「なんでって、逆になんで脱ぐ!? 酔いすぎだあんた!」
「だって、お風呂入るって言ったじゃないですかぁ? 私のうんこ風呂。これから作るんで、汚れないように。その方がカノさんもうれしーでしょう?」
「いや言ったけど! ためらいも何も無いのか!? 危ないだろ! 俺に襲われたらどーすんだよ! 自殺しようとしてたんだぞ!? 破れかぶれで……」
「襲われないですよ? カノさん。だってあなた、優しい人です」
「えええ……」

 一体何なんだ、この女は。
 今まで出会ってきたどの女性とも違う。あまりに変すぎる。
 さっきの小悪魔的な笑みとは違う、今度はやさしい、本当に目の前の男を信頼しているような笑顔だった。(酒臭いが)
 こんなかわいい子が、こんな……。
 しかも、にっこりと「うんこ風呂を作る」なんて……。
 鹿屋の額に、さっきとは違う汗が伝った。
 
「お風呂場に行くよ。カノさんも脱いで。…あっ、私が脱がしてあげようか?」
「……いいえ、自分で脱ぎます」

 もう完全に理解を超えている。
 いっそ、好きではないが自分も酒を飲むべきかもしれない。そう鹿屋は思った。きっと、あり余るほど、この部屋には常備されているだろう……。 
 これから本当に何が起こるのか、彼女の言葉は真実なのか。
 ぐちゃぐちゃになった頭を抱えながら、鹿屋は冨士谷に背を向け、自分もスーツを脱ぐ。
 シャツも、下着も……。
 脱ぎながら嫌でも耳に入る、背後の衣擦れの音が生々しい。
 しかし凄まじい異常な事態の連続に、冨士谷の半裸を見ても、鹿屋はさっぱり勃起しない状態であった。
 自殺を決意するほどの日々のストレス、疲れの影響も多分にあったが……。

 だが、理解を超えた状況というのは、これから起こる事こそが正に本番だったのだ。
 夢か現か、夜はまだ始まったばかりである。