>>123
やってみよう。


「ぐぬ」
 魔物の振るった小剣の刃が腕をかすめて浅く切り裂き、血が一筋流れる。
「お父様!」
 声が聞こえ、傷口に光の粒子が集まり、傷を癒やす。
 “父”は、ぐるりと螺旋の歩法で踏み込み、魔物を袈裟掛けに斬り伏せた。

 夜。
「傷は痛みますか?」
「鈍痛が残っているが…手間をかけたな。子細ない」
 焚き火を囲み、“父”と“娘”が対面して座り、早めの夕餉を食している。
「あの小剣は、汚れて錆びていました。解毒の方法を探してみましょう」
「…ああ」
 優しい子に育ったものだ。しかし…“父”と呼ばれた戦士・レナードは近しく満ちるであろう月を見上げた。
(確か、事が起こるのは次の満月だったな)

 十数年前、根無し草の冒険者・レナードらが依頼を請けて、村外れの廃屋へ突入したのは、暗黒神の信者らに拉致された夫婦と幼児を救出するためであった。
 首謀者は夫婦に横恋慕していた男で、妻も男に略奪されており、夫は暗黒神への生贄にと殺されていた。
 そして幼児は、暗黒神の洗礼を受けており、いかなる状態にあるか判別できぬ。
 まさに惨憺たる悲劇。
 レナードらも人事不省に陥り、結局、幼児の目の前で、男と妻を斬り殺すに至ってしまう。

「…何か?」
 いつの間にか見入っていたようだ。“娘”──── フレアが、小首を傾げてレナードに向き直る。
「いや…昔を思い出していた。もう寝ろ」
 ややクセを残し腰の下まで伸びたブロンドの髪、鳶色の澄んだ瞳、膨らみ始めた胸、くびれた腰…。
「日の出前になったら、起こして下さいね? おやすみなさい」
 にっこりと微笑む。…可愛い。
「お、おう。お休み」
 顔に焚き火以外の熱が昇り、古傷の引きつりを感じる。これを爪で宥めながら、レナードは毛布を羽織り直した。

 暗黒神の洗礼。即ち、呪い。
 これを受けた者を解き放つ事は、「大変」という言葉では片付けらられぬ事は覚悟していた。
 暗黒神官と戦闘した、というだけで、一行は門前払いを喰らい、あるいは法外な寄進を迫られ、やっとの事で交渉を取り付けても、神官は匙を投げた。
 結局、仲間の女たち ─── 盗賊と魔術師を、高名だが好色な破戒坊主に売ってまで得られた情報は、数年後の満月の晩に、解呪の魔法と幼児自身の性徴とのケミストリーにより、何かが起こる、という。
 これに憤慨した男僧侶 ── 女魔術師を恋慕し、女盗賊から自分への慕情を知っていた ── は、自分の元を去り、レナードと幼児だけが残された。
 しかし、彼女らと共にした一夜が余程良かったのか、破戒坊主は少額の寄進で、定期的な解析と解呪を試みてくれる事を約束してくれた。

「お父様、そろそろ起きて下さい」
 柔らかく体を揺すられる。一日のうちで最も冷え込む時間帯を過ぎた頃。
「おう、おはよう」
 行軍の疲れが残った重い体を起こし、戦士は立ち上がる。
 魔物退治の報酬を受け取ったら、破戒坊主の元へ行かねばなるまい。
 早々に朝餉を済ませ、二人はこの日を歩み始めるのだった。


 エロがねえスマソ。