「両津に渡したい物がある。」
 事後、しばらく布団の中でワシは部長から孫の大介の誕生日プレゼントの件で相談を受けていたが、部長は突然そう言ってベットを離れ机の中から一つの小さな箱を取り出しワシに手渡してきた。
「なんですかこれ?」
「開けてくれれば分かる。」
 恐る恐る箱を開けると中には指輪が入っていた。埋め込んである宝石はアクアマリンだろうか?
「ええっと、これは…いくら何でも気が早すぎませんか…?」
「…そう言われても仕方が無いだろうな。だがそれは結婚指輪じゃないんだ。」
「と、言いますと?」
 部長が語ってくれた話をまとめるとこういう事だった。
 何でも少し前に警視庁で、ある程度身体能力が高い警官を対象にした強化計画が発動されたらしい。警官の能力にはある程度リミッターが掛けられているが
それを一定値解除してより警官を強化する事がその計画だ。だが安全の為に掛けられたリミッターを外したのでは警官にも負担が掛かるし、なにより本末転倒である。
そこで警官に無理の無い範囲で安全にリミッターを解除するのがこの指輪の効果らしい。巡査部長が巡査長に指輪を渡す様を結婚に例えて「ケッコンカッコカリ」などと呼ばれているそうだ。

「そういう事だからこの機会にとわしはお前への告白に至ったわけだ。」
「何故今に告白なのかと思ったらそういう事があったんですか…」
「お前への思いは本気だぞ。」
「それくらい部長を見てれば分かりますよ。ガキのまんまだと思って笑わないで下さい、ワシはこう見えてももう立派な巡査長なんですよ。」
 ワシの生まれは1943年。だが今年も35歳である。長期連載漫画の主人公の歳の数え方がそれで良いのかどうかは知らないが。
「それはそうと是非とも指輪を受け取ってくれないか?」
「もちろんです、ありがとうございます。ところでこの宝石も元々ついていたものですか?」
 受け取った指輪を色々な角度から見ながら僕は尋ねる。
「いや、それはわしの注文だ。金に関しては心配するな。それくらいの蓄えはあるし田舎暮らしでは特に使う機会も無いしな。」