こういう肉体的なものまで。
どちらかの部屋でこの勝負をする時は、このようなお願いをされることがほとんどだった。
榊の体のどこかを触らせてほしいというようなお願い。
この勝負自体もだけれど、少し、というかかなり困る。
榊は自分のベッドに座り、後ろ手にブラのホックを外し、襟ぐりから手を入れて上にずり上げた。
厚手のニット生地でも、コンプレックスである榊の乳房はその存在を大きく主張していた。
「ん……」
どうぞ、と言うのは間抜けな気がして、目線を逸らして胸を突き出すだけになった。
隣に腰かけた大阪の小さな白い手が、榊の乳房を掬い上げる。
「うわぁーやっぱりすごいなー。ええなー」
大きな胸の感触を確かめるように、手を動かしている。
指が先端をかすめ、服越しでもぞわりとした感覚を覚えた。
指は何度もその敏感な部分をかすめる。
恐らくわざとやっているのであろう事は、これまでの経験で分かった。
「大きいと固いって智ちゃんが言うてたけど、そんな事あらへんねんなー。ふかふかやー」
「も、もう終わりに……」
「えー、もうちょっと」
そう言うと大阪は榊の胸に顔を埋めた。ぎょっとして榊の体に力が入る。
「手で触るだけ、なんて言うてへんもん」
うふふ、と楽しそうな笑い声を上げる。
「すごいバクバクしてるで、榊ちゃんの心臓」
篭った声で言われて、顔がさらに熱くなるのが分かった。
しかし、するりと服の中に手が入ってくる感触がして、慌ててそれを掴む。
「それは駄目だ」
「えー」
「服の上からって言った」
「ちぇー。ほんならおしまいや」
口を尖らせて大阪は榊から離れた。ほっとして榊はブラを直す。
これだけで済んでよかった、と榊は思った。止められて良かった。
時々こうしてお願いしたこと以上のことをされそうになる。その度に榊は止める。
大阪も無理に続けようとはせず、素直に引く。
服も直してからちらりと大阪を見ると、彼女も榊を見つめていたのか、目が合った。
大阪はにこっと笑う。
何を考えているのか計り知れない、いつもの彼女の笑顔だった。
「またやろうな?」
榊は答えず、ぷいと視線をそらした。
この勝負はいつまで続くのだろうか。卒業するまで?
自分がここから離れたところにある大学に行くまでだろうか?
いずれにせよ、その時が早く来てほしい、と榊は思った。
そうでなければ、きっと自分は、勝負など関係無しにあの手を受け入れてしまうだろうから。