綾音は両腕を体の前にくっつけるようにして、胸と股間を必死に隠した。中廊下にこれ以上他の誰か、
特に男性がいないことをひたすら祈った。
それはたいした距離ではなかったが、しかし、綾音の願いも虚しく、そこらには何人もの子供たちが、
それぞれの検査を待って座っていた。
彼らはみんな、綾音が来た途端、珍獣を見るような目になった。
「あの子、脱がされちゃってる」「えー、かわいそう」
「おお、すげー」「うわ、女なのに、ハダカになってる」
(生き恥……ッ)
無遠慮な声に、胸がギューッと苦しくなる。体を縮こませ顔をうつむかせて通り過ぎるしかない。
とにかく、あちこちからじろじろ見られているのがわかる。
あのときの女の子も、こうやってここを歩かされたのだろうか。
(裸になってるの、やっぱりわたしだけだ……!)
綾音以外に服を脱がされている子はいなかった。裾をまくったり、腕まくりしてはいても、裸どころか
下着姿にもされていない。
先ほどの身体測定だって、他の子供たちは、服を着たまま測っていたのだ。
それぞれ事情があるのだろうが、何で自分だけ、と思わずにはいられない。他の子は服を着ていていいのに……
よりによって一番年長の自分だけが、パンツまで脱がされ、素っ裸なのだ。
「綾音ちゃん」
ナースが急に立ち止まる。まだ男の子の近くだ。止まっていないで早く通りすぎて欲しかった。
ナースは二人、綾音を挟むように前後に並んでいる。二人とも笑顔だ。しかし、二人は微笑んだまま、
とんでもないことをしてきた。
「もう、お毛々もないのに、なに恥ずかしがってんの」
と、綾音の両手を掴むと、体から引き剥がしたのだ。
「えっ、あっ」
「言ったでしょ、隠さなくていいって。まだ子供なんだから」
「ここは病院なんだから、気にしなくていいのよー」
先ほどのこともあり、綾音は腕を取られるのを警戒していたのだが、目立つのが恐れてあまり抵抗できなかった。
それにナースは意外に力があるもので、小児科では暴れる子供を抑えることに慣れている。
綾音の両腕は簡単に左右に伸ばされてしまった。
二人のナースが綾音を真ん中にして手をつないだ状態だ。
これでは綾音は少しも体を隠せない。