声の練習が終わると、寿美子は両足の長靴を履き直して、ずり落ちていた右足のハイソックスも上げ直した。
だが甕を頭に被ったままなので甕に視界を塞がれて前が見えず、脱げた左足の長靴を拾うのに片足ケンケンをしながら、
左足の長靴を探す大苦戦を強いられた。
「ほろほろほうへんひいははいと。へんははふぁっへふは。はへほはふっはははひほう!!」
寿美子は甕を被ったまま、前が全く見えない状態で両手を前にかざして、小刻みに「キュッキュッ・・・」と地面をする音を混ぜながら、
長靴を「カポカポ・・・」と鳴らして公園に向かった。
午後3時10分。寿美子は公園に着いた。
既に健太は公園に着いていた。
「寿美子、10分遅刻だぞ。しかし何だその格好!?」
確かに、寿美子は甕を頭にすっぽり被っている為、頭を覆う甕のせいで表情はまったく窺えない。
「ほへはらほえのへんひゅうのへいはをいへふのほ!!ほほはへひはへおはふっへいふほほ!!」
寿美子は歌を何曲か歌ったが、甕からくぐもり声で歌声が響きわたり良く聞こえない。
だが決死の甕被りの歌の練習の成果は出ていたようで、寿美子は上手に歌を歌っていた。
「ひょうふひふはえはっひょ!?」
「下手糞なこもり声を響かせてただけじゃん!!」
しかし寿美子は健太の言ったことに納得せず、激怒して健太に頭突きを食らわした。
健太は飛ばされて、仰向けに伸びていた。
寿美子は甕を被ったままなので、外の様子がよくわからないものの、健太がも悶絶した事だけはわかった。
「ひゃおおほい!!へんはひはっはあ!!」
寿美子は甕を被ったまま、長靴を「ボコッ!!」と鳴らしながらジャンプをして、ガッツポーズをしたのであった。