喋りながらもしっかり、せっせと、富士谷は鹿屋の身体を洗っていく。
 そういう系の風呂屋には、鹿屋も過去に何度か行ったことがあるのだが……。
 今回は何となく、介護を受けているような気分になるのだった。
 そして富士谷の「臭い対策」の話は、その後もかなり得意げに長々とあったのだが、彼にはその出てくる用語がさっぱりだった。
 だが、分からなくても何か楽しい。
 彼女と言葉を交わすだけでも幸せを感じる。

(仕事の苦労とかは別にして……今まで女とうまく行かなかったのは……。彼女が待ってるんだ、そんな女になびくんじゃない。って、神様が邪魔をしてたのかもな……)

 他愛のない話でも笑みがこぼれる。
 馬鹿な考えだ、と自分でも思う。
 そのうちに、次、鹿屋が富士谷を洗う番になった。
 
「……んっ ふっ… あはは、くすぐったい〜」
「大人しくしろって……子供かよ」

 わざと言っているのか、テンプレートな彼女の反応に、鹿屋も笑う。
 それとも実際まだ酔っているのか?
 洗われるのも、彼女は実に楽しそうだ。

「俺の、てきとうな洗い方でいいのか? さっき色々説明してくれたけど、半分も覚えていぞ」
「いいのいいの。途中まで普通にやってくれたら、あとは自分でするから。……私もね、たまには誰かにして欲しいなって、思うから……」
「ん…分かった」
 
 それを聞き、鹿屋は彼女の髪、背中、両腕……順番に流し、手のひらでこすって、大まかに汚れを落としていく。
 茶色のべとべとがそのままだった鹿屋と違い、大した量は付着していない。
 そして、なめらかで弾力に満ちた肌を洗う感触は、かたい自分の皮膚とはやはり大違いだった。