「おつかれさま」
「ああ、おつかれ。タクシーすぐに呼ぶから」
「いいわ。たまには、電車でも使って適当に寄り道しながら帰るから」
「そう、じゃあ、また、次もよろしく」
「それじゃ、ネ」
他愛もない会話をし、早川レーコは振り返ることなく小さなオフィスを出る。
レーコは、売れないAV女優。
いつまでこんな事を続けるのだろう。
できれば、人並みの幸せをと求めるものの、荒い金遣いと盛んな性欲がそれを邪魔し、無修正物の事務所と契約し、どっぷりとそこに身を沈めている。
地味目のメイクに変え、一歩街に出ればどこにでも居そうな只のアラサー女。
いつものようにタクシーに乗る気がしなかったのは何かの知らせか。
なんとなく一人になり、気の向くまま足の向くままに進むレーコ。
どこを通ったかわからぬままに、人家が少なくなりポツンとした空き地に着いた頃には、薄暗くなり夕闇が迫ってきていた。
「なんで、こんなとこに来たのかしら?」
よくわからないと言った様子で周囲を見回し、ぼそっとした声でつぶやく。