もちろんこれは始まりに過ぎなかった。
 体を隠している綾音の手を、ナースはぱっとのけてしまう。

「子供は隠さなくていいの。ほら、毛も生えてないじゃない」

 さらにもう一人のナースも寄って来て、綾音の前でしゃがみこむ。
 彼女たちは代わる代わる、綾音の股間を覗きこんだ。

「あら本当、見事にきれいなワレメだけね。お子様のままだわ」
「男湯だって大丈夫じゃない?」
「そうそう、平気平気」

 いくら子供でも、そこはプライバシーのかたまりみたいな場所だ。相手がナースとはいえ、まじまじと観察された上、
あれこれ品評されるなんて、大変な屈辱だった。体の芯を鷲掴みにされるように熱く、苦しくなる。

 ナースは二人して綾音の体をあちらこちら確認してから、ベッドに載せた。
 手は体の横、仰向けの綾音に、ナースは体温計を示す。「おしりの穴で体温を測りますからネ」と続くが、
何故か他人事のように聞こえた。

「いい? 危ないから絶対に暴れないように。中で折れちゃうわ」

 綾音は諦めて、されるがまま、仰向けでひざを抱えて、肛門が丸出しになる格好を取った。
 ナースが手を添え、両ひざを軽く左右に開く。
 おしりの先には男の子たちがいる。彼らには、綾音のワレメからお尻の穴までばっちり見えているに違いなかった。

 宣言通り、ナースが体温計を突っ込む。体内に異物を押し込まれる違和感に、全身がゾワゾワした。

     *  *  *

 ベッドから下ろされた綾音に、ナースは「次はあっちよ」と、中廊下の先を指す。示す方向へ向かうよう促しているのだ。

(わたしも、このまま連れ回されるんだ……)

 移動中だけでも何か着させて欲しい。
 綾音がすがるような目線を向けたが、返ってきたのは無慈悲なセリフだった。

「向こうでも検査するからね。そのままでいいわね。服はあとでいいから」

 拒否権などない。
 こう言われた以上、綾音に服を着ることは許されないのだ。