姿は、さながら吉原の高尾太夫といった塩梅で。

「だからさっきのはあれだ、お前さんがあんまり色っぽいから参っちまったんだよ」
「本当かい? 役者にでもなろうかね」

 今度はいかにも噺家といった具合に、語尾にたっぷり蠱惑的な色合いを孕ませ、茶化すように流し目をよこす。むせ返るほどのまやかしの芳香が鼻から喉に突き抜け、骨の髄まで真っ赤に染め上げた。
 取り返しのつかない火傷のような、とめどなく血が噴き出すような、それでいて花が綻ぶように甘美で目の眩む心持ち。

「何か言ってくれよ……噺家が黙りこくってどうすんだよ!」

 慟哭と呼べるほどの声は出なかった。腹も舌も夕暮れの朝顔のように萎れている。

「あれもやりたいこれもやりたいって、全部やり終わるまで死なねえって言ってたじゃねえか! お客さんが待ってんのに、何呑気に寝てるんだよ!」

 棺の淵を握りしめ、手のひらを胸の上に滑らせる。もう何の音も刻むことのない頼りない抜け殻は、冷房のきいた室内で微かに冷えたままだった。
 共に行けたら、行けるものだと盲信していた。この人の芸への執念、この人への自分の思慕、それを秤にかけたら丁度同じくらいだろう。だから道連れにしてくれるだろうと。

「あんだけ水先案内人にするって言ったのに……結局ひとりぼっちじゃねえか」

 この体に温もりがあれば、何と返してくれただろう。犬じゃあるまいしうるさいんだよと苦笑いを浮かべながら、髪を撫でてくれただろう。勝手に殺すんじゃないよ番組じゃあるまいしと冗談めかして答えてくれたかもしれない。或いは……或いは……。

「俺ん中こんなに弄って……何で勝手に行っちまうんだ」

 よほど上等な化粧を施したのだろう。濡れそぼった肌はまだらになることなく、雪原のようにどこまでもまっさらだった。もう一匙ほどの苦悩も痛みも責務も抱えることのない、安らかなかんばせ。
0433おねがい、かみさま 4/52018/08/15(水) 14:23:46.86ID:9cWlvGhG0
 病に侵食された姿に寒気がしなかったと言えば嘘になる。
 夜景を肴に紫煙をくゆらせた春、異国の開放感にはしゃいだ夏、夜気をまとった紅葉にため息をついた秋、指先を擦り合わせながら稽古する横顔に見入った冬。健やかな日々の贅沢を知ってしまえば、痛々しさを覚えないはずがない。
 だがそれ以上に、背筋を伸ばし、体を引きずり、息苦しさにぎ、それでも高座にしがみつく様を美しいと感じてしまった。この人が醜く、無様だというのなら、何がこの世の宝となるのだと純粋な疑問が首をもたげた。
 魅入られてしまった。己が才にも人々の温かさにも溺れることなく、ただひたすらに泥くさく孤高の道を貫く背中に。半世紀にはわずかに足りない歳月が、体にも心にも沈み込んでいる。
 
「……本当に因業なジジイだよ、あんたは」

 懐の手ぬぐいを取り出して、自分の涙で汚れた顔を拭う。
 この人の情念、矜持、思い出が詰め込まれたこの体を、おざなりに扱うわけにはいかない。今日明日で声を枯らすわけにはいかない。他の何よりも恋い焦がれた、今際の際まで固執した高座が、寄席の客が待っている。自分が噺家を続ける限り、この人の魂は何度でも蘇る。

「私がこんなにみっともなく泣きわめいたの、内緒にしてくださいよ」

 眼鏡を掛け直して手を合わせた。お題目は唱えなくていい、自分の心の中でこの人は生き続けるのだから。

「……行って参ります、どうか見守っていてください」

 落語の神様の頬を撫でると、心なしか口元が緩んだ気がした。

「役者なんてやめときなよ、カツラで蒸れたらますます頭が寂しくならあね」
「うっせえんだよ!」
「師匠、次はいつ高座に……」
「そんなにあたしに会いたいのかい?」
「いえ、なんとなく」
「そんなモジモジしてねえでさ、お前さんも噺家になりゃいいじゃないか」
「おい、インテリのエリートを巻き込むなよ」
「この人にこのまま弟子入りしちまいな、そしたら手取り足取り教えてやるよ」
「それは……」
「なんだい?」
「……そんな幸福に耐え切れる自信がありません」
「はっはっ!……いつでも来なよ、あたしはここにいるから」

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ナンバリング間違えました、すみません……。
0434風と木の名無しさん2018/09/06(木) 21:55:49.80ID:arrDdALJ0
英雄CMの高杉氏と細杉氏に滾ってしまったので…
半ナマになります
キス止まりです

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
0435恋というには淡い1/32018/09/06(木) 21:57:52.72ID:arrDdALJ0
高杉氏と再会してあまりにもかわいらしい成長を、したと思った。
放課後に高杉氏の成績が芳しくないので、「細杉氏、教えて欲しいでござる!」とふざけている高杉氏のはじけるような笑顔に、ついつい、昔を思い出す。
高杉氏とは2才7カ月の時に、離れ離れになってしまった。
いつかまた再開できるのではないか、という淡い期待はあっさりと高杉氏が一番かわいらしい時期に、叶った。

「細杉くん、ここが分からないよ」
「…高杉氏」
「僕、成績が悪いからなぁ」
「そんな高杉氏もかわいいですぞ」
「またまた〜」

ふざける高杉氏の笑顔にこちらもつられてしまいそうになる。
眼鏡を掛けた、そのレンズ越しの風景。

「何か買ってくるね、細杉氏!」
「拙者はほうじ茶がいいでござる」
「分かった!」

高杉氏はぱたぱたと購買まで行ってしまう。
ああ、後ろ姿も完璧にかわいらしい。
高杉氏は頭で思い描いていた以上に、かわいらしくなっていた。
ニコニコと無邪気に笑う高杉氏。
教科書に落書きもしていなく、教科書も持って帰る。
LINEスタンプも、三太郎シリーズ、なぜここまで…高杉氏を、英雄に取られたくない。

「ごめん〜。細杉氏〜、僕間違えて、炭酸買っちゃったよ〜」
「いいでござるよ」
「さすが、理解ありますな、細杉氏は。僕、細杉氏としゃべる時間が好きでたまらないんだ。意識高いって言われてるけど、僕には分からないよ。細杉くんが転校してきてくれて、嬉しいんだ。昔の親友だから」
「今も親友でござる」
「そうでござった」
0436恋というには淡い2/32018/09/06(木) 21:59:20.53ID:arrDdALJ0
えへへと笑う高杉氏の無邪気な微笑み。
一緒にファンタを飲みながら、放課後に高杉氏に勉強を教えている。
なんだか、昔に戻ったようで…でも今違うのは、再会した高杉氏に、埋められないなにかがあって、それがもどかしく感じる。
キモオタなしゃべり方をしても、高杉氏は、合わせてくれる。

「細杉氏〜、続きをするでござる!」

なんだか、ドキッとしてしまう。
そんな事を無邪気に言わないで欲しいですな。
思わず、続きと言われて、高杉氏に不埒な思いを描いていて、高杉氏のファーストキスを奪ってしまった。

「え、細杉くん…?」

ファンタがこぼれて、眼鏡同士がこつんと当たって…。
絶対に嫌われた。
高杉氏だって、ファーストキスが拙者で不覚に違いない。
でも、高杉氏はニコニコ笑顔で。

「細杉くん、やっとしてくれた」
「高杉氏?」
「僕もずっと好きだったんだよ。いつか再会出来ないかな、って、細杉くんを探してたんだ」
「…では…」
「両想いだったんだね。はじめてのデートは博物館がいいな。細杉くんの解説、蘊蓄が楽しみ〜」
「高杉氏〜!」

ぎゅっぎゅっと抱きしめて、拙者たちの恋というにはあまりにも淡いものがはじまったのでござる。
0437風と木の名無しさん2018/09/06(木) 22:00:27.11ID:arrDdALJ0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ナンバリングミスってすいませんでした
キモオタ喋りが萌えたもので…
0438風と木の名無しさん2018/09/07(金) 12:47:43.43ID:hsnluWTW0
なにこれ萌える
次からCM見たらにやけそう
ありがとう
0439風と木の名無しさん2018/10/11(木) 19:30:18.69ID:NrUOX8U70
描写抑えたつもりですが、レイプですので、苦手な人は注意して下さい。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
0440紫水晶の夜(アメテュスト・ナハト) 1/42018/10/11(木) 19:32:17.66ID:NrUOX8U70
 二十世紀初頭、爛熟と退廃の帝都ウィーンにあって、貧民宿泊施設や独身男子寮は、困
窮者の受け皿であると同時に同性愛者の溜まり場でもあった。ウィーンだけではなく他の
大都市でも、これは公然の秘密だった。
 当時としては比較的モダンで快適な宿泊所だったメルデマン街の独身男子寮は、入居者
の約七割が三十五歳以下の若年層で、男性が若い男を買いに行く場所として殊に有名だっ
た。
 男娼たちは日の暮れ時になると一階の広い談話室に集まって来て、それぞれ思い思いに
寛ぐふりをしながら、客を待っていた。客は談話室をそぞろ歩いては、好みの男の子を品
定めし、話しかけたり通り過ぎたりした。隣に座って商談成立となれば、二人寄り添って
入居者の各自に与えられた居室へと消えるのがここの暗黙の了解だった。
 「名前は?」
 ある裕福そうな身なりをした壮年の男が、談話室の隅に座ってスケッチブックに絵を描
いていた黒髪の青年に目を留めた。
 「アドルフ。アーディだのデュフィだの呼ばないでね」
 年の頃二十歳ほどの痩せた青年は、射抜くような碧い目を上げ、素気なく答えた。澄ま
し返り、気怠そうで、一人でも多くの客を取ろう、一クローネでも多く稼ごうという気な
ど更々ないように思える。そこが逆に遊び慣れた男の興味を惹いた。
 「アドルフ、目がいいな。気に入った、おまえにするよ」
 「こちらどうぞ。煙草はやめてね」
 青年はにこりともせず、スケッチブックを閉じ、立ってすたすたと廊下を歩き始めた。
客は首を傾げ、独りごちながらついて行った。
 「愛想のない奴だな。まあいいや」
0441紫水晶の夜(アメテュスト・ナハト) 2/42018/10/11(木) 19:38:57.65ID:NrUOX8U70
 「何するの!?ぼくが自分でしている所を見せるだけ、あなたはそれをスケッチするだけっ
て言ったでしょう!?」
 突然の接近と抱擁に驚き、青年は男の腕を振りほどこうともがいた。男は薄笑いを浮かべ、
尚も抗う相手をベッドの上で無理やり抱き寄せ、既に男娼自らが露にしていた下半身に手
を伸ばし、まさぐった。
 「堅いこと言うなよ。金なら後で余計に払うから」
 「嫌だ、嫌だ、触るんなら、嫌!」
 「アドルフ、言うことを聞け!おまえは俺に金で買われたんだ」
 「何だ、お金なんか!」
 有無を言わさぬ平手にバシッと一発頬を張られて、青年の華奢な体はベッドに倒れこん
だ。意識が朦朧としている間に、男に容易く組み敷かれ、カッターシャツの釦を全部外さ
れて、殆ど丸裸にされた。
 以前の恋人で同棲もしていた音大生のグストル以外には誰にも触れさせたことも、口づ
けさせたこともない肌を、見知らぬ男の手と唇が遠慮会釈もなく這いずり回った。片方の
乳首を弄くり回され、もう片方の乳首に吸いつかれた。男の舌がねっとりと乳首に絡む。
 男はファスナーを下げ、彼の家系の宗派に従って、生後すぐ、神に捧げる為に包皮の一
部を切り取られた陰茎を引き出すと、これを青年の太腿に擦りつけた。
 「嫌だ・・・・やめて・・・・」
 おぞましさに鳥肌を立て、羞恥に頬を赤らめながら、青年は喰い縛った歯の間から哀願
の呻きを洩らした。
 「何かまととぶってるんだ、ふしだらなお嬢さん?こんな所にいて、男の前でセンズリ
掻いて金取って、自分だけは違う、きれいでいられると思ってたのか?」
 青年の髪を掻き上げ、感じやすい耳や首筋を舐めながら、男が淫靡に笑った。
0442風と木の名無しさん2018/10/11(木) 19:45:56.37ID:NrUOX8U70
[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!

すみません、本文四分割のつもりでしたが、五分割になりそうです。
0443紫水晶の夜(アメテュスト・ナハト) 3/52018/10/11(木) 19:53:17.90ID:NrUOX8U70
 その言葉の通りだった。毎夜のように、この独身男子寮のあちらでもこちらでも、同じ
ような浅ましい営みが行われていた。ここはとっくの昔に、半ば男色を売る売春宿と化し
ていた。たった今も、隣室の住人の嬌声とベッドの軋る音が聞こえてくる。昼間会った時
には良識人ぶって挨拶などしている、同じ年頃の大人しくて小綺麗なブロンドだが、ひど
い時には一晩に二人も三人もの客を引っ張りこんでいることすらある。独身男子寮の壁は
薄く、盗み聞くつもりなどなくても、また静かに読書や思索に耽りたくとも、夜通し隣室
で行われていることがすっかり伝わってしまうのだ。
 その一方で、何が起きても飽くまで当人どうしのことがここの掟だ。どれだけ泣こうが
喚こうが、誰も助けに来てくれる筈はなかった。
 「アドルフ・・・・おまえの肌、女みたいにきめが細かくて柔らかいな。ほら、嫌がっ
ててもしっかり勃って、先っぽが濡れてきたじゃないか」
 男が息を弾ませてそう囁く。男の言った通り、どうしようもなく体が反応している様、
今しも自分が女のように体を開かせられ、自分自身の滴りを塗られて男の怒張したペニス
を受け入れさせられようとしている様を、青年は抵抗する気力も失い、諦念の眼差しで眺
めていた。
 なぜなのか。グストルに抱かれる時、彼の侵入を許す時はいつも、騎士にかしずかれる
女王のように誇らしく、満ち足りて、こんなに屈辱的な思いを味わったことなど一度もな
かった。
 まだ故郷のリンツにいた十七の頃、グストルと「リエンツィ」を観劇した晩、満天の星
の下で神託(ヴィジョン)を受けた自分の選ばれし聖なる人生は、グストルとあんなにも愛
しあい、共に創作や鑑賞の喜びにのめりこんだ幸福な年月は、一体何だったのか。あれ
も、これも、美大に進学する夢と一緒に跡形もなく潰え去ってしまったのか。あんなにも
自分を思い、大切にしてくれたグストルの許を自分から飛び出し、最早リンツに帰る家や
家族すら持たない自分は一体何者なのか。
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

ニューススポーツなんでも実況