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(林間学校にやって来て2日目の出来事です)
(自由行動の時間に、私は3人の級友と班を組んで森の中を探索していました)
(先生からは事前に決めたコースを通るように指示され、奥には入らないよう注意されていました)
(勿論班のメンバーとは離れないようにとも言われていましたが…私はこの注意を守れませんでした)
(班を組んでいたと言っても、私はあまり級友と親しくしていなかったので、ほとんど会話したことのない方ばかりです)
(会話は私抜きで進んでいて、距離も自然と開いていきました)
(いつもの事なので、それ自体は気にならなかったのですが、気にしなさ過ぎたのでしょう)
(気付けば前方を歩いていたはずの3人の姿が見えなくなっていました)
(慌てて駆けだして追い付こうとしましたが、しばらく走っても3人の姿は見当たりません)
(もしかしたら、私をからかってどこかに隠れているのでは……)
(そんなことをする人たちには見えませんでしたが、一瞬よぎった考えを元に私は道を外れて森の中に入りました)
(そして、全てが狂いました)
(少し奥を覗いてからすぐに戻ろうと思っていたのに、元の道に戻れなくなってしまったのです)
(3人は見つかりませんでしたし、自分が迷子になってしまったのだから人を探す余裕もありません)
(来た道を引き返しているつもりなのに、元の道には戻れず、代わりに別の細い道に辿り着きました)
(あまり使われていないようなその道を進んでも良い結果が待っているはずもないのに、私は藁にも縋る気持ちで道を進むと決めます)
(そして、どのくらい歩いたでしょうか…)
(スマートフォンは持っていましたが、電波の入らない状況が続いていて、時計を確認するのも忘れていました)
(ずっと目の前を覆い隠していた木々が開けて、ようやくたどり着いたと思ったのは、森の中の廃墟でした)
(古い…「館」と呼びたくなるような建物は、昭和の頃に作られたような気配を感じます)

すごい……
(明らかに人の気配を感じさせない廃墟を目にした私の口から出たのは、感嘆を含んだ呟きでした)
(スカートのポケットから取り出したスマートフォンで、すぐに館を正面から撮影します)
(迷子の状況で、何も助けにならなそうな建物を見つけて、私の気持ちはドキドキしていました)
(実はこういう建物が好きだったんです)
(実際に行くのは怖くて、それにこんな風に迷子になってしまいそうで、足を運ぶことはありませんでしたが)
(老朽化による錆や汚れ、倒れた鉄扉などの雰囲気も理想通りで、そのまま夢中で写真を撮って)
……あっ
(その途中で、画面に水滴が付いているのに気が付きました)
(すぐに身体にも滴の感触がやって来て、雨が降ってきたとすぐに理解します)
(急いでスマートフォンをポケットに仕舞ってから、森の方を振り返り、それからまた館に体を向けて見上げます)
(雨だけでなく風も出てきた様子で、体が急速に冷えていくのを感じながら、私は悩みます)
(こういう館に憧れていて、その内側に纏わる怪談などが大好きなのは確かです)
(……でも、文字や写真で見るのとは違って、実際に目の前にしてみると、近づいてはいけないとひしひしと感じるものがありました)
(門の外から眺めて写真を撮って、それで満足した方がきっと良い……)
(その一方で、中に入ってみたいという好奇心もゼロではありません)
……雨をしのぐ間だけ、なら……大丈夫だよね
(言い訳のような呟きを口にして、私は館の方へ向けて駆けだしました)
(少しのつもりで道を外れて、それで迷子になっていることも忘れてしまって)

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