―カチン。
「ご挨拶ね。いきなり人を引きずり倒しておいて!服も泥だらけよ」
受験で立て続けに失敗していた矢先に。
「いや、なりふり構ってられなかったんだって!いきなりって…」
「学級委員長様は、人助けもお仕事なわけ?受験シーズンもたけなわな昨今、随分とお暇なのね」
「ぐ!…し、仕事って…」
バカな、という単語に過剰反応してしまい。
(…な、何を言ってるんだ、私は?!と、とにかく!一言くらいお礼を―)
「ま、なんにせよ水原さんがそこまで元気なら、もう心配ないか。怪我もないみたいだし。
服はごめん。クリーニング代なら後で払うよ」
「え?あ…」
大山君は、それからさっと踵を返して立ち去ってしまった。
(うん、私って最低だ……)
よく考えるまでもなく。
信号無視した紛れもないバカが、颯爽とやってきた彼に手を引いてもらって
自らの命を助けられただけの話だったのに。
「お礼すら言えてない…な」
ただ、皮肉な事に、この事がきっかけで、私は彼、大山君の事を意識するようになる―