少なくとも、ケンイチが梁山泊の内弟子になった後の事であるのは間違いない。
付き合い自体はもっとずっと以前からあったが、あくまでも『腕利きの情報屋』と『恩を売っておきたい客』としての間柄だった。
そのドライな関係が破綻したのは、ごくありふれた問題―――金銭だ。
しぐれは秋雨や剣星以外の梁山泊の面々と同様、固定収入を得ていない。
それでいて武具の整備代という固定支出が余分にかかるため、実は梁山泊の誰よりも慢性的に金欠である。
今まではそれでも、数少ない伝手から廻してもらった飛び入りの仕事の収入で、何とかやりくりしていたのだが。
ケンイチが入門して来る少し前から、裏社会の情勢が奇妙な均衡を見せて、仕事が見つからなかった。
それでも日々出ていくものは出ていく訳で、いよいよ懐の寂しさも極限に達していた。
金の切れ目が縁の切れ目、とはよく言ったもので、この時からしぐれは情報屋にとって『恩を売っておきたい客』ではなくなったらしい。
マズい事には、男の『腕利きの情報屋』としての存在意義の方は、未だしぐれに対して有効だった。
これまでの実績や優れた手腕はもちろん惜しいが、それ以上に『敵に回られる』事の方が厄介なのだ。
繰り返し接触してきただけに相当の情報を掴まれているだろうし、それを売られる相手によっては死活問題に繋がりかねない。
そしてありふれた問題の結末はやはりお決まりの展開を辿り、男はしぐれにゲスい要求を突き付けてきたのだ。