起きたらベッドの上だった。休憩室の隣には仮眠室があって、四台のベッドが置かれている。ぼくに宛がわれているのはそのうちの一台だった。
 人の気配を感じて、ゆっくりと起き上がると、マネージャーが少し残念そうな顔をしていた。
「大丈夫?」
 心配そうな顔。てっきり怒られるのかと思っていた。
「……ごめんなさい……」
「あまり気に病まないで。まあ、三回くらいこうなる子はざらにいるから……私だって最初は怖かったのよ。
 何しろ、このお店みたいになるまでシステムもちゃんとできていなかったから。最初のお客さんが怖くなっちゃって。
 散々、男が好きだった癖してね。だから、一回は誰でもあることだから。でも、五回目くらいではどうにかしておいて。
 さすがにここも仕事だから。優や瑠璃みたいな仲良しと絡ませるだけじゃ、どうしても回せないから……とりあえず、今日は帰って休みなさい。
 それと、お客さんは……キリヤさんはこういうことに慣れているから。必死に電話してきたわ。
 早く助けてやれって。泣かれるの、久しぶりみたいだから……」
 ひとり残されたぼくは、頭を抱えてしまった。優に抱かれたから大丈夫だと思っていた。
 だけど、フェラまではできても身体の中に入ってこられることが怖かった。まだ、ぼくの中の何かが男の人を拒絶していた。
 あまり体調が良くない状態のまま控え室で自分でクレンジングをする。洗顔をちゃんとしたつもりでもメイクのプロには足りない部分を落とされた。
 最初にメイクをしたころに肌荒れを起こしたことを思い出す。
「優子ちゃんはメンタルに肌が左右されやすいわね……」
 気の毒そうにぼくの顔に触れながら肌の状態を確認する。されるがままで構わなかった。
 まともに帰られるのか自信がなかったけれど、いつも通りに車に乗せられ自分の部屋に戻ってこれた。
 部屋に帰ったときには、普段着のままベッドに倒れ込んだ。こんなことじゃいけないのに。
 だけど、あのとき抱かれなかったことを安心していた自分もそこには確かにいた。
 いつまで眠っていたのかは分からない。携帯には優からの着信が何件も入っていた。マネージャーか誰かが伝言してくれたのかな?
 とりあえず安心させるためにメールでも打とうとしたら、玄関から鍵を開ける音がする。
「翼!」
 開く同時に優の声が部屋に響く。
「優……」
 パチッという音と同時に優の姿が見えた。とても必死な顔で。しかも薄手のパジャマ姿で。さっきまで走り回っていたような。
 そして、ぼくの顔を見て緊張が解けたように膝立ちになってから、
「良かったぁ……ちゃんと帰ってた……」
 と少し泣きそうな声でしゃがみ込んだ。