言われるまま、鹿屋は先に脱衣所に出た。
深夜の静寂の中、シャワーの音だけが、この広い部屋に響いている。
生と死が隣り合っていた、昼夜逆転の異常な一日が、一旦終わろうとしていた。
(うーん、バスローブもちゃんとあるのか……。しかし…眠い……)
眠りという名の幕が、二人の舞台に降ろされようとしている。
こんな物まであるのかと思いつつ、鹿屋は客用のバスローブを借りた。
そして彼女の言葉に従い、寝室へ向かう。
途中廊下から覗いたリビングには、脱ぎ散らかした二人分のスーツがほったらかしになっていた。
そう言えばあのままだ。
一旦リビングに足を向け、自分の分だけでも片付けようとして……彼はやめた。
結果的にだが、激しく求めあった二人の、戦いの記念碑のようだ。
なんとなく、今は残しておきたかった。
「おお…? ベッドルームもかよ……。は〜…… やっぱすげぇ、富士谷さん……」
寝室の扉を開けると、そこも他に劣らず立派だった。
つぶやいて、かなり遠慮がちに、鹿屋はベッドに横たわる。
あちこち万事に大きい…そう彼は思っていたが、ベッドもセミダブルだ。
彼女の寝室もやはり、まるでちょっとしたホテルのようで、すっきりしていて物が少ない。
部屋のこと、彼女の稼ぎもそうだが、よくこんな物件見つけたもんだと彼は感心した。
しかも一人暮らしにも関らず、ベッドメイクまできちんと出来ている。
だがもう一つ、ここへきて思い至ることもある。
これは鹿屋の勝手な推測だが、いつかは誰かと、心を許せる誰かと、自分の部屋で一緒に過ごすこともあるかも知れない……。
そんな期待を込めて、大きな部屋に住んでいたのではないか。
いつもきれいに、物をあまり置かないようにしていたんじゃないか。
この部屋の有り様そのものが、彼女のこれまでの孤独を表しているような気がした。
そのまま、今度は眠気と戦うこと、40分以上。
鹿屋が深い眠りに落ちる寸前で、ようやくパジャマ姿の富士谷が寝室に入ってきたのだった。