ここに向かって歩いている最中も、“散らかっている”と彼女は言ったが……。
 とにかく、テレビやソファ、小さなガラステーブルと収納、ほか最低限の家具以外、物があまり無い。
 少なくとも、見えない。
 カーテンも落ち着く茶系で、いかにもな「女性の部屋」でなく……また部屋の広さに相応の、大きいテレビや豪華な家具があるでもない。ミニマムに纏められた、センスの良い空間だ。
 こんな部屋に、しみったれたおっさんの自分がお邪魔して良いのかと、鹿屋は今更自問してしまう。
 と思ったら、つながったダイニングの隅っこに、スーパード○イの3リットルアルミ樽が2個あった。
 あと、ワインの空き瓶も何本か。
 逆に安心した。

 ……いや?
 もう少し良く見ると……。
 この綺麗なリビングにも、雰囲気に合わない、変な大きいバケツが5〜6個も隅の方に重ねてあるのに鹿屋は気が付いた。
 会社の掃除でもよく使っている安物の、よくある青いバケツだ。
 何に使うのだろう。
 アンバランスで、不思議だった。

「しかしあんた…冨士谷さん? 一体何者なんだよ。どっかのキャリアウーマンと思うが、どれだけ稼いで……」

 鹿屋の頬に汗が伝う。
 ひとことで言って、甲斐性無し……。
 単に努力が足りないのか、それとも根本的な才覚の差か。
 どちらにしろ、やはり自分は駄目な男なんだと、一層感じずにはいられなかった。
 が、そう言いながら富士谷の方を振り返った鹿屋は、またしても言葉を失う。

 その富士谷が、スーツの上着だけでなく、いきなり全部脱ぎにかかっていたからだ。
 

「ちょちょちょ、ちょっと待て! 何考えてるんだおい!」
「えー? なんで止めるんですかぁ?」

 鹿屋が見た時には、彼女は……
 既に上はブラのみ、下はタイトスカートをとっくに脱ぎ、ショーツとタイツのみになっていた。
 しかも脱いだ物は、ぽいぽいと、そこらに適当に散らかされていた。
 酔っ払いにも程がある。