ばん、と、目の前のテーブルに予算書を叩きつける歩。
通常、目立った実績のない文化部の予算など、ビラ配り等のための印刷費用や消耗品等、合計でもせいぜい数万程度出ればいい方だ。
だが、黒魔術部の予算書に書かれている数字は、その常識をはるかに逸脱するものだった。
海外旅行にでも行くのかと見紛うような交通費。中規模のオフィス一つ分は賄えるであろう備品代。そして十万を超える金額の、詳細不明の雑費。
おまけに当然のように、エビデンスなど一つとして添付されていない。

しかし、当のミサは、面倒くさそうに立ち上がって大きく伸びをしながら、全く悪びれない面持ちで頭をぽりぽりと掻いている。

「おっかしいなー、去年の時はこれで何も言われずに通ったんだけど……」
「そんなわけないでしょう! 万一それが本当だとしても、僕が会計監査に就任した以上、このような不正な会計処理は決して許しませんからね!」

実のところ、このミサの発言があながち嘘ではないことを、歩も分かっていた。
昨年度の予算実績を確認した時は、入力ミスではないかと目を疑ったものだ。
だが黒魔術部の不自然な予算の高さについて前年度の会計監査を問い詰めても、まるで要領を得ない返事で逃げられてしまった。
いや、前会計監査だけではない。この黒魔術部は、部活として認められる最低人数の未達に始まり、活動内容報告会への不参加等、問題点を挙げれば暇(いとま)がない。
にもかかわらず、普段は厳格な生徒会長や副会長も、こと黒魔術部の問題となると、まるで関わることを避けるかのように見て見ぬふり。
一度など、生徒会長から「これ以上あの部活に首を突っ込まない方が良い」と耳打ちされたこともあった。

しかし、曲がったことが決して許せない歩にとって、これは到底見過ごせない問題であった。

「とにかく! 明日の全校集会までに予算を見直すか、予算の必要性を証明できるだけのエビデンスを揃えない限り、黒魔術部の予算は大幅に削らせてもらいますからねっ!」

そう、翌日の全校集会では、年に一度の予算報告会が予定されており、歩はそこで来年度の各部活の予算を発表することになっている。
そんな場でこんなバカげた見積もり通りの数字など通した日には、全校生徒の前で自分の無能を晒すようなものだ。