恋をしたら人は変わってしまうのかな?
変わらない人なんてどこにもいない。
愛しくて、苦しくて、恋は人を変える。
恋しくて、切なくて、恋は人を狂わせる。
全ては甘くつらい恋の魔法のせい。

「ソレリさんのことお義姉様って呼んでもいい?」
「駄目だ」
「今更照れることないのに」
きっぱりはっきり言われてラウルは正直面白くなかった。
せっかくからかうネタが出来たというのに、手放すのはもったいない。
「私のことは兄さんなのに、ソレリはお義姉様だと?ならば私のこともお兄様と呼べ!」
「はぁ?」
「小さい頃は「おにいさま、おにいさま」とあんなに可愛らしかったというのに……。
おまえは一人で大きくなったと勘違いしているな。いつからこんな生意気な口を聞くようになったのか」
そりゃ兄さんには感謝してます。
でも口に出して言うには恥ずかしいので、ラウルは唇をぎゅっと結んだ。

「思えば嫁に行った妹達のことは未だにお姉様と呼んでいるのに、何故私だけ」
「お姉様方には頭が上がらないからに決まってるじゃないか」
弟というのは得てして姉の都合のいい使いっぱしりか、玩具なのである。
大事にしてもらったのは確かだが、ある程度大きくなると、やれあれしろこれしろと大忙しだった。
「この間、帰ってきたときは一日中鏡持ちをさせられたよ」
途中で面倒になって「何を着たって同じ」と口を滑らせたら凄まじい勢いでシメられた。
でも兄や夫の前ではおとなしい妹で、妻を装っているんだろうけど。
まさか旦那さんの前でもあんな態度取ってるわけではないよね?
お嫁さんには旦那さんの三歩後ろを歩く奥ゆかしさが必要だとラウルは思っていた。もはや幻想だったが。

「兄さんはお兄様って呼んでほしかったんだ?」
ラウルとしては兄さんの方がお兄様より近しい感じで良いと思っていたのだが、
頭のいい兄さんの考えることはよくわからない。
兄はこの世の終わりのような声で嘆いた。
「最終的には「おい老いぼれ、目障りなんだよ」になるのだな。お兄様は悲しい!」
「あーはいはい、わかりましたよ。お兄様、行ってもよろしいですか?」
ラウルは仰々しく一礼する。兄はそれに応え、深く頷いた。
これが今生の別れというように二人は互いに直立不動で握手を交わす。
「よかろう。男らしく行って来い、ラウル!」
「はい行って参ります、お兄様!」