綾音の測定は、少々長引いた。
 身長体重に加え、胸囲やら腹囲やら、腕や足の長さまで、とにかくいろいろと測るためだ。その間、綾音はずっと
部屋の中央で、立って動かないようにしていなければいけなかった。
 しばらくして、

「はい、いいわ」

 と声がかかったが、綾音は緊張したままだ。
 ここで終わりなれと密かに願っていたが、そんなことにはならなかった。

「じゃ、次はパンツも脱いで、そこのベッドに上がってくれる」

 いよいよ、ここからなのだ。
 全裸検査の始まりだ。

 覚悟していたはずだが、綾音はすぐには脱げなかった。
 綾音がはいているのは、母がスーパーで買ってくる着古したパンツだ。見られるから上等な下着にする、
といった発想は欠片もない。だから、これも普段通りのもので、布が薄くなってヨレヨレになっている。
 が、あるのとないのでは全然違う。

 それに、指示されたベッドも、身長計や体重計よりはマシだが、それほど離れているわけでもない。
 仕切りもないも同然だから、また他の子から見られてしまう。

「検査だからねー。我慢しようねー」

 ためらっていた綾音に、別のナースが何でもないような調子で後ろに回った。彼女はさっとしゃがむと同時に、
綾音のパンツを下ろした。
 綾音が、あっ、と思ったときにはもう、パンツは足首だった。まったく反応できなかった。

「はい、あんよ、抜いて」

 ここまでされては言われたとおりにするしかない。
 手で股間を隠しながら、足を交互に上げる。パンツは取り去られ、綾音は一糸まとわぬ姿になった。

 お風呂でもないのに裸になった。こんなことは初めてのことだった。自分以外は、大人はもちろん年少の幼児まで
ちゃんと服を着ているのに。
 自分だけ裸になっていると意識しだすと、ひどく頼りなく、心細くなってきた。
 一切守られていない、隠されていないことを、ひしひしと実感する。

 肌寒いのに体は火照り、顔が熱い。
 この場の子供たちの視線を一身に集めているような気がした。
 周囲の反応も、綾音が見たときとは違う。あのときは、もっと小さい子ばかりで、深く考えずに見ていただけの気がする。
 今日は少しだけ、年齢層が高い。

 驚きと、自分もあんな目に遭うのではないかという、不安げな顔になっている女の子もいる。
 男の子だと、不安がないわけではないだろうが、目の前で女子がパンツまで脱がされたことのほうが大事件のようだ。
他のことは忘れ、綾音の成り行きに注目している。

(あっちの子も、こっちの子も、ずっと見てる……っ)

 年下とはいえ、異性の視線を痛いほど浴びて、綾音に強い羞恥心が湧き上がる。

 綾音は小一のとき、授業中どうしてもトイレといえず、教室でお漏らしをしてしまったことを思い出した。椅子から
オシッコを垂れ流して涙があふれる綾音を、隣の子が気づいて叫ぶ。途端に、みんなが振り返って驚きの目で見てくる。

 あのときによく似た、独特の、重い、暗い、陰鬱な絶望感が、綾音の心にのしかかった。
 こんなのウソ、夢だったら、時間を巻き戻せたら、そんな叶いようのない願いばかりが、ぐるぐると心をめぐるのだ。