「……さ…つ……ば……つばさ……」
 遠くから呼びかけられる声でゆっくりと目が覚めてきた。
「ゆ……う……?」
 まるで何日も前のような、いつか見た夢の続きみたいだった。私と優は抱き合ったまま、ずっとずっと意識を失っていたみたいだった。
「……凄い……まっだ繋がってたんだ……」
「でも……さっきまでボクも気絶しちゃってたから……」
 お腹の中で液体が放出された感触が記憶どころか肉体感覚に刻み込まれたみたいに思い出してくる。本当に気持ち良かった。あれ以上なんて感じられないくらい。
「翼も、クリトリスの周りが愛液でベタベタだよ」
 あまりそこには意識がいかなかった。久しぶりのトコロテンだった。でも、今の私にはそれにはあまり感慨のようなものを覚えなかった。
それよりも優に抱かれて女としての喜びを刻み込まれた方がよっぽど大事で、とても嬉しかった。
「嬉しかったよ、私は……」
「翼ちゃん……ぼくは……卒業?」
「えっ……」
 思わず、いつもの自分の呼び方を思い出すようにして言葉を発したけど、
「私は……」
 その言葉を発した私を見て、少しだけ優は不思議そうな顔をした。
「……そうなんだ……」
 いつのまにか「ぼく」という言葉が私から失われていた。
今なら分かる気がした。自分の中にいる女の子のようなものと、私の身体と心がようやくひとつになったことを。
やっと、私は、自分が求めているところにたどり着いたんだ。
「……もしかしたら、翼は本当に女の子に生まれるはずだったんだね……もう、身体も心も本当に女の子らしいし、表情もボクが今まで見てきた中でも一番きれい……」
 生まれなかった私。女の子としての私。少し違う。これを優には話さないといけない。
「ごめんね。私、優に話していないことがひとつだけあったの……」
 出生について。優と由香子さんがひとつの形で生まれることができなかったのとは逆で、ひとつになって生まれてしまったから持ち合わせた「私」という人間のことを。
「たぶん……私の中にはお姉ちゃんか妹がいたの。
それを私が取り込んでしまったから、男に生まれたのに、心の中で女の子にならないといけないって思ってたんだと思う。
無意識に。それがずっと少しずつ解け合ってきて……やっとちゃんとひとつになれたんだと思うの。
ただ、セクシュアリティは女の人が好きだって強くは思っていたけど、優と出会ってたぶんバイセクシュアルになっちゃった。
……今なら……男の人に抱かれるのも平気かもしれない。もちろん……本当は優以外に抱かれたくなんてないけど」
 気づいたら、私は完全に女の子になっちゃった。たぶん、心の持ちようがそうさせたんだ。
ただ、その最後の一押しが優の射精を身体で受け止めることだったんじゃないかなって、なんとなくは感じている。
この刻まれた感覚を忘れない限り、私は優と一緒に生きていけるような気がした。
「……翼ちゃん……ボク、羨ましいよ……翼ちゃんは、心まで女の子になれているのに、
ボクは男の人が好きだし、女の子も好きだし、自分が男の子かと思ったり、女の子のときもあったりして、自分がどっちつかずにいるんだ。
それが悔しい。そうやって、自分の気持ちにたどり着ける翼ちゃんに嫉妬しちゃうよ……」
 そうだよね。優だって、ずっと迷っていたんだから。こうして、私がひとりで満足してたら可愛そう。だから私は優の頭を胸に押しつけるように抱いて、
「私は……優が女の子だって思ってる。だって、私を抱いてくれたときは、男の子っていうよりも女の子だった。
中世的で、男の子っぽいのを否定させられていく思春期の女の子みたいで。
これって……私のわがままかな? 優はきっと女の子。ただ、男の子の気持ちがちょっとだけ残っているから、少しだけ男の子みたいなところもあるの。
別にそういうところを無くしてなんて思わない。それも優の一部なんだから……」
そう言ったら優は少しだけ静かに泣き出した。私はまるで小さな子供を慰めるような気持ちに暖かみを感じてきた。これって母性って気持ちなのかな……。
結果として、私は女の子になれたけど、逆に優のことを抱くことができなかった。
寝るのが短ければ良かったんだけど、夕方前なのでさすがに由香子さんが帰ってくるだろうということが気になったから。
私のお腹の中をきれいにしないといけない。精液によってはお腹が緩くなることもあるらしいから。