「―――うん、もういいかな」
「…」

 かけられた男の声に応じて、奉仕を中断したしぐれが顔を上げた。
 その朱唇の端に、半ば乾いた白濁のしずくがこびりついている。
 言うまでもなく男が先ほど放った精の残滓だが、口腔に出された訳ではない。
 男は自らが果てるまでしぐれの膣襞を堪能し、最後の一突きとその後に続いた吐精の脈動で、しぐれにしっかり止めも刺していた。

 しぐれの口許を穢す汚液の出どころは、テーブルの端に打ち捨てられた、淡いピンク色のラテックス―――避妊具だ。

 この『取り引き』を受ける時に、唯一しぐれが要求したのが『必ず避妊具を着用する事』だった。
 だが、立場的に弱いのはしぐれの方だ。
 男が提示した『出されたその場で飲み干して見せる』という交換条件を、不承不承ながら受け入れざるを得なかった。

 初めて口にした時、それから感じたのは、鼻に抜ける青臭さと生臭さの入り混じった独特の臭いに、粘ついた舌触りと絡みつく喉越し。
 これまで好き嫌いの無かったしぐれは、初めて心底苦手なモノができた、と身近なピーマン嫌いの顔を思い出しつつ、無理やり呑み込んだ。

 とはいえ、人間は慣れる生き物である。
 そしてしぐれの適応力は、一般人より大幅に優れている。
 情報屋との関係が変化して二度目の逢瀬を終えた頃には、この『取り引き』自体にも、飲まされる精液の風味にも、すっかり順応していた。

 半ば無意識に唇を潤わせた舌先に『お残し』を発見したしぐれは、ゼリー状に固まりかけたそれを舌の上で転がしてから呑み込んだ。