男ヤンデレ専用エロ小説スレ Part3
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0001名無しさん@ピンキー2013/03/14(木) 17:50:21.05ID:kAI4lTWL
現実と妄想を区別できない人・未成年立ち入り禁止。

男性ヤンデレのSSを書いて投稿するスレッドです。
DV、ストーカー、監禁、レイプ、猟奇、異常な執着、その他諸々、男性のヤンデレなら何でもおk。
一次創作と二次創作、どちらも投下可能です。
女性利用者が多くなると思われますが、801厳禁。
荒らし完全スルー、良識ある書き込みお願いします。
sage進行。

過去スレ
男ヤンデレ専用エロ小説スレ Part1
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1268026164/
男ヤンデレ専用エロ小説スレ Part2
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1314199458/
0103名無しさん@ピンキー2013/10/06(日) 15:10:22.17ID:E/pnDJlI
激しくGJ!
複数プレイ美味しかったです(^q^)

知り合いに勧められてみた「あなたの隣に誰かいる」っていうドラマにヤンデレ男が出てきてた
あんな感じのストーカー系ヤンデレ作品読みたいけど中々見つかんないな
0105名無しさん@ピンキー2013/10/08(火) 22:37:01.77ID:VFd+/J1g
FaMj16TgさんR9MmqI3VさんGJ!
マナちゃんもアキちゃんもテラカワイソス(´・ω・`)イイゾモットヤレ
やはり監禁はヤンデレのロマンすなあ
遅漏と絶倫しかいないヤンデレどもに蹂躙されるアキちゃんがマジ心配です(ゲス顔)
0106名無しさん@ピンキー2013/10/09(水) 01:38:33.16ID:IfzTLC0V
>>103 ガチストーカー系なら洋画の「P2」とか、かなり古いけど渡部篤郎の「ストーカー逃げ切れぬ愛」とか。
自分も探してるけど中々見つからない。ただ男が病んでるだけの作品なら一杯あるんだけどね。
0109名無しさん@ピンキー2013/10/27(日) 00:27:09.56ID:9zU+g1Kr
監禁ものいいよね
昔ヤンデレのロボが男性恐怖症の女性を監禁して孕ませる小説を読んだけど調べたら映画化しててビビったw
よく映像にできたなと
0110名無しさん@ピンキー2013/10/27(日) 02:21:00.72ID:A3x4J9xd
それいつだったかスレに話題が出たね
俺は見たこないから分からないけど、
結構みんな知ってるみたい
0111名無しさん@ピンキー2013/10/27(日) 10:29:43.27ID:SrFJTCoo
そういえばタイトルプロメテウスだったっけ?と思ってググったら全く関係ない
>武家社会においても行いの悪い主君を家臣が監禁する「主君押込」という慣行がありました。
という一文が引っかかってしまってヤンデレな妄想が止まらないw
主君が乱心したと周りに思い込ませて周りには忠実な家臣を装いながらも監禁とか胸熱…。
0112名無しさん@ピンキー2013/10/27(日) 10:35:07.56ID:SrFJTCoo
あと過去ログパート2の336からその話題だよ
題名がプロメテウスじゃなくてタイトル「デモンシード」だったorz
0113名無しさん@ピンキー2013/10/27(日) 10:36:18.26ID:SrFJTCoo
あと過去ログパート2の336からその話題だよ
題名がプロメテウスじゃなくてタイトル「デモンシード」だったorz
0115取り違えたユーフォリア12013/11/11(月) 23:42:06.79ID:nK7j229P
自分的にはヤンデレのつもりで書いていたのに
ヤンデレじゃないかもしれないと不安になったものを保守ついでに投下。
ヤンデレ男としては超BADED…かも知れないし、じゃないかもしれない。




 【ノースウェリフ伯ロクシーの独白】

 好きで、好きで、好きで、心が耐ぬえ切れないほど愛してる、僕の君。
 その君が、目を覚まさない。
 まさか君が乗っていた馬車が暴走し、それから振り落とされ……意識不明に陥るとは。
 こんなことになるのなら――、無理やりにでも奪えばよかった。
 お願いだから目を覚ましてくれ。
 その為なら、僕はどんなことでもするよ。
 そして目が覚めたのなら、僕は今度こそ――どんなことをしてでも君を手に入れる。



 【ノースウェリフ伯爵夫人ヴィオレットの独白】

 私が目を覚ましたのは、いつとは違うベッドの上でした。
 「ここは何処?」ぼやけた視界。
 でも心配そうに覗き込む顔は、愛しい私の旦那さまのロクシー。
 そして体に走る激痛に、約束を思い出す。
 だから私はこう言いました。

「貴方は、誰」と。



 【ノースウェリフ伯ロクシーの独白】

 何て事だ!
 神は僕に機会を与えたもうた。
 彼女の記憶がないとは!
 そして、運のいい事に――あの女、僕の妻はまだ意識不明だ。
 ――これは、転機。
 欲しくて、欲しくてたまらないモノを、この手にするまたとない機会。
 僕は不安げにしている彼女に向かってこう言った。

「君は、僕の大事な妻だ」と。
0116取り違えたユーフォリア22013/11/11(月) 23:48:48.50ID:nK7j229P
 【ノースウェリフ伯爵夫人ヴィオレットの独白】

「貴方は、誰?」

 ……そんな言葉が出たのは、セラベルさんとの約束だったからです。
 私は、セラベルさんと馬車の事故を起こして、記憶喪失になり入れ替わる予定でした。
 彼女は私の旦那さまの幼馴染で、大事な女性――しかも私と瓜二つの。

 私は幼い時に、このノースウェリフ領にある領主館(マナーハウス)に両親とともに招待されました。
 その時、私は本ばかり読んでいて周りにとけ込めていない、ロクシーと仲良くなりました。
 それが、初恋というものだったのでしょう。
 でも彼はそれ以上に、教区の牧師の娘のセラベルさんと仲が良かったのです。
 私と瓜二つの彼女が好きだという事は、私には全くの勝ち目のない戦いでした。
 幼い恋は、あっさりと終を告げたのです。
 それから彼とは数年、会うこともなく。時折、ほんのごくたまに思い出す、甘酸っぱくも切ない思い出になった頃。
 私は社交界デビューをすることになり、そして並み居る男性の中から、伴侶を見つけなければならなくなりました。
 そんな時です。さる伯爵さまの夜会で、彼と再会しました。
 幼い頃の思い出の中の少年は、立派な青年になっていました。
 領地に引きこもることが多かった彼に、会えるとは思ってもみなかった、急に思い出が甦り
 過去と現在が繋がったように、想いがあふれ出します。
 出会いの最初から今まで変わらなかったように。

 彼は私を見た途端に、人込みをかき分け迷いなくやって来て、私にダンスを申し込みました。
 忘れられてると思ったのに。
 私しか目に入らない、夢中な瞳で見つめられて。
 まるで、物語の夢見る瞬間。

 あれよあれよという間に、そのシーズンで彼から求婚されて、私は馬鹿みたいに舞い上がってそれを受けました。

 幸せの絶頂、私はその中に居て、彼の本意を知ることはなかったのです。
 結婚して彼の領地へ共に行くことになり、知った事実。
 豹変した夫の態度。
 使用人の囁く、無責任で容赦ない噂話。
 お互いに思いあっていた二人だけれど、牧師の娘とは身分違いで結ばれないから。
 ……だからうり二つの私と結婚したのだと。
 夢から覚めた、私に待っていた残酷な真実。

 私は只の身代わりで。
 忘れられない大事な人のただの代用品でした。
 頑張って愛されようと努力しましたが、無駄でした。
 どんなに尽くそうとも夫の瞳は、気が付くと私を素通りしてセラヴェルさんを見ていたのです。
 私を見る度に彼女を重ねるのです。
 なぜ本物ではないのかと、責められているようでした。
 いえ、実際に夫はそう思っていたでしょう。
0117取り違えたユーフォリア32013/11/11(月) 23:51:17.02ID:nK7j229P
 伯爵家の血を途切れさせないため、ただ子供を産むだけに。
 愛されない、私には形だけの行為を充たすことは辛かった。
 顔も見ずにアラナさんの体を想い抱かれる身体。
 本来尊敬と信頼と愛を交わすはずである行為が、冷たい義務になっていく。
 義務よりも重荷ともいえる時間。
 私の体の中で果て上になった夫に、無意識に囁かれる言葉は、私とは違う別人の名前。

 夜ごとに、千切れていく、私の心。

 だから決心したのです。
 全てを捨てて、セラヴェルさんと入れ替わることを。
 新しい“セラヴェル”として牧師の娘として生きることを。

 ドレスを交換して、馬車に乗り事故を起こし記憶喪失を演じれば。
 夫はきっと入れ替わりに気が付いてなお、セラヴェルさんを“妻”に選ぶでしょう。
 私の事など、“セラヴェル”として迷いなく捨てるでしょう。

 わかっているけど辛い。

 でも、それでもいいのです。
 私は誰にも愛されない、けれど、私が消えることによって二人が幸せになるのだから。

「貴方は、誰」

 一言、そう告げるだけで。
 私は自分自身だけではなく、貴方にもお別れを告げ、新しい人生が始まるのです。




 【ノースウェリフ伯ロクシーの独白】

 痺れるような、甘い幸福。
 普段から思っていた。あの女と、僕の愛しい人が入れ替わってくれればいいのにという願い。
 それが、今日これから叶う。
0118取り違えたユーフォリア42013/11/12(火) 00:13:02.41ID:g/uNtvvr
 あの女を見る度に、何故傍に置いてしまったのかという、後悔。
 彼女をあきらめなければいけないと思っていた僕に現れた存在に、逃げた。
 そしてすぐに後悔する。これは彼女じゃないのだと。
 なんてことをしてしまったんだという、焦燥感。
 本物であればいいと願う気持ちが募る一方で、過ごす時間が長くなればなるほど
 僕の愛しい人に重なっていく苛立ちが抑えきれない。
 ベッドの上での白い肢体。
 柔らかい感触、惚けたようにこちらをみる表情は、僕を性の魅力で堕落させようという魂胆なのか。
 彼女への愛を試す試練か。同じようでいても彼女とは違う表情を浮かべる女。
 顔も見たくないというように、ベッドの上では後ろから犬の交尾のように屈辱的な姿で。
 または、顔を枕で押さえつける。震えながらも耐える姿が、しらじらしい。
 そう思っているはずなのに、高まる恍惚の中でふいに、女の名前を呼んでしまいそうになって愕然とした。
 それからは代用品だという事を思い知らせるように、愛しの彼女の名前を囁く事を抑えなかった。
 ――ただの代用品の癖に。
 大事な彼女への想い。僕の心を揺らすなど、許されないことだ。
 理解はしていても、心の苛つきが抑えられない。
 自分では制御も出来ない、説明のつかない歯がゆさに、どうにかなってしまいそうになっていた時。
 突然に起こった馬車の事故は、幸運だった。
 幸いに愛する人は記憶を失っているらしい。
 ならば、記憶を失ったことを利用して彼女を“妻”と思わせよう。
 屋敷の者さえ、見間違う二人がこれで入れ替わっても気が付きはしないだろう。
 違和感を感じたとしても、記憶がないと説明すれば納得するはずだ。

 あの女。妻と呼ぶには似つかわしくない、僕に貴族としての体面を与えてくれるだけの存在。
 記憶がおぼつかないせいか、僕を見ても居心地の悪そうな表情を浮かべる"妻"にどこか重なる。
 ここまできてもまだ邪魔するのかと、苛立ちをかくして極上の笑みを向ける。

「さあ、心配ないよ僕の大事な奥さん」
「……」
「すまないが、僕には少し片づけなければならない事があるんだ」

 あとでゆっくり話そう。そう言って、不安げな表情をする“妻”を残し僕は部屋を後にする。
 時間はこれからじっくりとある。
 もし記憶が戻ったとしても、彼女が元に戻れなくしてしまえばいい。

 この昂揚感は、幸せな未来を思い浮かべているせいか、それとも……。

 僕の足は、あの女の待つ客用寝室へと向かう。
 とても簡単な事だ。

 これからあの女を、本当の不慮の事故の犠牲者にすればいいのだから。
0119名無しさん@ピンキー2013/11/14(木) 06:31:26.35ID:C0zPG289

最初は男と牧師の娘が結ばれるハッピーエンドかと思ったら奥さんがなかなかの切れ者ですね…
0122名無しさん@ピンキー2013/11/29(金) 22:57:27.92ID:uOEO2a2a
えーと読解力ゼロで失礼
間違って愛する人を殺してしまうパターンですか
奥さんの決意が台無しな上
旦那が殺人を犯すような人だと知ったら奥さんは幻滅すぎるな
0123名無しさん@ピンキー2013/11/30(土) 10:06:03.22ID:zGUs1ZsL

面白かった

>>122
相棒とかでありそうだよな
間違えて好きな人のほうを殺害って
0124名無しさん@ピンキー2013/12/01(日) 23:34:51.46ID:fXaaTje8
はたから見ればアホな理由で殺人ってコナンとかの方がありそうな気がするw
ドロドロぶりは金田一(孫の方)でもありそうだが
0125名無しさん@ピンキー2013/12/02(月) 20:29:49.27ID:fFGzVNn/
金田一で覚えている話といえば小説版のオペラ座館殺人事件かな
婚約者が殺されて復讐に生きるためにダメ男を演じてた男がよかったんだが
私的にヤンデレに入ってるんだけど
一般的にはこれはヤンデレに入るのだろうか・・・どうだろうか
とか考えていたら某スレのまとめサイトで見た
妻を鬱に追い込んだ女(報告主)を階段から突き落として踏みつけた医者の話が
すんごくヤンデレでこのスレ向きだった。
このヤンデレは妻に仇名す者をこっそりと葬ってそうだ・・・ウトメとか
0126名無しさん@ピンキー2013/12/02(月) 20:35:18.72ID:fFGzVNn/
追加で
高遠遙一もデレたらいいヤンデレになりそう。
でもこの人の場合元から病んでるからヤンデレといっていいのかデレヤンというべきなのか
0129名無しさん@ピンキー2013/12/03(火) 08:20:09.43ID:wLQoHmv9
>>128
ありがとう
まとめサイトより先に元スレに辿り着いて読んできた
ヤンデレってより報告者のキチと戦ういい旦那様だなと素で思ってしまった
0130名無しさん@ピンキー2013/12/03(火) 12:45:38.23ID:9WPsMaIG
検索しても見つからない…
申し訳ないけどコッソリ教えてくれ
0132名無しさん@ピンキー2013/12/03(火) 22:57:05.89ID:WF3DC61v
ためしに 〜話までをググったら楽勝に出たよ
美男美女カップルで夫婦仲もいいとは凄いね こんなの現実だったらやっかむわw
医者や看護師は結構生き死にな職場で心を凍らすことが多いんだと思う
0133名無しさん@ピンキー2013/12/04(水) 00:45:11.30ID:4igJxUKP
ぐぐったら報告者の文章が上手くて引き込まれてしまったわ
旦那病んでるな正気じゃねーや
創作だと思いたいw
0135名無しさん@ピンキー2013/12/04(水) 05:50:47.20ID:p0lCWzTT
ggrksって言葉知ってる?
話が話しなだけにぼかしてヒント出してるのに
132みたいにドヤ顔でヒント晒す馬鹿がいるせいで紹介したくなくなるんだよな
0136名無しさん@ピンキー2013/12/04(水) 07:57:38.58ID:bADx1tj5
そうか
135は話したくないようだから今度わからないことがあったら俺に聞いてくれ
0137名無しさん@ピンキー2013/12/04(水) 22:10:50.32ID:p0lCWzTT
嘘か本当かわからんけど生なんだから
無駄に分かりずらくしてるのに教えるのはアホって言ってるんだよ
こういう暗黙の了解分らないKYがいるから
自分は萌えるヤンデレ夫記事見てもここで紹介しないって言ってんだよ
0138角と稲妻2013/12/04(水) 23:34:06.58ID:zjxpW+Sm
気が付いたら半年経ってた時間って怖い。
お久しぶりです五話目行きます。
タイトル/NG「角と稲妻」

書き過ぎたので規制が怖い。
0139角と稲妻2013/12/04(水) 23:34:56.87ID:zjxpW+Sm
普段より大分遅い時間に起き出して階段を降りる。
「おはよー、エルバ」
調合室から顔を出したエルバに声を掛ける。
「おはよう、レヴィン。足はどう?」
「大分良いんじゃないかな」
答えながらリビングに入り、竈に薪をくべて魔法で火を着ける。マッチと違って使い減りしないし早いので、私が家に居る時は私が火熾し役だ。
入れ替わるようにエルバが火の前に立ったので席に着いて少し待つと、机に朝食が並べられた。
ハムエッグとトースト、サラダにミルク。
二人で手を合わせて食事を始める。
少し厚めに切ったハムに、卵を端がカリっとするまで焼いた目玉焼き。ナイフを入れると肉汁が溢れるそれを、トーストに乗せて口に運ぶ。
「今日は何処か行くの、レヴィン」
「えーっと、風呂屋行って、ギルドに報告して……」
「それから雑貨屋行って服屋行って酒場に顔出して酒飲んで来る積もりじゃ無いだろうな?」
「うっ……!」
一息で、まるで見て来たように私の行動パターンを先読みしてエルバが言った。
「はぁ…………風呂屋だけ行って真っ直ぐ帰っといで。ギルドには報告書を書いて。僕が出しに行く」
「せ、せめて酒場に……危険指定種の情報は出しとかないと……」
「絶対飲んで帰って来るだろ? 駄目。伝言が必要なら僕が行く」
「うー……」
一瓶だけ、から一杯だけ、まで譲歩したと言うのに、ドクターストップはアルコール厳禁を頑として譲らなかった。

仕方が無いから風呂屋が開くまでの時間に書き物とかを済ませてしまうことにして部屋に上がる。
机に向かい、寄木細工の箱から筆記用具を出す。自分でしとめた鷹の羽を軸にした羽ペンは、調子に乗って十本くらい作ってしまった余りがエルバの店の方に並べてある。今までに三本売れた。
ギルドの方へは簡単な地図を添えて、群の出現位置と規模を書いた報告書を作る。
自分の名前と、代理人としてエルバの名前を書いて、インクが乾くまで机の隅に退ける。
窓の外の太陽の位置からして、風呂屋が開くまでにはまだ時間があったので、私は新たにレターセットを取り出した。
淡いピンク色の小さな花の絵が書いてある便箋を広げ、ペンを走らせる。
宛先は幼なじみのアイリスちゃんだ。
村の女の子の誰よりも可愛いアイリスちゃん。
陽光にきらきら光る銀色の髪に水晶のように澄んだ青い瞳。
人形のように整った顔。童話に出て来るお姫様みたいな女の子。
13歳の頃に親に連れられて王都へ行ってしまった彼女とは、今でも親しく文通をしている。
『アイリスちゃんへ
元気にしていますか?
私は四日ぶりにペンを取れました。
狩りの途中で崖から落ちちゃったの。師匠にバレたら怒られるかな、笑われるかな。
近くに住んでた亜人の人に助けて貰って帰って来れたけど、最初はどうなるかと思っちゃった!
今はもう大丈夫。痛い所はないよ。エルバに診てもらったけど、怪我も平気そう。
アイリスちゃんは怪我などしないように気を付けて下さい。』
書き出して、他にも最近あったことや、アイリスちゃんからの手紙に対する返事を書き連ねて行く。
あっと言う間に便箋を四枚ほど埋めて、インクが乾くまで、紙が飛ばないようにそっと重しを乗せて机の上に並べる。
代わりにもうインクの乾いた報告書を取り、ザッと文面を確認して畳む。
蝋印とかが必要なほど、しっかりとした書類ではないので剥き身のままだ。
報告書を持って下に降り、店の方に顔を出す。
カウンターの方で何かの粉薬を計量して一服ずつ薬包紙に包む作業をしていたエルバが顔を上げる。
「書き終わったの?」
「うん。あともう昼だから何か作る。それ終わったらこっち来て。あ、これ渡しとく。お願いね」
「うん。ありがとう。そんなに時間は掛からないから」
「はーい」
書類をエルバに渡して踵を返す。
それから貯蔵棚から鶏肉とナバナを引っ張りだして、厨房でガレットを作った。
ガレットは鳥の丸焼きの次くらいに得意料理だ。
端を焦がさないように、かつバリッとなるように仕上げ、チーズと胡椒をかける。
「あ、美味しそう」
丁度料理が仕上がったタイミングで、呟きながらエルバがキッチンに入って来る。
「残りの鳥、片しちゃったよ」
「うん、ありがとう。じゃあ、冷めない内に……」
いただきます。と二人揃って手を合わせた。
0140角と稲妻2013/12/04(水) 23:37:28.02ID:zjxpW+Sm
食後一息ついて、エルバがギルドと酒場を回っている間、私が店番をする事になった。
「酒場連中には、北の大楠の辺りにゴブリンが群で出るから気を付けとけ、って言っといて」
「うん。夕食の買い物もして来る積もりだから少し遅くなるかも」
「分かった」
「あ、ついでに甘草刻むのやっといて」
「はいはい」

食器を片付けてから、店のカウンターの方で、エルバの帰りを待ちながら薬草を刻む。
黙々と一定の手作業。地味だが、実はこう言うのは嫌いじゃない。
ちなみに私が作業をしている間中、客は一人も来なかった。
まぁ、医者と兵士と葬儀屋が暇なのは良いことだ。
二時間ちょっとでエルバは帰って来た。
今から準備してゆっくり歩いて行けば、丁度風呂屋が開く頃に着けるだろう。
自室で着替えや石鹸を用意して一階に降りると、店の方からエルバが顔を出した。
「松葉杖出して来るからちょっと待ってて」
「別に昨日杖に使ってた枝でも―――」
オオヅノがくれた枝がまだ、入り口の脇に立て掛けてあった筈だ。
「あ、ごめん。あれ薪にしちゃった」
「マジで」
「ごめんごめん。薪が足りなくってさ」
「……まぁ良いけど」
エルバは憮然とする私の横を通り過ぎ、二階の物置から出して来た松葉杖を差し出す。
受け取ったそれを突いて体重を乗せる。まぁ、こっちの方が安定はする。
「じゃあ、ちょっと行って来る」
「寄り道しないように」
「はいはーい」
そんなやりとりをして家を出た。

足に負担を掛けないようにゆっくり歩いて到着した風呂屋は、今丁度開く所だったようだ。
入り口にノレンと言う東方式のカーテンを掛けていた風呂屋のおかみさんが、私に気付いて振り返る。
「あらー、レヴィンちゃん! 今日は一番乗りね! あら? 足どうしたの!?」
「いやー、ちょっとぶつけちゃいまして。湿布貼ってるから、お湯、薬臭くしちゃったら、ごめんなさい」
私が苦笑すると、おかみさんはおばちゃんが良く口にするように、あらあらあらあら、と繰り返し
「良いのよー! 男湯はもっと泥臭くて汗臭いのが一杯来るんだから!」
そう言ってノレンを手で避けて私を迎え入れる。
「良く浸かって温まってらっしゃいね!」
「はい、どうも」
おかみさんに軽く会釈してノレンを潜り、女湯の方へ向かう。
脱衣所で、傷に障らないようにそろりそろりと服を脱ぎ、包帯も右足以外は外してしまって、手桶に石鹸やタオルを入れて浴室の扉を開く。
まずは盥にお湯を汲み上げて、頭から被る。
膏薬他、ここ数日の汚れで濁ったお湯が、排水溝から流れて行く。
床と同じようにレンガ造りの背の低いベンチに腰掛けて、油糟や潰した豆、ハーブなどを混ぜて(エルバが)作ったクレイを髪に付けて丁寧に頭皮をマッサージする。
それからクレイを洗い流し、櫛を使って梳く。
煤けていた髪が艶を取り戻して行くのは気分が良い。
次いで身体を洗うために、お湯に浸したタオルで石鹸を泡立てる。
匂いに敏感な獣も居るのであまり香りの強いものは使えないが、サンダルウッドとベチバーの根の精油が少しだけ入っている。これもエルバの作である。
泡をたっぷりと付けたタオルで体を擦る。
所々傷に染みたが、それより徹底的に汚れを落とす方を優先した。
首から肩を通って腕。斑模様に散らされた打ち身のアザは、日が経って色が変わって来ている。消えるまでにはもう少し掛かりそうだ。
脇から、偶に邪魔に感じるほど大きくなってしまった胸。流石にこの辺りは傷も少ないし、鍛えられていると言ってもまだ丸みを帯びている。
「あちゃー……」
視線を下ろして思わずぼやく。やや目立つ古傷のある左腿。腕と同じく打ち身が酷かった。
0141角と稲妻2013/12/04(水) 23:39:23.41ID:zjxpW+Sm
骨折部分には触れないようにして身体を洗い上げ、髪をまとめて湯船に浸かる。
右足を浴槽の縁に引っかけて身体を沈めると、湯の温かさが身体の芯まで伝わって心地良い。
全身の凝りを解すように大きく伸びをする。血の巡りが良くなって、疲労が洗い流されて行くようだ。
生き返った気分でほぅ、と息を吐く。
ぱしゃり、と指先で水面を弄ってみる。
あぁ、生きて帰って来れたんだなぁ。
今回は流石に色々ヤバかった。今更ながらに日常から離れ過ぎたあの体験を思い出して目を細める。
足は痛むが、まぁ治るだろう。命が助かっただけ儲け物だ。
浴槽の縁に腕を置いて、それを枕に頭を乗せる。
再び深く息を吐く。
昔、師匠が言っていた。『冒険者になるなら命の保証なんて無い。それが嫌なら普通の村娘になれ。それでも此処じゃない何処かに行きたいなら、冒険者になれ。冒険者にしか出来ない経験も、村娘にしか出来ない経験もどっちも有るもんだ』
それでも冒険者になったからには命の覚悟はしていて、ああやって山で遭難しても泣きわめいたりなんかしなかったが、こうして安全な場所で気を緩めていると、恐怖心がじわじわと湧いてくる。
怖く無い訳じゃ、無い。
それでも。
オオヅノの事を思い出す。
初めて会う人、初めて行く場所、初めて口にする物。
そう言うものは大好きだ。
だから。
「よいしょっ」
掛け声と共に立ち上がって湯船から出る。
怪我が治ったら、もう一度オオヅノに会いに行こう。それが、何だかとても楽しみに思えた。

新しい服に着替え、肩にタオルを掛け、洗い髪を下ろしたまま家に帰る。
「ただいまー」
「おかえり」
カウンターで本を読んでいたエルバが顔を上げる。
「足、歩いてみてどうだった?」
「うーん、悪くは無いけど、やっぱりしばらくは大人しくしてるつもり」
「うん。そうしな」
エルバは頷いて、あぁ、そう言えば。と棚から小瓶を取り上げる。
「丁度良いや。ネロリの花の香油を作ってみたんだけど、ちょっと試してみて」
受け取った小瓶から伝う香りに、小さく歓声を上げる。
獣の中には匂いに敏感な種類も居るので、狩りに出る時は香りの強いものは使えないのだが、休みの日には香水を付けたりもするし、どうせしばらくは山に出られないのだ。
「ありがと。早速使うね」
「終わったら降りて来いよ。薬塗り直すから」
「はーい」
「あ、こら、走るな」
「はいはーい」
香油にテンションが上がって足早に二階に上がろうとしたのを目敏く見咎められ、口うるさく追って来た言葉におざなりに返し、少しだけスピードを落としながらも自室に急ぐ。
ドアを開け、入って右手に有るドレッサーの前に座る。
引き出しから櫛を取り出し、貰ったばかりの香油を付けて髪を梳く。
ふわりと広がる甘い香り。軽くて繊細な、柑橘にも似た花の香だ。
繰り返し繰り返し丁寧に梳くと、髪が完全に乾く頃には、薄く香油が刷かれて櫛通りも滑らかに深い艶を帯びる。
嬉しくなって立ち上がり、鏡の前でくるりと回ると、さらりと流れる髪から甘い花の香りが立つ。
出来上がりに満足して、髪紐を持って下階に降りた。
0142角と稲妻2013/12/04(水) 23:40:59.67ID:zjxpW+Sm
「ね、エルバ。良い塩梅」
「そう」
調合室に顔を出して、鏡の前と同じように回って見せるが、エルバはあまり興味が無いようで生返事を返す。
「これなら店にも置けるんじゃない。雑貨屋に卸しても良いし」
「んー。でも花の方があんまり採れないんだよね」
「え、そうなの。勿体無い」
「量が採れそうだったら考えるよ」
そう言って、それまで乳鉢の中身をかき混ぜていたヘラを止める。
「はい、座って。薬塗るから」
「香油が折角良い匂いなのに、塗り薬の臭いが混ざると嫌だな」
「そう言うと思って押さえ気味に作ってやったから、少しは我慢しなさい」
「はぁい」
邪魔にならないように髪を結い上げ、服を脱いで診察台に腰掛ける。
「ねぇ、エルバ。右足の固定は」
「まだ我慢」
「ちぇ」
唇を尖らせる私に、明日になったら一度外してやるから。と言って、エルバは傷の一つ一つを確かめながら手早く薬を塗って包帯を巻いて行く。
「流石は冒険者なのかな。回復が早いや」
ほっとしたように息を吐き、エルバは包帯の端を止める。
「じゃあ、お酒飲める?」
「うーん……珍しくちゃんと大人しくしてたし……家で、一杯だけなら。あと痛くなっても泣き言、言わないなら」
渋々ながらに降りた許可に歓声を上げ、
「なにくそ痛いのがどんなもんよ。お酒のためなら竜の口の中だって!」
喝采する私に呆れて頭を振りながら
「冒険者ってこうやって死ぬんだろうね」
溜息と共にエルバが呟いた。

数日経って、その日も日課のストレッチと回復魔法の魔法陣の更新をした。
それから、荷物と松葉杖を持って外へ出かけ、馬車通り沿いの素材屋でオオヅノの所で貰って来た素材を売った。
戦果は上々だった。帰り道、私は唇の端を持ち上げて、足に負担を掛けないように真似だけのスキップをする。
現金の他に、珍しいものが手に入った。雪兎の干し肉だ。
雪兎はここよりずっと北の山に棲んでいる生き物だから、その肉はこの辺りでは余り見ないレア物だ。味も良くてお酒に合う。
彼に良いお土産が出来た。

私が山から帰って来て十日目。
回復魔法を重ねていたお陰で足や身体の包帯も外れ、そろそろ休養も終わりにしようかと思っていた頃。
調合室で天秤に向かうエルバの後ろで、あくびをかみ殺しながらアセンヤクと言う名前の薬草を葉と茎、根に分ける作業を行っていた時だった。
店の方からドアベルが鳴る音がした。
「はーい」
答えて店に向かうエルバの背を、手を動かしながら目で追う。
この時間だと、牛の餌やりを終えた農場のじいさんだろうか。腰痛がどうのこうので良く来るし。
と、店の方からエルバの慌てる声。手を止めて、微かに腰を浮かせて耳を澄まし、様子を窺う。
「レヴィン! こっち来てくれ!」
切羽詰まった声に、手にした草を机の上に放り出して、私は弾かれたように立ち上がった。
0143角と稲妻2013/12/04(水) 23:42:23.75ID:zjxpW+Sm
店に出ると、エルバが床に倒れた誰かの横に屈み込んでいる。
倒れていたのは見知らぬ冒険者風の男だった。
「奥に運ぶ! 手伝って!」
鋭いエルバの声に頷いて、二人で男を担ぎ上げて運び、調合室の診察台に寝かせる。
外傷は見当たらないが、酷く熱が出ているようだ。
「聞こえるか! 僕は薬師だ! あんたどうしたんだ!」
男の耳元で、エルバが大きな声で呼びかける。
「う…………」
男が呻いて薄く目を開ける。
「森で……蜘蛛に、咬まれて……」
「どんな姿だった?」
「黒くて、背中に……赤い菱形……」
その言葉にエルバは、よろよろと挙げられた男の腕を取り、視診して眉をしかめる。
「……ブラック・ウィドゥだ」
エルバは強い毒を持つ蜘蛛の名を上げた。
「解毒剤は?」
保管室の方に視線をやりながら、エルバに尋ねる。
「作れるけど、薬草が一つ足りない」
「村に有る?」
「無い。保存がきかないんだ。摘んで来ないと」
「近くに分布」
「山の西に、群生地が」
矢継ぎ早にやりとりして、私は頷く。
「取りに行って来る」
「その足で!?」
「もう殆ど治った。それにこの足でもエルバよりは速いわ」
「でも……!」
エルバが背後に立つ私を振り仰いで、何か言い募りかける。
「貴方はこの人、見てないと駄目でしょう」
「……無理は」
「しない」
きっぱりと言い切ると、エルバは苦悩を浮かべた瞳で一瞬だけ逡巡し
「……じゃあ、頼む」
喉の奥から絞り出すように、そう言った。

「薬草の見た目、どんなの」
「スケッチがある」
「準備して来る。出しといて」
「分かった」
そんなやり取りをして調合室を飛び出し、自分の部屋で山歩きの支度をする。
服を着替え、ブーツの紐をきっちりと締める。
装備はウエストポーチに収まる最低限の物に、薬草を入れるための麻袋。
最後に空の水筒を引っ掴んで部屋を出た。

「エルバ」
調合室のドアを荒っぽく開きながら、こちらに背を向けていたエルバに声をかける。
「これ、スケッチ。それから簡単だけど地図」
振り向きざまに差し出された紙切れを受け取って目を落とす。
一枚目は薬草のスケッチ。茎の太い真っ直ぐな草で、天辺に小さい花が密集して咲いている。
二枚目を見る。私がいつも狩りに入る山の西側。道の分岐と位置で、どの辺りの事を指しているのか把握すると、どちらも畳んでポーチにしまう。
「二番目のノーム穴の有る辺りなんだけど」
「うん。分かる場所だった」
答えながら、机の上の水差し(エルバが自分用に用意しているヤツ)を取り上げて、中身を水筒に移す。
四角い水筒がポーチの上にぴったりと収まるように固定して
「じゃあ、行って来る」
「……気を付けて」
「うん」
0144角と稲妻2013/12/04(水) 23:43:49.22ID:zjxpW+Sm
店の扉から外に出る。店の前の道で軽く身を屈めて、片足ずつ体重を乗せる動作。痛みはない。ストレッチは毎日していたが、体力の低下が少しだけ心配だった。
眼を眇めて太陽を見上げる。角度で大体の時刻に見当を付けると、山の方へと走り始めた。
最初は軽く流す程度。足が痛まないことを確かめながら速度を上げ行く。
山の入り口に着く頃にはトップスピードになっていた。痛みは無いが体が重い。予想道理鈍っては居たが、行けそうだ。
山の入り口にほど近いノーム穴の隣を過ぎて、西の方へ向かう道に入る。
あっと言う間に道は荒れた獣道になる。速度を落としながらも、狭い悪路を走る。
木の根を避けて足を下ろし、地面を踏みしめ、全身の筋肉をバネのようにして、枝と枝の間をすり抜けるように、大きく蹴り出す。
山林を走るのは、平地を走るのとは全く違う。一歩ごとに、辺りの景色は万華鏡のように目まぐるしく変わる。
そこを跳ねるように駆け回るのは、楽しい。
存在を隠すことない私の走りに、驚いた小動物が逃げて行く物音。
苔むした石に足を取られないように、鋭い枝に引っかからないように。山の中なら、男にだって大半の奴には追いつかれない自信がある。
遠くまで、きっと何処までだってこの足で行ける。
不意に、大型の獣が早く走る気配。
眉を顰めて周囲を伺う。少し離れた位置を併走する黒い影。
黒狼だ。山や森に棲む大型の狼で、人や家畜も襲う。
慎重に数を窺うが、群ではなく一匹だけのようだった。
念のため2、3回、突然進路を変更してみるが、群での狩りの追い込み役のように、こちらの進路をコントロールしようと言う動きは見せなかった。
私は少しずつスピードを落としながら呪文を唱える。
獲物がバテたと思った黒狼の動きが変わった。
距離を詰めて来たことで、そいつの全身が明らかになる。
サイズは2メートル近い。かなり大型の部類だ。
そいつのと距離を見計らって、私は唱えていた呪文を解き放つ。
「ギャウンッ!?」
地面と水平に走った稲妻に打たれた黒狼が驚いて悲鳴を上げ、横っ飛びに距離を取る。打ち倒すには威力が足りなかった。
私の得意とする雷属性の魔法は、あまり射程距離が長くない。
これだけで相手を仕留めようとするなら、もっと間合いを詰めさせなければならなかったが、無理はしないとエルバに約束していた。
呪文を唱え、もう一発。
尻尾を丸めた黒狼が逃げて行くのを見送って、足を止める。
木々の隙間から空を見上げて現在地を確認する。
ポーチの中からエルバに貰った地図を出して現在地と照らし合わせる。目的地はこの辺りだ。
薬草のスケッチを取り出して、周囲を見回す。
草の形態から、何となくこの辺りに生えているだろうと当たりを付けて―――見つけた。
岩棚の影の少し暗くて湿っている所。
背の高い草で、太い茎からは細かいギザギザの付いた葉が伸びていた。天辺には、小さな白い花が火花が散るように咲いている。
スケッチと実物を見比べて、間違いないと確信し、私は大きく息を吐く。身体に籠もっていた熱で吐息が熱い。
腰の後ろの水筒を外して口を付ける。また何かハーブが漬けてあったらしい。微かに爽やかな香りのする水が喉を潤す。
水筒を戻して、ポーチの背板から携帯用のシャベルを抜き取る。
私の掌と同じくらいの大きさの、縦に長い五角形の金属板。底辺にT字型の木製のハンドルが付いていて、そこを握り込んで使う奴だ。
それを使って、薬草の根本を掘る。必要なのは根っこだ。
一株、二株と掘り起こして、茎と同じく太い根を切り取って、土を大まかに落として麻袋にしまう。見本として少しだけ茎や葉も取っておく。
一握りの薬草を詰めた麻袋を、ポーチのベルトに結び付ける。
それから身体を動かして、疲労度と痛みを確かめる。
やっぱり体力が落ちているか。
普段なら少し休憩を挟む所だが、今は急ぎだ。
「よっし!」
私は一つ気合いを入れると、山の斜面を駆け降りて行った。
0145角と稲妻2013/12/04(水) 23:45:29.94ID:zjxpW+Sm
弾む息を宥めながら、調合室に駆け込む。
作業机で調薬の準備をしていたエルバが振り返る。
「エルバ!」
一声掛けて麻袋を投げ渡す。
エルバが中身を確かめている間に、水瓶からタライに水を汲む。
「これで大丈夫だ。ありがとう、レヴィン」
葉や茎の形を確認して、エルバが頷く。
エルバはタライの水で根を洗うと、素晴らしい手際で調合を開始した。
その間に私はタライの水を入れ替えて、患者の男の様子を窺う。
診察台に寝かされた男の腕の咬み傷は、既に治療がされて包帯が巻かれていた。
男の額に掛けられていた、温くなった濡れた手拭いをタライの水で濯いで絞って掛け直す。
もう私の出来ることはあまり無いが、解熱剤を飲まされているらしい男の容態は比較的安定しているようだった。
出来上がった薬を男に飲ませると、エルバは大きく息を吐いた。
もう大丈夫だ、と男に声を掛けると、男は弱々しい息の下から礼を述べた。
二人で、男を二階の空き部屋に運んで寝かせると、
「お疲れ、レヴィン。足は痛くないか?」
「痛くないよ。エルバもお疲れ様」
お互いに労いの言葉を掛け合って、私の足の様子を軽く診察して、エルバは満足気に頷いた。
「うん、おめでとう。これだけ走って大丈夫なら完治だ」
「いやはや一時はどうなる事かと」
私が冗談めかして言うと
「これで懲りてくれると嬉しいんだけど」
「痛いのはこりごりだし、気を付けてだって居るんだけどね」
説教臭くなったエルバにひらひらと手を振って、私は席を立つ。
「家事は私がやっとくから。まだあの人に付いてる必要有るでしょう? 必要な物があったら声かけて」
「あ、こら、レヴィン―――」
思えば昼食もまだだった。どうせエルバもまだだろうから、サンドイッチでも作ってやろう。そう思いながら、ようやく軽くなった足で台所へと向かった。
0146角と稲妻2013/12/04(水) 23:46:17.22ID:zjxpW+Sm
以上です。
少し時間が取れそうなので、次は今月中に投下を目標に。
0147名無しさん@ピンキー2013/12/07(土) 07:43:40.96ID:XyU/qyGt
純愛ルート(だったよね?)キタ━(゚∀゚)━!!!!!
ヤンデレとの進展続き楽しみにしてます
0150名無しさん@ピンキー2013/12/12(木) 11:59:44.99ID:0rjv1Gom
YESロリータ NOタッチの精神で頑張るも耐えきれずにロリっ娘を犯すヤンデレ男が見たい
0151名無しさん@ピンキー2013/12/13(金) 00:25:42.50ID:itRWg6fa
怖がれてるのに迫る男ですね
0153名無しさん@ピンキー2013/12/13(金) 20:08:42.33ID:VO+Oqrgu
ゆきかおり?の伯爵カインシリーズの初期にそんな奴いたなw
ロリが牧師かなんかの孫?で妻子ある男と幼い自分の性的関係の事がおかしいから懺悔すると言ったら
そのロリと引き離されたくない、永遠に自分の者にするために殺すって犯人
0154名無しさん@ピンキー2013/12/28(土) 01:47:42.49ID:fIOfui1s
森や山の奥でてきとーに暮らしてた引きこもり小説家や世捨て人やなんかが、死にかけた女性を保護する…ってシチュ、なんでこんなに萌えるんだろうね…
レヴィンさんしかり「狂骨の夢」しかり谷山浩子の「森へおいで」しかり
0155名無しさん@ピンキー2013/12/28(土) 23:29:04.62ID:YpLR1Wkw
そのシチュだとミザリーぐらいしか思い浮かばない自分にはそのシチュ属性はないようだw
0157名無しさん@ピンキー2013/12/31(火) 17:19:06.11ID:zT8B7Zl1
新堂冬樹の「ホームドラマ」って短編集の、「嫉」
旦那さんがヤンデレ
0158名無しさん@ピンキー2013/12/31(火) 21:21:06.27ID:49dbEy3B
美蕾のペルソナってゲームの執事とラウルのヤンデレ怖かった
主人公が死ぬと凹む
0159名無しさん@ピンキー2014/01/04(土) 17:17:07.62ID:gKIhc4nO
凄くありがちだけど年上の夫がまだ若くて学校卒業したばかりで社会人経験もない若妻を
半ば監禁状態で管理してるのとか萌えるな
客観的には監禁してるに等しいんだけど
当の女の子はまったく気付かずに居るみたいな状況で

夫とは勿論お見合いで
超従順な卒業したての若妻を自分色にするって良いよね
0160名無しさん@ピンキー2014/01/10(金) 23:36:27.12ID:04t6bxm0
保守
0161名無しさん@ピンキー2014/01/16(木) 19:53:17.66ID:iB+FkDDX
>>159みたいな報告(友達の旦那の話)過去スレであったよね
報告者は喪女だから友達づきあいを許可されてるとかw
0164名無しさん@ピンキー2014/02/18(火) 19:02:24.04ID:RKyC1J8K
異世界?トリップ?先から帰ろうとするのを全力で阻止するヤンさんもいいです。
「私に隠れて帰ろうとするとは…」とか
0165名無しさん@ピンキー2014/02/18(火) 21:39:56.55ID:kI8YTdXK
なろうには沢山そんなヤンさん隠れているイメージw

むしろ帰れないと説明して親切なフリして保護とか胸アツ…。
そして帰れないと絶望してヤンデレに恩だけじゃなく
恋心を抱き好きになったと思ったところでネタバレで絶望とかも大好物です
0166名無しさん@ピンキー2014/02/24(月) 18:14:42.77ID:tgnjBs8t
元の世界のおうちに帰りたいと泣く女に
「お前の家はここだ。」とか、
彼女は子供好きで情が深いから無理やりにでも子供作ってしまえば
もう帰りたいとか言い出さないんじゃないか・・・
みたいなヤンデレもいい。
羽衣伝説もそんな感じで妄想するともえる。
0167名無しさん@ピンキー2014/03/03(月) 21:29:48.01ID:+KIF36kT
羽衣伝説といえば、妖しのセレスのミカギは今思うとなかなかのヤンデレ男だったな
ストーキング・嫉妬・軟禁・陵辱と大体のガイキチ行為はこなしてるw
0168名無しさん@ピンキー2014/04/09(水) 07:07:16.65ID:9ydRg8AL
ほしゅ
0169取り違えたユーフォリア52014/04/21(月) 00:01:57.37ID:1FrrjhWQ
自分の拙い文章の所為で
賛否両論になってしまった奥様の正体を保守ついでに投下。
>>115がダメだった方はスルーお願いします。


 【ノースウェリフ伯爵夫人ヴィオレットの独白】

 あの馬車の事故から、一転。 
 ロクシーは、よき夫になりました。

 あの事故で、もし入れ替わりのたくらみを見抜かれたとしても
 セラヴェルさんを“私”として受け入れ、私を“セラヴェル”として突き放すだろう。
 もしかしたらと思う希望もわかない程、夫の気持ちはわかっていました。
 そう覚悟していたのに、その「もしも」が起こり、夫は私をまた妻として迎え入れてくれました。

 私は事故の時、セラヴェルさんの服を着ていたはずです。
 なのに、彼は私を妻だと言ってくれました。
 そのドレスは夫が私と結婚する前にセラヴェルさんへと送ったという物なので、間違えるという事はありえません。
 入れ替わった時どの服を着るのかと相談した時。
 ドレスを見て申し訳なさそうに説明しながら……でも少し嬉しそうに微笑む彼女に胸が痛かったのですが
 あえて私はそれを選びました。夫と決別するために。

 事故の直後、状況がわからないまでも、約束通り記憶喪失を演じました。
 そんな私に夫は、手を両手で握って必死に縋るように言いました。
 事故で生死をさまよって、私が大事な人間だったと……悔やんで後悔していると。
 なんて嬉しい言葉なんでしょう。
 「記憶喪失は演技」という事をすぐにでも言おうと思いました――けれど。

「過去の君には酷い事をしてしまった。思い出してくれるな……本当に過去の事を悔いているんだ」

 そう言われ翳りのある瞳で見つめられると、記憶が戻ったなんて言えるはずがないのです。
 これ以上夫を苦しめたくない。
 過去、辛かった分だけ、夫が後悔し、謝罪してくれた事に嬉しくて泣いてしまいます。
 夫は身の回りの世話をする使用人でさえ入れ換えました。
 あの夜ごと私を苦しめていた寝台も、年代物の四柱式で家宝と言ってもいい値打ち物でさえも彼は捨てました。
0170取り違えたユーフォリア62014/04/21(月) 00:04:58.89ID:1FrrjhWQ
 そしてこの新婚生活を始めた領主館も。
 社交シーズンが終わるだけでなく、出来るだけ街屋敷へ住み、その間に館を改装するとまで言い出しました。

 私に何一つ思い出して欲しくないと。
 過去と決別し、捨て去り、新しくなるという夫の決意と後悔の現れです。
 だから事故の時に、私がセラヴェルさんの服を着ていたことを、問い詰めなかったのかと納得できました。

 残念な事にセラヴェルさんは、事故でお亡くなりになられたそうです。
 屋敷に運び込まれた後、急変してしまい、そのまま帰らぬ人となってしまったようでした。
 初めは人目のない馬車道で事故を偽装して、倒れていればいいと打ち合わせをしていたのです。
 しかしそこに向かう途中で、本当に事故にあってしまうとは思っても見ませんでした。

 あの時、馬車の操作をしていたのはセラヴェルさんですが、この入れ替わりを彼女に切り出したのは私。
 事故が起こった直後の事はあまりよく覚えていませんが
 セラベルさんが私を助けるために、手を伸ばしてきたのは、かすかな意識で残っています。
 恐ろしい結末を招いてしまった、罪深い私がこんなに幸せになっていいのでしょうか
 本当は、彼女が受け取るべきだった愛情をかすめ取ったようで心苦しい。
 けれど罪悪感を忘れさせてしまう程の愛情で、夫は私を包んでくれます。
 夜の務めも私の体が治るまでは……と、辛抱強く待っていてくれました。
 傷が癒えても、ベッドの上で今までの苦しみが甦って臆病になってしまう私を優しく解きほぐし
 薄暗闇の中ではなく、燭台の光揺らめく中で、目と目が合って、見つめ合い……。
 前は壊しても構わない程の力ずくで夫から触れられていたのに、壊れ物を扱うように優しく。
 いつも奪われるだけだった行為が、お互いに与え合うように、喜びに満ち溢れていきます。
 私はその日、初めて女としての喜びを知りました。
 こんなに――どうにかなってしまいそうな快楽があるなんて、知りませんでした。
 愛している夫だから、私に与えてくれる恍惚。
 
 時折、私の中に彼女を探すような、何とも言えない表情を向ける夫。
 自分の浅慮でこのような結果になってしまい、この幸せが怖い。

 いつか、この幸せは夢だったと。
 ある日突然醒めてしまいそうで……。 

 でもその夢が醒めるまで、今だけはこのまま幸せに浸っていたいと思う身勝手な私は
 もう心が壊れてしまってるのかもしれません。

 これは夫には言えない秘密。
 墓場まで持っていかなければならない、秘密なのです。

<終>
0172名無しさん@ピンキー2014/04/23(水) 12:00:03.00ID:lJGEKz7r
GJ!!夫婦絶妙な病み具合で面白かった。こういう静かな雰囲気の作品好き
0173名無しさん@ピンキー2014/05/06(火) 19:53:03.07ID:R1dvrlNZ
平凡な男が「男ヤンデレ」を描くと、ただの自意識過剰なメンヘラちんこ君になっちまうからツマランのだよな……
0175名無しさん@ピンキー2014/05/07(水) 01:00:31.84ID:1Z9X94B2
牧師の娘が意識不明になってる間に
入れ替わりに気づかぬ旦那が
愛する牧師の娘を妻だと思って殺してしまう
旦那は殺人を犯したと気づけば悲劇がより完璧
0176名無しさん@ピンキー2014/05/07(水) 23:34:46.72ID:JRj7vGC9
題名の事実を気が付いた時がヤンデレの真骨頂だろうね

>>173
メンヘラ自体病んでるんだからこのスレ的にはいいんじゃねーの?
0177優しい夢2014/05/08(木) 23:42:28.59ID:zxXOggKR
投下します。前半ほのぼの?兄妹愛。後半ヤンデレ。エロは回想やら匂わせる程度。
精神的に弱い女の子が書きたかった。無駄に長文なので、苦手な方はスルーお願いします。
0178優しい夢2014/05/08(木) 23:47:38.76ID:zxXOggKR
(……まだ、連絡がない)
何十回と繰り返した言葉を、澪(ミオ)は頭の中で呟いた。
ため息を吐き、再度携帯を見る。やはり4インチのディスプレイには何の変化も見られない。
何度目になるか分からない確認作業。辟易する。それでも、また同じ行動を繰り返す。
澪は握り締めていた携帯から手を離した。
恋人から連絡がなかった。ここ三日ほど。
「また携帯見てるのか」
ダイニングテーブルの上で項垂れていると、兄の響が呆れ顔で声をかけてきた。
響は現在25歳。澪の三つ上だ。二人に両親はいない。澪が7歳、響が10歳の時に、家族で登った山の頂から滑落して、そのまま命も落とした。
澪と響は、それぞれ別の親族の下に引き取られ離れて暮らしていたが、16歳になった響が親族の家を出た事、新たに未成年後継人を選任した事で
また一緒に暮らせるようになった。それから今までの9年間。兄妹は支え合って生きてきた。
「だって……」
「だってじゃない。もう少し余裕を持て。お前少し怖いぞ」
「……」
「哲志くんだっけ? 連絡ないって言っても、まだ三日目だろ? 忙しいんだよ。きっと」
そう優しく諭す響は、澪の正面の椅子に座り、涙ぐむ妹の顔を覗き込んで笑った。
響は、疑い深くて排他的な澪とは違い、控えめで柔らかな性質を持つ。
闘争を嫌い、競争意識を忌避する響は、男性的な魅力に欠けてはいても、人当たりの良さが好意を持たれる類の人間だった。
病弱な為にいつも何かしらの薬を携帯してはいるが、それでも、澪にはこの地球上で一番頼れる存在だった。
澪は、兄の低く掠れた笑い声が好きだった。
「あんまり考え過ぎるなよ」
「でも、今までこんな事なかったし……」
「今まで無かったからって、ずっと無いってことはありえないだろ」
「……そうだけど」
「それとも、不安になるような事があったのか?」
「……」
「喧嘩したとか。お互いに不満が溜まっていたとか。お前を不安にさせるような行動を、彼が以前から取っていたとか」
「それはない」
「それはない?」
「うん。それは、ない。だって、哲志は今まで私が出会ってきた他人の中で、一番優しい人だったから」
哲志は澪の初めての恋人だ。
両親と死別し、幾人かの親戚に引き取られる過程で猜疑心の塊となった澪にとって、哲志は生まれて初めて信用した赤の他人とも言える。
同じ年齢だが、哲志は大学在籍時に何らかの理由で休学をしていたということで、一年遅れで澪の就職した会社に入社して来た後輩だ。
何かと軋轢を生みやすい澪の性格を柔和に受け止め、周囲の人間との緩和剤になり、辛抱強く優しく澪の側で彼女の仕事を補佐した。
哲志の誠実さは、頑なだった澪の心を動かした。
今まで、兄以外には居なかった。閉鎖的な自分の言動にも動じず、寄り添い、支えてくれる人間は。
優しさが具現化したような人。誰かを傷つけたり、不安にさせるような事を、哲志がした事はない。
だからこそ、澪は、何の前触れもなく彼から連絡を絶たれた事に驚き、痛みを感じるのだ。
0179優しい夢2014/05/08(木) 23:51:13.60ID:zxXOggKR
「私、嫌われちゃったのかも」
小さく呟いた澪に、響は驚いた顔をした。
「なんでだ。上手くいってたんだろ?」
「うん」
「ついこの間、二人で京都に行ってたじゃないか」
「うん──……って、気づいていたの!?」
「お前に一緒に旅行出来る程の、仲の良い『女友達』なんて居ないだろ」
「分かってて騙されたフリしてたんだ。ひどい!」
「ひどくない。優しさだよ」
「……」
「それで、そんな仲の良かった哲志くんが、なんでお前を嫌いになるんだ?」
「……」
「京都で喧嘩したのか?」
「だから、それはないってば」
「じゃあ何で嫌われたなんて思う」
「だって……」
「だって?」
「だって私──……」
淫乱なんだもん。
出掛かった言葉を、澪は飲み込んだ。
「なんでもない! とにかく嫌われたかも知れないの!! ほっといて!」
澪はテーブルに突っ伏して、会話を切り上げた。
響は暫く黙ってままでいたが、やがてため息をつくと、どこかへ行ってしまった。
兄が離れた気配を間近で感じて、澪は涙を零した。拭っても止めどなくあふれ続ける。目尻がヒリヒリと痛んだ。
(言えるわけないじゃん……こんな、恥ずかしいこと)
澪は、自分の体を恥じていた。

旅行先に京都を選んだ理由は、二人が好きな土地だったから。澪は、大学時代に交換学生として一年間かの地に派遣された経験から。哲志は伝統文化の観点から。
互いに大好きな場所だった。楽しい旅行だった。最終日の夜までは。
京都旅行の最後の夜、澪は初めて哲志に抱きしめられ、そして、受け入れた。厚い胸板。骨ばった指先。『異性』という存在を、改めて実感した夜。
兄以外の他人を信用して来なかった澪にとって、初めての性行為だった。緊張で心臓が破れるかと思い、あまりの恐怖に息を止める事もあった。
痛みを覚悟していた。だが、哲志の熱い塊が入り口に触れた瞬間、澪を襲ったのは、想像してもいなかった感覚だった。
(──……私、ちっとも痛くなかった)
来るべき苦痛に備えて力を入れていた澪の恥部は、本来あるべきはずの破瓜の痛みを一切感じる事もなく、絶妙な弾力と狭さを維持したまま哲志の男根を飲み込んだ。尋常ならざる快楽を伴って。
澪は混乱した。痛覚どころか、過剰な程の肉の喜びを体感している自分の体に。
どう動けば良いのか。どこに当たれば、気持ち良いのか。どこが弱くて、どう触ってもらえば、自分の性感は刺激されるのか。
本能と呼ぶにはあまりにも的確過ぎる快感の情報を、澪の体は知り尽くしていた。
澪は、快楽の頂点を得た後も、貪欲にうねり続ける自身の膣の動きに気づいた瞬間、思った。
自分は、どうしようもなく淫乱な女なのだと。
必死に声を殺して、痛みに耐える処女の振りをした。
もっと。と、強請りそうになる唇の動きを手で隠して、哲志の視線から顔を逸らした。
どこまで隠し通せたのかは分からない。
実際に、とめどなく濡れて、何度も達していたのだから。
(……きっと、バレていたんだ)
だから、彼は連絡してこない。
こんな人間が、受け入れられるわけがない。
「……うっ、ぅう」
我慢出来ずに嗚咽を漏らす澪の肩に、ふいに柔らかな体温が下りてきた。
見ると、マグカップ片手に兄が側に立っていた。その痩せた指先が、震える肩に置かれている。
「連絡が来ないだけで、そんなに泣く必要ないだろ」
響は、今度は正面ではなく澪の隣に座った。泣き濡れた妹の顔を上げさせて、苦笑いしながら汚れた目元と鼻を拭ってやった。
澪は響の優しさに打たれて、更に激しく泣きじゃくった。
0180優しい夢2014/05/08(木) 23:54:48.99ID:zxXOggKR
「お前、子供に戻ったみたいだな。あんまり泣くなよ。せっかく可愛く育てたのに」
「可愛くない」
「なに言ってんだ」
「私、気持ち悪い女だから。本当、気持ち悪い。だから可愛くないし、汚い」
「落ち着け。ほら、これ飲め」
響は、妹の背を抱きながら、持ってきたマグカップを手渡した。中には薄いレモン色の液体が入っている。
それは、澪の良く知っている飲み物だった。
砂糖とお湯、少しの塩とレモン汁、蜂蜜。兄手製のスポーツドリンクだ。
澪は毎晩眠る前にこれを飲む。
いつからかは分からない。だが、昔からの習慣で、これがないと澪は眠れなくなる。
「早く飲んで、ゆっくり休め」
穏やかな兄の顔を見て、澪は思い返す。先ほど、泣いている自分を置いて兄は席を立った。
呆れて部屋に戻ったと思ったのだが、違ったようだ。
「兄さん、これ作ってくれていたの?」
「泣いてる妹ほったらかしにするほど、俺はひどい人間じゃないよ」
「ありがとう」
「泣いていないで早く飲め」
澪は頷いて、コップに口をつけた。
よく知っている柔らかな香りが辺りに漂った。切ない甘みに、また目尻が潤んだ。
「体温が落ち着くからかな。昔からこれを飲むと、お前は面白いぐらいによく寝る……って、まだ泣き止まないのかよ」
相変わらず涙を流し続ける妹の顔を、響は両手で包んだ。
妹の濡れた睫は可愛らしく揺れているが、成人を過ぎた女の鼻水は如何ともし難い。
またティッシュで拭いてやって、赤くなった鼻の頭を見て笑った。
澪は、響に世話を焼いてもらいながら、また兄妹二人だけになってしまったかのような心細さに駆られていた。
今まで世界の中心は兄だった。兄さえいれば良かった。
だが、その中に哲志が入ってきた。唐突に介入してきた心地よさに、いつしか心を奪われていた。
それが無くなってしまった今、自分はどうすればいいのだろう。
こんな醜い本性を抱えていると知れば、実の兄でも離れていくのではないか。
「兄さんも、本当の私を知ったら嫌いになるよ……きっと、離れていっちゃう」
「何言ってるんだお前は」
「だってそうだよ。哲志だって、あんなに優しかったのに、もういなくなっちゃった。兄さんだって離れていく。
私は汚いから。気持ち悪い女だから」
「落ち着け。俺は酒を飲ませた覚えは無いぞ」
「……」
「気持ち悪くなんかない。お前は、世界で一番可愛い。俺が保障するよ」
「嘘だよ……きっと、兄さんだって私を捨てる」
「捨てるわけないだろ。何言ってるんだ」
「……」
「安心しろ。誰もお前から離れていかない」
「……本当?」

不安げに見上げてくる妹の顔を、響は笑って引き寄せた。
「本当だ」と告げ、母親が幼い子供を慈しむように、ゆっくりと妹の髪をかきあげて、その熱い額に自分の額を当てた。
両の頬を包み込みながら、静かに言った。

「誰も、お前からは離れられないよ」

  
         ※


響は時計に目をやった。
妹が寝息を立て始めてまだ五分。完全に眠りに落ちるまで、あと五分は欲しいところだった。
その間に、テーブルの上のコップを片付ける。台所のシンクに置き、洗剤を十分につけてから洗った。
洗い終えた後、響はふとシンクの脇に置かれた半透明のパラフィン紙に目を止めた。
薬包紙として一般的に出回っている紙の縁には、白い粉末が残っている。
響はそれを無表情に摘み上げた後に、ちり紙に包んでからゴミ箱に捨てた。
0181優しい夢2014/05/09(金) 00:03:09.40ID:mz4CcBgI
(……澪は、素直過ぎるのが玉に瑕だな)
妹は一生知る事のない、パラフィン紙の中身。
従順な妹は、普段兄がどんな種類の薬を携帯しているのか詮索して来ない。気にも留めない。それは多分、兄であるこの俺を信頼しているからだ。
だから、永遠に知る事はない。
だから、自分とは無関係だと思っている妹の目に、この残骸を映す必要はない。
「そろそろかな」
妹を寝室に運ぼうと抱き上げた瞬間、自宅用の固定電話が鳴った。
響はゆっくりと電話機に視線を向けた。改めて時計を見て確認する。あまり歓迎出来ない時間帯。立派に、非常識の部類に入る。
無視する事も出来たが、結局、響は電話に出る事にした。静かに澪を椅子に下ろし、肩周りの筋肉をほぐしながら受話器を取る。予感していた通り、付属のディスプレイには非通知の表示が出ていた。
「どちら様ですか?」
案の定、相手は無言だ。
「もしもし?」
応答なし。
「聞こえます?」
受話器の向こう側に話かけながら、妹を見る。どうやら妹は深い眠りに入ったようで、白い腕が力なくテーブルの端から落ちていた。
脱力した長い足が大胆に開いている。健康的な太ももの付け根が、緩めのショートパンツの裾から覗いていた。
妹の様子を眺めながら暫く無言を通したが、相手からは変わらず反応がなかった。
辛抱強い相手だと思った。
執拗な沈黙は悪意の証拠で、それが分からない程、自分は馬鹿ではないし、また、その事に気づかない程、向こうも馬鹿ではないはずだ。
響は微笑した。受話器を持ち直して、電話越しに静かに敵意を放つ相手に、呼びかけた。
「哲志くん?」
一瞬だが、相手が息を呑むのが分かった。
「哲志くんだろ? 澪の兄の、響です」
「……」
「妹から聞いているよ、君のこと。仲良くして頂いているようで何よりです。いつもありがとう」
「……」
「それで、用件は何?」
下手に出ても、相変わらず向こうから返答がない。
相手の忍耐力に、響は思わず苦笑を漏らした。
「いい加減、喋ってくれないかな。時間の無駄だよ?」
一呼吸の後、ようやく受話器の向こう側から硬質な声が返ってきた。
「僕も、澪さんからいつも聞いてます。あなたのこと」
澪の話では、哲志という男は気持ちの良い好青年という事だったが、今電話で話している相手は友好的とは程遠い雰囲気の持ち主だった。
声は低く、好意は微塵も感じられない。おまけに、会話を繋げる気遣いも持ち合わせていないときている。
だが、響はとくに動じなかった。相手に譲歩する気がないと見て、早速会話を切り上げにかかった。
「折角頂いた電話だけど、妹は今寝ていて電話を代われないので、良かったら明日かけ直してもらっていいかな。そのほうが妹も喜ぶと思うし、君も分かるだろ?」
「……」
「君から連絡が無いってさっきまで泣いていたんだよ。可哀想に。あんまり、妹を苛めないでくれないか?」
「……」
「妹の携帯にじゃなく、この電話にかけてきた理由は何?」
今度は、相手が密やかに笑った。
「いつも澪さんから聞いていたんです。あなたのこと。最高の兄だって。世界で一番信用しているって。自分のことは何でも分かるって。それで、あなたに聞きたい事があって」
「……」
「彼女、処女じゃありませんでした」
「……」
「知っていました?」
「……」
「僕が見る限り、今まで澪さんの周りに特定の男性が居た形跡はありません。澪さん自身も、僕が初めての彼氏だと言っていました。だけど、処女じゃなかった。
その矛盾を、お兄さんなら知ってるかなと思って」
「……」
「それに、ご両親の事故、あれは本当に事故だったんですか?」
「……」
「当時の新聞記事、読みました。若干の違和感を覚えたのは、僕の思い過ごしでしょうか? あれは、あの事故は、本当はあなたが──……」
「哲志くんさ、」
突然呼びかけられて驚いた相手の一瞬を見計らって、響は穏やかに投げかけた。
「君が澪の会社に入ったのって、偶然?」
0182優しい夢2014/05/09(金) 00:16:27.27ID:mz4CcBgI
沈黙が長く続いた。
だが響は、話を切り出さなかった。
相手が乗り出してくる事を見越して、余裕を持って沈黙に甘んじた。
程なくして響の読み通り、受話器から静かな声が返って来た。
「どういう意味です?」
「別に。ただの世間話だけど」
「……」
「君、小中学校は澪と同じ学校だったみたいだね。中学の途中から澪は僕と暮らすようになったから転校して君とは離れたけど、大学は澪と同じ所に入ったでしょ?
あの子は気づいてもいないようだけど」
「……」
「澪が交換学生として京都に行っていた間、君はどこにいたの? 何をして、誰を見ていたの?」
「……」
「余計な詮索はやめようよ。お互いに」
「……」
「それじゃあ、もう電話かけてこないでね」
「……」
「おやすみ」

相手は最後まで無言だった。それが、執念のように感じられた。
彼は妹を諦めないだろう。分かっている
妹に、『誰もお前から離れられない』と言った。あの言葉に嘘はない。
妹からは誰も離れられない。だから、間引きが必要なのだ。蔓延る余分な芽は、保護者である自分が摘み取らなければならない。
雑草は野放しには出来ない。駆除する事が自分の義務で、権利でもある。そうして生きてきた。妹を再びこの手に呼び戻せたあの日から。
「お前だって、そう思ってるだろ?」
響は眠っている澪の体を抱き上げた。
慣れ親しんだ暖かい体温は、支える者がいなければ、すぐにでも消失してしまいそうなまでに柔らかく、頼りなかった。
妹の、涙で濡れた頬を見る。薄桃色の唇からは、仄かにレモンの香りがする。
妹は起きない。
不純物のない純粋な睡眠は、朝まで一度も目覚めさせる事なく、人を深い夢の中へと誘う。
きっと、妹は朝起きてこう言うのだ。「おはよう兄さん。兄さんのお陰で、今日もゆっくり眠れたよ」
それが例え誘発された眠りであっても。彼女は疑う術を持たない。
響は澪の額に口づけた。
塩辛い涙の道を辿り、妹の唇に自身の唇を押し当てる。閉ざされた唇は、ほんの少し力を加えただけで、いとも簡単に開いた。
差し入れた舌に、熱い粘膜が触れる。甘く芳醇な香り。馴染んだ感触。従順な体。
寝室までの道のりが酷く遠くに感じられた。
服を剥ぎ、隠すものの無くなった妹の体がどこまでも瑞々しく柔らかい事を、響は知っていた。
繊細な果肉の奥深くに潜む、甘い蜜の存在も。その暴き方も。味も。
剥かれて露になった白い肌。爛熟に実った豊満な曲線。芳しい香り。
早く、その蜜の出所に舌を入れ、あの身悶えするほど愛おしい窮屈な快楽の中で、全てを吐き出したいと思った。いつものように。
今更、他人に譲る気もない。譲る道理もない。
ここまで育てた果実を、どうして他人なんかに渡さなければならない?
この極上の蜜が他人に啜られるのを、黙ってみてろと言うのか。
リビングに置いたままの澪の携帯からは、耳障りな着信音が流れている。相手は安易に想像出来たが、響は無視した。言わずもがな。澪には、聞こえるはずもない。
(妹の味は、俺だけが知っていればいい。他人は関係ない)
だから、今日も愛を込めて耳元で囁く。
この声が、いつか妹に届けばいいのにと願いながら。

「誰も、お前から離れられないよ」


だから、お前も離れていかないで。
0183名無しさん@ピンキー2014/05/09(金) 00:25:00.38ID:mz4CcBgI
終わり。長文誤字脱字やっつけすみません。また何か出来たら投下します。
他職人様の投下も待ってます(;_;)
0184名無しさん@ピンキー2014/05/09(金) 09:04:37.23ID:T0ZU2tYy
>>183
乙乙!
いいね〜、兄ちゃんの穏やかな狂いっぷりが美味しい。
哲志くんの謎も気になる。
ぜひぜひ続きをプリーズ!!
0187名無しさん@ピンキー2014/05/10(土) 13:02:56.14ID:NbG+H3G1
>>183
久々に読み応えのあるSSで面白かったです!
哲志くん視点も書いて欲しいな〜
0188名無しさん@ピンキー2014/05/10(土) 20:03:51.55ID:5JIT9YaD
前回投稿した人sage183ageすんのもどうかと
他人下げないと褒められないのは183にも迷惑だよ
0192名無しさん@ピンキー2014/05/18(日) 21:49:56.63ID:J9+nCjeV
ショタヤンデレのおねショタカップルは需要ありますか?
0194名無しさん@ピンキー2014/05/19(月) 21:32:07.94ID:PJ3R00mE
ショタヤンデレで需要が無いわけがない
おねショタだと『ぼく地球の』の輪くん思い出すな
あれは素晴らしいヤンデレだった
0195名無しさん@ピンキー2014/05/19(月) 22:10:19.89ID:sTj/ZdpC
まぁあれは中身がショタじゃないからな・・・・・年季の入った病み具合
0197名無しさん@ピンキー2014/05/23(金) 00:15:04.83ID:bf5fbh+h
0198名無しさん@ピンキー2014/05/31(土) 21:58:07.51ID:uWP0wBwR
規制でPCから書き込めない……
ロダに上げてURL投下の形式でもおkですか?
0200名無しさん@ピンキー2014/06/01(日) 10:50:36.71ID:/zZnXMZP
ありがとうございます。ロダから投下させて貰います。

また半年経ってた。時間怖い。待っていて下さった方、ありがとうございます。お待たせしました。
今回もルート分岐回です。ちょっと戻って町に帰った所から。具体的に言うと本スレ63の所。


・エセ攻略風ルート解説
開始から5日以内に町に帰らないと分岐。オオヅノの好感度を上げてはいけないのでレアなルート。

ttp://www1.axfc.net/u/3249209
pass:yandere


やっとエロに辿り着けたと思ったらどうしてこうなった。
エロゲで、メインヒロインを攻略していた筈なのにうっかりサブヒロインのエロから回収してしまったような気分。
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