【嘘】嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん【だけど】
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0001名無しさん@ピンキー2009/09/27(日) 01:51:57ID:I0IcGI8l
無いから立てた。

これで落ちたら需要無しと諦める。

基本的にsage進行で

05435272011/12/06(火) 01:56:57.84ID:eIrhrzJb
反応ありがとう
コレの甘さにプラスの評価をされるとは思っていなかったので正直驚いている
0548名無しさん@ピンキー2011/12/23(金) 09:14:23.36ID:al9RA7MU
居るけど誰も何も書かんからな
クレクレになりそうとか気にせずにもっと思いついたネタとか話していいと思うんだが
0549名無しさん@ピンキー2011/12/23(金) 10:10:51.42ID:PYuVIEeO
多摩湖さんと黄鶏くんとかエロイの書きやすそうな気がする
原作でも脱衣ポーカーとかキスババ抜きとかやってたしさー
0550名無しさん@ピンキー2011/12/24(土) 01:43:33.60ID:/HB/MJCm
原作がエロいと二次は書きづらいという法則が……

長瀬ととーるを書いてみたいけどどうやったらあの二人が
またセックルするような関係なるか想像できなくて書けねー
0551名無しさん@ピンキー2011/12/24(土) 01:59:33.84ID:oyoGz1LU
多摩湖さんと黄鶏くんはエロイからどうこうじゃなくて
斜め上にカッとびすぎて18禁的なエロは書けんだろう普通に考えて
0552名無しさん@ピンキー2011/12/24(土) 03:49:58.30ID:3lAhmhrh
ここで書く上での注意点とかある?
あったら誰か教えてくださいな
0553名無しさん@ピンキー2011/12/24(土) 04:58:29.77ID:3lAhmhrh

 皮が剥けた。
 というか剥かれた。
 もちろん、これはまゆまゆやがせがせが林檎の赤い衣を刃物で削ぎ落とした文章の抜粋。

 ……では、ない。
 ジェロニモこと上社さん家の奈月さんに強制連行され、辿り着いたのは檻のついた牢屋ではなく病院の治療室だった。
 廊下を奈月さんに手を引かれるまま進むと、彼女に保護された昔を想起して懐かしい思ひ出がぽろぽろと。……いや嘘だけどさ。

「お待たせしました。恋日」

 恋h……ニー日先生だって?

「おいこらわざわざ訂正してまで徒名で呼びたいか」

 恋日先生は不思議なことに、デスクではなく患者用のベッドに腰掛けていた。
 しかもずっと僕達、というか僕に背を向けたまま振り向かない。
0554名無しさん@ピンキー2011/12/24(土) 05:00:34.43ID:3lAhmhrh

「あっはっは、何を仰っているのか僕には分かりませんね。
 それにしてもどうしてここに? 先生はもうニー日先生じゃないですか。というか、なぜ僕を呼んだんですか?」

「質問は1つずつだって教わらなかった?」

「残念ながら波紋の伝承者は知り合いにいませんので。……って、いつまでそっぽを向いて」

 と、口に出したところでかちゃりと部屋の鍵が閉められた音が「えっ」したかと思えば途端に背中を強く押され、僕はベッドに倒れ込む。

「ちょっとなにを」してんですかとうつ伏せから仰向けに反転する。

「……してるんですか」

 状況確認。
 ベッドの上の、端にぼく。をまるで逃がさないように並んで奈月さんと恋日先生。

 奈月さんはいつもの通りスーツ姿で、いつも通りの微笑みを浮かべている。
 大局的に恋日先生はこれ以上ないくらい首から上を真っ赤にして、今にも零れ落ちそうなくらい瞳を潤ませている。
 そして久し振りというかお馴染みの白衣を羽織って。
0555名無しさん@ピンキー2011/12/24(土) 05:04:18.35ID:3lAhmhrh

「えっ、と……えっ」

 白衣を羽織ってというか、白衣しか羽織っていなかった。
 襟の間から女性のシンボルである豊かな胸の谷間が……おっと今はまーちゃんがどうこうという話じゃないぜ。いや、本当に、マヂじゃなくマジでな。

「それではみーさん、覚悟してくださいね?」

「か、かくごしろー……」

 余裕を含んだ奈月さんと上擦りのある恋日先生の声と共に、二人の手がゆっくりと伸びてくる。主に下半身へ。

 僕には抵抗する力がある筈もなく、あれよあれよというまにジーンズとトランクスを脱がされてしまうのであった。

 そして話は冒頭へと繋がる。
 つまり剥かれたのは林檎ではなく、なんと言いますかその男性のシンボルであったような気がするかもしれない僕の、アレだよ。……うわぁ死にたい。今すぐ飛び降りたい。
0556名無しさん@ピンキー2011/12/24(土) 05:06:18.42ID:3lAhmhrh
即興でここまで
あとは書きためてから残りを投下する予定

なんかあったら教えてくれ
0557名無しさん@ピンキー2011/12/25(日) 01:45:31.64ID:0Dfx2SB6
>>555

「ふふっ、みーさんったら意外と『ココ』は可愛らしいんですね」

 僕のそれを指でつっつき、その度に体を震わせる反応を楽しみながら、奈月さんの声音が嗜虐を含む。

「あら、嬉しそうじゃないですね。こんな美人二人を侍らせているのに」

「刑事の癖に、……っ、こんなこと、していいんですか……くっ」

 奈月さんの赤い口内に、僕のそれが這入り込む。
 熱く、滑る唾液が絡み、彼女の舌が執拗に蠢いては幾度となく触れては纏わりついてくる。
 ちゅぱちゅぱと卑猥な音が滴って、言いようもない快楽に腰が浮く。
 あっという間に、僕のモノはいきりに堅く隆起していた。

「みーさんのおちんちんはみーさんと違って素直で正直で、とても宜しいです」

 そう言って、啣えていた唇を離した奈月さんが昏い温かさが混じった息をうっとりとした面持ちで吐き出した。

「ほら、恋日」

 奈月さんが先生の背中を押す。
 先生は抱き付くように僕にもたれかかり体重を預ける。
 そして、似つかわしくない、まるで怯えた子犬のような震えた声で、耳元に囁いた。

「私を、その……キミの好きなようにして良いんだよ?」
0558名無しさん@ピンキー2011/12/25(日) 01:46:16.70ID:0Dfx2SB6

 ぷつりと、理性の糸が焼き切れた音がした。

「きゃあっ!?」

 耳に張り付いた初恋の女性の悲鳴は、それだけで肉欲の炎を燃え上がらせた。
 ベッドに押し倒し、覆い被さって、薄い一枚の白衣の上から先生の豊かな乳房を持ち上げるようにして両の手のひらを合わせる。

「はぁ、ん、……っ、んんっ……あっ、はぅ」

 揉みしだく。
 柔らかな肉に指が埋もれる度に先生の喉から艶やかな媚声が零れ、それが火に油を垂らすように興奮が増していく。

「ん、むぅ!?」

 その次に唇を塞いだ。
 貪るように何度も何度も啄んで、更には舌をねじ込んで先生の口内を拙く、荒々しく、蹂躙する。

 それでも先生は十分に感じてくれているようだ。端々に漏れる吐息と、応じて結ばれた舌がもっともっととねだっているように思えた。

 それが嬉しくて、とても嬉しくって、先生の背に片腕を回して、残った手を衣服の内へと這わし、直接乳房の感触を味わいながら行為は激しさを増していく。
0559名無しさん@ピンキー2011/12/25(日) 01:46:36.69ID:0Dfx2SB6

「みーさん。私を忘れちゃイヤですよ?」

 奈月さんの声に振り向くと、既に彼女はスーツを脱ぎ捨て下着姿を晒していた。

「ほら、お二方があまりにも情熱的だから私も“こんなに”なっちゃったじゃないですか」

 そう言っては、見せ付けるようにゆっくりと下着を下ろす。

 普段の奈月さんからは考えられない、発情していて、挑発的な雌の表情。
 秘部から垂れた粘液が、一本の糸となってショーツと繋がっていた。

「触ってみますか?」

 ごくりと、生唾を飲んだ。
 その反応に気を良くしたのか奈月さんはにっこりと淫靡な笑みを浮かべ、僕の手を掴み自身の秘所へと導いていく。

「っ、ぁ……ぅ」

 そこは驚くくらい水気を帯びていた。
 表面に指を滑らせると、動きに呼応して奈月さんが体をくねらせる。

 例えば玩具みたいに、秘裂をなぞるとぶるると体を振動させて、指を放すとスイッチを切ったように溜め息を吐いて脱力される。

 これで指を中へ入れたら、果たしてどうなってしまうのだろう?

「ぃっ、ああ!?」

 我慢できなかったので断りもせずいれてしまった。
0560名無しさん@ピンキー2011/12/25(日) 01:47:03.84ID:0Dfx2SB6

 埋め込んだ指を折り曲げると奈月さんは辛そうな表情を浮かべるけれど、その裏腹にしっかりと僕の手を掴んで押さえ、放さない。
 だから続けて良いんだろうなと僕は奈月さんの中を指の腹で撫でていく。

「ぅん……みーさ、あっ、んぅ……くっ、あ、あぅ、んんっ」

 そのリズムに合わせて奈月さんの体が跳ねて、嬌声が室内に木霊する。
 ぽたぽたと秘裂から粘り気のある液体が玉となって落ち、シーツを濡らしていった。

「ちょっと、……君。この期に及んで私を忘れるとはいい度きょきゃんっ!」

 僕の下にいる恋日先生が何か言っていたので乳首を摘んだら可愛い声で鳴いてくれましたまる。

「はぁ、ぁ……」

 どうやら弱点だったみたいだ。
 大きな膨らみの中心にある小さな膨らみを弾いたり押し込んだりすると、甘い声を響かせて蕩けた顔になる。

「恋日、我慢できなくなってしまったんですか?」

 先生の横に寝そべって、駄々を捏ねる子を優しく叱るように耳元で窘める奈月さん。

「ち、違う!そんなんじゃないって!!」

 恋日先生は羞恥に顔を赤らめて、首を横に振り回して否定する。
0561名無しさん@ピンキー2011/12/25(日) 01:48:23.89ID:0Dfx2SB6

「ふむっ、んんっ!?」

 そんな態度に業を煮やしたのか、突如僕を押し退けて奈月さんが恋日先生の唇を奪った。
 もがき足掻く恋日先生を見事に押さえ込みながら、先生の秘部を指でくちゅくちゅと音を立てて掻き混ぜ弄んでいる。

「ん、ンっ!ちょと奈月、んッ、ちゅ、んむっ、むぐっ、ン、んー―――っ」

 足の指先まで体を張り上げ、一際大きく痙攣して、くたりと先生がベッドに崩れた。

「ぷは、はぁ……な、つき……?」

 肩で息をしながら、戸惑いを隠せない表情を浮かべる恋日先生。

「みーさん、こちらは準備ができましたよ?」

 恋日先生の体を支え、彼女の脚を大きく開きながら奈月さんが言った。

「先生……いいんですか?」

 逸る心臓の鼓動がやけに煩いのに、何故か不思議と気にならない。
 僕の声に混じった期待を見透かされてしまったのだろうか。

 恋日先生は何も言わず、ただ一度だけ深く頷いた。
0562名無しさん@ピンキー2011/12/25(日) 02:14:20.10ID:0Dfx2SB6

 今、ベッドには生まれたままの姿で僕と、恋日先生と、奈月さんがいる。

 僕は何か酔ったような雰囲気でふらふらと先生に迫っていく。
 まるで光に魅せられた蛾になってしまった気分だ。

「ぁ……」

 熱くいきりたった僕のモノを恋日先生の秘部にあてがうと、先生が不安そうな声を漏らす。

 なんて言えば良いんだろうか。こんな時こそ、僕の口は上手く動いてくれない。

「ん……」

 だから僕は使えない口を先生の唇に重ねて、先生の中を貫いた。

「あっ、っっっんー……はぁっ」

 狭い膣内を掻き分けて、奥まで到達する。
 僕を先生が包み込んでいる。
 先生の中は温かくてぎゅうぎゅうと優しく吸い付いて、気持ち良いというより心地が良い。

「大丈夫ですか、先生」

 互いに顔が交差するように抱き合っているから、先生がどんな顔をしているか分からない。
 だけれど先生の頬を伝う涙が僕の頬に触れて、どうしようもなく不安になった。

「だ、ぃ…じょうぶだか、らっ。君の好きなよう、に、動きな……さいっ」

 その声はあからさまに弱々しく、どう考えても大丈夫そうには聞こえなかった。
 でも、先生の気遣いが確かに伝わったから、ゆっくりと、腰を動かし始める。
0563名無しさん@ピンキー2011/12/25(日) 02:44:10.34ID:0Dfx2SB6
 でも、先生の気遣いが確かに伝わったから、ゆっくりと、腰を動かし始める。

「あっ、ぅー……はぁっ、はぁ……ぅ、んぅ」

 引いて、止めて、突いて、止めて、引いて、止めて、突いて。
 溜まってくる熱に負けてペースを上げてしまいそうになるけれど、きっとまだ痛いだろうから、痛いのは嫌だから、僕も。だからぎりぎりの理性を保って、速度は一定に。

「ひぅ、ゃ、ああっ、んっ、ぁ、あー……あぅっ」

 すると先生の声が甘いものになってきた。
 だから速度を上げて腰を打ち付けると、先生の嬌声が際立って糖度が濃くなってくる。

 触れる場所によっても、愉悦の度合いが変わることに気が付いた。
 そこを削るように擦って突き崩すと、気が狂ってしまったかのように涎を垂らして乱れていく。

「先生っ、恋日、せん、せっ……もう出そうなんで、離し……っ」

 限界を告げると、先生は足まで絡みつけて深く強く僕を抱き締めた。

「いいからっ、いいからっ! キミのを出してっ!!」

「駄目ですって……っ」

 口では拒みつつも、より激しく腰を振ってしまう。

「ああっ、ふ、ぁー……私も、イくからっ! キミも一緒にっ、ぁぁ、―――ぁああっ!!」

 獣のように求め合って、貪り合って、愛液を散らしながら膣内を擦り上げ、とうとう最奥で射精した。
0564名無しさん@ピンキー2011/12/25(日) 02:58:12.58ID:0Dfx2SB6

「はぁ……はぁ」

 眼球の中で白光が弾ける。
 薄くなっていく意識を保とうと堪えていたら、恋日先生に抱き寄せられ重なるように倒れ込んだ。

 肌を伝わる柔らかな温もりと、鼻腔を通る先生の香りが眠気をより深く誘おうとする。
 それ抵抗できず、僕は先生の体に埋もれてまぶたを閉じる。

「全く二人とも手がかかるんですから……今度は私の番ですからね。みーさん♪」

 直前、奈月さんの声が聞こえたけれど余力さえ残ってなかったので僕はそのまま意識を手放した。

 はあ……どうやってまーちゃんに言い訳したものか。

 なんて、嘘だけど。
 というか全部僕の妄想だったんだけどね!
0565名無しさん@ピンキー2011/12/25(日) 03:00:52.74ID:0Dfx2SB6
以上

なんか途中からよく分からなくなった
奈月さんとも最後までする予定だったのにどうしてこうなった\(^O^)/

じゃあそういうことで
メリークリスマス
0566名無しさん@ピンキー2011/12/25(日) 07:10:17.36ID:un/Coacs

こんな妄想したあとに限って恋日先生に会っちゃって、そっけない対応しちゃうみーくん萌え
0573名無しさん@ピンキー2012/01/07(土) 19:04:32.69ID:lhOOBaAT
トーエ主役のスピンオフ楽しみ。
0575名無しさん@ピンキー2012/01/10(火) 02:30:54.94ID:Zvd5+IUI
だれかみーくんとゆずゆずのエロパロかいて
設定に贅沢をいうならまーちゃんは「僕」をみーくんと
認識していないって方向で
0577名無しさん@ピンキー2012/01/19(木) 22:56:07.04ID:iTi2lUx6
××とゆずゆずは需要が多いのはわかってるものの気が進まないんだよなぁ
SSは確か上の方に一個あったけど


単純にエロいことさせるんだったら六百六十円の雅明とソウが簡単そうだな
普段してることを描写するだけの簡単なお仕事です
0584名無しさん@ピンキー2012/04/02(月) 09:38:45.00ID:pa4jVR3d
 書いてみた。一日過ぎたけど許してくれ。

「わたし、みーくんのこと大嫌い」
 マユからその言葉を聞いたのは、春の陽気が漂い始める日にちだった。
 桜の蕾が膨らみ始めようかとするこの季節、入学式やら新学期やらで人々は馬鹿らしく気持ちを沸き立たせるそんな季節。僕らもいつも通りみーくんまーくんバカップルを演じるべきそんな時期に、いきなりマユのそのお言葉。
「えっと……嘘だけど?」
 口癖をこのように使用する機会があるとは思いもしなかった。嘘だけど。
 マユはニマニマ笑って、困惑する僕に答え合わせをする。
「うっふふふ〜。今日はエイプリルフールなのですよ! 嘘を言ってもいい日なのです!」
「……ああ、そういえば」
 そう言えば今日は4月1日だった。マユが今日のようなちょっとした行事を見逃すわけもない。こんな日を忘れるなんて……嘘つき失格ですな!
 僕が一人で納得していると、マユは僕の腕を甘噛みする。……訂正、甘を除こう。
「んでね、みーくんはまーちゃんになんて言うべきなのかなぁ?」
「大好きだよ」
「ちっがーう!!」足を蹴りあげ、顎にクリーンヒット。
「……大嫌いだよ」
 今度は頬を緩ませて笑った。
「僕はまーちゃんのこと、大嫌いだよ」
「にゅふふっ」
「嫌い嫌い、大嫌い。二度と顔も見たくないね。一生見たくない触りたくない大嫌いだ」
「……みーくんはわたしのこと嫌いなの?」どうしろと言うのだ。
 うるうると目に涙を溜め、上目遣いで僕を見上げる。
「嫌いじゃないよ」
「じゃあ嫌いってことじゃないかー!!」どうしろ省略。
 何なんだこの子は。どっちを言っても機嫌が悪くなる。だがマユの我儘も寛容に受け止めるのがみーくんだ。
 最終手段として、僕はマユの口を塞いだ。手で塞いだのではありません。マウスです。マウストューマウス。マウスチューマウス。
 マユは目を見開いていたが、僕が離れるとポケーっとした表情を変え、恍惚とした、蕩ける笑顔を見せる。
「わたし、みーくんのこと×してる!」
 耳鳴りを堪える。顔が険しくならないよう最大限の精神を集中させ、マユに言う。
「僕も、まーちゃんのこと×してるよ」
 嘘だけど。


 嘘つきの僕のエイプリルフール。嘘か真か、それは僕にも分からなかった。
0587名無しさん@ピンキー2012/04/20(金) 15:38:55.98ID:pfans1Wv
小ネタ

「これ、本当に入るんだろうか」
「ゆくゆくは赤ん坊が出てくるように出来てるんだ、大丈夫」
「…………………………俺の子か?」
「ば、そんな話はしとらん」
「す、すまんつい」
「…………」
「…………」
「……そういう話は、就職してからしよう」
「うぉ、お……おう」

瀬川と左門


上と関係ないがひとつ質問させてくれ
他で公開済みだがもしよかったらこちらにも投下したいSSがある
このスレ的にはどうだろうか?組み合わせが綾乃と裏袋で需要もあやしいんだが
05915872012/04/21(土) 00:35:12.49ID:jgJUnqUn
返答ありがとう
投下させていただく
0592綾乃×裏袋(1/17)2012/04/21(土) 00:35:51.23ID:jgJUnqUn
 寂れた神社に来てみると、裏袋が石膏になって固まったような温度のない目元を湛えて、賽銭箱のところに座っていた。
 あれから、半年くらい、か。秋だった季節は春になり、気温ももう暖かくなっている。
 僕は二、三歩の距離を置いたところまで歩み寄り、サングラスを外して、改めて裏袋と顔を合わせる。
「もしかして、僕に用事かい」
「なんでそう思うの」
 あらら。勘が外れてしまった。ならば居ない方がいいに決まっていた。僕は踵を返した。
「…………何?」
 数歩歩いたところで引っ張られて足を止めて振り向くと、裏袋が僕の腕を掴んでいた。健脚の裏袋は素早い。
「用事じゃないとは言ってない」
 まともに近くで顔を見ると、口の中に苦みが、おまけのように頬にもかすかに痛みが甦った。
「わかった」
 裏袋は目を逸らして、引き結んだ口をこじ開けるようにして言う。
「ニアの、話」
「わかった」
 覚悟は何度も重ねてきた。
 裏袋は居心地が悪そうに足元をぐらつかせた後、元居た場所に腰掛けた。僕もそれに倣う。
 裏袋はとても言いづらそうに、つぐんだ口をこじ開けては戻している。僕は黙って、言葉を待った。
「ね、ねえ、玻璃、綾乃……」
「なんだい、裏袋美住」
 普通に返事をした。でも、一応本名で呼ばれると危険に近づくので避けたいな。
 そんなことを思っているうちにも、僕の反応を受けて、裏袋の顔色がぱっと一段階改善する。
「なんでもない」
 裏袋の一言のせいで、僕と裏袋の会話はまるで蜜月の恋人のようなやり取りに仕上がった。
 気まずく思っているうちにもさっきのことを忘れてしまいそうだ。僕は手に持ったままだったサングラスを
掛け直して言う。
「裏袋、一応ヤガミカズヒコで通ってるし、そう呼んで貰いたいんだけど」
「いやよ」
 固辞された。

 玻璃綾乃は玻璃綾乃なの、と。



0593綾乃×裏袋(2/17)2012/04/21(土) 00:36:28.65ID:jgJUnqUn
 みんながヤガミカズヒコと呼ぶ男は、わたしが玻璃綾乃と呼んでもきちんと返事をした。それだけで、
少しずつ溺れる寸前まで浅くなっていた呼吸が、一気に深度を増した気分だ。
 今のわたしが会ったり話したりすることができる人物でニアが大学生になるほど生きていた歴史を知っているのは、
この男だけだ。
 わたしは、それに縋ってしまった。
 少しだけ敗北感を覚える。わたしはニアと玻璃綾乃が担った時間の選択を否定するのに。
それに、会話が増えればそれだけ秘密が漏れる危険も増える。でも、安心したのは紛れもない事実だった。
 ふと顔を見ると、玻璃綾乃はいつの間にか、サングラスを外していた。
「うん?」
 わたしの視線を受けて、微笑む。
「ああ、一応人相を隠した方がいいからあんまり外せないんだけど、ない方がやっぱりよく見えるね」
「……当たり前じゃない」
 呆れた後で、サングラスの外れたその顔つきに、これまでとこれからの年月を、少しだけ感じ取る。
こいつは、寂寞から離れられない人生を九年前から、これからも、過ごしているんだろう。
うっかりした。また嫌なものを見てしまった。
 やっぱり、縋るべきじゃない。
「……あ」
 何故か口がありがとうと言いたくなって、なんか違う、とひっこめた。
 黙っていても居心地が悪くないことが、何よりも居心地悪かった。



 裏袋の表情がまた少し固まってしまって、僕は頭を掻く。
 僕のせいかもしれない。かといって、解消のために僕の助けを要して納得する裏袋ではないだろう。
あちらから頼むこともなければ、こちらからの申し出だって蹴るはずだ。
「うち来る?」
 待て。ナンパしてどうする。
 こうした短絡的なのかなんなのかわからない言動には、偶に悩まされている。
人間、歳を取ると複雑な機微を丸投げしてとりあえずの型を使って喋ってしまうみたいだ。
「はぁッ?!」
 険のある大声が耳に刺さった。そりゃそうだ。
「ははは、冗談……」
「あ、待って。やっぱり行く」
 撤回の途中で裏袋が誘いに乗ってくる。
「どういう心境の変化で……?」
0594綾乃×裏袋(3/17)2012/04/21(土) 00:36:50.73ID:jgJUnqUn
 恐る恐る尋ねると、裏袋はやけに歯切れよく答える。
「わたしが助手をしてた時とどれくらい違うのか気になる」
「確かにそうだろうけど」
「それに、まだニアの話してないし」
 それを言われると弱い。
 あんまり若い女性を上げたくないなぁ、なんて馬鹿なことを思う。僕の伴侶は多分、
生涯あのときうどんを食べる約束をしたマチだけなのだ。そして彼女と同じマチである同じ今を生きるマチを
見守って生きていると。
 そんな決意はともかくとして、実際どんな思考の転換を経たんだろうか。
「いいじゃない別に、わたしとあんたの仲なんだから」
 ……………………あぁ。
 そしてどんな仲だとつっこむ前に裏袋が僕の袖を引いて歩きだしてしまう。確かにタイムトラベル仲間と
括ってしまえばそうなんだけど。
 ずんずん歩く裏袋の後ろを歩く。裏袋が歩けない世界のことはさほど知らないが、車いすの世話になっている姿よりも、
ずっとしっくりくる。
 既に袖から手を離した早足の裏袋の後ろを追いかける。これじゃあ誰の家に行くんだか。
 道に出る頃、歩きながらサングラスを掛けた。



 元研究所にも、何か手掛かりになるものがあるかもしれない。わたしはそこのところでの手段は選ばないことにした。
 ニアという反則技を使ってしまったけど。
 とはいえニアの話をしたい気持ちも事実だ。どれくらいのことを話せるだろうか。



 元研究所は、それはそれは引っ越しを勧められることが多い住み処だ。元々松平さんも住んではいなかったし。
多少改築したとはいえ家として粗末なことに変わりはなかった。
 そんなボロ屋に一室だけの洋間の真ん中に置かれた丸テーブルの上に、お茶を置く。
「どうぞ」
「……いただきます」
 先にテーブルの側のイスに座っている裏袋の左側、僕はイスより一段低い、ベッドに腰掛けた。
来客もないし僕しか居ないから、イスはひとつしかないのだ。
「いつ見てもボロっちい」
 裏袋が漏らす感想に思わず笑う。僕の家と化したこの小屋に来るのは初めてだったはずだ。カーテンの色も、
僕の好みだし。しかし使い主がどうあれ、この小屋がボロくなくなることは絶対にないだろう。
0595綾乃×裏袋(4/17)2012/04/21(土) 00:37:52.48ID:jgJUnqUn
「でも、あんまり散らかってないのね」
 心なしか寂しそうに、裏袋がぼやいた。
「うん」
 松平さんの私物はほとんど捨ててしまっていた。僕にはどうしようもないものばかりだったし。
 暫くは二人とも、お茶を啜るのに忙しくなり、沈黙が降りる。
 この日常の苦痛が滲む顔を、両親はどう見ているのだろう。前に裏袋の母親とばったり会ったときは確か
「二度目の思春期かしら」と笑っていたはずだ。今も呑気に構えているんだろうか。
 呑気に構えてそうだな。そもそも、いつも元気がないわけではない。なんだかんだ言って、
自転車に乗っているときの裏袋は元気で、嬉しそうだ。
「ねえ玻璃綾乃、ニア……大学生のニアにも、会った、よね?」
 裏袋がお茶を口元に寄せたまま、恐る恐るな調子で訪ねてきた。
「うん。僕にとっては九年も前だけど」
 裏袋がどれくらいのことを知り、どれくらいのことを考えているのかはわからない。
知りたいと言われたとき教えてやれるかも、正直わからなかった。
「……そっか。ニア優しそうな顔してたでしょ。ちょっと女の子っぽい」
「うん。線が女性的だなぁとは思ったかな」
 既に霞がかった記憶から印象を取り出した。
「あの、さ……」
「うん?」
 裏袋が露骨に目を逸らし、険しくさせる。
「声、は、流石に覚えてないよね?」
「…………」
 僕は近雄の声を思い出そうとする。あのときのあの台詞を、声の震えを覚えているはずだった。
だが今再生できるのは、裏袋に伝言を伝えたときの自分の声だけだった。
 視線がこちらに向いたので、ゆっくり深く頷く。
「そう。九年も前だもんね」
 写真も音声も残っていない近雄の見た目や声の記憶は、驚くほど早く色褪せていった。そこにはもう、
淡い雰囲気の残縡しか残らない。
「わたしにとってはつい、半年くらい前なのに……」
 そう呟いたきり、裏袋は黙ってうなだれてしまう。
 僕はただ、今までそうしてきたように見守ることしかできないのかもしれない。今度は近雄の墓で、
あまりよくない報告をすることになってしまいそうだった。
 僕は言葉に迷った挙げ句空の湯飲みをテーブルに置いて立ち上がり、裏袋の頭をそっと撫でた。
中身は違う裏袋だったけど、昔もこうしたことがあった。
 裏袋は、拒絶しなかった。


0596綾乃×裏袋(5/17)2012/04/21(土) 00:38:27.97ID:jgJUnqUn
 手掛かりもなく、思い出話も早々に地雷に当たって、わたしは潰れそうな気分になっていた。
 弱くなったわたしに触れる玻璃綾乃の手はたくましく、大きい。この歳になって頭なんか撫でられて、参ってしまう。
 不快ではない。
「玻璃綾乃……」
「何」
 絞り出した声への返事はあくまでも穏やかだ。
「ニアが好き」
 結局言うことのなかった、このままニアを許さなくてもきっと『このわたし』が言うことのない言葉が溢れた。
「うん」
 穏やかすぎる相槌に、思わず顔を上げる。玻璃綾乃は見守るように微笑んだままだ。
「わたしね、ニアが好きなの」
 顔を見たまま言うと、玻璃綾乃はふっと息を吐いて、そのままわたしの前髪をかきあげ、額にキスをした。



 何故かキスしてしまった。
 外人俳優が映画か何かで子供たちにするようなやつだ。
 裏袋は、ぼろぼろ泣き出してしまった。
「あ、ごめん……いや、深い意味はなくて……」
 おろおろ狼狽しながら言い訳をしても、裏袋は泣くばかりだ。もうちょっと女性と関わる機会を持っていれば
もっと何か適切な振る舞い方ができるのかもしれない。いや、そんな機会があっても
こんな場合どうしたらいいかはわからない気がする。
 裏袋は首を横に振る。
「ごめん」
 もっと振られた。意味を測りかねて、他の言葉を忘れてしまう。
「……ごめん」
 首を振られるのがわかっていて、同じ言葉しか繰り返せなかった。
「い……いやや……なっ…………あやまっ……で」
「ご、ごめん」
 途中でしゃくりあげすぎて何を言ってんだかさっぱりわからん。
 『嫌やな謝って』と言っているように聞こえた。なんか違う気がする。こんな関西弁(?)なんか話さないだろうし。
「ごめん裏袋、今の全然聞き取れなくて……」
 言葉の途中で僕は襟元を引かれる。裏袋は空いた右手を、次に最初襟元を掴んだ左手を、順に僕の首に回した。
呼吸が震えて、何か話そうとしているようにも思える。
0597綾乃×裏袋(6/17)2012/04/21(土) 00:38:56.82ID:jgJUnqUn
 僕はそれに従い、座っている裏袋の声を聞き取ろうと姿勢を低くする。しかし、僕の考えは外れていた。
 裏袋は、僕の右の眉下辺りにキスをした。
 まさか、さっきのは『嫌じゃないから謝らないで』なのか?



『嫌じゃない。謝らないで』
 二言だけなのに伝わらない。わたしは痺れを切らして、玻璃綾乃にキスを仕返した。
 これでも謝ってきたら今度こそ殴ろう。
 玻璃綾乃は目を丸くして『ごめん』をやめた。
「……いやじゃないから」
 やっとそれだけ話して息を調える。
「ほっとしちゃっただけ」
 それから、心境を端的に告げた。
 話して撫でられて緩んだ緊張の糸が、ほどける前に溶けてなくなってしまったのだ。
「はーぁ、あんたに甘えるなんて最悪」
 口にしてから、自分が甘えていることに気づく。玻璃綾乃は目を丸くして、次に年月の丸さが浮かぶ顔で微笑んだ。
「甘えるくらいしていいよ」
 許さないでほしかったのに。
 意地が張れなくなって、縋ってはいけないという思慮が霞んで、温めたバターみたいに溶ける。
 わたしは嫌うことを手放したあのとき、弱くなってしまったんだろうか。
 同じ種類の人間で似た齟齬を背負っている、この歳の離れてしまった同級生と体温を分け合いたくなってしまっている。
 わたしは首に回した腕をそのままに立ち上がり、ぎゅっと、玻璃綾乃に抱きついた。
 タイムトラベルのことはここに至るまでだけでも随分学び、考えてきたけれど……。恐らくこの男は
わたしと同じように、記憶しているものとは違う自分と混ざり、帰るはずの、大切な人との世界を失っている。
 そして、自分で選んで、自分を失っている。
 玻璃綾乃はわたしと、多分ニアとも似ていた。



 首に回っていた骨ばった手首が柔らかな腕に替わり、僕は裏袋に抱きしめられた。
 肩口に鼻をすりつける裏袋の小さな声がする。
「……似てる」
 反射的に、僕と近雄はあまり似ていないのではと思う。もしかしたら似てるのかもしれないけど、
それを言うなら状況的に……というところまで考えて、合点が行く。
0598綾乃×裏袋(7/17)2012/04/21(土) 00:39:34.22ID:jgJUnqUn
 僕と裏袋は少し似ている。
 そしてどういう思いなのかを理解するのと同時に、僕も自然と裏袋を抱きしめていた。背中が骨っぽくて腰が細い。
食が細っているのではないかとよぎるほどに華奢だ。とてもとても、ここ半年自転車に乗って速く走らせる
ところばかり目につく人間とは思えない。
 体温が染みつくのがわかる。じわりと汗が滲んだ気がした。
 シャンプーか整髪料の主張が目立つ髪の匂いには潮気が混ざっていて、それでも温度が近づくと
人の皮膚のものが主立っていった。ふわふわ曲線を描いて流れる髪の色はほぼ均一で、淡い。
 僕のすべては、マチだ。マチのためになら死ねるし、マチのためになら何年だって生きていける。どんなに長いときを、
罰と不安と共に過ごすとしても。
 なのに、時間の流れに心だけ取り残された裏袋が、僕と自分を重ねて触れ合いを求めることを受け入れてしまった。
これ以上どこへ行っても同じなのだろうというくらいまで。
 裏袋の腕が緩んで、僕たちは距離を取る。多分五秒くらいで、この後どうなるかが決まる。
 再び見た裏袋の顔は、あのかたさや温度の低さが嘘のように緊張を失っていた。一体いつからあんな風に
無理に肩肘張っていたんだろう。
 戻れなくなることを知りながらも、僕は睫毛についた涙を食む。その瞼は腫れぼったくて赤い目は熱を持っていた。
後で濡れタオルを当てよう。裏袋はそんなことを考えている僕の口の横に、やりかえすようにやわらかい唇を押し当てた。
ゆっくりとした背伸びが綺麗だった。
 指先とつま先を走る速度すら自覚させるような血の巡りが温度を上げる。自己嫌悪に近い感情で、胃の底が焼けた。
 これからきっとこの部屋で行われてしまうであろう行為を、一度だけ、本島でしてしまったことがあった。
気づけば八方塞がりにされていて、ついに断り切れなかったのだ。僕がどうあれ関係ないことがわかっていても、
あのときは暫くマチを視界に入れるのがつらくて仕方がなかった。
 なら何故繰り返すのかと問われたら、苦笑いしかできないだろう。あのときは本当にただ、体だけで引っ張られたのが
情けなかったのだ。今は、優しくしたい相手に優しくすることを、自分で選べたはずだ。
 互いの顔を首をとついばんでいく。細い顎、頬、耳、鼻。そのうち裏袋はついばむ隙を失ってされるばかりになった。
僕は耳の斜め下にある骨のでっぱりも首の動脈付近も食べてしまう。
「んあ……」
 初めて聞く甘ったるい声がして、左手が僕を拒もうと彷徨う。その手首を右手で掴んだ。シャツの二の腕の辺りを掴む
右手の意思を尊重した結果だ。
 そのままステップを踏むようにとはいかなくとも、エスコートだけはして、ベッドに並んで腰かけた。
「あ……あの、えっと……」
「何?」
 熱くて仕方がないので自分の着ているシャツのボタンを外しながら言葉に応じる。ベッド際のカーテンを
閉め忘れかけてひやっとした。
「だいじょうぶ、なの? その……ひ……」
 はっきり言えない自分が真に遺憾である、といった様子の裏袋には、どの大丈夫を言えばいいんだろう。
上着にしていたシャツを脱いで、最初に思いついたことを言う。
「ここに人は、滅多に来ないよ」


0599綾乃×裏袋(8/17)2012/04/21(土) 00:41:05.77ID:jgJUnqUn
 それも重要だけど。
 艶やかな唇から発せられる囁きの響きは柔らかい。余計な力が入らなくなってくる。
「……ん、そうじゃなくて」
 次の発言を迷う間にもいつの間にかそっと体を倒されていた。乱暴なら文句の一つも言って殴ってやれるのに、
玻璃綾乃はあくまで優しい。
 枕に頭が沈んだ拍子にピンと来た。玻璃綾乃の匂いはナッツ類のそれによく似ている。
わたしの鎖骨を鼻でノックするようにして口づけたとき近づいた髪も、そんな匂いがした。
「ちょっと……」
 抗議しようにも力が拒絶に働かない。熱に浮かされて逆にアクティブになっているときみたいに胸がちくちくする。
「あぁ……」
 玻璃綾乃は得心がいったようで、息すら混ざる程すぐ近くでそれを口にする。
「僕、不能なんだ」



 目を見開いた裏袋の唇が、うそ、と動く。
「指紋まで同じ人間が二人いるから、神様か何かが帳尻を合わせたのかも」
 付け加えると、今度は瞬きの量が極端に増えた。
 僕は事実しか話していない。タイムトラベルが身体にどんな影響を及ぼすかわからなかったため、一度本格的に
すべてを検査していたのだ。戸籍の問題で苦労したが、松平さんの妙なコネでなんとかなった。
「そう……っかぁ」
 顔を逸らした裏袋が少しずつ瞬きを減らす。その間にも手を奪取して、手のひらと指をついばむ。爪が桜貝と同じ色だ。
指先ごと口に入れるとぴくっと反応が返ってきた。
 ベッドの下に半ば流されたままだった脚を上に持ってきて、本格的に押し倒しの姿勢になる。裏袋も倣おうとするので、
さりげなく誘導して片脚だけ僕の膝を片方越えさせた。
 ベッドに斜めに横たわった裏袋は、まだ肌寒いというのにノースリーブのワンピースを着ている。
ただしその薄桃色に合った赤銅色の上着を羽織っているし、家に入る前はもう一枚着ていた。上着に手を掛けると、
裏袋も脱ごうとして半端に上体を起こす。照れながらもぞもぞ動く様がおかしくて、脱がせながら笑う。
拗ねられそうな気配は無視した。
 露出した肌は、元から出ていた部分より更に白い。日焼けしていない印象があったけど、それでも焼けてはいたのか。
 こうして見てみると、裏袋は顔が整っていて胸もふっくらしているし、今は見えないが脚も長い。
柔和そうな顔立ちと髪質が相まって、客観的に見て犬系の美女だ。
 マチは、猫、だろうな。多分。
0600綾乃×裏袋(9/17)2012/04/21(土) 00:42:22.22ID:jgJUnqUn
 やがて裏袋は脱いだ上着をイスに放り投げて、見事掛ける。僕は脱ぎ忘れていたTシャツを脱いで、上半身裸になった。
 裏袋は僕を改めて見て、顔ごと逸らす。ああ、ごめん。という言葉は吐き出さず、口の中だけで済ませた。
 丁度こちらを向いた耳を、髪をどけて唇でなぞる。甘噛みしたら軟骨の弾力が、脆いゴムのように感じられる。
裏袋の脚がびくっとしてもぞもぞ蠢いた。シーツの擦れる音がした。
 ワンピースの前のボタンを外す。それは臍の辺りまで続いていて、そこから先は布の切り替えがあり、
ふわふわと広がっている。
「少し、肌寒いな……」
 僕が漏らした呟きに、裏袋は何も考えてないような声で返す。
「うん」
 外で雨が降り出したのか、ぱらぱらと音がしだした。



 わたしは、右手の傷跡についてもなるべく反応せずにここまで来ていた。
マチを助けてニアを助けそこねたときの傷だという話は聞いている。
 今回初めて見た傷跡のことは、知らなかった。そして何も言えなくて思わず、顔を逸らしてしまったのだ。
ただ直観的にわかる。これもマチのための傷だ。
 雨が降っている。
 わたしはボタンを外し終えたばかりの玻璃綾乃を抱き寄せながら背中を浮かせて、鼻先にキスをする。
 ニアと玻璃綾乃を重ねたわけでもないのに、わたしとマチが重なって見えていた。自分の大切な、
自分のことを大切にしてくれる人が、勝手に選んで、勝手に傷を受けて、時に勝手に死んだりする。
マチは昔の恩人であることしか知らないだろう。知らないならそれはマチにとってないのと同じかもしれない。だけど……。
 わたしがマチなら、知らないことが更に、寂しくて、やるせなくて、何より許せない。
知らないけれど、矛盾を含んでも突っ切れるほど強く、思う。
 そのまま抱きついて滲んだ涙を隠して、肩に噛みついた。
「……っ、つ、痛い、痛い裏袋、痛い」
 かなり痛がってくれたので満足して噛むのをやめて、小さく罵倒する。
「ばか」
 少し声が震えてしまった気がする。噛んだところを舐めると、少しだけ鉄の味が滲んでいた。
 まだ少し舐めただけなのに、腕を解かれて引き離されてしまった。体勢を直した玻璃綾乃は、
前髪をくしゃくしゃにしてわたしを撫でた。


0601綾乃×裏袋(10/17)2012/04/21(土) 00:43:28.64ID:jgJUnqUn
 何がばかなのだろう、と思った。直前に噛みついたことも含めて、僕にはわかりそうもない。引きはがして
顔を見たら、頭を撫でたくなった。こういうときは頭よりも、体の方が相手のことを理解できるのかもしれない。
 それから、最初のキスと同じように額にキスをした。裏袋は少し後ずさって身を起こす。そして僕を軽く睨んだ。
「寝てたら脱げん」
 そりゃそーだ。不機嫌な顔で子供みたいな報告をするものだから、思わず吹き出す。そんな僕に裏袋はもう一言、
不機嫌な主張をする。
「謝らないから」
「はいはい」
「はいは一回」
「うん」
 緩いやり取りをしながらワンピースと肌着を脱がせる。裏袋は大人しく、されるがまま、従うままだった。
裏袋がワンピースをベッド脇にさりげなく落とす。ぱさりと音がした。
 背中に手を回したら、僕の肩が押される。
「あ、それはいい、いい、ブラくらい自分で外す」
「遠慮すんなよー」
 受動的でいることが恥ずかしくなってきたのであろう裏袋をからかって笑う。
「ちげぇよ」
 否定してから大人しくなった裏袋は腋の下を通る腕がくすぐったいらしく、しがみついてくすくす笑う。
淡い雨音に隠されたように忍び笑うと、秘密基地か何かに居るようだった。
 見えない背中を手で探る。背中の温度は僕の手のひらよりは低く、すべすべした触感の印象を強める。
腕の中の温度が優しい。
 ホックの構造すらうろ覚えだったにも関わらず、意外とさらっと外せた。僥倖だ。
 上半身からすべて取られた裏袋は代わりに長い髪をいじって、少しだけ前に持ってくる。
そんな少しで隠せるものでもないのに。
 裏袋は僕の頬に手をやって親指で唇に触れて、ぽつりと言う。
「あんたって唇だけは艶っぽいわよね」
 それ以外はどうなんだ、という部分については自覚があるので問いたださない。全体的にぼやーっとしているとは
よく評されているし、自分でもそう思う。
「そんな風に褒められるのは初めて……かも」
 返す言葉は、九年間の記憶容量をほぼマチにだけ注ぎ込んできたために曖昧になる。
「別に褒めてない」
 即座に入る否定のタイミングにどこか既視感を覚えた。
 今し方褒められてないばかりの唇で肩に触れて、思う。認めていいことかはわからないけど、裏袋は、
車いす生活の記憶がある裏袋は、ほんの少しだけ、脚が動かなかったマチと似ていた。
 顔を上げて、手のひらで胸に触れる。肌寒さもあってか先端はかたまっていた。そこを軽く指でなぞる。
控えめな反応は悪い方向のものではなかった。次に舌で舐め上げると背中が暴れる。面白い。
 片方の手に手を重ねる。裏袋のそれは、僕のものと比べるととても小さく思える。細い指が絡みついてきて、
握り返したら、少し緩んだ。


0602綾乃×裏袋(11/17)2012/04/21(土) 00:44:20.38ID:jgJUnqUn
 手を握り返されただけなのに、どうしてか力が抜けて、呼吸の荒さが増してしまう。ごつごつした指が
手の甲を押す感触と体温に、何より堪らないものを覚えて、やっとわたしは怖くなる。
脚を閉じようにも間に膝が置かれていて、そのことも一気にわたしの心身に作用する。足の指がそわそわする。
 そんなことなど素知らぬ顔で、玻璃綾乃はわたしの太腿の間に手を入れて、下着の上からそこに触れる。
「ひゃぁん」
 さっきまで偶に漏らしていた声より更に甘く、鋭い声がした。というか自分からこんな声が出るとは思わなかった。
なんだこれ。半分くらいは吃驚して出た声のはずなのに、質が完全にもうひとつの理由に持っていかれていた。
 思わずベッドについている方の腕をがしっと掴む。爪も立った。
「……やめる?」
 視線を合わせての問いに反射的に首を横に振る。半端なところで終わっても何か持て余して持ち越してしまいそうな気がした。
 玻璃綾乃はわかったと言って、わたしの前髪の生え際に口づけた。
 慎重な手つきもたくましさも声の低さも淡い目つきも、わたしの感覚の所有権を奪うようで、反発したいのに、
受け入れるどころか従ってしまう。どうしてわたしは肘などついているんだろう。
 どこまででも行けそうな感覚と力が抜けてへたり込むときの感覚が入り混じっている。
自転車で走りすぎているときの感覚に似ている。でも、自転車のときは飛ばす感覚は怖くないのに、今はそのざわざわが怖かった。



 一呼吸置いてから、再び湿り気を含んだ下着の上をなぞる。最初はくすぐる程度に、少しずつさするように。ゆっくりと。
 裏袋は声を発するまいとしているけれど、感じているのは一目瞭然だ。背中がぞわぞわした。
 頭の芯で水が零れそうになる。
 裏袋が自分の下唇を上唇で一度仕舞い込んで喉を鳴らす。次に見えたときには乾燥で白っぽくなっていた唇が
赤に染まっていた。
「……あ」
 漏れだす声の隙間から白い小さな下の歯が並ぶのが見えた。口内は潤沢で、赤い。
僕は立ち眩みのようなものを覚えて頭を振る。
「どしたの?」
「な、なんでもない」
 裏袋の顔を見ないように肩を抱き込んで横に倒れて、きつく抱きしめる。弾力のないベッドに右肩がぶつかって、
少しだけ痛い。横向きに寝そべった状態になった。
「ちょっと、痛い」
 言われて腕を緩める。
「ごめん、ちょっとふらっとしたから」
 微妙に嘘をつくと、裏袋はいたずらのいいアイディアを思いついたような目で見て
「ふぅん」
 とだけ返した。それから狭いベッドの上で転がされて、さっきと上下逆の状態にされてしまった。
そのまま形勢逆転とばかりに首筋を舐められる。不意打ちの熱い感触に腰が浮きかけた。
 裏袋は初めて楽しそうに笑う。
0603綾乃×裏袋(12/17)2012/04/21(土) 00:45:24.20ID:jgJUnqUn
 僕はなんだか負けん気を煽られた気分になって、裏袋の背中に手を回し体を起こす。
立場の再逆転に裏袋が対応しきれていないうちに胸を吸って舌で転がす。
「ひあっ」
 逃げようとする腰と肩を抱き寄せては舌を這わせる。溢れる嬌声に、脳みそから躊躇いが沢山零れて
夢中で気づけばもう押し倒していた。ちょっと逆転勝利の気分だ。
 そのまま下着をずらして局部を直接撫でる。焦ってしがみつく裏袋の爪が背中にちょっと刺さったことすら
燃料にしかならない。
 邪魔になってきた下着を手早く下ろしてそっと触れる。熱くてとろとろしたところが、指に撫でられる度に
滴り融けてしまうように感じる。同時に一帯の筋肉が動くのがわかる。蠢いて騒ぐ熱がお互いのものだという感覚に確信が加わり、
ブレーキが壊れかける。
「ぁああ……だめ、なんか、だめ……」
「……痛い?」
 暫くして発せられた言葉に、手を止めて様子をうかがう。激しくしすぎただろうか。
「痛いとかじゃなくて……こわい」
 意味を量りかねて首をかしげると、裏袋は至極恥ずかしそうに、顔を覆って続きを言う。
「気持ちいい、んだと思うけど、それがこわい」
「…………」
 ついにやけてしまう。自分でもその理由が、意地悪心なのか奉仕の精神なのかわからなかった。同時に、
それで怖いなんてこともあるのかと感心もする。
「……あぁ、もうっ、いいわよ、続けてっ!」
 裏袋は自棄で涙目になって、照れ隠しのように僕の腕を軽く引っ掻いた。
 僕はまた同じように愛撫して、口の横にキスをする。それから、身をよじる裏袋に一言断る。
「指入れるよ」
「えっ」
 返事は聞かずに人差し指を入れると、案外するりと入り込んでしまった。
 慎重に曲げたり、細かい出し入れをしてみる。
「平気?」
「結構、大丈夫」
 返事に安堵するより先に、裏袋は別の要素に言及する。
「……初めてじゃないのかも」
 一瞬意味を捉えかねる。ああ、なるほど。過去からの帰還で縫い合わさった今の自分の九年間を、裏袋も知らないのだ。
「もしそうだとしても、今は好都合なだけだ」
 僕は裏袋の額にこつんと額を合わせて笑いかける。
「……そうかも」
 額を離すと、裏袋の和らいだ表情が僕を見上げる。


0604綾乃×裏袋(13/17)2012/04/21(土) 00:47:04.57ID:jgJUnqUn
 恥ずかしながら、一瞬ものすごく今更な不安を抱きそうになった。そうだ、わたしは元の場所を失っただけではなく、
ここでの九年間も知らないのだった。わたしが何をして、何をしていなくても、わからないのだった。
 おでことおでこの貼りつく感触と笑顔だけで簡単に落ち着かされてしまった。九年間の差が大きいような気がしてならない。
なんだかくやしい。



「そろそろいいかな」
「いいんじゃないかな」
 指を引き抜いて提案したら、案外投げやりな答えだった。
「え」
 それしか言えなくなる。流石に反応に困った。
 すると裏袋は、軽く口を尖らせて真相を語る。
「わかんないのよ。……心の準備はできてる」
「そっか」
 ほっとして笑い、長い髪を濡れてない方の手で梳く。
 それから僕は自分のズボンと下着を一気に脱ぎ捨てる。ずっと押さえつけられていたのでかなりの開放感があった。
その間裏袋も下着を足から抜いて、やっとお互い全裸になった。
 脱ぎ捨てた服の所在など忘れて触れ合う。特に脚と脚が直接触れ合うのは初めてだ。足の指の先まで
綺麗に均整が取れている。じゃれあっていると子供以前に戻れたような気さえしてきた。
 少しして、恥ずかしがる裏袋を落ち着かせながら脚の間で膝をつく。
「じゃあ、行くよ」
「うん」
 推し量りながら入り込んでいく。温かく絡みつくような触覚に理性が絡め取られそうになる。
 裏袋が僕の頬を撫でて囁く。
「気持ちいいの?」
「とっても」
 正直な感想だ。気を抜くと果てるまでひたすら激しく突いてしまいたいとすら思える。
「……そう」
 素っ気なさを装おうとしても眼球の動きが微笑ましい。
「裏袋は? ……つらくない?」
「平気。自転車ばっか乗ってるから、かも……?」
「なるほど、アスリートだ」
 自分で言ってて何がアスリートなのかよくわからない。意味不明の感想を漏らしてしまった。
呼吸はしすぎなくらいしているのに、酸欠みたいな頭だ。部屋に体液のにおいが充満しているせいかもしれない。
「ちょっと姿勢変える」
 ある程度まで深く入れてから、背中を抱えて抱き起こす。
 裏袋は思い切り僕にもたれ掛かってきてしがみつく。僕はバランスを崩しそうになって、片手を後ろについた。
「…………っはぁ」
 裏袋はそのまま暫く動かない。僕も動かずジッとしていた。


0605綾乃×裏袋(14/17)2012/04/21(土) 00:48:20.71ID:jgJUnqUn
 二人分の呼吸の音だけが鼓膜を揺らしている。
 つらくないのは一応嘘ではないけど、恥ずかしくて堪らなかった。もたれたついでに暫く顔を見ないように
しがみついている。指を入れられたときよりかなり大きい異物感に、吐き気とは違う意味で何かを吐き出しそうだ。
 色々と、羞恥心が咎めることばかりだ。気づけば甘えるような声で発声練習みたいな意味のない音を連呼してるし、
てちゃてちゃと音もしていた。
 でも今は今で何も言わなくて何もしないだけなのに、『可愛い』と少し形が似た気持ちが増え続けてもやもやする。
骨と筋肉と皮と吐息と、感じるのはそれだけのものに、不快なはずの汗だ。それなのに。
 今触れ合ったままでいるだけで、汗が混ざり合っている。それどころかもっと直接的に交わって混ざり合ってもいる。
 ふと、どういうつもりでここに来たのかなんてことを思い出す。もう既に、
今回のことに最初を定義するとしたときの最初は、そこじゃなかった。
 ひとつ溜め息を吐いて、言葉を探した。
「……ねえ」
 その先は言えない。いい言い方が思いつかない。わたしは両腕を玻璃綾乃の首に回したまま体を離す。
その顔は凪いだ表情でわたしを見据えていた。玻璃綾乃は唇を軽く湿らせて、口を開いた。
「えぇと……そろそろいいかな」
 わたしが口に出そうとしなかった不完全な言葉だ。わたしはなんだかほっとして、黙って頷く。
 玻璃綾乃はわたしの腰を抱き寄せて、「んっしょっと」と口に出して後ろに倒す。やりやすい姿勢なんだろうかこれ。
そして最初はゆっくり小さく、段々と早く大きく動きだす。押しつけるようにぐりぐりやったり、まっすぐ突いたりする。
 漏れ続ける声は他人ごとのようにコントロールが効かないのに、確実に気管支を震わせてその感覚を伝える。快感を覚えるときも、激しくてついていけないときも。
「あぁっ! あむ……ぅ」
 口を押さえようと手を近づけたときにふいに思いきり動かれて、わたしは思わず自分の人差し指に咬みついた。
そのまま咬んだまま力を入れ続けてしまう。存外何かに噛みついてられるのは心地がよい。
これがわたしの癖なのかもしれなかった。調子に乗って顎の力を強めたら、犬歯が思いきり突きささって指が痛んだ。
 固定されて安心する方が強いからか、何なのか、痛みは気にならなかった。



「裏袋……っ」
 急ブレーキを無理矢理掛けたようになんとか止まる。今、すごく思いきり噛んだように見えた。
 裏袋はぷぇっと吐き出した指で額に貼りついた前髪を少しはがして、視線をこちらにだけ投げ寄越す。
指には一瞥もくれない。
「なに?」
 僕は裏袋の噛まれた方の手の首を掴む。
「……っつ」
「あ、ごめん」
 掴みすぎた。力を弛めて、それでも僕は人差し指を咎めたくて仕方がない。強く噛んでしまっていたことを
確信させる赤だ。
 咬み跡を舌で暫くなぞって、殆ど血の味がしないことに安堵する。それでも目で見ればやはり痛々しく、
咬んだ跡がはっきりついている。
0606綾乃×裏袋(15/17)2012/04/21(土) 00:49:04.57ID:jgJUnqUn
「裏袋、やめな」
「……放っといてよ」
 裏袋は不貞腐れて顔を逸らした。頬が上気しているためか、まるで照れているような風情だ。
僕は裏袋の頬と耳に手を掛けて、そのままこちらを向かせた。目と目が合う。
 焦点がはっきり合うのを待ってから、僕は告げた。
「……あまり、傷を作るようなことを、しないでくれ」
 こんな風にしておいてどの口が、と自嘲しながらも、止まらない。
「噛むなら僕にまた噛みついていい。引っ掻いてもいいし、蹴飛ばしたっていいから」
 このまま自分の指を一部でも咬みちぎってしまった場合、裏袋はどれだけの期間どれだけ苦労を強いられるのだろう。
 いや、苦労はそんなにしなくても、そもそも裏袋が怪我をするのも嫌いだ。
 僕は忘れられないのだ。裏袋の脚を選んだ近雄への共感めいたものと、強い負い目を。
 そして、純粋にそれだけではなかった。
「なんなら髪の毛掴んで束で引っこ抜いても許すよ」
 裏袋美住は間違っても僕の愛しい人ではない。それでも、願うことは少し、あった。
「だから……」
 僕は苦々しい顔になっていく彼女の瞼に唇を押しつけた。
「美住、お願いだ」



 名前を呼ばれて、自分の傷を度外視していることへの憤りから、感情の位置がズレる。目の前の彼は
泣きそうな顔をしていた。
「……わかったわよ」
 今回は負けてあげる。
「わかったから、綾乃」
 最終的にわたしは勝つ。ニアが勝手に死ぬのを許さない。間接的に、ついでに、
綾乃が色んなものを勝手に背負うことだって、許してやらない。
 この島の男はみんなこんなに馬鹿で勝手なんだろうか。呆れる以外ない。最悪。
 わたしは生まれる軽い衝動に任せて、ぼんやりした玻璃綾乃の頬と目元を撫でる。



 僕は色々と、過保護なのだろうか。
 撫でられて落ち着きを取り戻しながらそう思う。
「ごめん。ちょい取り乱した」
「今更かよ」
 短いやり取りの間も、手の体温は暖かい。
「けど実際爪立てたりしてもいいから」
「わかったって」
0607綾乃×裏袋(16/17)2012/04/21(土) 00:50:28.67ID:jgJUnqUn
 裏袋の腕が背中に回ったのを合図にしたように頷いて、また動き始める。時折悶える裏袋の反応を見ながら。
自然、擦りつけていくような動きが増える。
 僕は裏袋の頭を抱えるように腕を寄せて頬にキスをした。
 何度も撫でて、首筋に口づけて、背中に爪を立てられて、複雑なことは何もなかった。ただ、
繰り返しながら少しずつ変わっていくだけだった。
「あぁ、綾乃、綾乃ぉ、っぁ綾乃……」
 裏袋は何度も、何度も僕の名前を繰り返した。彼女の前でヤガミカズヒコは、偽名などすっ飛ばして
どこまでも玻璃綾乃のままのようだった。

 へとへとになるまで続けて、その後僕たちは眠ってしまった。日が暮れて暗くなった部屋で、裏袋はまだ眠っている。
眠っていると、本来の柔和な顔つきがよくわかる。
 雨はいつの間にか止んでいた。
 さて、ご両親への連絡はどうしよう。
 その前に、ロクに処置しなかったせいで案の定腫れてしまった瞼に濡れタオルをあてがう。
『この』僕を見据えて玻璃綾乃と呼ぶ裏袋の、強い瞳を覆う瞼だ。僕を玻璃綾乃だと認める人間は、
もうこの世界に松平さんと裏袋の二人しか居ない。
「…………ニア……」
 彼と話す夢でも見ているのだろうか。幸せそうな声色だ。
 僕は思い出したように一人ごちる。
「……悪いけど、手掛かりは見つからないよ」
 手紙ならあるけど、隠蔽する自信はある。
 僕は自分で飲むお茶を用意して、一人テーブルの側の椅子に座った。そして何を話すか考えてから、電話を掛ける。
「あ、もしもし裏袋さん? ヤガミです」



 タオルを外すと、月明かりがカーテン越しに微かに漏れていた。電話の声が聞こえる。
「…………はい、それで調べ疲れて眠ってしまって、いつ起きるのか……え? 泊まり? 僕はいいですけど……
流石に若い娘さんが…………はぁ、そうですか。わかりました。責任持って預からせていただきます。それじゃ。ええ」
 電話を切ってため息をついた玻璃綾乃がお茶を啜る。蛍光灯のとこの小さい電球くらいつければいいのに。
 寝ぼけているせいか、一人分しかないイスに座る一人の玻璃綾乃が、正しい姿に思えなかった。本当は正面に誰か……。
「おはよう」
 話し掛けられて、違和感が霧散する前にわたしは悟る。
 ああそうか、もう一人にはテーブルにつくための『イス』は邪魔になるだけなんだ。
わたしが知らない『時間』のマチは、記憶にあるかつてのわたしと同じものに座っていたのだ。
「こんばんは」
「裏袋の母さん、もう泊まらせてもらっていいかしらーって。了承しといた」
「マジで」
「いつ起きるかわかんなかったし……」
「……ぐぬぬ」
 あんなことした後なのにこのまま一晩中同じ部屋で過ごすとは……。
0608綾乃×裏袋(17/17)2012/04/21(土) 00:52:21.47ID:jgJUnqUn
「さて」
 玻璃綾乃は立ち上がって電気を点ける。
「とりあえずご飯ないから炊くよ」
 お腹……確かに空いたかもしれない。
 しかし、こいつ体痛くならないんだろうか。わたしは痛い。
「うぉ、腰が死ぬ……」
 疑問は直後に氷解した。なんだ痛いんじゃん。畑仕事で鍛えてる癖にとも思うけど。
 わたしは服を着て、ぼーっとする頭を少しずつ通常稼働に直していく。先にお風呂借りればよかった。
 玻璃綾乃は冷蔵庫を覗いてから、調理スペースからわたしに言う。
「今後もちょくちょく遊びに来ていいよ。松平さんの手掛かりは一切ないけど」
「………………なんで手掛かりないのにあんたの家なんか来るのよ」
「いいじゃないか別に、『僕とお前の仲』なんだから」
「死ね」
 わかっていたのか。確かに不自然だった自分を振り返って歯噛みする。自信満々過ぎて腹が立った。
「今日のご飯は?」
「んー、ちょくちょく野菜は貰ってきてるはずがどうしてこうなった」
「どうしてこうなったじゃなくて……」
「……のりたまならある」
 冷蔵庫空かよ。この男の食生活はどうなっているんだろう。
「今度はなんか持ってくるわ、流石に」
 ここで手掛かりを探すふりをした分だけ、玻璃綾乃は油断するだろう。
 それに、九年ずれた玻璃綾乃は、時間旅行が可能であることを、わたしに可視化して見せ続ける。
あのニアを覚えている、玻璃綾乃は。
 他にも理由はある。なら、ご飯を一緒に食べたって、食材を持ち込んだって、まあいいだろう。
「あ」
 忘れてたけど、
「余計な布団とかってあるの?」
「……あ」
 予想通りの反応に、わたしは仕方ないと笑う。
「じゃあ今日は一緒に寝ていい? 床は嫌だし、家主床で寝かせるのも嫌だし」
 玻璃綾乃もため息をついて、あーあと笑った。
「仕方ないな」
 束の間の笑いも捌けて、気まずくない沈黙がゆっくり降りる。わたしは小さな声で、つい出来心で、
口が言いたくなった言葉を伝えた。
 こちらこそと同じ言葉を続けられた気がしたのは、聞かなかったことにして胸に仕舞った。
0610名無しさん@ピンキー2012/04/21(土) 23:58:52.61ID:n8VMon2w
GJ!
凄い好きな雰囲気だ!
やっぱり二人とも覚悟はあっても寂しいんだろうなあ
背徳感とかエロスとか色んなものが混ざり合ってぞくそくしたw

噛み癖可愛いよね
0612名無しさん@ピンキー2012/06/01(金) 16:26:18.97ID:EwrUTcM2
保守
0613名無しさん@ピンキー2012/07/04(水) 15:16:22.70ID:U9FetINo
保守
0614名無しさん@ピンキー2012/07/21(土) 09:09:58.57ID:rNOc8qXA
HO
0615sage2012/08/14(火) 04:10:35.62ID:TIaKZdAx
保守
0616名無しさん@ピンキー2012/09/02(日) 01:32:53.65ID:x10oXOJJ
保守
小ネタでもいいから来ていただけないものかねえ
いや、むしろ誰かいる?
0618名無しさん@ピンキー2012/09/03(月) 00:24:48.12ID:RTOfAbyA
書きたいけど難しい上に時間がない
長瀬、セックルした次の日にお別れだからなあ
0619名無しさん@ピンキー2012/09/16(日) 22:12:58.77ID:VKL+VaSe
ほしゆ
0620名無しさん@ピンキー2012/10/07(日) 02:13:18.12ID:TickpQUR
保守
0626名無しさん@ピンキー2012/11/01(木) 06:46:22.69ID:fws7WOB0
花咲太郎は需要ないのか
0629名無しさん@ピンキー2012/11/22(木) 21:59:02.91ID:EY/yN/wT
>>625
モブがまーちゃんの秘密(呼べばみーくんになれる)を知って
みたいな薄い本が出ないかな
0631名無しさん@ピンキー2012/12/14(金) 23:49:36.21ID:FsodfTgF
誰でもみーくんになれるから
レズにマユが狙われて「なんでみーくんチンコ無いの?」みたいな展開も
0632名無しさん@ピンキー2012/12/15(土) 10:25:22.29ID:HeZJsObN
ムッキムッキの黒人がカタコトで言っても認識すんのかな
0633名無しさん@ピンキー2012/12/27(木) 21:18:52.81ID:T9w12iFt
まーちゃんがみーくん(偽)に輪姦されて
警察が保護しようとしたら邪魔しないでと暴れる、みたいな

長期間だと絵を取ってきたりしないといけないが
短期間ならばれずに肉便器にできそうだな
悪意と両想い設定、マユの苛烈な性格による報いを受けそうだが
0635名無しさん@ピンキー2013/01/15(火) 21:54:44.19ID:rTX4K1GL
>>633
最終的には血の海落ちだろうな
むしろ輪姦しようとしたらトラウマ再発で発狂かな

みーまーアニメ化でもしないかな
けど電波アニメ化してもあまり盛り上がらなかったな…
0636名無しさん@ピンキー2013/01/17(木) 00:06:17.19ID:rFvR6y1G
スレ名がみーまーだけで入間も電波も入ってないから電波じゃ来ないかも
前ラノベスレで迷った人が来てた気がするし
0638名無しさん@ピンキー2013/02/10(日) 00:12:19.37ID:AZP9u1gj
9巻1章「悪いひと」P33以降の主人公の「   」の空白のセリフは何ですか?
0639名無しさん@ピンキー2013/02/12(火) 08:43:54.80ID:ZHfmBmHc
最近、数える目的での「正」の字を女体に描かれてるのしか見ない
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