「……おっ、そういえば名前とか聞いてなかったぁ。あんた何ていうの?」
「ああ……。鹿屋だ」
「かのや、さんね。…歳は? 40くらい? もっと?」
「そんな行ってない、36だ」
「ほ〜、へぇ〜……。そうか… 見た感じより若いなぁ」
「そう言う、君は?」
「27ですよ。冨士谷でぇ、ございます」
……10歳近く年下だったのか。
しかし、やっぱりこの人は……。
マンションが多く並ぶ深夜の街中を、妙な取り合わせの二人が歩いていた。
付いて来いとだけ言われ、さっきまで自殺しようとしていた男……鹿谷は、突然現れた彼女の後をついて行く。
若いとは思ったが、この……「ふじたに」と名乗った女性。
人の気にすることを、ずけずけと言ってのける。
老けて見える……非常に気にしている事を指摘され、またダメージを食らわせられた。
そして一体、どれほど飲んだのか?
口を開くごとに、前を行く彼女からは、酒の臭いが漂ってくるのだった。
たまに振り返り、赤い顔を見せながら歩く、富士谷という女性。
紺のタイトスカートから覗く、その彼女の両脚。
どっかでふらついて、突然倒れるんじゃないかと、鹿屋は不安げな視線を送る。
今の所、その足取りは普通だ。
しかし臭いの他にも、眼つきといい顔色といい言葉の物腰といい、間違いなく酔っ払っている。
歳のわりに、幼い感じの顔なのに、台無しだ。
この時間、やはり飲み会帰りなのか……と思ったが、よく見ると彼女のコンビニ袋、350のビール缶4本が透けていた。
白いビニールに水滴が滴る。
「……僕ら、どこに向かってるんだ?」
「あたしの部屋だよ〜。 歩きなら、あと5分くらいか。たまには飲んで夜の街を歩くのも良いですなぁ」