――本気なのか?

 聞きたかったが、聞いたところで、まともな答えを期待することはできない。そう鹿屋は思った。
 彼女のコンビニ袋、音と揺れ方から見て、ビール缶全部空っぽである。
 街灯に照らされた袋の口から、サラミの空き袋なども見えた。
 どこで買ったのか知らないが、深夜の帰り道にあおったらしい。
 酒が好きではない彼には、とても真似できないことだった。
 もし、自分がもっと酒が飲めたなら、それでストレスも少しは発散されたのかも知れない。ついて歩きながら、鹿屋は思った。

 しかし、夜道で酒を飲んで男を引っ掛け、自分の部屋に連れ込もうとか……。
 自殺しようとしていたから?
 酔っ払いなりに、人助けしようと?
 この壊滅的な酒飲みの言うこと、本気だろうが調子のいい戯言だろうが、既に死人の自分にはやはりどうでもいい事だ。
 回収した遺書はいいとして、ポケットの錘が歩くのに少々鬱陶しいが、冥土の土産に最後までついて行ってやろうと鹿屋は思った。
 別に、あの世行きに終電は無いのだから。

 そして、実際にそれから5分で、彼女のマンションに着いた。
 かなり大きく、立派だった。
 しかも自分の住んでいる場所から結構近かったので、鹿屋は驚く。
 ……が、その後が少々、長かった。

「はい、着きましたぁ。 散らかってるけど、まぁ上がってよ」
「ふ〜…、は〜…… あ、足が…… 結構キツかったぞ……」

 キーを取り出すと、ポケットでじゃらっと音がした。
 玄関ドアを開けようとする冨士谷だが、そのすぐ後ろでは、鹿屋が両肩を落として息をしている。
 案内された彼女の部屋は、6階だった。
 6階だったが、何故かエレベータは使わず、「こっちこっち」と言われ、ひたすら階段を登った。
 到着する頃には、すっかり鹿屋の息は上がっていた。
 ポケットの錘が本当に邪魔だった。