0216名無しさん@ピンキー
2011/11/14(月) 01:13:00.44ID:ot2Saqnsもはやこれまでかと親久は自室で深いため息をついた。
平安の時代より続く武田家も、信長の攻勢の前に居城陥落も時間の問題であった。
兄と父亡き後、鬼神のような采配で幾度となく戦場を切り抜け、勝頼を守り抜いた親久であるが、次の出陣が己の最期となるであろうことは覚悟せざるを得なかった。
「湯殿の用意ができてございます」
後ろから親久を小姓の三郎太が呼んだ。
三郎太の表情にも死期を悟るものがあった。
湯殿で三郎太に帯を解かせ、親久はすらりと美しい裸身を剥き出しにした。
それは若い女そのものであった。
秋山家を継いだ兄、昌詮は駿河侵攻で名を上げた俊傑であったが、蒲柳の質で若くして病死した。
跡を継いだのは、いつでも病弱な昌詮の代わりとなれるよう弟として育てられていた、実は女の親久である。
高い声も白い顔も細い腕も、兄昌詮もそうであったと特に怪しむものもいなかった。
そして、親久は刀槍の腕にかけてはどのような男にもひけを取らない。
あっぱれ兄をも凌ぐ戦上手よと言われ、戦場ではどのようなときでも真っ先に兵を率いていた。
二歳年下の三郎太は幼い頃から小姓として親久に仕えている。
親久が女であることを知る数少ない近習の一人として最も身近に置き、親久にとって自分の手足とも言うべき存在になっていた。
幼い頃から着替えや湯殿での世話をする際に付き添うのは三郎太ただ一人である。
柔らかで形の良い乳房が華奢な肩の下にあり、さらにその下には慎ましい和毛があった。
──美しくなられた─。
見惚れてため息をつきそうなのを押し殺し、三郎太は親久の背を流した。
湯が上気した肌を滑って玉となって散ってゆく。
しばらく湯船に浸かったあと、親久に湯帷子を着せ、身体を乾かした。
今まで幾度となく繰り返されてきたことだったが、三郎太の心はきりきりと痛んだ。
もしも自分が主を思う衷心ではなく女を求める気持ちで仕えていることが親久に知られたらどれだけ自分は軽蔑されることであろうか。
しかし、親久にこのまま慕情を告げることなく命の火が消えるのかと思うと、それもあまりにも辛いのだった。