夏休みで良かったと思う。今の私が学校に行ったら変りすぎて引く人も出てくるかもしれない。
それに、この仕事も試験期間とかが近づけば喜んで行えることでもない。単純に成績を収めるだけじゃなくて、私は身体を売って生き続けるつもりはないから。
 そんな意識をしっかりと持ちながら、明くる日、黒服の車に優と一緒に乗り込んだ。
 更衣室でマネージャーと顔を合わせただけで、
「……今なら大丈夫ね」
 というようにお墨付きをもらえた。周囲の女の子は「きれいになったね」「無理しないでね」という声を掛けてくれる。
 まだ、新人だから基本的にみんな優しい。人気が出ると厳しくなると優も瑠璃さんも言ってくれていた。だから、変に依存はしないようにしっかりと。
 ロッカーを覗いてみたら、今日の衣装はブレザーだった。正直言えば、私くらいがギリギリ切れる年齢だと思った。
 優と私は似合っているけれど、人によっては無理して着る形になっている人もいた。
 こういうアンバランスな状態に不満を感じたら、後で黒服なりマネージャーに相談する形になる。
 優もブレザーは初めてで、似合えばそれはそれで良いけどね、と言葉を濁した。先輩たちを気にしていたのかもしれない。
 メイクの時間はとても短かった。ロリコンの人は化粧が濃いと嫌がるらしいから、若い女の子ほどナチュラルメイクを施された。
 私の場合は、ちょっとだけチークとルージュを整えた。自分でやった色よりも表情が健康的な色彩に変った。
「優子さん、時間です」
 待合室にいたら、黒服の人が呼んでくれた。再スタート、ということに緊張はいらなかった。私に視線は集まったけど、特に気にならなかった。
 部屋の中には、やっぱり彼がいた。
「……前も驚いたけど、今日も驚かせてくれるな。さすがだよ」
「ありがとうございます。先日は、失礼いたしました」
 相変わらず戸田キリヤは余裕を持った態度でウィスキーを飲んでいる。バスローブ姿は変らない。様々な形で女の子を迎える人がいるらしいけど、彼の場合は前と同じまま。
「……何か、あったのか?」
「あるとすれば、私の中にあった女の部分がちゃんと心と身体に解け合ったようなものです。上手くは言えません」
「それでも……よっぽど前よりは楽しませてくれそうだな……とはいえ、俺はロリコンじゃないんだけれどな……」
 どうしても還暦過ぎの男性としてはブレザーを着た女子高生のような自分とセックスをするのには抵抗があるらしい。
「残念です……実を言えば、こういう制服を着たいって思っていた時期もあったんです」
「そうか……で、それを脱ぐっていうことに抵抗は?」
「ありません。まだ十代ですけど、すぐに二十代です。似合わないものを無理に着続けようってほど、私も羞恥心が強い訳じゃないですし」
 そこまで言うと彼は立ち上がり、バスローブを脱いだ。そして、私の前までやってくる。
「……だが、あの舞台の上で由香に犯されて淫らに喘いでいたのがお前だった事実は変らないぞ」
「……由香がいてくれれば、私はどんなに穢されても平気です。彼女が私を清めてくれれば」
「全く、一晩限りの相手とはいえ、嫉妬させてくれんじゃないか」
 急に彼は私を大きな腕で抱き寄せてきた。
「……その気持ちを忘れさせてやるくらい強く抱いてやる……」
「お手柔らかに……」