第三話 続・洗礼


 綾音は今日から検査入院する女の子だ。
 一つ普通と違うのは、彼女は学用患者というものになっていることだ。この病院では、学用患者に
なると入院にかかる諸費用は免除されるが、替わりに検査や診察が公開されることになり、学生たち
の教材とならなければいけない。

 綾音は小柄で、一見、裸でもまだ平気そうな年頃だが、実際は思春期の女の子だ。
 脱衣の開始から他の患児たちとは明らかに様子が違い、盛んに周囲を気にして、腕が
空くとすぐに胸を隠したがる。
 年齢が上だから聞き分けはいいが、羞恥心はかなり育っているらしい。
 だが、羞恥心があってもなくても、ナースとしては、さっさと裸に慣れるように躾けるのが、ここでの仕事だった。

 無理やりパンツを下ろされ全裸にされた綾音は、検査が一つ終わるたびに、少しでも体を
隠そうと儚い努力を続ける。
 そこであえて二人がかりで両腕を引き剥がして、男児の前に連れて行ってやるのである。
 綾音は半べそをかいて恥ずかしがり、身悶えたが、両手を握ったまま、体を存分に晒してやる。

 そうしているうちに綾音の力が抜ける。諦めて早く先に進むことを選んだのだ。こうやって
一つ一つ抵抗をやめさせていくことで、従順な学用患児ができていくのである。


 目的地は中待合の中を一旦引き返す形になる。
 検査の始まりの場所。
 簡易身長計が設置してある、撮影スペースだ。
 最初の場所に戻ってきたことで綾音も気づいたのだろう。目をむいて周りを確認している。

「さっきやったばかりだから、わかるわね」

 歩きながら告げてやると、綾音の顔が凍りついた。これから何をするのか、敏感に察したのだろう。
 そう、もう一度撮影するのだ。
 ただ、違いが一つ。先程の綾音は服を着ていたが、今は……
 綾音があえて裸のまま§Aれて行かれている理由は……

「え? え?」
 それでも信じたくない気持ちが大きいのか、媚びるような声を出す。
「え? あれ? ち、違いますよね。え? 本当に?」
「資料にするだけだから。そんなに緊張しなくていいのよ」
 もう一人のナースが答える。

「――ちょっと体のお写真を撮るだけだから」

 ヌード撮影も同然の宣告。
 望みを絶たれた綾音の表情が絶望に染まる。
 うそでしょ、と、かすかな悲鳴が悲痛に漏れる。少女にとって、この先は死刑台も同然だ。
 だが、手をつながれたままの綾音に為す術などなく、何事もなくその場所に到着する。


 三脚の上の大きなカメラ。すでに一度見た光景。だが、今の綾音はそのカメラがとんでもない
凶器であるかのように怯えていた。
 ああ、そんな、夢なら覚めて――
 少女の心情はそんなところだろう。

「じゃあ、さっきと同じようにそこに立って。斜めにならないで、まっすぐこっちを向いてねー」
 なんでもないように指示を出すナースの態度に、綾音もおずおずとカメラの前に移動する。
 綾音はカメラの前には立ったものの、まだ体を完全に晒す決心がつかないのか、猫背に
なって、肝心な部分は手で隠していた。