それから暫くしてまたふらーっと教室に帰ってきた木村。もう教室には私一人だけだった。みんなどういう気を利かせたのか私だけを置いて素早く帰ってしまったんだ。
ともは「どうなるか見たくないのかお前らーー!!よみの一大事なんだぞーー!!木村に変なことされるかも知れないんだぞーー!!」なんて叫んでたから「ねーよ!!」って教室から蹴り出してやった。
正直助かる。あの空気の中で木村と話をするのは避けたかったし…。二人きりならなんとか……冷静でいられる自信はないけど……。
「やぁ、待たせたね。誰もいないようだし、それじゃ帰ろうか」
「は、はあ? 帰るって……なんで?」
「なんでって……恋人は一緒に帰る物だろう。手をつないで、腕を組んで下校する物でしょう」
……………はあああ――――!??
「そのために書類整理を手早く済ませてシャワーを浴びて帰宅準備万端整えてきたのですから」
か、帰る準備は分かるけど、恋人って……?
「あの、私好きって言って返事――」
聞いてねーよ……。ど、どうなんだよ。
「はあ、好きですがなにか?」
「へ?」
「いつも言ってるじゃないですかよみ君の髪の毛が一番好き、よみ君のうなじが一番好き、眼鏡っ子なよみ君が好きと」
わかんねーよそんなんで!
あ、あれって木村のいつもの変な言動の一環じゃなかったのか?!
「私は“一番”なんて言い方よみ君にしかしませんよ。こんな私といつも遊んでくれてはにかんだ笑顔を見せてくれて、そんな子はよみ君だけですし私はそんなよみ君が大好きです」
「〜〜〜〜っ?!」
あ、ダメだ。フって力が抜けてく。
夕陽に照らされた木村の横顔にドキドキがヤバいくらい大きくなってる。
「アイ、ライク、」
そんなこと言いながら動けないでいる私の体にやせっぽちな木村の細腕が回される。
左手を腋の下から、右手を腰から、背中に回され抱き締められた。
“ユー”
最後にその一言を呟いて迫る木村の顔。