小さな唇が、誰に宛てるでもなく、その言葉を形作り――

『どうして?』

微かな女性の声だった。遠い瞬きが、突然リムルルに問いかけた。
だが、閉じかけた扉の向こうからの呼び声に、リムルルは応じるつもりは無い。
落ちていく自分そのままに、光の届かない方へと沈み行く。
『こんなに若くて、清らかな魂……。どうして自ら終わろうとしているの?』
今にもはじけそうな瞬きは、なおも問いかける。
『こんなに暗くて冷たい場所に、何を隠しているの? 何を……恐れているの?』
返事も無いまま、消え行く深海の主へと言葉を投げかける。
『分かるわ。どんなに辛い過去が、この闇の中に隠されているか……でも』
その時だった。遥か遠くの星よりも微かだった光が、ちかっ……ちかっと光を強めた。

――う……。

消えかけていたリムルルの魂の輪郭が仄かに映し出され、うめく唇から泡が浮かぶ。
その泡に瞬きは反射し、墨を溶かしたような世界を照らす光点が次々と現れた。
『あなたの魂は、辛い冬を乗り越えて、春を待つだけの力を残している……』
女の声に誘われたのか、蛍のように弱い光が次第に数を増し、リムルルの幼い身体を
真っ暗の海の中に白く映し出してゆく。

――めて……

脱力しきっていたリムルルの眉間が、苦しげにぴくりと寄せられた。
唇と鼻からぽこぽことこぼれた泡が、リムルルを囲んで照らす光の種となっていく。
それに連れて、女の声がよりはっきりとしたものとなってきた。
リムルルの周囲、光の粒全てから、その音が聞こえてくるかのようだ。
『さあ、起きて……。眠っていてはだめ』
――や……め……!
『この夜を照らすのは私。でも、夜を超えるられのは、あなただけ』
――やめてぇ……ッ!
『だから、もう一度光を……あなたの魂を輝かせる光を……!』

「やめ……ッ! ごぼごぼ……」

あらゆる方向から声に包み込まれたリムルルは、首をのけぞらせ、肺に溜まっていた
空気を吐き出してしまった。

『さあ、もう一度目覚めて……強く美しい少女!』
リムルルの周りを漂う光の粒が、大きな泡目がけて吸い込まれるように集まり、
小さな女性のかたちとなった。
『この光で、私は、あなたを、助けたい』

その声に、リムルルは思わず目を見開き、つぶやいた。

「ねえ……さま?」

リムルルの目が開くのを待っていたかのように、光の奔流が海底に爆発した。

「やだ……だめ……やめてええええっ!」