その言葉の通りだった。毎夜のように、この独身男子寮のあちらでもこちらでも、同じ
ような浅ましい営みが行われていた。ここはとっくの昔に、半ば男色を売る売春宿と化し
ていた。たった今も、隣室の住人の嬌声とベッドの軋る音が聞こえてくる。昼間会った時
には良識人ぶって挨拶などしている、同じ年頃の大人しくて小綺麗なブロンドだが、ひど
い時には一晩に二人も三人もの客を引っ張りこんでいることすらある。独身男子寮の壁は
薄く、盗み聞くつもりなどなくても、また静かに読書や思索に耽りたくとも、夜通し隣室
で行われていることがすっかり伝わってしまうのだ。
 その一方で、何が起きても飽くまで当人どうしのことがここの掟だ。どれだけ泣こうが
喚こうが、誰も助けに来てくれる筈はなかった。
 「アドルフ・・・・おまえの肌、女みたいにきめが細かくて柔らかいな。ほら、嫌がっ
ててもしっかり勃って、先っぽが濡れてきたじゃないか」
 男が息を弾ませてそう囁く。男の言った通り、どうしようもなく体が反応している様、
今しも自分が女のように体を開かせられ、自分自身の滴りを塗られて男の怒張したペニス
を受け入れさせられようとしている様を、青年は抵抗する気力も失い、諦念の眼差しで眺
めていた。
 なぜなのか。グストルに抱かれる時、彼の侵入を許す時はいつも、騎士にかしずかれる
女王のように誇らしく、満ち足りて、こんなに屈辱的な思いを味わったことなど一度もな
かった。
 まだ故郷のリンツにいた十七の頃、グストルと「リエンツィ」を観劇した晩、満天の星
の下で神託(ヴィジョン)を受けた自分の選ばれし聖なる人生は、グストルとあんなにも愛
しあい、共に創作や鑑賞の喜びにのめりこんだ幸福な年月は、一体何だったのか。あれ
も、これも、美大に進学する夢と一緒に跡形もなく潰え去ってしまったのか。あんなにも
自分を思い、大切にしてくれたグストルの許を自分から飛び出し、最早リンツに帰る家や
家族すら持たない自分は一体何者なのか。