グストル・・・・君はぼくがいなくても、順調に音大に通って勉強を続け、やがてプロ
の音楽家として華々しくデビューするんだろうな。こんな姿、君にはとても見せられな
い・・・・。
 灼熱の槍に体を貫かれ、突き上げられ、引き落とされ、燃え盛る恐ろしい情欲の渦に無
情にも翻弄されてよがり、悶えながら、男の体の下で、青年はさめざめと涙を流した。男
が堪能し、果てるまで、涙を流し続けた。
 食後のちょっとした甘味でも楽しむかのように、青年の頬に戯れの口づけをして、男は
初めて気がついた。
 「何だ、泣いてるのか。恋人がいる――いたのか。初めてじゃないものな」
 起き上がり、身繕いを始めた男の後ろで、尚も一頻り、声を殺して泣いた後で、青年は
枕にしがみつき、低く呟いた。
 「許さない。今度会ったら絶対に殺してやる」
 男は意にも介さず、寧ろおもしろがるようにしゃあしゃあと答えた。
 「へえ?でももう会うことないと思うよ。今夜の夜行でウィーンを発って、当分オース
トリアには戻らない。仕事でヨーロッパ中飛び回ってるんでね。それに君は俺の名前も知
らないだろ」
 「会わなくたって、名前を知らなくたって殺せるよ」
 「どうやって?」
 青年の口調があまりにも確信に満ちていたので、男のからかうような声色、蔑みの笑み
も今やどこか中途半端だった。青年は相手のその顔をまっすぐ見つめたまま、衣服の上か
ら、彼の一物をぐいと掴んだ。たった今自分にあれほどの恥辱と、そしてそれと表裏一体
の思いがけない快楽を与えた忌まわしい凶器。