>>592
「……っ……クズが…!」

連れ出されている最中、ふと聞こえた女の電話の声。その内容はボスの家族のことで。
もちろんのこと、ヴィーナはボスの家族のことを知っている。ボス自身が幸せそうに、語ってくれたから。
本当に手を出すのかどうか分からない。分からないが、自分のせいでボスの幸せが失われるわけにはいかない。
どんな痛みや悍ましい武器よりも強力なものを突き付けられた気分だった。
止まらなかった暴言は最後の一言をピリオドに、収まる。

やがて辿り着いた部屋は、先ほどの部屋と同様殺風景であるが漂う匂い、ヴィーナには何に使うか分からない道具の数々、そして中央にある禍々しさすら感じる椅子。この部屋はただならぬ雰囲気を醸し出していた。

「………ボスと……ボスの家族には何もするな…ッ…」

ヴィーナは女の方を見て、どこか弱々しい声で女に話した。もう激しく抵抗する様子はないようだ。
そして少し震える足を動かして中央に歩いていく。
本能、恐怖がそこへ向かうことを拒むがそれを圧し殺してヴィーナは生贄の祭壇へと腰掛けた。そして覚悟するように深く静かに息を吐く。