朝8時。
白瀬歩は、憤慨しながら校舎の廊下を歩いていた。

ふざけているとしか思えない。一体どんな呪いをかけられるのかと思えば、『女の子の下着を目撃する呪い』だなんて。
はっきり言ってセクハラである。

やはりこんな勝負などに乗らずに、強硬に部費の削減を申し出るべきだったかもしれない。
そんなことを考えながら歩が自分の教室に向かっていると、廊下で見覚えのある後ろ姿が目に入った。
クラスメイトの綾瀬みどり。スレンダーな体型と誰にでも気さくにふるまう社交的な性格の持ち主で、男女問わず人気のある少女だった。
そして、歩もまた例にもれず、彼女に対しては悪からぬ印象を抱いていた。
そんな彼女が、何やら50センチ四方ほどの段ボールを抱えながらふらふらと教室に向かって歩いている。

「綾瀬さん、荷物重そうだけど、手伝おうか?」
「よっと……あ、その声は白瀬くん?」

後ろから歩が声をかけると、どうやら相手も歩の存在に気付いたようだ。

「ありがとね白瀬くん、でも大丈夫だよ。
今日私日直だったから、先生にホームルームで配るプリントを持っていくように頼まれたんだけど、運ぶための入れ物がこんなのしかなくってさ」
「そうなんだ、日直とはいえ、たいへ――」

少し困った笑顔で歩の方を振り返るみどり。
その姿を見て、歩の言葉が止まった。

「まあねー。中身は連絡事項の紙がクラス分入ってるだけだから重さは全然大したことないんだけど、足元とかが見にくくって」

「…………」

屈託のない笑顔を向けるみどりだったが、残念ながら歩の視線はもっと下の場所に釘付けになっていた。

みどりが腰の高さほどに抱えている段ボール箱の、さらにその下。
制服のスカートの裾、その正面が、みどり自身の手と段ボールに挟まれて完全にめくれ上がっていた。