第二話 学用の洗礼
入院の初日、母の言った通り、綾音は小児科の外来で最初の検査を済ませてから、病室に入ることになった。
綾音の母は、受付を済ませ、綾音をナースに引き渡すと、綾音が入る病室に荷物を置いて帰る予定だった。
初日は検査だけといってもそれなりに時間がかかり、面会時間も過ぎてしまうと言われていたからだ。
最初に行われるのは写真撮影だった。
綾音は、母が選んだよそ行きの、ほんの少しだけ上等な服を着ていた。入院中、患児はたいていパジャマで
過ごすから、誰かに見せる機会はほとんどないのだが、少なくとも写真の中ではずっとお披露目できるだろう。
場所は小児科診察区画の片隅だ。単に診察室といっても、病院自体が大きいから、単なる個室ではなく、
細長いフロアをいくつかに区切っている。その奥の一角にカメラと三脚を置いて、撮影スペースとしているのだ。
カメラが向けられた壁には、格子状の桝目に、床から「10」「20」と数字が上まで貼り付けられている。
これは床からの高さだろう。横線だけのものだが、似たような細長いプレートが学校の保健室にも貼られていた。
前に立てば、おおよその身長がわかるようになっているのだ。
当然、この簡易身長計の前に綾音は立つことになる。
資料用の写真になると聞いて、綾音は証明写真のようなものを一、二枚撮ることを想像していたが、実際は
もっと多かった。
最初に指示されたポーズは、手を横につけ背筋を伸ばして立つ気をつけ≠ナ、これは綾音の予想どおりだった。
ただ、正面からはもちろん、後ろを向いて背中を見せ、さらに、左右、斜めと、ぐるっとひと回りするように全部の
方向から撮影するのである。
綾音の向きを変えさせ、フラッシュを光らせる作業を、ナースも機械的にこなしてしていく。
記念写真を撮るのとはだいぶ違う。まさに記録のために写している、ということが感じられた。
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