―再びあの薄暗い部屋。

ちよは語り始める。

あの飛行機事故の最後を―

瀧野智と美浜ちよの二名は、不運にも墜落した際の衝撃を受け流す事ができない
状態になっていて、瀕死状態に追い込まれた。
「大半の人は、座席に座ったまま動かずにいた為、精々1m前後の上下運動しただけで、
軽く天井に頭をぶつけて、コブもできない程度に済んでいたんですが…」

ちよは、薄暗い部屋で大阪に智にされた事の顛末を語る。
「私は…プロレスで言うフライングボディアタックをくらったような目にあって」
「え?」
そして小さく、咳払いをコホンと入れて榊が続ける。

「要するに。あの時ハイジャック犯たちから、ちよちゃんを守ろうとして、
智は庇いに(動いて)しまってたんだ」

「つまり、それが逆にアダに?…」
「まあ端的に言えばそういう事です」
大阪は天を仰ぐ(仕草をした)。
(ともちゃん…最後までちよちゃんの天敵やったんやなぁ……)
「あ、大阪さん。誤解しないでください。だからって私は智ちゃんを恨んではいませんよ?」
「え…ええぇッ?!だって今の話が本当なら、もらい事故的ではあっても、ほとんど殺人未遂もんやないの?」

「確かにそういう見方もできますね。でもよく考えてみてください。
(あの状況下で)智ちゃんは、私を助けるために(動けた)んですよ?」
「―あ」

そう。
あのハイジャックされた異常な状況下において―
「そもそも私がこの警察という組織に属し、出世街道に足を踏み入れたのも
彼女の(そのバカさ加減)こそが始まりなんです」

ちよは思い返していた。

薄れゆく意識の中、自分が尋ねた事に対しての最後に聞いた智の言葉を―
「何で…わざわざ助けに来たの?(ジッとしてれば、自分だけでも助かったでしょう?)」

「そりゃ、お子様が泣いてたら助けるのが年上の、おねーさんの義務だからな!」
「…だ、誰がお子様ですか?!」
そんなバカなプライドだけで。
自らの命の危険も省みず―

(あゝ、私も…この愛すべきバカな友人を守れるよう、強くなりたい)
実際に泣いていたのかは覚えてない。
しかしその時ここに。もう二度と泣くまいと、一人の天才の心の中に、鋼の意思が芽生えていた。