撮影の次は、区画の中央、小児科の外来処置室だった。以前に、綾音があの女の子の検査を目撃した場所だ。
 ここから、綾音の特別待遇はいよいよ幕を開けた。

「じゃ、身長体重測るから。パンツ一丁よ。それ以外は着ているもの、全部脱いで」

(ああ、やっぱり……)

 来るべきものが来てしまった。
 今日は、これから、自分があの日の女の子になるのだ。
 綾音は内心、憂鬱になったが、諦めて服を脱ぎ始めた。

 予期していたこともあるが、病院で言うことをちゃんと聞くのは、綾音にとって当たり前のことだった。
 医者やナースは患者に対して強い権威を持つ。そして人間には権威に従う習性がある。これは集団の中で
秩序を作ることが生存に有利だったため、進化の中で獲得した性質だろう。


 運の悪いことに、今日の小児科は以前よりも混んでいるようだ。この場だけでも一〇人ほどの子供や保護者が
待たされていた。
 この処置室はスムーズに子供を通すためか、オープンな造りで、中待合の長椅子から、壁となるものは何もない。
 長椅子に座っているのは、みんな綾音よりも年下のようだが、男の子が多かった。ただ、綾音は体が小さいから、
カルテを知らなければ、綾音の年齢は実際よりも下に思われるだろう。

 ともあれ、暇を持て余していた子供たちが、一人服を脱ぎ始めた女の子を気にかけるのは、当然の成り行きだった。
 照れて、見ていいのかな、という面持ちの子もいれば、じっと目を離さない男の子もいる。

 視線を集めて、綾音はどんどん恥ずかしくなってきた。他の子はみんな、ちゃんと服を着て待っているだけなのに、
自分はパンツ一枚の格好になるのだ。
 ただ、早く終わって服を着られることを祈るのみだった。

 言われたとおりパンツ一丁になった綾音は、両腕を組むようにして胸を隠した。
 その場所は少しずつ膨らんできていて、他人、特に男の人に見られると、とてもイヤな気分になるのだ。
 が、ナースは構わなかった。

「手は伸ばして。気をつけよ、気をつけ」
「…………っ」

 身長を測るのに姿勢を正すのは当たり前のことなのだ。体重計も同じ。直立不動が基本だ。
 綾音は腕を下ろすしかない。

 手を下げると、胸への視線が強くなった気がした。遠慮がちだった男の子ですら、綾音の裸体をちらちら見ている
のである。
 しかも、身長計も体重計も、よりによって長椅子に向けた格好になっていた。パンツ一丁の綾音は、他の子供たちに
向かい合って、気をつけ≠しているのだ。

 綾音はますますいたたまれなくなった。今、測定されているのは綾音だけで、他の子供は手持ち無沙汰なせいもある。
 綾音は耳が熱くなるのを感じた。
 しかし、羞恥検査の本番は、まだ始まってもいなかった。わかってはいたが、綾音がそれを心から思い知るのは
すぐのことである。

     *  *  *