0012いろは
2024/05/27(月) 21:42:54.12ID:tvKsijx6たまに車のライトが通り過ぎて行ったり、遠くから電車の音が聞こえてきたり。
どこかで犬が吠えて、それを誰かが叱っている声が聞こえたり。
そんな静けさの中を季節外れのコート姿で歩く私は、一体どんな風に見えるのかしら。
雲の隙間から差し込む月明りと、街灯の光に照らされた公園の中は意外と明るい。
フード付きのコートとマスクという取り合わせは、深夜というロケーションもあって完全に不審者だ。
実際、ここまで来る間に何人かの人とすれ違ったけど、みんな一様に怪訝そうな顔で私を見ていた。
中には私が若い女だと気付いて、親切心から――もしかしたらスケベ心から声をかけてくる人もいたけれど。
返事をしてしまえば、万が一ご近所さんだったら声でバレてしまう気がして、目も合わせられずに走って逃げるしかできなかった。
そうして、逃げ込んだ先がこの公園。
だから、息が荒くなっているのも、体が火照ったみたいに熱いのも、きっと走ったせい。
出かける前にローターで苛めた乳首が、ベビードール越しに何度も擦れて感じてしまったとか。
すれ違う人たちが、まるでそれに気づいてるみたいに私の胸ばかり見てきたからとか。
「そんなワケ、ないでしょう」
街灯に照らされた東屋の下で、ベンチに座った私は何度も深呼吸をした。
それでも呼吸は整わない。
「やっぱり、マスクしてると、ね」
誰も通りかからないだろうと思い切ってマスクを外し、ポケットにしまい込んだ。
途端に外気が頬に、唇に触れて――素顔を晒す緊張感が、胸のドキドキを更に加速させた。
おまけとばかりにフードも下ろせば、もう誤魔化しは効かなくなる。
クラスメートに見つかれば、風紀委員の鶴見坂いろはが夜中に出歩いてたって、一発でばれてしまう。
あれ、委員長じゃん、何でこんなとこいるの?
私を見つけた男子はそう言って、丈の短いコートから伸びる剥き出しの太腿を、舐め回すみたいに見てくる筈。
何でコートなんて着てんの、暑そうじゃん、めっちゃ汗かいてるし脱いじゃえば?
そんな風に言われたって、それもそうねと脱ぐわけには行かないのが今の私。