『この手を、知っている』


波留との暮らしに戻って、3日目。
遠慮がちな抱擁や、軽いキスの繰り返しがそろそろもどかしくなっていた可南子は、
舌を絡ませる深い口づけを迎えてホッとしていた。
ああやっと、波留に抱かれるのだ。

2人きりのリビングに、息継ぎと唾液の水音が静かに満ちて行く。
そしてカットソーの下から潜り込んだ大きな手が、脇腹の素肌に触れた瞬間
「……!」
厚く固くささくれた肌の感触が、ありえない快感を呼んでドクドクと身体の中心が
溢れ出した。仕事で荒れた手を目で見てはいたけれど。
何?これは何?
衝撃で我が身が固くすくむのが分かる。ああでも…イキソウ。

「可南子?」
口づけの途中でうつむいた愛妻を、不審げに波留が覗き込んでくる。
「…大丈夫」
だから離さないで。
喘がずにちゃんと言えただろうか。膝から崩れ落ちそうで目の前のシャツにすがりつくと、
黙って抱きとめてくれた腕がひょいと私を持ち上げて、ソファに落とされる。
隣に座るのでなく、覆いかぶさってきた波留の口づけはうなじを這い、今度は髭の
柔らかい感触が気持ちよくて背筋にまで突き刺さるようだ。