言われるまま、洗い場のイスに鹿屋は腰かける。
 まず肩から、富士谷の温水シャワーで茶色のベタベタが取り除かれていく。
 あたたかく、これも心地よかった。
 文字通りに体が軽くなっていく。
 しかし「生きる」となったら、今度はこの先の事が問題になる。
 鹿屋は、自分の事はともかく彼女を心配していた。
 考えたら自分なんかより、彼女の仕事の方がハードワークな筈なのだ。
 大手商社での、彼女の具体的な仕事内容まではまだ知らないのだが……。

「私は、今日は休むよ。お風呂上がったら、熱が出たってメール出す。一日くらいサボったって、バチは当らないくらいに働いてるから。明日でなんとかする!」
「そうか……。俺は……どうしよう」

 聞きながら、鹿屋は目を閉じ、頭からシャワーをかぶった。
 これまた、生き返っていくような心地よさだった。
 昨日……いや、今日ついさっきまで本気で死ぬつもりでいたのだが、会社の仕事そのものは、きっちり終らせてきた。
 いま抱えている分に関しては、だが。
 今日から自分がいなくても、とりあえず致命的な問題にはならないように、引継ぎ資料らしきものも作った。
 それを思い出し、真面目すぎるこれまでの自分に、鹿屋は呆れた。
 ……そんな性格だから、死の一歩手前まで追い詰められたのかもしれない。
 だが……今日からは?

「はい、とりあえず頭おわり。男の人っていいねぇ。こんな簡単に済むんだから」
「ありがとな。……仕事、俺も休む。こんなニオイのままじゃ、会社行ったらどうなるか……。で、明日の事は、また考える」

 休むどころか永遠におさらばする筈だった、自分の職場。
 だが、生きると決めた。
 色々あるが、一旦は戦場に戻らないとならない。
 そう鹿屋は思った。

「そっか。じゃあ……一日中、一緒に居てもおっけーだね?」
「てか、この部屋で一緒に居るしかないだろ……外も出歩けないぞ。しばらく」
「へっへ〜、そこは実は、裏技があったりするのですよ! 短い時間でニオイを抑える凄いソープあるし、あとはこう、スキンケアの組み合わせと……うんちを上手いこと隠せる香りを重ねてですね……あと最近試した中では、○○堂の……」
「最後の方は全然分からん……。ま、さすが富士谷さんだな……ぬかり無しか」
「ええ、女の子ですから。カノさんにもやったげるね」