>>16
(得体の知れない液体が手のひらの間で潰されている…それだけでも嫌な状況なのに)
(まるですり込もうとしているみたいに手を動かされて、指の間とか爪の隙間にまで塗ってくる)
(初めてされる事に、肩が強張って足がすくんでいく。怖い……と正直に感じていた)
(周りの人間が異変に気づいた様子は見られない──だから自分一人でどうにかするしかなくて)
ほ、ほんとぉー?
こんな感触の乳液、ユリア知らないんだけどなー♪
お兄ちゃん、使い方間違えちゃったんじゃないかなーって……っ、ぅ…
(勇気を出して注意をしたのに空回りしたような気分)
(乳液とは到底思えなくて、きっと嘘をついてるって流石にすぐ理解できた)
(普段ならファンの言うことを簡単に疑ったりはしないけど、感触があまりにも気持ち悪すぎる)
(絶対違う。この人の言うことは信じられないって自己防衛意識が働いて、早く逃げ出したい……!)
(けれど強引に手を振り払ったりなんてことは、プロのアイドルとしても今の怯え方からも出来なくて逃げられない)
(手全体を包み込むように握られて、振り払えなくなって更に強く握られると、感触に嗚咽のような声が漏れる)
(目尻に浮かんでいた小さな水滴が大きくなって、こぼれ落ちそうになっていた)

……え?
(早くこの時間が終わって欲しい──そう願っていると、思ってもいなかった話をされる)
(思わず目を見開いて、信じられないと言いたげな視線を男に向けていた)
(それでも、その話は他の誰かが知りようもない話で、小さい女の子から贈り物と信じている以上、この話も信じてしまう)
そ、そうだったんだーっ!
はいっ♪ ジャムのことは覚えてますよ!
(まだ完全に男に対して気を許したわけではないし、そもそも気持ち悪い感触は気持ち悪いまま)
(それでも男の姪っ子の方はちゃんとしたファンと認めているからには邪険にできなくなってしまった)
(それだけじゃなくて、本当に悪気はなくて乳液なのかな? という考えも少しだけど出てくる)
(周りに注意を向ける人がいないせいで時間に関しても正確には分からず、普通なら時間だから終わりと言ってもいいはずなのにタイミングを逃したまま)