フラッシュが光り、綾音が驚くが、かまわず、続けて撮る。
「この年頃のデータは貴重だ。写真のほうもフィルムを気にせずじゃんじゃん撮ってくれたまえ」
という指示があるからだ。まあ、要するに若い学用患者なら♀w術的に意味があるか
わからない写真でも撮れということだから、なかなかしょうがない話ではある。
確かに思春期の若い患者は面白いくらい恥ずかしがるし、深刻さのない相手なら気楽なものだが。
三、四枚も撮るうちに、綾音の顔がみるみる引きつっていく。
全裸で体の前≠隠す今のポーズは、『私はすごく恥ずかしがってます』ということを
宣言しているも同然だと気づいたのだろう。
「はいっ、もう隠さない! 背筋を伸ばして、手はちゃんとそろえてっ、気をつけ!」
あとは少し強く指示するだけで、綾音は慌てて両手を下ろし、直立した。恥ずかしい部分も
無防備に晒される。すかさず、シャッターを次々に切った。
フラッシュを浴びた綾音は、この世の終わりのような顔になった。とうとうアソコまで撮影
されたのだ。現実についていけないのだろう。
まさか本当にハダカの写真を撮られるなんて、という顔だ。
撮影は着衣のときよりもずっと細かく、念入りだ。
両手を広げ、甲を見せたり手のひらを見せたり、あるいは両腕を水平に上げたり、頭の後ろで組んだり、
さらにバンザイしたりと、様々なポーズを注文する。もちろん下半身も。足を開いて、曲げ、見せて、
じっとしなければいけない。
そうしたポーズを、それぞれ、正面・背面・側面・斜めと、やはりひと回り撮るのである。
背を見せたまま、顔だけをカメラに向けることもある。
「そこの足型と手型はわかるわね。足と手を合わせて、四つんばいになりなさい」
床に描かれた実物大の足と手の輪郭。
綾音の目にも入っていただろうし、使いみちもなんとなく見当がついていただろう。
四角に並んだこの四つの絵に手足を合わせれば、ちょうどカメラに尻を向けた四つんばいになるのだ。
「膝を伸ばして、もっとおしりを高く上げなさい。頭は下げて、顔はこっちを見て」
綾音はあまり体が柔らかくないのか、足を突っ張って苦しそうに尻を持ち上げている。
手足の絵は左右に離れているから、足も十分に開かれ、尻肉が分かれて性器はもちろん肛門まで丸見えだ。
綾音はポーズを維持するのに精一杯で自分の姿まで気がまわらないようだが、彼女は今、
あわれにも、必死になって、女の秘所をカメラに突き出している状態なのである。
* * *
いいなりにされ、ハダカの写真を撮られるのは、とてつもなくみじめだった。
胸も、アソコも、おしりも、こわばった綾音の顔も、カメラは全部記録してしまう。そうして出来上がった
写真には、綾音のヌードが永久に焼き付けられるのである。
資料にするというが、つまり、綾音の全裸写真は、どこかの誰かが必ず見るということだ。
綾音は泣かなかった。
ここで泣き出したら、その顔で写真に写ることになるかもしれない。
子供にもプライドがある。検査なんだから別に平気だ、と、ちゃんとしていないといけない。病院の検査を嫌がって
泣きじゃくったら、その泣き声が他の子に聞こえるかもしれない。自分より小さい子供の前でそれはできないのだ。
撮影が終わっても、綾音に服が戻されることはない。
再び移動の開始だ。
途中、診察される子供が見えたが、その子はやはり、綾音が知っているお医者さんと同じく、
服をめくられるくらいですんでいた。他の子も、見た限り全部そうだ。
綾音だけが、ずっと裸で検査されているのだ。