「気持ちよさそうに寝ているのに起こしちゃ悪いよ。ね、行こうよ。」
確かに眠っている彼女を起こすのは悪い気がする。

賢者は焦っていた。

「……行こう。」
少し強引に天使の手を引き言う。

パラディンを置いていくことに負目を感じながら天使は歩き始めた。
久しぶりに立ち上がったせいか少しフラフラし足取りはおぼつかない。


「でも、まずはお風呂に入ろうか。」
少し歩いたところで籠っていた汗のにおいに賢者は顔をしかめる。


そういえばもう何日も風呂に入っていない。
自分でも感じる臭いに天使はひどく赤面した。

「そっ……そうだね。」
ばつの悪そうに天使は賢者から少し距離をとる。

そんな彼を見つめながら賢者は意味ありげに含み笑いをする。
次の瞬間、賢者は彼を捕まえるようにバッと抱きつく。


「これでいいよ。」
そういいながら賢者は天使の首に手を回し彼にぶら下がる。

天使の赤かった顔がますます赤くなるが、すぐに両腕が賢者の背中に回り
彼はルーラの呪文を唱えた。

二人は空に飛び立ち新たな一歩を踏み出したのだ。



そして、彼らが去った後の青い木の下で今度は少女の咽び泣く声が響いていた。