(俺は……?)

 重みで腹がちょっと苦しくなってきた。
 凄まじい刺激臭で鼻を壊されそうだ。
 ぐちょぐちょの便と、自分の肌の境界が曖昧になっていく。
 五感を狂わされ、何もかもが曖昧になっていく。
 考えるのを、やめたくなる……。
 体もだが、心が溺れてしまいそうだった。

「んっ… んん〜…… はあぁ……軽く……いっちゃったぁ……」

 とうとう、鹿屋は頭以外を、彼女のうんこで埋葬されてしまった。
 ずっと上で跨ったまま、富士谷は恍惚の表情を浮かべる。
 バスタブ半分ほどまで、彼女の大便は溜まった。
 そこでやっと……今宵の、彼女の排便は終わった。
 この世の常識を壊す大量排便だった。

「はぁ、はぁ…。はぁぁ……。……どう、かな? カノさんのお望み通り、全身私のうんこで包んであげたよ。……欲しかったらオシッコもあげちゃうよ?」
「……」
「何も言えなくなっちゃった? どうなの? あの橋で叫んでたこと、嘘だったの?」

 挑発的な中に、何か悲しみが隠れているような……そんな問いかけだった。
 富士谷はバスタブの縁から洗い場に降りると、うーん…と思い切り伸びと屈伸運動をして、それからバスタブの中を覗き込んだ。
 顔だけ出た鹿屋に、またあの挑発的な笑顔で語りかける。
 おしりも拭かないままなので、白く美しい太ももの間に、茶色い汚れが残っている。
 そして、その鹿屋は……砂風呂というか、まるで山で埋められたような状態で、ただ目をつぶっていた。
 安らかに、まるで死んだように……。

「……もっと」
「え?」
「もっとだ。うんこ風呂作るって言ったろ。これじゃ足りないよ。もっともっと…富士谷さんのうんこが欲しい」

 ゆっくり目を見開いたかと思うと、鹿屋は、がばっと起き上がって言った。
 上半身を起こすのに、粘着する便でかなりの力が必要だった。
 そして当然、顔以外の全部が茶色い。
 有明の干潟で泥んこ遊びをする子どものようだった。