【魂喰】ソウルイーターでエロパロ・4【ノット!】
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0001名無しさん@ピンキー2011/03/04(金) 15:35:43.41ID:tRann5S2
ソウルイーターのエロパロは2005年から始まった…!
神職人・神ネタ師・狂気感染したい、させたい人、お待ちしております。


過去スレ
ソウルイーターでエロパロ(2005〜)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1113676407/
ソウルイーターでエロパロ(2007〜)
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1175408842/
●ソウルイーターでエロパロ●
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1207388698/
●ソウルイーターでエロパロ・2●
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1226146422/
●ソウルイーターでエロパロ・3●
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1241784475/


過去作品保管庫
http://souleaterss.web.fc2.com/
0200名無しさん@ピンキー2013/04/10(水) 20:50:46.34ID:92ZHP1lc
俺はアニメ放送時から、ずっとソウマカが好きだ。
そういうのに関してウブな二人をみたい。
0201大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:36:43.83ID:OP7IQajf
         く´    うーっすちゅーすちょりーす。し〜にがみさまでぇ〜す。
    ___    _Σ
   冂|    |  |    最終回直前だってのに相変わらず人居ないねぇ〜
   | .|7 _(∵)_
   凵'__> レN ∠,  投下スルナライマノウチっていうストーリー?
   └──i    /
      ./    〈   註:ソウマカ。
      レi   ∧}     エロまで長いが今回はエロ頑張った!
        7 /       しかし過剰な期待・ダメ・絶対
      _,,z' く_       前後編にてお送り致しま〜ス
0202大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:38:28.01ID:OP7IQajf
 「あすこ抜けられますって張り紙があるよ」
 マカが俺の左肘のジャケットを引張りながら、錆びたトタンと焼きの入った板とで出来た塀を指さしながら言った。
 「……ああいう張り紙は非合法な店への誘導なんだよ、大抵」
 ふうん。もの珍しそうに唇をとがらせながらマカが相槌を打ったので、俺は埃っぽい砕けたコンクリートの道を眺める作業に戻る。
 「キムとジャッキーが泊まってるホテルって遠いの?」
 「繁華街の南のハズレってのと、名前しか聞いてないから距離は知らん」
 「名前は?」
 「竜南荘」
 「……ホテルの名前じゃないね、確実に」
 ぶつぶつと口の中で何か言ってるマカを無視して、手袋とマフラーを整え直してリュックを揺さぶる。いつも誘うキッド組もブラックスター・コンビも居ないのでキム&ジャッキーペアと、そこそこ大きな町に校外授業にやってきた。
 先行して町と地理の下見に行ったキム達に遅れて、運搬係になった俺の可愛そうなバイクは街の東外れにある駐輪場に預け
(路地が糞狭くて長距離用バイクなんか乗り回した日には人間でボウリングをやる羽目になりそうだからな)、
これからしばらくの間の拠点になる宿泊施設に向かう途中というわけだ。
 「それにしても寒ィな。こりゃ夜には降るぞ」
 ぶるっと身体を震わせて曇天を二人で見上げる。
 灰色の重苦しい雲が手に届きそうなほど立ち込めていて、隣でげー、と鬱陶しそうな声がした。
 「デスサイズになって初の校外授業が雪なんてツイてない」
 クリーム色のリュックがゆっさり音を立ててトコトコと歩き始めたので、俺はまた無言でそれを追う。
 とても古めかしく、かといって歴史や何らかの価値がある訳でもない山の里。この国のそれはそれは昔々の街道だったそうだが、その名残は朽ちかけた建物ばかりであるという、まあ結構どこにでもある取り立ててなんと言う事もない田舎町だ。
 本当はこの授業、俺達ではなくてオックス&ハーバー・コンビが行くハズだった。
 それがなんでこんな所に居るかというと、目ぼしい理由は二つほどある。
 一つはデスサイズに昇格したものの、デスサイズ形態の経験値が圧倒的に足りない俺とマカの肩慣らし。もう一つは……これがかなりの割合を占めるのだが……ジャッキーとハーバーに泣いてお願いされたのだ。
 『流石に泊まりでバカップルの隣に居るのはキツい! 魂感知が受注条件だから頼めるのはソウルしか居ない!』
0203大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:39:04.86ID:OP7IQajf
 同性コンビには同性コンビなりの苦悩があるんだなと言うと、二人は驚いた顔をして眉を顰め、黙ったのが印象的だった。
 言いたい事は大体察したので何も返さなかったが。
 「どっかそこらの店でズボンでも買えば。制服に拘って風邪引いちゃしょうもない」
 見てるこっちが寒気でどうにかなりそうな空色のミニスカートから伸びる足は、最初の飛行訓練時に父親から押し付けられたという黒色のタイツで覆われてはいない。
 あれ、個人的趣味からすると結構好きだったんだが。
 「クライアントか現地調査員さん、どっちかに会うまでは制服で居ないと本人確認とかID照会とかでめんどくさいからさぁ」
 鞄の中には一応スキー用のズボン入れてきたから大丈夫。そう言ってまたクリーム色のリュックが揺さぶられる。
 「てゆーか、ソウルがきちんと制服着てくれれば私がこんなクソ寒い恰好しなくても済むのに」
 「……制服のズボン綿だぞ? バイク乗り殺す気か」
 「いやー、制コートの防風効果すごいよねー」
 無駄に長いコートの裾を足にくるくる巻きつけて俺の背でヌクヌク寝てたマカがけらけら笑いながら言う。
 ……ホントずるいのな、この女……
 「早く風呂入って寝たい」
 鼻を大きく啜り上げたのは嫌味でもなんでもない。ホントに体が冷えまくっているだけだ。
 「えー手続きした後なんか食べて、ちょっと4人で回ろうよ」
 「……お前は後ろで鼾かいて寝てられたろーけどなー、俺はずーっと運転してたんだよー……」
 寒く寂しい国道を、バイクで。
 流れる景色は変わり映えなく綺麗で、とても退屈だった。
 時々会心のギャグや生意気なポエムを折角呟いたりしたのに何の返事もない。
 風とエンジンの振動とマカの体温だけの世界は、ほんのちょっとだけ愉快だったりしたけどさ。
 「い、いやまぁ、そうだけど……せっかくなんだし……」
 「寝る! 断固として睡眠を要求する!」
 「一応三泊四日の日程で申請したけど、キムと私が本気出せば最終二日で終わるから前二日はショッピングしようねってキムと」
 無茶苦茶言いやがる。バイクの長距離移動なめんなよ!?
 「大体、なんで俺がお前らの買い物に付き合わなきゃいけねーワケ? 三人で行け三人で!」
0204大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:40:00.37ID:OP7IQajf
 イーと思い切り歯を見せて威嚇するも、我が主には効き目がない。
 「女の子三人で居たらぜーったい声掛けられるんだもん! 鬱陶しくて買い物どこじゃないよ」
 ……人を気軽に虫よけ扱いしやがって……
 「…………遊びに来てるんじゃねーんだ、真剣にやれ真剣に」
 なんて、昔はお前が俺に言ったんだろうが。
 ――――――――ここの所、マカの様子はかなりオカシイ。具体例を挙げると……まぁこの有様だ。
 フワフワと浮き足立っていて、今までの堅物マカじゃ考えられない不真面目な授業態度に、あのスプラッター・バカのシュタイン博士でさえ時々眉を顰める。
 家でもこの調子で夢見心地で気が抜けてて、ちっともらしくないマカにこの間ブレアが苦言を呈していたのを見たが、それさえもマカがうんうんと頷くだけだった。
 トンプソン姉妹は複雑な心境だと言った。マカが今まで凄まじいプレッシャーとストレスに曝されていたのを知っているから、そこから解放されたのは喜ばしいが……まさかキッドやクロナの事まで頭から抜け落ちてしまったのかと。
 椿はただただ心配だと言った。一度緩んだ糸がまたあの高いテンションで張り直された時、その落差でぷっつりと途切れてしまわないだろうかと。
 デスサイズや職員、死神様辺りなんかはかなり露骨に(俺を経てではあるが)マカの調子に口を挟んでくる。
 でもただ一人、ブラックスターだけは違った。
 『ま、大丈夫だろ。気にするほどじゃねえよ』
 これが他の奴(例えばキリクやオックス君とか)のセリフなら素直にその根拠などを尋ねたと思う。
 自信満々にちょっと笑いさえしながら、ブラックスターは言う。
 『お前パートナーだろ、自分の職人を信じらんねぇのか?』
 ええと、その時俺は何と答えたのだったっけな。
 確か「毎日見てるから心配なんだよ」とかなんとか言ったっけ。
 それにあいつはにやっと笑って『うん、まぁ、お前はそれでいい』とよくわからんことを言った。
 俺はなんだかそれが癪に障ったけど、別に反論する気もなかったからその場でその話は終わり。
 ……で、なんで急にこんなこと思い出してるんだ俺は。
 「しっつれいね、真剣よ! でもたまには息抜きしたっていいじゃん!」
 「……たまにはってお前……」
 「あーあー解った! 解りましたッ! さっさとカリキュラム終わらせてさっさと帰ります!」
 最近マカは情緒不安定だ。笑ったと思ったら怒って、泣いたかと思ったら無表情になる。そんなキテレツな状態なので、ここの所まともに込み入った話も出来ていない。
0205大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:41:49.51ID:OP7IQajf
 よくない兆候だとは思うが、ここまでマカが感情というか機嫌だけで物を言うこの状況に、どうも俺自身が慣れず……調子が狂ってしまうのだ。
 ……もうちょっと理性的な女だと思ったんだけどなぁ……
 「なんか言った!?」
 「イイエ、何にも」
 なぁブラックスター、お前ならどうするよこのワガママ女。俺はそろそろ“忍耐袋”の緒が切れそーだぜ。
 もしも。
 もしも、いつものマカが『ちょっと授業サボって買い物行きたい』なんて言ったら、俺は大喜びで口止め労働などせびっただろう。万が一にもションボリして眉尻を下げているのならば素知らぬ顔で帰り道のハンドルを温かい地方へ向けたかも知れない。
 でも違う。今のマカは違う。いつものマカじゃない。俺の知ってるマカではない。
 『お前パートナーだろ、自分の職人を信じらんねぇのか?』
 信じたいよ。信じてたい。
 だけどこんなマカ見たことねぇんだよ。どうすりゃいいのか全然わかんねぇ。自分の無力に眩暈がするぜ。
 クロナの事だってそうだ。
 俺は自慢じゃないがあいつを裏切ったことなんか、パートナー組んでからブレア戦のブラフ以外で唯の一度もない。
 なのにあいつは……マカは……最後の最後のトコで、俺を頼っちゃくれなかった。
 『お前パートナーだろ、自分の職人を信じらんねぇのか?』
 信じてもらえなくても、裏切られても、当てにされてなくても、武器は職人を信じなきゃなんないのか? 信じて待ってなきゃ価値はないのか?
 ―――――――― 最近俺も情緒不安定だ。
 まさか魂みたいにバイオリズムも共鳴してるなんてオカルトじゃねぇだろうな?
0206大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:42:40.01ID:OP7IQajf
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0207大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:43:28.90ID:OP7IQajf
 「……ごめんねマカ……、さぼらせてるね……」
 「いいのジャッキー、ゆっくり休んで。学校にはちゃんと連絡したから心配ないよ」
 ごほごほと短い咳を繰り返すキムとジャクリーンが並んでベッドに沈み込んでいる。
 俺は手に持っていた薬瓶と水のたっぷり入ったピッチャーをそっとスツールの上に置いて、手持無沙汰を腕組してごまかした。
 マカは手に持っていたジャッキーの汗を拭ったタオルを足元に置いているアルマイトの洗面器に浸し、もう一度心配げに二人の顔を覗き込んでいる。
 ジャッキーは仰向けで、笑い掛ければまだ視線で返事をするのだが、キムはうつ伏せたまま動こうともしない。声を掛けると低く掠れた声で、ああとか、うんとか、短く答えるだけで精いっぱいだ。
 「こっちこそごめん、本当に、ごめんね……」
 マカは絞った声で何度もそう言って、それ以上の言葉を出すことはなかった。
 朝もやの消えぬ山里は気温が低い。
 とてつもなく、途方もなく、だ。
 暦の上ではまだ秋も半ばを過ぎた頃合いだというのに、池には氷が張っているほど。
 ミッション自体はさほど困難なものではなかった。山里を混乱させ街道や畑を荒らす空飛ぶ怪異の正体を暴けという、それこそEATに所属して一ヶ月目の連中が受けるような単純で簡単なクエスト。
 普通ならばキム・コンビが囮兼、追い込み役となり、向かって来た怪異を待ち構えていた俺達で一刀両断……という手筈で半日も掛けず片の付く事案、役目を単純に逆にするだけと最初は楽に構えていたが、これが存外に難しい。
 まず俺達がコントロールを精密にした飛行が出来ない。というか浮かんで静止する、という事がどれだけの集中精度を要求されるのかを初めて知った。そんなレベルだ。
 だがマカの持ち前の勘の良さと俺との長年のノウハウを駆使し、ある程度のコツを掴んでさぁ実地だという所まで持ってきた。
 たったの半日で。
 いつも自分のパートナーを驚異的だと思ってたが、今回ばかりはゾッとする。
 ピアノで例えればフラットとシャープの違いも解らないままバイエルを渡され、半日鍵盤こねくり回しただけで幻想即興曲をたどたどしくも一応間違えずに弾けるようになったくらいの脅威だ。化け物と言っても過言じゃない。
 どこまでやるんだ? こいつは。
 力や素質でブラックスター、当然キッドに敵う訳はない。
 だが、こいつの吸収力は限がない。どこまでも、なんでも、貪欲に吸収してゆくことに【キリが無い】のだ。
 身体には必ず限界があるだろうのに。
0208大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:44:38.61ID:OP7IQajf
 「……良かったな、背後が池で。崖だったら間違いなく死んでたぜ」
 組んでいた腕をポケットに仕舞い直して手を突っ込んだまま、フォローのようなそうでないようなことを小鼻を顰めながら言った。
 「な、なんてコト言うのよソウル!」
 精度の確認をしたいと申し出たマカが提示したテストは、ジャッキーとキムがそれぞれ掲げた枝を飛行しながら連続で掻っ攫うというもの。
 「何をそんなにピリピリ粋ってんだよ! 一人で飛ばすから二人が氷張った池に墜落したんだろ!?」
 俺が何度もスピードの出し過ぎを注意したというのに、マカは全速力で二人に突っ込んでいった。
 ……あとはもう、説明するのも嫌だ。
 「なによ、ちゃんとソウルがフォローしないから!」
 思わずカッとなってポケットから抜き出した手でドアの桟を叩いた。
 「フォロー!? フォローだと!? 言うに事欠いて俺の所為か!」
 俺の声と桟が鳴った音に一瞬だけ怯んだマカが立ち上がって床を踏み鳴らしながら返してくる。
 「だってそうじゃない! ソウルがデスサイズになって使いにくいのよ!」
 その台詞にギクッとした顔を二人同時にして、それがとても居心地が悪く、また畳みかけるように罵倒せんと唇の裏から単語を押し出そうとした瞬間。
 「ご、ごめ……ちょっと頭痛ひどいから……あんま大きな声は……」
 ジャッキーの絶妙なタイミングで差し挟まれた仲裁に、俺達はようやくハタと正気に戻る。
 「あっ…………」
 「……わ、わりぃ……」
 言って漸く桟を殴った手が痛み出した。思いの外、強い力で殴っていたらしい。
 ―――――――― なにやってんだ、畜生。
 「ねぇ二人とも、気晴らしに町でも歩いてきたら? そのついでに何か甘いお土産頼んじゃってOK?」
 苦々しく下を向いていた“俺”にジャッキーが声を掛けた。
 わざわざ、近くに居る“マカ”にではなく。
 「ああ、もちろん。街道の入口に菓子屋があったからなんか買って来てやるよ」
 取り乱すのも格好が悪くて、マカの親父が良くやるようなヘラッとした笑顔で俺は精神を立て直す。あのオッサンの真似は癪だが、精神を平静に保つのは多分世界で一番上手い。一度も揺れない強さではなく、一度揺れても必ず元に戻せるのだ。技術は素直に見習う所がある。
 「へへ……やったぜジャッキー。わたし焼きプリンだよ、ソウル」
 「じゃあ私はババロアかムース。なかったらゼリーでもいいから、フルーツたっぷりのね」
 無理をしたキムの声が大層引き攣っているのを、心から申し訳なく思った。
 魂がずれている。
 共鳴出来ない程じゃないくらい、うっすらと。
0209大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:45:30.20ID:OP7IQajf
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          ☆★☆★☆ ★☆★☆★
0210大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:47:04.75ID:OP7IQajf
 その日俺は男を追って雨の夜道を走っていた。
 息が切れるし視界は悪いし、なにより後ろを走っている筈のマカの足音が聞こえない。
 俺は判断がつかず、ただ目の前のびしょ濡れた皮ジャンパーを追っている。
 泥をまき散らしながら耳障りな喚き声は懸命に夜霧に紛れようとしていた。
 そいつは年頃の娘さんを犯して殺して、それがバレて子供を二人轢き殺しながら逃げ、善良な警官の腿を撃ち、ガソリンスタンドから金を盗んで燃やし……
 ―――――――― 投降を呼びかけるマカを殴ってナイフで刺して、俺のバイクを蹴倒していった“考え得る限り最低の殺人鬼”だった。
 胸が燃えるように熱い。
 ひどく興奮していると思う。
 雨が冷たくて指先に力が入らない。
 こんなになって、俺はあいつを追いかけているが、一体どうしたって言うんだ。
 追いかけて
 追い付いて
 捕まえて
 ……それからどうする?
 決まってら、魂を取るのさ。

 たましいを、とるのさ。
 
 ずるずる滑る泥の斜面、スニーカーの中はぐちょぐちょ、お気に入りのジャンパーはメチャメチャ。
 ここで逃がせばきっとまたあいつは誰彼構わず殺すだろう。
 マカのようにあのちっぽけな飛び出しナイフで刺されるんだ。
 目の前で小さく呻いてその場に崩れ落ちた我が主は、俺に命じた。
 己を助けよ、ではなく、あいつを追え、と。
 同じことだ。
 俺が鋼の大鎌に姿を変え、それを彼女が振るい、人を模した藁束の首を刎ねたのと何も変わらない。
 俺達の講習での成績はトップだった。クラスメイトには年上だって沢山居る。俺よりずっと使い勝手の良い武器等ごまんとある。それでも俺達はテストで一度だってミスをしたことはないし、不調すら無かった。教師は皆俺達コンビを褒めた。
 “Wonderful”だと。
 “Especially Advantaged Talent”だと。
 “The pair of an ideal”だと。
 12歳になったばかりの俺と10歳になってずいぶん経つマカを、そう褒めた。だから12歳の男の子と10歳の女の子は得意になって胸を張った。

 ぼくたちは、えらいのだ。

 雨が降っていた。
 俺が追い詰め、足止めして、いつの間にか追いついていたマカが一足飛びに俺を掴んだかと思うと強制的に体が変化し ―――――――― あとは正直、よく覚えていない。
 魂の共鳴は、多分していなかった。
 覚えているのは、泥と霧雨のなかで立ちつくし、蒼く輝く魂を掌に頂くように支え、呆然としたマカの問いかけだけ。

 『私達、間違ってないよね?』
0211大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:47:54.72ID:OP7IQajf
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0212大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:49:18.55ID:OP7IQajf
 「なんだ、ゴーグル持ってきたのか」
 「まぁね」
 アッシュ・ブロンドの二つ括りを颯爽と解き、マカがクリア・ゴーグルを装備し、また髪を結ぶ。
 灰色の雲の下で蜘蛛の糸の束が結いあげられてゆく様は、何だか不吉なものに見えた。
 「いいか、今度こそ俺の言うこと聞けよ」
 「はーい」
 ぶすったれた不満げな返事をしながらも、マカの波長は変な揺らぎ方をしていない。……優等生だね、マイマスター。
 俺は彼女の手を恭しく――――御者がマダムにそうするように――――取り、一礼の後に自らの身体を作り変え、寒々しい灰色の空へ舞い上がった。
 俺には生きている人間の魂が見えない。だから自分の魂も、相棒の魂も見たことがない。(この際もう一生見ることがないことを祈る)
 見たことなどないから、どんな形なのか知らない。
 触ったことがないから、どんな大きさなのか知らない。
 知って感じられるのは、膨れ上がって共鳴する波長だけ。
 自分が彼女になって、マカが俺になる、その瞬間だけ。
 そしてその瞬間だけ、俺達は重力から解き放たれる……まるでお伽噺みたいだね。
 雪深い白とさらに濃い白雲のコントラスト。
 変身した俺の視界は不思議だ。鎌にある意匠の目がメインカメラで、マカの視界がサブカメラの様にその両脇に在り、さらに視界としてではなく感覚として予備のモニターが所狭しと並んでいる感じ。
 まるで昆虫の視界のように。
 「“ライトスタッフ”見たことあるか?」
 「“正しい資質?”」
 マカが興味もなさげにぶっきら棒に返した。
 「映画だよ」
 「ああ、あの、飛行機の?」
 「……ロケットの、だろ」
 前だけを一点見つめて集中のテンションを変えないマカ。まるで初めて自転車に乗っている子供みたいに。
 「一面だけ見て返しちゃったの、変な所で終わるなって思ってた。アレ長いのね」
 「俺は航空技術教本の参考資料ってのでデスサイズに見せられたよ」
 「パパ、意外にちゃんと仕事してる」
 ククッとマカが笑ったので、俺もつられてにやりとした。
 「そだな、意外に真面目だ」
 空を飛んでいる。少々のスピードさえあれば、ふらつきは感じなくなった。
 人を乗せて空を飛ぶ。
 それがどれほど恐ろしい事か叩き込まれて尚、俺はマカを空へ向かわせる。
 ジャッキーに尋ねた。
 恐ろしくはないのかと。
0213大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:51:17.08ID:OP7IQajf
 「……で、その映画がどうかしたの?」
 「その映画の冒頭でさ、飛行機が落ちるだろ……空を飛んでお前の靴底が地面から離れる瞬間、そのシーンを思い出す」
 「げー、やめてよ縁起でもない!」
 ジャッキーは答える。
 恐ろしいから必死になって彼女をサポートするのだと。殺させない為に我々が居るのだと。
 俺はそれを受けて更に訊ねる。それは勇気なのか、使命なのか ――――――― 果てはあるのかと。
 ジャッキーは歌った。

 "The answer, my friend, is blowin' in the wind"

 『俺、飛行機乗りの旦那より地上で待ってる嫁さんの方に感情移入したんだよ』
 俺は言わなかった。
 「やだ、どこへ行くのよ」
 ついっと柄の先端が揺れて、目に見えない何者かにひっぱられるようにひとりでに動く様に驚いたマカが柄を握る手の力を強めた。
 「たまにはドライブに付き合えよ、急げなくなったんだし」
 「それ寄り道しようって言った私への嫌味?」
 空気を切る音、マカのジャケットがはためく。少し高度を上げる。また、風切り音。
 「自主練ってことでいいんじゃね?」
 「……寒いんだけど」
 「風呂が楽しみだろう?」
 「帰りの長距離運転に備えてゆっくり体を休めるんじゃなかったの?」
 「まぁまぁ」
 さらにスピードを上げる。もう、マカが勝手に飛び降りたり出来ない高さとスピードだ。
 「―――――――― あんたまさか、私たち二人だけでミッションやるつもりじゃないでしょうね!?」
 「……勘のいい女は嫌いだなぁ」
 「バカ! 規則違反よ! 万が一があった時、キムやジャッキーにも迷惑が掛かるじゃない!」
 「これ以上掛けなきゃいい」
 「……ったく……最近はお利口にしてると思ってたのに」
 「ハン、Honor studentなんてゴメンだね。だいたい買い物にゴーグル持ってきてるお前に言われたかねぇよ」
 「……ちっ」
 「わァるい顔だこと、ご主人様!」
0214大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:52:19.61ID:OP7IQajf
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          ☆★☆★☆ ★☆★☆★
0215大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:53:14.91ID:OP7IQajf
 山里を混乱させ街道や畑を荒らす空飛ぶ怪異の正体。
 それはとてもおぞましくも哀しいものだった。
 「お前の魂、いただくよ!」
 鋭い声が飛ぶ。マカはいつも呪文を唱える。今からお前の命を貰い受ける、と……どんなものにも宣言をしてから俺を振るう。ソレが許せぬ“考え得る限り最低の殺人鬼”であろうと、ソレが“亡き子を思う余り怪異と化した鷲の母親”であろうと。
 ボロボロに砕けた肉塊、その隙間を縫う骨、撒き散らされる腐臭は人のものか。
 体に巻き付いた筋には二週間ほど前までは赤が滴っていたろう、今となってはどす黒く変色した、心の臓。
 「……どうだ、アイツの魂は……」
 何を思ってそう尋ねたのか自分でも良く解らない。
 俺には魂が見えない。
 リストに入っている悪人の“悪魔色に滲んだ魂の揺らめき”など知り得る筈もなく、感覚もない。
 ただ分かるのは、マカの魂が微細に震えていることだけ。
 「……………………」
 マカは唇を少し噛んだだけで何も答えず、魂の波長を強くした。
 『魂の共鳴!』
 はじける血流の轟きが姿を無機物に変えた俺の背筋を掛け昇ってゆく。こめかみがピリピリ騒いで鼻先から足の爪まで突き抜ける衝動。
 今この瞬間、俺はマカで、マカが俺だ。
 ダンスを踊るように力の流れがハッキリと判る。目に見えるよりももっとクリアに。
 腕を振り上げる瞬間、自分自身を振り上げている。
 命を奪う刹那と言うのに煩わしいほど高揚していて、まるでケツを振る春先の猫だ。
 知性が無くなる。
 自分の身体だけになる。
 こんなもの、情熱でも勇気でも、ましてや使命なんかじゃ絶対ない。
 狂気だ
 発情だ
 快楽だ
 ……だからお前は呪文を唱えるのかな。「今から我々の行うこれは殺傷である」ってさ。
0216大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:55:31.66ID:OP7IQajf
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          ☆★☆★☆ ★☆★☆★
0217大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:57:45.26ID:OP7IQajf
 魂の共鳴には後始末がある。
 安全な場所に戻ると、いつもフッツリ神経の糸が途切れて二人ぐったりした。
 ものすごく集中して息を詰めているのと同じように、脳味噌の中身の栄養がすっからかんになる。指一本だって動かしたくなくなるくらいだるいのに、身体にめぐりまわる血だけがビートの尾を引いてズキズキ踊っているのが面倒くさくて嫌。
 感情のコントロールは効かなくなるし、全身だるいし、頭は回らないのにセンサーだけ過敏で、とにかく、本当に疲れる。
 俺の部屋のカーペットの上で、ジャケットを羽織ったまま街のケーキ屋の袋を傍らに置いて視線もうつろなマカはぼそっと呟いた。まるっきり独り言と同じに。
 「寝ようか」
 「分かった……立てるか?」
 言って腕を引張って立たせた。俺がデスサイズになった一発目の共鳴と言えど……あのリストにない“空飛ぶ変な男”と戦った時の夜だってこうはならなかったってのに、マカは足取りふらつきながら俺のベッドに倒れ込む。
 「……君の部屋はあっち、そこは僕の寝床。死武専男女パートナーのお約束その1、どちらかが15歳を超えたら同じ部屋に宿泊してはいけません」
 「宿泊なんかしないわ」

 ねぇソウル、寝ようか。

 布団に押し付けられた口から出た、くぐもった声。背筋が反射でそそけ立つ。
 ――――――――俺達ってそんな関係だったっけ?
 なに、オマエ俺の事が好きなの? ……などと言えたらもはやそれは俺ではない。
 「……それで「寝ようか」なんて言ったらお前」
 俺はマカがそっぽを向いているのが好きだ。
 俺の事なんかどうでもいい風に、俺の事を全く意識しないように、俺のことをすっかり忘れた顔が好きだ。
 そこには立派でぴんと張った勇ましく凛々しい魂がたった一つで天を向いてすっくと立っている。
 何度かレンズを向けてシャッターを落としたくなる衝動に駆られた。
 特別な美人じゃないし、アイドルみたいに可愛い訳でもない。すっごい好みの顔には程遠いし、一目惚れ出来るほどの魅力などと言ったら笑ってしまう。
 なのに不思議だな、マカがたった一人で居るのが、俺はなぜか好きなのだ。
 曖昧に。
 ……だからなんだかこういうのは違うような気がするよーな、しないよーな。
0218大空を飛ぼう2013/05/07(火) 19:58:18.94ID:OP7IQajf
 マカに初めて会った時、不幸な子供の匂いがした。
 実際彼女を表に当てはめればそうだった。
 父と母は離婚の危機で、父の勤める寄宿学校に放り込まれているたった10歳の女の子。実際に離婚が成立したのはマカが13歳の頃。
 3年間、俺は家族代わりだったし、勤めてそのように振る舞ってきたつもりだ。良く出来た己の兄を模して。
 その度に何かがどこかへ溜まってゆく気がした。
 魂の内壁にへばり付く何かは据わりが悪くて度々不安で不愉快になった。
 まるで底なし沼に引きずり込まれるような。
 「…………………………」
 頭が痛い。血が狭い血管に目一杯送り込まれているからだろうか。
 分厚いジャケット、固いベッドカバー、薄暗い部屋、窓の外には雪がちらついている。
 自分の白い髪が頬に垂れさがってて、アッシュブロンドが鈍くうねっていた。
 身体を揺さぶると木が軋む音。
 「冗談で済むと思ったのか、お前」
 「……………………」
 「そんな冗談、俺に言って、許してもらえると思ったのかよ」
 「……………………」
 「俺なら何を言ったっていいと思ってんのか!!」
 うつ伏せのマカの肩を力いっぱい掴んでひっくり返した。プチプチと何かの糸が切れる音が聞こえた。
 「何か言えよ!!」
 押し倒したマカはそっぽを向いている。
 俺の事なんかどうでもいい風に、俺の事を全く意識しないように、俺のことをすっかり忘れた顔で。
 でろんと首が力なく曲がっていて、まるで死体だ。
 「何か言え!」
 大きく揺さぶってもマカは返事をしなかった。瞬きをゆっくり、一・二度。
 「………………なにか……言ってくれ……!」
 ジャケットのボタンが飛んだのか、少したわんだ胸元に額を押し付けてくしゃくしゃになった顔を隠した。
 自分の息だけが荒くて気持ち悪いと思う。
 「しんどいなら、しんどいって……言えよ……俺、パートナーだろ……」
 わからない。
 わからない。
 マカはちっともわからない。
0219大空を飛ぼう2013/05/07(火) 20:00:59.03ID:OP7IQajf
 恐怖で血が冷たくなる、とはどこの国の慣用句だったか。
 プレゼントを開ける時に包装紙をビリビリに破くタイプと丁寧にシールを剥がずタイプが居る。兄貴は多少破くことに頓着しない人で、俺はそっとリボンを解く瞬間が好きな奴だった。
 何度か夢に出て来たマカは昔の制服で、糊のパリッと効いた白と彼女の眼のように濃いくすんだ翠色のネクタイをしているから、俺はそれをそっと解くのが好きで……そのシーンは必ずある。
 結び目の上に指をさしこんで、左右に揺さぶる。
 すると戒めが少し緩んでネクタイが幾分引張り易くなった。
 俺はさらに指の数を増やし人差し指と中指を布の竜巻の中で開いて、二本の指を抜き去る時にネクタイの布を挟んで引っ張るんだ。
 すると、するする伸びたタイが解けて、一本の棒になる。
 その棒の先には目を閉じたマカが居るのだ。
 眠っているようでもあるし、微笑んでいるようでもあるし、恥らんでいるようでもある。
 だからいつか本当にそうする時は、是非とも制服を着ている時にしようと思っていた。
 ……なのにああ、人生って上手くいかない。
 今の制服にはタイの結び目が無い。セーラー服にボタンホックで襟の裏にくっ付いてるだけ。
 引っ張るだけでこの通りプチっと音を立てて取れる。手応えも達成感も高揚感もへったくれもない。
 こんなもん、取って何が楽しいんだ? 死神様は何も解っちゃいねぇ! あと胸元にくっついてるボタンホックで留めるだけの逆三角形の布。これも嫌いだ。引っ張ればすぐなんてお手軽過ぎていやらしい!
 そらみろ、やや濃い目の蒼い布がプツプツ音を立てるだけで落ちたじゃねぇの。
 ジャケットのダブルボタンを外せば、後はもう
 セーラー服の脇にあるチャックを上げて、後はもう
 裾から手を突っ込んで、中にあるシャツを捲り上げて、後はもう
 存在意義を疑う生意気ブラジャーに指を突っ込んで、それを進めて、後はもう
 肌だ。
 ささやかな脂肪の盛り上がり。
 その下には骨。
 更に下には心臓。
 ソレを蔽うように魂の輝き。
 それを全て食い破れば触れられるのか。
 君の心に。
0220大空を飛ぼう2013/05/07(火) 20:01:48.99ID:OP7IQajf
 「……脱いで」
 露になった腹に唇を置いた。暖かくてやわっこい匂いがした。子供の様な。
 頬を近づけると少し汗ばんで痙攣しているのが判ったので、舌を当てた。びくんと腰が跳ねたので笑いそうになっちまう。
 瞬きを数度したら、捩るようにマカの腹がうねった。まつげがくすぐったかったのだろう。
 腕は別に押さえつけてない。ジャケットの袂辺りに腕を突いてるので少々身動きが取り難いかも知れないが。
 もぞもぞと衣ずれの音がしてくしゃくしゃの髪をしたマカが無表情に起き上がり、セーラー服を恥じらいの仕草もなく脱ぎ捨てた。
 ……やけくそだなぁ……
 バサッっという硬目の布が床に落ちる音と共にまたマカはベッドに逆戻り。
 ……………………
 …………………………
 ……くっそ……異様にムカつく……
 なんだこれ! こんなの俺、馬鹿みたいじゃん! 一人でコーフンしててさぁ!!
 「……アッタマ来た」
 上半身すっぽんぽんでも全く動じてない顔のマカ(薄暗くてよく見えないんだけどさ)の両手を急に掴んでベッドに押し付ける。痛いのか、恐怖からか、眉がちょっとだけ顰まる。……でも、それだけ。
 「デスサイズ舐めんなよ」
 ガツン、と額を強く打ち当てる。
 「ぎゃっ」
 流石にマカが声を当てて動揺した瞬間。
 マ カ の 魂 を 乗 っ 取 る。
 ソウル・ハック。魂の共鳴は職人が武器に魂の波長を送ることで増幅する。だったら理屈として逆アプローチだって可能だよな。
 だがまぁ理屈は理屈、実践で試すのはこれが初めて。
 全身全霊の力を絞り出して引き摺りこんでやる。鍵の掛かる真っ暗な俺の部屋に!
0221大空を飛ぼう2013/05/07(火) 20:03:44.22ID:OP7IQajf
.
         く´
    ___    _Σ
   冂|    |  |
   | .|7 _(∵)_
   凵'__> レN ∠,   後編につづく〜
   └──i    /
      ./    〈
      レi   ∧}
        7 /
      _,,z' く_
.
0222名無しさん@ピンキー2013/05/08(水) 20:54:54.76ID:6O778w44
続き期待してます!
0223名無しさん@ピンキー2013/05/27(月) 02:33:49.31ID:Hnqj/a3A
ソウマカ!!
ずっと待ってたかいがあった〜!
続き期待しています!
0224大空を飛ぼう2013/09/01(日) 02:37:05.04ID:ioNgW3KV
ごめんよ、ずーっとほったらかしで
ちゃんと終わらせるからね
んじゃ後半の前半いってみよー
0225大空を飛ぼう2013/09/01(日) 02:38:17.77ID:ioNgW3KV
 蝋の燃える匂い。
 クラクラと暖かい部屋は薄暗くて、大きなグランドピアノが置いてある。
 少し離れた場所には古い蓄音器。鳴っているのはドビュッシーの「月の光」のエンドレス。
 そこから2メートル右に俺は座っている。ひじ掛けの付いた赤いビロードが張られた椅子。まるで魔王だ。
 足元に真っ黒のドレス、これまた真っ黒のピンヒール。……赤い絨毯の上に広がってると、“染み”みたいだ

な。
 足を組んで。
 ひじ掛けに頬杖を突き。
 ドアには鍵が掛かっている。
 にやにや笑って指を鳴らしたら、う、うぅ……と、声。
 「……お姫様、ようこそ魔王城へ!」
 声を上げてピン・ストライプ・スーツの膝を叩いて両腕を広げる。
 頭を振り振り、マカが呆れた顔をしてゆっくりと絨毯の上に座った。
 「あんた……ここ嫌いだったんじゃなかったっけ?」
 「時と場合によりけり、サ」
 「……面倒なことしないでよ……」
 前髪を掻きあげる仕草。
 「どっちがだよ、バカマカ!」
 「……………………」
 罵声にむっつりと黙って唇を尖がらかせ、マカがそっぽを向いた。
 「ここで俺に逆らおうなんて100年早ぇ!」
 片手をマカに向かって広げると、白い蜘蛛の糸が蛇のようにマカの手足に巻きついて、床に張り付けの様な格

好になった。それでもマカは目を明後日の方向に背け……無言。
 こんなスペクタクル・イリュージョン新技を繰り出したってのに、なんでノーリアクションなんだよ!!
 「……なーマカ。つまんねーよ、もちょっと反応してくれ」
 「………………アン、イヤッ、バカ、ヘンタイ! モットヤサシクシナサイヨネ!」
 「…………………………」
 思わず白目を剥いてしまった。
 「マカって非処女?」
 「ンなワケないでしょ!?」
0226大空を飛ぼう2013/09/01(日) 02:39:21.73ID:ioNgW3KV
 「押し倒されて男が腹の上でハァハァしても無反応とかありえなくねぇ!? なに俺そんな下手なの!? 気持ち良くないか!? 特殊な性癖だったら言って!? 善処すっから!」
 「ババババッカじゃないの!? そんなことある訳ないじゃん!!」
 「俺だって初心者なんだよ! 頼むよ! トラウマになるぞこんな初体験! 頑張ってお腹くすぐったりおっぱい触ったりしてるんだから、もうちょっと恥らったりはにかんだり照れたりしてくれよぉぉぉ!」
 「へ、変なコト言うなぁぁ!」
 「なんだ!? 何が足りない!? お前のうすっぺらい身体はどこを触ったら感じるんだ!?」
 「しししししるかぁぁぁっ!」
 「なるほど尻か! 撫でまわすか!?」
 「言ってなぁあぁいっ!」
 指を鳴らす。マカの身体がゆっくりと立ち上がって丸っきり、どこぞの罪人みたくに磔刑だ。
 ただし、高くは掲げられずに俺と同じくらいの身長になる程度。
 それがもぞもぞジタジタちょっと抵抗を始めている。……いいね。
 「蜘蛛の糸に掛かったクロアゲハって感じだな。黒い服に張り付いてる糸の切れ端が淫靡でそそるぜ」
 「バカッ! やらしいこと言うなっ!」
 ……何を想像したんだお前は。
 「なーに言ってんだ。その為にここに引きずり込んだんだぜ、俺」
 目を見てそう言ったら、初めて表情が無理やりでなく動くのが分かった。
 「へッ……なにやらしいこと考えてんだよお前」
 「やややらしいコトなんて考えてないわよ! あんたが言ったんでしょエロソウル!」
 「いーーや。考えたね、お前、エロいこと考えた。今。俺には解る」
 俺はしゃがみ込んで黒のドレスの裾をちょっと捲り上げる。
 「やぁ! ちょっと!」
 「ここに来るとお前どんなパンツになってんだ? いつものがっかりパンツだったら泣いちゃうぜ俺」
 「馬鹿! 馬鹿! サイテー!」
 細い裸の足首に巻き付いた黒い編み紐と白い蜘蛛の糸。うーむ、エロい。
 つつつーっとスカートを更に捲り上げる。生傷の絶えないはずの膝小僧や脛は白磁を思わせるようにつるんときれいで、ああやっぱりこれは夢なんだなぁと思った。
 「イヤー! あ、ん、たぁぁ! お、覚えてなさいよソウルーッ!」
 罵詈雑言も何のそので、俺はスカートの裾を中程に持ち替えて更にゆっくりめくり上げる。
0227大空を飛ぼう2013/09/01(日) 02:41:59.88ID:ioNgW3KV
 「おおー、マカさんの太腿ですッ! 健康的にむちっと育ってますなー」
 「やだ馬鹿ちょっとっ! そ、それ以上やったらただじゃおかないから!」
 「……………………」
 思わず半目になった。お前が俺を誘ったんじゃなかったっけ?
 「だがしかし、ここまでは当方もよく目にしております。ミニスカートで見える範囲ですからねッ! さていよいよ禁じられた秘密の花園に我々取材班は立ち入りましょう!」
 「ギャー! バカバカバカー!」
 べろ、と捲ったそこには……
 「oh……黒のレースって、お前」
 「バカーーーッ!!」
 ぴかぴかと光沢のある布が意外にデカいケツを蔽い、前と横にはたっぷりのレースがふわっとあしらわれ、サイド部分は編み上げになっている。
ちょっと俺らの歳にしては背伸びし過ぎな感じの……ショーツだにパンツだのパンティだのとは言えぬ……そう、まさに、スキャンティって感じの下着。
 「こういうのが趣味? 意外」
 「バカバカバカバカー!! バカー!!!」
 ぐわんぐわん、渾身の力で揺さぶりまくるマカの抵抗に、ある筈もない蜘蛛の糸の途切れを懸念し、スカートを下して立ち上がる。
 ぐすぐすと顔を真っ赤にして俺を睨み上げるマカ。掠れ気味の「月の光」に紛れてハァハァ息切れが聞こえる。
 ズボンのポケットに両手を突っ込んで、芝居がかった声を上げ首を傾げて言った。
 「どうしよマカちゃん……僕ズボンの前が苦しい」
 「バカーッ!!!」
 ぎゅっと目を瞑って大声でマカが怒鳴った。もう俺の顔を見るのも拒否するらしい。
 「ホントホント、触ってみる? ……あ、腕吊ってるんだっけ、じゃあ」
 「ヒャぁ!?」
 マカの腰を掴んで、自分の腰にくっつけてやった。もちろん前から、身体の凹凸を埋める様に。
 「……な?」
 「ぃひゃあぁぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁ……!」
 「お、おい、動くな動くな、気持ちいいだろアホ!」
 「やだァ! 離せ! 放してぇ!」
0228大空を飛ぼう2013/09/01(日) 02:42:37.40ID:ioNgW3KV
 涙目で腰を振るマカがもう面白くて面白くて仕方がない。嫌がってるのに顔が真っ赤で、息が荒くて、汗ばんでて、うん……エロい。
 「落ち着けって、マカ」
 「これが落ちつけるかァァァァァ!!」
 ……ごもっとも。
 「……いいから。どんな感じだよ、コレ」
 「こ、腰を動かさないでッ! やだバカもうやぁ〜〜!! 気持ち悪いぃぃぃ!」
 「お前が暴れるから腰持ってるだけだ。じっとしてたら何もしてねぇのが解るよ」
 気持ち悪いとか言うなよ、傷付くだろバカ。
 ひっくひっくとしゃくりあげる声が震えて、マカはようやく動くのを止めた。
 「……な、俺何もしてないだろ」
 「お、押しつけてるじゃないのよぉぉぉ……」
 「だってお前のスカートってドレープあるし、こうしないとくっつかねぇんだもん」
 「くくくっつけるなって言ってるのよォォォ! 離してェ!」
 「くっつかないと解らない事もあるだろ。……ンで、どうだよ俺の」
 「どうもこうもないわよォ! 硬くて気持ち悪いィぃ!」
 泣くぞ、オイ。
 「……今、スカートとズボンとお互いの下着を挟んでこんくらいの気持ち悪さだ」
 深呼吸気味にブレスを取って、続けた。
 「お前がやろうとしてた事は……間の布を全部取っ払って、この『硬くて気持ち悪い物』をお前の腹の中に入れるコトだ」
 息を呑むのが聞こえた。
 唾を呑み下す音も。
 「しかも一度収まるだけじゃねぇ。何度も何度も出たり入ったりする」
 身体がガチっと固まって、震えている。
 「解ったか、俺の前で服を脱いだ後起こるのはセックスなの!」
 言いきってから二・三度、強くマカの腰を引きよせてグラインドしてやった。
 「ぃきゃぁ……!」
 潰れた小動物の断末魔みたいなのが耳元で聞こえ、力いっぱいに抱き締めてからそっと離れた。
 涙と汗で頬に貼り付いた髪が情事の後みたいでゾクゾク来る。額どころか、耳まで真っ赤になって項垂れるマカの唇が濡れているが……ありゃ涎か?
0229大空を飛ぼう2013/09/01(日) 02:43:30.96ID:ioNgW3KV
 ニヤつく口元を蔽いながら逆の手で指を鳴らして糸を消した。まさに糸の切れた人形が如く、赤い絨毯の上にしゃがみ込むクロアゲハのお嬢さん。
 「いつだったか、俺が性欲爆走させてお前を襲った事があったよなぁ? もはやあんなモンじゃ済ませねぇぜ」
 ハァハァ、途切れない唇から洩れるマカの吐息。少し唸りや泣き声も混じっている。
 「バカ……」
 「おう、お前がな」
 ズボンのポケットに両手を突っ込む。ああ、この部屋には窓が無いのが悔やまれるぜ。
 「バカ……!」
 「これに懲りたらああ言う事は二度とするな。次はねぇから」
 「バカァ……!」
 両手で顔を覆ってマカが泣いた。「月の光」はまだ流れている。全く、しょうもない話だ。 
 ……クソッたれだ、ホントに。
 「このインポヤロー!」
 ――――――――あんだとぉ?
 あんまりな罵倒にくるり振り返って睨み見下す。両手で顔を覆って御伽噺の囚われのお姫様みたいな格好のマカを。
 「あんたいつになったらマトモなキスが出来るワケ!?」
 「……はぁ?」
 「サル! バカ! アホ! 腰を擦り付ける前にすることあるでしょ!!」
 ……………………………………………………………………………………なんだ、て?
 「…………バカァ……! バカァ……!」
 ひっきりなしに涙を拭って洟を啜り、しゃくりあげる吐息。
 「……え……え?」
 フラフラと足元がぬかるんで。
 「えっ?」
 へたりとその場に座り込んだ。
 ちょっと意味が分からない。
 「何も解ってないくせに!」
 叫ばれて、思った。
 解ってるよ。
 お前のことなんか、解ってる。
0230大空を飛ぼう2013/09/01(日) 02:44:23.89ID:ioNgW3KV
 だからこんなに胃がムカムカしてるんじゃねえか。
 「これでも女の子なの!」
 知ってるよ。
 ほっぺたから首筋の線とか、胸から脇にかけての凹凸の無さとか。
 「もっとちゃんと扱ってよ!」
 ちゃんとってなんだよ、頭下げておっぱい触らせて下さいって言えってか? 君のうなじを見てるとムラムラするので髪を下して欲しいですと交渉しろってか?
 そんで、今の関係をぶち壊せってか。
 プライドと劣等感、それから少し羞恥心。
 「………………………………………………すき。」
 「遅いッ! バカッ!」
 「…………スキ。」
 「知ってるよ! ソレを言うのにどんだけかけてんだ!?」
 「好き。」
 顔を覆いながら泣いている女の子に、懺悔するみたいに何度も言った。
 涙は意地で飲み込んで、ただ壊れたレコードのように、今まで沈めてきたたくさんの短い文言を繰り返す。
 すき
 すき
 すき
 こんな簡単に口から出る二文字を、どれだけ飲み込んだんだっけ?
 すき
 すき
 すき
 形にならなかった言葉は短くて、頼りない。
 すき
 すき
 すき
 愛してるには全然足りないのに、それよりももっと強烈な。
 すき
 すき
 すき
 説明しているような、押し付けているような、諦めながら独占しているような。
0231大空を飛ぼう2013/09/01(日) 02:46:03.09ID:ioNgW3KV
 すき
 すき
 すき
 「ソウル」
 「……なに」
 「うるさい」
 「………………すき」
 「もういいよ」
 「すきだ、マカ」
 「知ってるって」
 「オマエは?」
 両手の指先を握る。細い指だな。……ちっぽけな、子供みたいな、手。
 少しだけこちらに引っ張ると、反射のように引っ込む仕草を愛しいと思った。
 胸が音を立てている。
 魂がザワザワ煩わしいのに、嫌な気持ちにならない。心臓がブクブク泡立っているのに、焦燥感がない。脳が撹拌され、静かにクラクラ酔っている。
 「マカは?」
 もう一度訊ねた。
 指先が熱い。
 答えが欲しくて、言って欲しくて、俺に捧げて欲しくて。
 祈りのように指を引き寄せる。どうか強く引っ込めたりしないで、されるがままになってくれと願いながら。
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜すきよ! スキじゃなきゃ、こんな所まで来るワケないじゃない!?」
 紛らわすように怒った振りをする真っ赤な顔にキスを。
 キスを。
 キスを。
 「やだ」
 「……な、なにが……?」
 「そんな言い方は嫌だ、ちゃんと言えよ」
 言いながら額で彼女の顎を上げて、唇をこすりつける。……少し、恥ずかしがっているのが解った。淡い満足。
0232名無しさん@ピンキー2013/09/15(日) 18:21:20.85ID:O4Vk/Hom
ソウル終わったようだなぁ
まだ読んでないんだけど、またソウルで創作したいしたいと思いつつ数年たっちまってる
クロナどうなったんだろう
0233大空を飛ぼう2013/10/20(日) 23:33:58.35ID:zuDSDmIa
 「マカ」
 名前を呼ぶ。
 「……マカ?」
 それは尻上がりな語調だったけど、尋ねたのでも呼んだのでも催促したのでもない。じゃあ何かと問われれば言葉に出来ないけれど。
 「マカ」
 魔法の言葉だ。この言葉を呟けば、暗いこの部屋にさえ明かりが灯る。
 「マカ」
 顔を思い浮かべれば、永遠に続く薄汚れた下り階段さえスキップできるぜ。
 「マカ」
 恐々折り曲げられた指を伸ばすように包み込んで握り、また少し引き寄せた。何かして欲しいと乞うのではなくて、引っ張り返す抵抗を感じたかったから。
 いかに俺をすきか、具体的には(例えば地球何個ぶんといったようなもの)どれくらい、と聞くことが、どれほど無意味で、その割には案外相手を苦しめてしまうということを俺は知っている。
 愛だなんていうあやふやなものをそもそも定義づける事にまず疑問を抱くのに、どのくらい、といった範囲なんて尚更だ。
 しかもその言葉は、幸せの絶頂のときに聞かれればまだしも、至って普通、むしろ(時には意味もなく)不安がっているときに聞かれれば相手は自分を信用していないのかと感じるだろう。全くなんて、考えなしの狭苦しい言葉なのか。
 だけどそんな考えなしの、狭苦しい言葉を俺が今口にした理由はたった一つしかない。
 自分がどうしようもなく不安がっているその時、その言葉を相手に投げかけることは、どうしようもなく甘美で、堪え難いことのように思えるのだ。
 自分の期待していた答えが返ってこなかったときの落胆さえ忘れて、その言葉を呟く。
 どうか脇目もふらず俺の事だけ考えてと、そう言えない代わりにその言葉が漏れてゆけば、すこしでも不安なこの気持ちが和らいでくれるのではないか、なんて、勘違いも甚だしい。
 だけど、ただただ、君があいしているのは俺一人だと、実感したい、だけだったのだ。
 いままで口に出来なかった分。
 いままで腹に押し込めてた分。
 許される今この時だけでも、安心したいだけなんだ。
 そして望むことが許されるならば、同じ方法で君に安心して欲しい。
 ガサガサの魂の波長で、お互い擦り傷を増やさないために。
 不協和音でうるさい波長で、誰かの不安を増やさないために。
0234大空を飛ぼう2013/10/20(日) 23:34:31.13ID:zuDSDmIa
 くすんだ深い翠の瞳が薄暗い蝋燭の灯りにすら輝いて、俺を見ている。
 俺の赤い目を覗き込んでいる。
 それはとても恐ろしかった。
 今までずっと怖かった。
 必死で隠して塗り込めて知らん振りをしていた臆病者の自分を掘り返されるんじゃないだろうかと。白日の下に晒されたつまらない自分を嗤われるに決まっていると。
 今だ
 今なら
 今こそは
 憎んで慣れて、或いは頼りにしていたこの自分の嫌いな部分を曝け出せる気がする。
 今この瞬間にこそ、俺は彼女に殺されたいと願っている。
 ああ、そうか。俺はきっと、今こうして彼女の手を握って身体を向き合わせているけれど、現実の世界ではきっと、あのベッドの上で、草臥れた制服のまま、抱かれているのだろう。
 だからもう何も怖くないのだろう。
 「マカ」
 「………………なによ、ソウル」
 ビリビリビリビリ! 電撃を受けたように、間が空いたマカの声に胸が痺れた。背筋に奇妙な感覚が走る。
 危うくビクッとマカにつないでいる指を引込めそうになって、驚いた。
 「……ソウル?」
 また名が呼ばれる。
 びく、と胃が持ち上がる。
 「――――――――♪」
 恐る恐る顔を上げてマカを見ると、何とも言えないほど……いい顔してやがるぜ。
 「ソウル!」
 びくっ
 「そ・う・る」
 ぞわっ
 「ソーウールー」
 うぐぐぐぐぐぐ……!
 かっと頭に血が昇って、おっかなびっくり握ってた指を全部こっちに引っ張り込んで手を全部掴むよう握る。
 「マ・カ!」
 びくん、とマカが身悶え、顔を真っ赤にしてこっちを睨んだ。……ははぁん、そーゆー【ルール】か……!
0235大空を飛ぼう2013/10/20(日) 23:35:43.71ID:zuDSDmIa
 名前を呼び合って、身を捩り合う。途切れ途切れにあの子の名前と自分の名前。言葉が具体的に力を持っている。この繋いだ指先に籠る熱と同じように。
 息が苦しい。胸が疼く。ゆっくり高揚している。
 それはまるでロンドーのようだ。繰り返し繰り返し、ラリーのように打って、打ち返して、魂の振動がどんどん強くなる。……狂ってしまいそうに。
 「ソウル」
 「マカ」
 もう何十回目のラリーか忘れた頃、真っ赤な顔の目を伏せたマカが俺の名前以外を口に出した。
 「この手が好き」
 手の甲にマカの親指が緩やかに突き立てられる。
 「ピアノの鍵盤の上で踊ってた、この手を好きになったの」
 ゆっくり持ち上げられた掌が熱く濡れた頬に当てられて。
 「いつか、こうやって触って貰えたら嬉しいなって思ってたわ」
 なぞる。俺の掌がさらさらのマカの頬を辿る。
 なんて官能的な仕草。
 胸元のボタンを外すよりも。
 「……俺は」
 手を伸ばす。
 何も考えず、ただ魂が望んで指し示す通りに。……怖くはなかったと思う。
 「この髪を好きになった」
 ふたつに括られたアッシュブロンドを左手で掴む。指に絡んで潰れる神の一房は柔らかく、ツルツルいい感触で心地良い。
 「時々、口に入れたいとか思ってた」
 ……変態っぽいな、我ながら。でもしょうがない、事実なんだから。
 「……口に入れて……どうするの?」
 少し逡巡したマカが俺を少し見下げながら尋ねた。
 「―――――――― 噛みたい。齧って、ぐちゃぐちゃにしたい」
 膝で立ち上がったマカを睨み上げるくらいの勢いで笑ってやる。怖がられたって、嫌われたって、もう、構うもんか。
 だってコレが本当の俺だもの。
0236大空を飛ぼう2013/10/20(日) 23:36:43.27ID:zuDSDmIa
 「………………………………」
 眉を顰めたマカが髪を結っていたゴムに指を掛けて引っ張る。するすると微かな音を立て、髪がほどかれてゆく。薄暗い照明に透かされて、くすんだ金色の糸がばらけた。
 「……これでも、私が好き?」
 ――――――――
 ――――――――
 ――――――――
 「……なに呆然とした顔してんの」
 「…………い、いや……お前がそういうこと言うと思わなかったもんだから」
 声が出ない。
 ああ、なんだか実感。俺は、俺は、俺は……今、マカに試されている。多分……愛とかいう奴を。
 「ちょ……ちょっとソウル……ど、どしたの……顔真っ赤だよ……!」
 言われて気付いた。慌てて顔を逸らして腕で覆う。
 やばい、はずい、まずい、きまずい!
 「ちょ、ちょっとまって、待ってくれ、その、やばい」
 「え、なんなの、ど、どうしたのよ!?」
 「バカ止めろ! 引っ張るな!」
 「なんで急に顔逸らすの!? 嫌なの!? なんなの、はっきり言いなさいよ!」
 「ちがう! み、見るな! こっち見るな!」
 「なによ、傷付くじゃない! キチンと言って! 仕草だけじゃ解んない!」
 ぎゅっと服が握られる。
 メッシュの長手袋をした手に締め上げられる。
 胸倉が痛くない程度に苦しい。
 ……切ない気持ちが力加減に変換されて自分に流れ込んできているような。
 「言ってよソウル……分かんないよ……
 音楽も、美術も……芸術なんて全然わからない……だって答えがないもの……感じたままでいいなんて……そんなの分かんないんだもん……」
 急にマカの声が歪んだ。随分と古い話を持ち出したものだ。そういえば、そんなことも言ったっけかな。
 「綺麗な絵なのは解るよ、どれがバッハかくらい解るよ……でも、それじゃ駄目なんでしょう?」
 俺の中で、マカの古い言葉は言われた瞬間ごと続いている。
0237大空を飛ぼう2013/10/20(日) 23:37:19.38ID:zuDSDmIa
 彼女の中にも、自分で言った事も忘れたような言葉が生きているのだろうか?
 「演者で音が違うとか、表現力の差異とか……ぜんぜんわかんない……!」
 マカの芸術音痴は結構なもので、あんなにきれいな字を書くのに丸も満足に書けない。空間認知能力がない訳でもないのに、ペンを渡して落書きさせても大抵は字か図形しか書かない。
 苦手意識が元々あったのだろうとは思うが、俺がどっちかっつーと感覚的な人間だから、余計コンプレックスになったのかも知れなかった。
 ―――――――― 俺が、優秀で勇敢で前向きなマカに劣等感を抱いたように。
 「マカ」
 「………………」
 「マカ。」
 「…………なに」
 「こっち向けよ」
 「……………………」
 億劫そうに、嫌々、互い違いにした眉のままマカがこちらを向く。
 「俺はお前が好きだよ」
 「……うん……」
 「髪を解いても、お前はお前だろ」
 「……ソウルの好きなバンドの事なんて何にも解らなくても……?」
 請うような顔が愛しい。抱きしめたい衝動を必死に抑えて前を向く。マカの顔を見る。逃げないで。
 「COOLな男は浮気なんかしねぇんだよ」

 昔、一度、キッドとブラックスターと馬鹿な話をした。
 女の子といつか そ う 言 う 事 になった時、どんな気分なのかな、とかなんとか。エロいDVDみたいに声を出したり腰をくねったり、自分がワケ解らなくなったりするのかなとか。
 確かその時、キッドは真面目な奴だから「生殖でなくそうするのは少し気が咎める。結婚もしていないのならば尚更だ」と居心地悪そうに答えたと思う。
 ブラックスターは、何だったかな。多分「子供が出来ないようにコンドームがあるんだから、それ以外にも意味があるんだろう。気持ちいいとかさ」と、やっぱり居心地悪そうに言ったハズだ。
 俺は何と言ったんだったか、もう思い出せない。
 でも新しく更新した答えなら今言えるぜ。
 『魂が共鳴するから。相手が欲しいと、お互いが思うから』
0238大空を飛ぼう2013/10/20(日) 23:39:28.10ID:zuDSDmIa
 くすぐるみたいにドレスの上からマカの肌をまさぐる。
 マカの手が俺のピンストライプのスーツのジャケットに忍び込んでシャツを捲る。
 今、共鳴していた自分たちの心が重なって、浸食し合っていることを互いに知りながら、それを止めようとは思わない。
 「目が覚めて、起きたら……変わってるかも知れないね、私達」
 「……そうだな」
 「また、波長が崩れたり合わなくなったりするかもよ」
 「……そうかもな」
 「死神様やパパにバレて、怒られたりして」
 「……困ったもんだぜ」
 呟きながら、相手の服を剥いで肩をまろびだした。―――――――― 夢の筈なのに、なんと生々しい。
 「折角デスサイズになったのに、退学にっちゃったりしたら困るね」
 ちいさなおっぱい。
 うすいむないた。
 じめんに へたりこんだまま ふたりで くらいへや。
 (お前が俺にくれた名前 俺が今自由なのを すげぇ感謝するよ)
 「マカが髪を解いてもマカのままなのと同じ。死武専辞めさせられても、俺はデスサイズのままだ」
 もう、こわくなんかない。
 先に進める。
 一人になったって。
 「俺はソウルさ。……だろ?」
 このちっぽけな魂のまま、お前をどこへだって連れて行くよ。
 お前の疑問にきっと答えてやる。

 『私達、間違ってないよね?』

 ―――――――― ああ、間違ってなんかない。
 俺達は俺達の道を歩いている。苦しいことも悲しいことも半分にしながら、堪えて耐えて、それでも歩いている。
 間違ってなんか、絶対に、ない。
0239大空を飛ぼう2013/10/20(日) 23:42:06.80ID:zuDSDmIa
 女の子の身体だなあと馬鹿な事を思いながら舌を這わせた。
 凹凸がない、ない、と思ってたケド……おっぱいもお尻もちゃんと柔らかいし、くびれもちょっとだけある。太ももは白くてぷにぷにしてて、背中を触るとビクビク反応して楽しい。
 髪がいい匂い。指に掛かる唾液の橋が面白い。絡む躰が温かくて、差し込む自分が震える。
 現実世界でするセックスもこんなに心地よくて愉快なんだろうか?
 息が穏やかでとろけるみたいだ。
 いつまでもこうしてたい。
 マカの身体と境界がなくなるまで沈み込んで……魂の共鳴のトキ、一つになるみたいに。
 「なぁ、マカ」
 「……ん?」
 安楽で疲れの全くないまどろんだ顔のマカ。
 ……ああ、一生このままコレが続けばいいのに。
 「そろそろ起きよう。いつまでもブラックルームに居たらマズい」
 「………………なんで? ここに居たら、ずっと気持ちいいよ……?」
 「だからさ」
 「……ワケわかんない」
 「嘘付け」
 半分の目で、俺がマカの顔を覗き込んだら、マカがはぁーっと深く長い溜息をついた。
 「意地悪なんだから、もう……」
 身体をマカが起こして、俺から離れる。今しがた合わせていた身体から雫が垂れて、まるで海から上がったみたいだなと思う。
 「……なぁ、マカ」
 「ん」
 「キッドを助けて、クロナも助けて、鬼神をやっつけたら」
 「………………………………」
 無言のマカが俺に背を向け、ドレスを着こむ。黒い血の鎧を被る。
 「ブラックルームじゃなくて、いつもの世界で、俺 ――――――――」
 そこまで言ったらマカがドレスを音をさせて翻し、唇の前に人差し指を置く。
 「駄目よソウル。そんなの、ちゃんと飛べるようになってからのハ・ナ・シ♪」
 いたずらっ子みたいにマカが「先に帰るわ」とドアの向こうに小走りで溶け消えた。
 残された俺は、少し笑う。
0240大空を飛ぼう2013/10/20(日) 23:42:37.62ID:zuDSDmIa
.
          ☆★☆★☆ ★☆★☆★
0241大空を飛ぼう2013/10/20(日) 23:43:59.53ID:zuDSDmIa
 「……あー……エライ目に遭った……」
 ジャッキーに跨り、キムがクリア・アイシールドを目に下しながらもう一度呟く。薬とババロアが効いたのか、二人の熱が下がって二日目。ようやく体調が戻って死武専に帰る日。
 「だーかーらー……悪かったっつってんだろー……」
 「別に恨み言いってるんじゃない! っつってんじゃん、何回も」
 バイクに凭れかかって、俺が眉を顰めつつ「へーへー、さいでっか」と唇を尖らせた。
 「飛行出来る生徒って少ないからね、試行錯誤してる後輩見てるの楽しーよン」
 キムのウインクにちょっと照れて頭の後ろを掻く。こーゆー顔してると可愛いんだよな、こいつ。
 「でも、乗せてる途中にエロいこととか考えたら乗ってる方は解るから気を付けろよ青少年!」
 「なっ……!?」
 顔をはっとあげたら、キムはまたウインク一つ決めて大空にぶっ飛んで行った。
 「私の口止め料は高いわよソウル!」
 物凄い捨て台詞を残しながら。
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 頭を抱えながら悶えていると、声がかかった。
 「あ、もう行っちゃったんだキムとジャッキー」
 ちぇっ、離陸のコツ見たかったなぁ。マカが今回の件の書類の入った紙袋を抱えながらいつの間にか後ろに立っている。
 「ねぇ、私達も空飛んでかえろっか?」
 笑うマカの顔が朝日に眩しい。
 「…………うっせ、早くケツに乗れお姫様」
 「はぁい! カボチャの馬車さん!」
0242大空を飛ぼう2013/10/20(日) 23:46:42.04ID:zuDSDmIa
         く´
    ___    _Σ
   冂|    |  |       ほんとに いろいろ スマンカッタ
   | .|7 _(∵)_
   凵'__> レN ∠,     はんせいしてます
   └──i    /
      ./    〈
      レi   ∧}     んじゃ バハハ〜イ
        7 /
      _,,z' く_
0247名無しさん@ピンキー2014/06/22(日) 13:50:22.56ID:ceNkVqTe
組手しててなんかエロい気分になってちちくりあっちゃうブラマカ 小説書けないからネタだけ投下する
0248名無しさん@ピンキー2014/10/12(日) 17:45:03.66ID:MLKE505h
ノットも完結するらしいね〜
0249名無しさん@ピンキー2015/05/25(月) 20:23:11.66ID:9dmIHLM0
過疎りまくってて寂しいので保守
0250名無しさん@ピンキー2015/07/11(土) 22:55:44.55ID:n1CWAKiu
祝、大久保先生新作age
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