降りしきる雪。止まらない涙。
「うぅっ、うっ……。リムルル……」
うっすらと積もった雪と、コンクリートの冷たさ。
――リムルル……何で……なんでだよぉ……?」
コウタは人気の無い裏路地に倒れたまま、ぎっと唇を噛んだ。
――お前のために、お前と一緒にこれからもずっと、過ごすために……
――今日という日を、特別なものにしようと思っていたのに……!
「どうして……こんなのアリかよ? 畜生! ちくしょおお!」
コウタの声は、静かに降り積もる雪に吸い込まれては、消えていく。
もう、どこにも届かないかのように。
「ちく…… しょ……!」
指先から、背中から……。身体を包み冷やしていく雪空の中、ひときわ涙だけが熱い。
もう帰ってこないというその人の事を思えば思うほど、涙が止まらない。
信じようと、信じまいと。どこに逃げようと、どんなに虚勢を張ろうと。
コウタを捉えた真っ黒な絶望と終わりの無い悲しみは、二度とその手を離さない。
「……きだ」
だから、コウタはその言葉を口にするしかなかった。
「リムルル……好きだ、好きだよ……?」
世界がどんなに暗くても、嘘に思えても、決して揺らぐことの無い事実を。
「好きなんだ……。バカみてえに、好きだ。リムルル……」
自分の本心を。
「ありがとう……リムルル」
本心?
「お前にっ 会えて……」
これが?
「本当に…………ッ」
こんな……諦めが、別れの言葉が、本心?
「……うううううう!!!!」
違う! 違うんだ!
「ううううううあああああばかやろおおおおおおおおおお!」
コウタは思い切りコンクリートに平手を突いて深い絶望の沼から顔を出すと、
膝立ちになって天を仰いだ。
「どこだああああ! どこだっ、リムルルううううううっ!」
そして、降りしきる雪をを跳ね返す勢いで、ありったけの力で、吠えた。
「俺はっ! 俺はここだ! リムルル! 聞こえてるんだろう!? お前の!
にいさまは! ここだっ! ここだーっ! そうだほら……見ろっ!」
コウタは右手に握りしめていた、いびつな鞘に収まったハハクルを天に掲げた。
「お前のために作ったんだ! クリスマスのプレゼントだ! 酷い出来だけど……
それでも頑張って作ったハハクルの鞘なんだ! リムルル! 受け取ってくれー!」
口の中に雪が飛び込むのも構わず、コウタは天に向かって叫び続ける。
「リムルル! レラさんもいる! ケーキもある! かくれんぼは今度にしろ!」
再び足元からすり寄る、絶望の淵を蹴散らそうと。
「教えただろ! 今日は楽しい日なんだって! お前だって楽しみにしてただろ!」
後ろからそっと抱きしめる、虚しさの虜にだけはなるまいと。
「カムイとか戦士とか、子供のお前には……。きょ、今日ぐらい忘れていいんだよ!」
もはや堪えることを放棄した、涙の熱に焼かれまいと。
「はぁ……はぁ……だから……」
コウタは肩で息をしながら、ハハクルを掲げた手をだらりと下ろし、つぶやいた。
もう、限界だった。
「リムルルを……返して……くれ……」