突然だが、私、春原萌葱は生まれつき超能力が使える。

……なんて言い方をすると過剰な期待をされてしまいそうだが、実際はそんな大層なものではない。
なんせ、私が使える能力と言ったら「数メートル以内にあるものを手を触れずに動かせる」だけ。それも出力はたかだか自分の腕力ほどもない。
なので、せっかくの超能力だが、使う場面などせいぜい寝転びながらテレビを消したいときとか、狭い隙間に落としたものを拾う時くらい。
とはいえ、ちょっとした場面で便利な能力であることには変わらない。別に、持っていて損をする能力ではないのだから、「他の人にはできないことができてラッキー」くらいに考えていた。

――少なくとも、今日までは。



時は四月半ば、ようやく厳しい寒さも越え、少しずつ春めいてきたある日。

「ハックション!」

「ふぇっくしょん!」
「へーちょ」
「まもの」

朝の通学路で、あちこちから男女問わず、くしゃみの音が聞こえてくる。
今朝のニュースによればどうやら本日は記録的な量の花粉が飛んでおり、花粉症の人は必ずマスクの着用など対策を怠らないように、とのことだ。

「くしゅんっ! うぅ〜もうこの季節やだー! 花粉なんて世の中からなくなればいいのに……」

目を真っ赤に腫らして私の隣でぼやいているのは、クラスメイトの香奈だ。

「香奈……花粉が世の中からなくなったら、世界中の植物が絶滅して人類が滅びると思うよ」
「そんなこと分かってるわよ! 全く、いいよね萌葱は気楽で……花粉症とか全然持ってないんでしょ? ……くしゅんっ」

自慢という訳ではないが、私は花粉症というものを発症したことがない。
つまり申し訳ないが、香奈が人類の存亡を犠牲にするほど花粉を憎む気持ちも、私にはこれっぽっちも共感できないのだ。

「あうぅ〜……言っておくけど、萌葱だって他人事だと思ってたら大間違いなんだからね! 花粉症ってある日突然発症するものなんだから。
つまり……くしゅんっ! 萌葱だっていつか、花粉を滅ぼしだいほどぎらいになる可能性だっでぐじゅんっ!」
「……とりあえず鼻をかんだ方がいいと思うよ。香奈の親切なアドバイスについては、ありがたく心の片隅にとどめ、て……は……は……」
「……『は』?」

怪訝な表情を浮かべて香奈が聞き返してくるが、その質問に答えられる状況ではなかった。
何せ突然、何ともなかったはずの鼻の奥がむず痒くなり……

「はっくしゅん!」

鼻の奥からこみ上げてきたその衝動が解放された、瞬間。

私のスカートの裾が、全方位から盛大にめくれ上がった。